『リディック』:2004、アメリカ

ネクロモンガーと呼ばれる忌まわしき軍隊は、あらゆる銀河を征服しつつ、暗黒の新世界“アンダー・ヴァース”を目指していた。統治者 のロード・マーシャルは、アンダー・ヴァースの入り口まで旅をして生まれ変わった唯一の存在だった。一方、氷に覆われた惑星で、 賞金稼ぎのトゥームズと仲間たちは脱獄犯のリディックを追い掛けていた。リディックは一味を次々に倒してトゥームズを脅し、ヘリオン 第一惑星のチラシで自分が賞金首になっていたことを聞き出す。
そのチラシを出した民間人は、リディックが5年前に助けた聖職者イマムだった。激しい怒りを覚えたリディックは、トゥームズの宇宙船 を奪ってヘリオン第一惑星へ向かった。ヘリオン第一惑星に到着したリディックは、イマムの家に乗り込む。するとイマムは「賭けたんだ 。君が最後の望みだ。助けてほしい。侵略される恐れがある」と慌てて釈明した。彼は妻と幼い娘ジザの3人で暮らしていた。
イマムはリディックに、この星が侵略の危機に見舞われていることを話す。既に多くの惑星の人類が全滅させられており、その破壊者が次 にヘリオン第一惑星の侵略を狙っているのだという。やがてイマムの家には、エレメンタル族の預言者エアリオンと側近たちがやって来る 。エアリオンはネクロモンガーという名を口にして、「彼らは人類を残らず自分たちに従えて、歯向かう者は殺す。阻止できるのは惑星 フューリアの戦士のみ。ネクロモンガーが唯一恐れている」とリディックに語った。エアリオンは、リディックがフューリア人の生き残り だと感じていたのだ。
イマムの家に軍隊が来るが、リディックが軽く蹴散らした。イマムは5年前にリディックが助けた少女、ジャックについて語る。彼女は リディックを捜しに行って人を殺し、今は刑務所に収容されているという。イマムが「場所は分からないが、地表が焼けるように熱くて 歩けない惑星らしい」と話すと、リディックは惑星クリマトリアだと確信する。彼がイマムの家を去った直後、ネクロモンガーによる攻撃 が始まった。人々は逃げ惑い、パニックに陥った。
イマムは妻子を連れてシェルターへの避難を図るが、戦いに巻き込まれそうになる。そこへリディックが戻って来た。彼は敵を倒して妻と 娘を助けるが、家族を助けるために囮になったイマニは命を落とした。あっという間にヘリオン第一惑星は制圧され、ロード・マーシャル 、ネクロモンガーの司令官ヴァーコと妻のデイム、マーシャルの側近ピュリファイアやトールたちが宇宙船から地上に降り立った。
ヴァーコは人々に対し、「みんなでロード・マーシャルが見つけた別の宇宙へ向かう。誰もが生まれ変わり、苦痛から解放される。それが アンダー・ヴァースだ」と述べた。マーシャルは「ネクロモンガーは、かつては諸君と同じ脆弱な人間だった。みんな教えを受け入れて 改宗したのだ」と言い、ヴァーコは「ネクロモンガーの教義を受け入れ、我々に従う者だけがアンダー・ヴァースへ行ける」と説く。人々 が激しく反発すると、マーシャルは一人の魂を奪って抹殺し、脅しを掛けた。
人々が服従の姿勢を見せる中、リディックだけが「人に従う気は無い」と拒否した。「俺はあいつを始末したくて来た」と言い、イマニを 殺した兵士を指差した。ヴァーコが「やってみろ」と軽く言うと、リディックは一撃で兵士を始末した。彼が去ろうとすると、マーシャル は「船に連行して記憶分析に掛けろ」と部下たちに命じる。リディックは抵抗せず、おとなしく連行される。分析の結果、リディックが フューリア人の生き残りだと判明した。
マーシャルは抹殺を命じるが、リディックは宇宙船から脱出する。そこへトゥームズが仲間4人を引き連れて現れ、リディックを捕獲した 。リディックは勝ち誇るトゥームズを言葉巧みに誘導し、クリマトリアの刑務所に向かわせる。マーシャルはヴァーコに、リディックを 捕まえて来いと命じた。反発心を抱くヴァーコに、デイムは下剋上を促す。デイムとヴァーコは、マーシャルが訪問者のエレメンタルと 会っている様子を覗き見た。そのエレメンタルはエアリオンだった。デイムは「命令通りにリディックを追って。私はロード・マーシャル が彼を恐れてる理由を探るわ」とヴァーコに告げた。
クリマトリアは、昼は気温700度、夜はマイナス300度になる惑星だった。惑星に着陸したトゥームズ一味は、地下のトロッコを使って 刑務所へ向かう。刑務所に到着したリディックは、生意気な女性へと成長したジャックと再会する。彼女はキーラと名乗っており、「私は 生まれ変わったの」と言う。デイムはエアリオンを連れ出し、脅しを掛けてリディックがどこから来たのか尋ねる。エアリオンは「脅しは 無用よ。リディックのことなら教えてあげる。始まりは30年前の予言よ。まだ若かったロード・マーシャルが占い師と会い、ヒューリア人 に殺されると言われた。彼はヒューリアに戦争を仕掛けて住民を皆殺しにした。でも、逃げ延びた者がいた」と述べた。
刑務所では時間になると巨大な獣が解き放たれ、囚人はエサにされていた。だが、リディックが凝視すると、獣は彼に懐いた。キーラは 看守たちに襲われる。そこへリディックが来て看守の一人を殺すと、残りは怯んで退散した。キーラはリディックに反抗的な態度を示し、 12歳で賞金稼ぎに騙されて売り飛ばされたことを話す。リディックは「言ったはずだ、ニューメッカにいろと。聞いてなかったのか」と 怒鳴る。彼が「なぜ賞金稼ぎの仲間になった」と尋ねると、キーラは「他に誰もいなかったから」と答えた。
刑務所を仕切るスラムのボスは、ネクロモンガーの宇宙船が接近していることを知った。彼はトゥームズ一味を始末し、金を持って逃亡 しようと企む。それに気付いたトゥームズ一味は先んじて攻撃し、看守たちと激しい銃撃戦になる。生き残ったボスと手下たちは、刑務所 の扉を閉めて地下トンネルを逃走する。リディックはトゥームズを捕まえた後、囚人たちを引き連れて脱出を図った。灼熱の太陽が迫って 来る中、地上へ出たリディックたちは闇の中を走った。
リディックたちは火山地帯を突っ切り、宇宙船の格納庫を目指す。それに気付いたボスと手下たちは、地下道を走って待ち伏せし、始末 しようと企む。だが、その動きを察知したリディックは逆に待ち伏せており、一味を銃撃して足止めする。リディックと囚人たちは、 険しい崖を登って宇宙船へ向かう。だが、その最中に夜明けが訪れたため、リディックたちは物陰に身を隠す。リディックとキーラだけは 何とか太陽をやり過ごし、ボス一味と共に格納庫へ向かう。だが、ヴァーコ一味と戦いになり、リディックは攻撃を受けて昏倒した。彼が 意識を取り戻すとヴァーコ一味はキーラを拉致して星を去っており、ピュリファイアだけが残っていた…。

脚本&監督はデヴィッド・トゥーヒー、キャラクター創作はジム・ウィート&ケン・ウィート、製作はスコット・クルーフ&ヴィン・ ディーゼル、製作協力はウェンディー・ウィリアムズ、製作総指揮はテッド・フィールド&ジョージ・ザック&デヴィッド・ウォマーク、 共同製作総指揮はトム・エンゲルマン、撮影はヒュー・ジョンソン、編集はマーティン・ハンター&デニス・ヴァークラー、美術は ホルガー・グロス、衣装はエレン・ミロジニック&マイケル・デニソン、視覚効果監修はピーター・チャン、視覚効果プロデューサーは キンバリー・ネルソン・ロカッシオ、音楽はグレーム・レヴェル。
出演はヴィン・ディーゼル、ジュディー・デンチ、タンディー・ニュートン、カール・アーバン、コルム・フィオール、ライナス・ローチ 、キース・デヴィッド、ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン、ニック・チンランド、アレクサ・ダヴァロス、ロジャー・R・クロス、 キム・ホーソーン、マーク・ギボン、テリー・チェン、クリスティーナ・コックス、ナイジェル・ヴォナス、ショーン・レイス、 ファビアン・グジラル、タイ・オルセン、ピーター・ウィリアムズ、ダーシー・ローリー、ジョン・マン、P・エイドリアン・ ドーヴァル他。


2000年の映画『ピッチブラック』の続編。
監督は前作と同じく、『アライバル-侵略者-』のデヴィッド・トゥーヒー。
前作から引き続いて出演しているのは、リディック役のヴィン・ディーゼルとイマム役のキース・デヴィッドのみ。キーラ(ジャック)は 前作にも登場したキャラクターだが、演じている女優が違う。
エアリオンをジュディー・デンチ、デイムをタンディー・ニュートン、ヴァーコをカール・ アーバン、マーシャルをコルム・フィオール、ピュリファイアをライナス・ローチ、トゥームズをニック・チンランド、キーラをアレクサ ・ダヴァロスが演じている。

ヴィン・ディーゼルの主演作『ワイルド・スピード』と『トリプルX』が大ヒットしたおかげなのか、前作よりも予算が大幅にアップし、 今回は超大作SFになった。
前作は「小人数のメンバーが限定された空間の中で肉食の化け物に襲撃される」という『エイリアン2』的な話だったが、予算が増えた 今回は『スター・ウォーズ』的な内容になった。
ただし、スケールがケタ違いに大きくなったはずなのに、そのスケールの大きさをあまり感じさせない。
その辺りは、デヴィッド・トゥーヒーに染み付いたB級センスが成せる業だろう。

『ピッチブラック』との関連性は、それほど大きいわけではない。
ただし、リディックの暗視能力や、イマム&キーラとの関係性といった部分は引き継がれているので、やはり前作を見ていなければ 分かりにくい部分はあるだろう。
ちなみに前作では、リディックの暗視能力を、それほど上手く使いこなせていなかった。
そんで今回は、やはり同じように、暗視能力が意味の薄いモノになっている。
後半に入ると、暗視能力は表現として全く使われなくなっている。

前作から引き継がれている暗視能力だけでなく、今回の映画で持ち込まれた設定や世界観も、ほとんどは「用意しただけ」で終わっている 。
それを効果的に活用しようという意識は見られない。
特にスゴいのは、クレマトリアの「昼は700度、夜はマイナス300度」という設定の放置っぷり。
夜はマイナス300度のはずなのに、リディックたちは防寒対策を取ることも無く、普通に地上を移動する(むしろ途中で薄着 になっちゃう)。
で、太陽が迫ると、岩陰に隠れただけで何のダメージも受けずに済む。
汗一つかかない。

冒頭、「この者たちは忌まわしき軍隊。あらゆる銀河を征服しつつ、約束の地“アンダー・ヴァース”を、暗黒の新世界を目指している。 彼らはネクロモンガー。従わぬ者には、死あるのみ。統治者はロード・マーシャル。ただ一人、アンダー・ヴァースの入り口まで旅をし、 生まれ変わりし者。強く、そして異質。半分は生きているが、半分は別の何か。生き延びるために必要なのは、彼に対抗しうる力。普通の 時代なら善が悪と戦ってくれる。でも、このような時代には、悪をもって悪を征するしかない」という2分ほどのナレーションによって、 敵についての説明が終了する。
その簡略化された説明に、「ひょっとして、ネクロモンガーってのは前作にも登場しているから、その説明は前作を見ていれば不要って ことなのかな」と思った人がいるかもしれないが、大外れである。
前作にアンダー・ヴァース、ネクロモンガー、ロード・マーシャルという設定やキャラは全く登場していない。
つまり、これからリディックが戦う相手がどういう奴らなのかについて、まだリディックも登場しない内に、先に説明 しちゃうのだ。
しかも簡単なナレーションによって。
無粋っていうか、無頓着っていうか。

そういうのは、物語を進める中で明らかにしていけばいいことでしょ。
最初に説明しておく必要性やメリットはサッパリ分からない。
その雑な感覚は、リディックの心情を全てモノローグで語らせるというところにも表れている。
何しろ、トゥームズたちに捕まって上手くクリマトリアへ向かわせた後、「ホントは鎖を外してこいつらをぶっ殺すべきなんだろう。だが 行きたい所へ行けるんだ。クリマトリアまでタダ乗り。ありがとよ、あそこに用があってな。ジャックだ。それが済んだら、永遠に おさらばだ。だから今はおとなしく縛られておいてやろう」と、リディックの作戦をモノローグで説明してしまうぐらいなのだ。

前作でもリディックはワルとしての凄味に欠けており、アンチ・ヒーローとしての魅力を全く放っていなかった。
設定としては殺人犯の死刑囚だったのだが、それなりに行儀が良く、正義のヒーローを少しだけワルっぽくしてみた、という程度だった。
そして今回も、やはりリディックにはアンチ・ヒーローとしての色合いが薄い。
「ワルぶってるけど、実はいい人」というのが序盤から強く出過ぎている。

っていうか、ホントは「実はいい人」じゃ困るのよ。
だってさ、冒頭で「悪をもって悪を征す」と言ってるんだから、「ワルぶった善人」ではダメなのよ。
「ワルだから、みんなを守るためとか、惑星の危機を救うためとか、そんな正義感に溢れた動機は全く無いけど、他に私的な理由があって ロード・マーシャルと戦う」という図式にでもしておかないと。
ただのアウトローではヌルいのよ。

主演がヴァン・ディーゼルだから仕方が無い部分もあるんだろうが、用意されているアクションは肉弾戦ばかりで、宇宙船によるバトルも 、何かしらの乗り物を使ってのカーチェイス的なアクションも無い(リディックは、宇宙船や乗り物を操縦することが無い)。
それもあって、単調でメリハリの乏しい感じになっている。
なお、これは3部作の第2作として製作され、この2作目が壮大にコケたので企画がポシャったのかと思いきや、2013年に3作目 『リディック:ギャラクシー・バトル 』が作られた。

(観賞日:2013年1月31日)


第25回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演男優賞[ヴィン・ディーゼル]


第27回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の主演男優】部門[ヴィン・ディーゼル]


2004年度 文春きいちご賞:第8位

 

*ポンコツ映画愛護協会