『魔女がいっぱい』:2020、アメリカ

ヒーローボーイは映写機を回し、集まった面々に魔女の説明をする。彼は魔女が身近に紛れていること、子供が大嫌いでやっつける方法を常に考えていることを教えた。1968年のクリスマス、ヒーローボーイは8歳の時に自動車事故で両親を亡くした。彼は祖母に引き取られ、一緒に暮らし始めた。祖母は時に優しく、時に厳しく接し、最初は生気を失っていたヒーローボーイは少しずつ元気を取り戻した。祖母が白いネズミをペットとしてプレゼントすると、彼はデイジーと名付けた。
祖母は咳き込むようになり、ヒーローボーイを連れて食料品店へ出かけた。祖母は民間療法の達人で、店主の目を盗んでカウンターの薬草を食べた。ヒーローボーイが釘を買いに行くと、ゼルダという怪しげな女性が声を掛けて来た。ゼルダが「お菓子は好きかい?」と右手を伸ばすと、蛇が出現した。そこへ祖母が来ると、ゼルダは姿を消した。ヒーローボーイは帰宅してから、ゼルダのことを祖母に話す。特徴を聞いた祖母は、魔女だと断言した。
祖母は幼い頃に親友のアリスが魔女からお菓子を貰い、鶏に姿を変えられたことを語った。彼女はヒーローボーイが危険だと感じ、「家を出よう」と告げた。祖母は豪華リゾートのオーリンズ・ホテルで料理長をしていた従兄に頼み、部屋を予約してもらうと説明する。彼女は「魔女が狙うのは貧乏で地味な子。消えても騒がれないから」と言い、豪華リゾートから大丈夫だと告げた。車で出発した祖母は、魔女が国ごとに魔女団を組織していること、大魔女の指令を受けていることをヒーローボーイに説明した。
ヒーローボーイはデイジーを隠し、ホテルに到着した。支配人のストリンガーは、ホテルで一番のジュニア・スイートを用意していた。祖母とヒーローボーイが766号室へ向かった後、国際児童愛護協会の女性たちがホテルに現れた。その正体は大魔女が率いる魔女の集団で、中にはゼルダの姿もあった。大魔女は黒猫のハーデスを連れており、ストリンガーがペットは禁止だと説明しても受け入れなかった。祖母はヒーローボーイから魔女を見分ける方法を訊かれ、「化粧で隠しているが口が耳まで裂けている」「手が無くてカギ爪しか無いから手袋をしている」足の指や髪も無いからカツラを被っている」「鼻の穴が人より大きい」と説明した。
祖母はヒーローボーイに、魔女は清冽な子供の匂いを悪臭だと感じると教えた。ハーデスは窓から2人の部屋を覗き、大魔女の元へ戻った。翌日、デイジーの訓練をする場所を探していたヒーローボーイは、両親と宿泊しているブルーノ・ジェンキンズという少年と出会った。彼はヒーローボーイに、「親切な人が高級チョコをくれるから会う約束をしてる」と語る。ブルーノが迎えに来た母と去った後、ヒーローボーイは国際児童愛護協会が使う予定の宴会場に入った。
ストリンガーが協会の女性たちを連れて宴会場に来たので、ヒーローボーイは慌てて身を隠した。魔女たちはストリンガーを追い出すと、手袋や靴、帽子やカツラを一斉に外した。その姿を見たヒーローボーイは、全員が魔女だと知って怯えた。大魔女は「世界中の子供たちを消し去れ」と指示し、魔女の1人が方法を尋ねると魔法で始末した。大魔女は町に戻って店を開き、お菓子を売るよう指示した。開店資金は部屋に用意していると告げた彼女は、時限作用式でネズミに変身する薬をお菓子に垂らす計画を説明した。「ロビーで会ったガキに薬を垂らしたチョコを渡した。12時25分に、ここへ来る」という言葉を聞いたヒーローボーイは、それがブルーノだと悟った。
大魔女は悪臭で子供の存在に気付き、ステージの下を調べる。しかしヒーローボーイは寸前に換気口へ移動しており、見つからずに済んだ。宴会場にやって来たブルーノは、約束のチョコを渡すよう要求した。大魔女がチョコを見せておびき寄せると、ブルーノは12時25分にネズミへと変身した。大魔女は手下たちに、ブルーノを踏み潰すよう命じた。ヒーローボーイが「ブルーノが踏み潰されちゃう」と焦ると、デイジーが「助けるわ」と告げて飛び出した。
デイジーはブルーノを換気口へ引っ張り込むが、ヒーローボーイは魔女たちに見つかった。彼は魔女たちに引きずり出され、薬でネズミに変身させられた。ヒーローボーイはデイジー&ブルーノと共に、換気口から逃走した。ヒーローボーイはデイジーの言葉を聞いて、元々は人間だったことを知った。彼は祖母に手を貸してもらうため、デイジー&ブルーノとエレベーターに飛び乗った。3人は766号室に着いたしかしドアを叩いても、音が小さいので祖母には伝わらなかった。
ヒーローボーイたちはベルを鳴らすが、メイドに見つかってしまう。3人はホウキで退治されそうになり、祖母がドアを開けたので部屋に飛び込んだ。メイドが逃げ去った後、ヒーローボーイは祖母に事情を説明した。デイジーは孤児院から逃げ出した4ヶ月前にネズミに変身させられたことを語り、本名はメアリーだと明かした。ヒーローボーイは大魔女が薬を使って世界中の子供をネズミにするつもりだと話し、祖母は「薬が手に入れば成分を分析して人間に戻せるかも」と述べた。
ホテルの設備係がネズミの罠を仕掛けに来たので、祖母はヒーローボーイたちを隠れさせた。設備係が去った後、デイジーは大魔女が下の部屋にいることを話した。ヒーローボーイは祖母に「大魔女が部屋を出たら編み物の糸をロープ代わりに下へ行き、薬を取って来る」と語る。祖母が下のバルコニーを覗くと、大魔女はお茶の時間だと言って部屋を出て行った。祖母は編み掛けの靴下にヒーローボーイを入れ、下の階に向かわせた。ヒーローボーイは薬を入手するが、大魔女が戻って来たので姿を隠した。
ヒーローボーイは隙を見てバルコニーに出るが、大魔女は靴下に気付いて掴んだ。祖母が「落としてしまったので引き上げる」と説明すると、大魔女は「どこかで見た顔だ」と言う。ストリンガーが来たので、大魔女は靴下を放した。祖母は靴下を引き上げ、ヒーローボーイと薬を回収した。ストリンガーは猫用ケージを運び込み、これを使えばホテル中を移動できる」と語る。大魔女は激怒するが、ハーデスはケージが気に入った様子だった。祖母は薬に様々な薬品を混ぜるが、解毒薬の作成は失敗に終わった…。

監督はロバート・ゼメキス、原作はロアルド・ダール、脚本はロバート・ゼメキス&ケニヤ・バリス&ギレルモ・デル・トロ、製作はロバート・ゼメキス&ジャック・ラプケ&ギレルモ・デル・トロ&アルフォンソ・キュアロン&ルーク・ケリー、製作総指揮はジャクリーン・レヴィン&マリアンヌ・ジェンキンズ&マイケル・シーゲル&ギデオン・シメロフ&ケイト・アダムス、共同製作はデレク・ホーグ、撮影はドン・バージェス、美術はゲイリー・フリーマン、編集はジェレマイア・オドリスコル、視覚効果監修はケヴィン・ベイリー、衣装はジョアンナ・ジョンストン、音楽はアラン・シルヴェストリ。
出演はアン・ハサウェイ、オクタヴィア・スペンサー、スタンリー・トゥッチ、ジャジール・ブルーノ、コディー=レイ・イースティック、ジョゼット・サイモン、モーガナ・ロビンソン、チャールズ・エドワーズ、メーシャ・ブライアン、オーラ・オルーク、ユーリディス・エル=エトル、アンナ=マリア・マスケル、ユージニア・カルーソー、ジョナサン・リヴィングストン、ブライアン・ボーヴェル、ミランダ・サルフォ・ペプラー、アシャンティー・プリンス=アサフォ他。
声の出演はクリス・ロック、クリスティン・チェノウェス。


ロアルド・ダールの同名児童小説を基にした作品。
監督は『マリアンヌ』『マーウェン』のロバート・ゼメキス。
脚本はロバート・ゼメキス、『ガールズ・トリップ』『シャフト』のケニヤ・バリス、『シェイプ・オブ・ウォーター』『スケアリーストーリーズ 怖い本』のギレルモ・デル・トロによる共同。
大魔女をアン・ハサウェイ、祖母をオクタヴィア・スペンサー、ストリンガーをスタンリー・トゥッチ、ヒーローボーイをジャジール・ブルーノ、ブルーノをコディー=レイ・イースティックが演じている。
大人になったヒーローボーイの声をクリス・ロック、デイジーの声をクリスティン・チェノウェスが担当している。

最近のハリウッドは、過剰なほどルッキズムに対して神経質になっている。ちょっとでもルッキズムに引っ掛かるような描写があると、大きな批判に晒されてしまうことは確実だ。
だから多くの作り手は、そこに関しては敏感になっているはずだ。
そんな中、この映画の設定は随分と挑戦的だ。
何しろ、魔女の見分け方として「化粧で隠しているが口が耳まで裂けている」「手が無くてカギ爪しか無いから手袋をしている」「足の指や髪も無いからカツラを被っている」「鼻の穴が人より大きい」と説明されるのだ。

説明不要だろうが、これは明らかにルッキズムに引っ掛かる設定だ。実際、大魔女の手は長い指が3本だけという形状だが、「欠指症を連想させて身体障害者の心を傷付ける」として複数の組織から批判を浴びた。
個人的には、ルッキズム関連の描写に対する批判は行き過ぎの部分があるんじゃないかと思っている。
歪んだ正義や過激な正義が、自由な表現を殺すことに繋がっているんじゃないかと感じている。
なので魔女の容姿に関する設定や描写は、個人的には大きな欠点だとは思っていない。

ハーデスが祖母たちの部屋を覗いて大魔女の元へ戻り、大魔女が「本当かい」と言うシーンがある。
なので、ハーデスが祖母たちに関する情報を知らせて、それに対して大魔女が「本当かい」と告げたのだろうと思っていた。
ところが、その後の展開に全く結び付いていない。大魔女は宴会場でヒーローボーイを発見するのに、祖母の部屋にいた少年であることを全く分かっていない。
それどころか、ハーデスって終盤の1シーンで使うだけに登場させたキャラなのよね。それ以外の時間帯は、ほぼ存在意義がゼロに等しい。

大魔女は手下たちに、子供をネズミに変身させる計画を詳しく説明する。なのでネズミに変身させることが目的なんだろうと思っていたら、ブルーノがネズミに変身した直後に踏み潰すよう命じる。
だったら、ネズミに変身させる意味は無いだろうに。いきなり魔法で殺せばいいだろうに。
その直前に質問した手下を「生意気だから」ってことで魔法で消滅させているんだから、その力はあるわけで。
っていうかブルーノの時だって、なかなか踏み潰せずに難儀するぐらいなら、さっさと魔法で消せばいいはずだし。

ともかく、わざわざ「お菓子の店を出して美味しいお菓子を売り、そこに時限作用式の薬を垂らしてネズミに変身させる」という計画を進めようとする意味が全く分からないんだよね。
あと、祖母の幼少期にはアリスがニワトリに変身させられ、人間に食べられるという末路を辿っているんだよね。だったら今回だって、鶏でも良くないか。あるいは逆に、アリスもネズミで良くないか。
それとアリスの場合は鶏に変身した途端に喋れなくなっているのに、ヒーローボーイやブルーノは人間の言葉で喋れるんだよね。それも、どうなっているのか全く分からないぞ。
色んな設定が、ものすごく適当になっている。

デイジーはブルーノがピンチに陥ると、「助けるわ」と言って換気口に引っ張り込む。だけど、そんなことをすればヒーローボーイが魔女たちに見つかるのは誰だって簡単に分かることだ。
なので、デイジーの行動がアホ丸出しにしか思えないのだが、ヒーローボーイが責めるようなことは無い。
そしてブルーノが引っ張り込まれた時も、ヒーローボーイは「魔女たちに見つかる」と全く考えず呑気に喋っている。
これまた、あまりにもアホすぎて呆れてしまう。

設備係がネズミ捕りの罠を大量に仕掛けているのだが、それが後の展開に絡んで来ることはほとんど無い。
ヒーローボーイが大魔女の部屋に侵入した時も罠があるのだが、それを使って「ヒーローボーイが捕まるかも」と観客をハラハラさせるような趣向は用意されていない。椅子やテーブルと同じような、ただの調度品と化している。
これもハーデスと同様で、終盤の1シーンで使うだけに設置された道具なのだ。
いや、「あるシーンのために道具やキャラを配置する」ってのが悪いとは言わないけど、それ以外のシーンでの存在意義が皆無になっているのは、決して格好のいいモンじゃないぞ。

「子供向け映画だから大人の鑑賞に堪えない」とか、そういう問題ではなく、シンプルに話の中身が薄いという大きな欠点がある。
開始から50分ぐらいでヒーローボーイがネズミに変えられるのだが、どう考えてもタイミングが遅い。
この映画のメインイベントって、3人の子供たちがネズミに姿を変えられ、祖母と協力して魔女軍団に立ち向かう活劇でしょ。それを考えると、そこの割合はもっと増やしたい。
なので少なくとも開始から30分以内には、ヒーローボーイがネズミに変身する展開に到達しておきたいわ。

そこに至るまでの手順で、無駄にモタモタしすぎているのよ。祖母がアリスのことを説明するシーンなんか、別に無くたっていいんだし。後半にアリスが登場するならともかく、そんなことは無いし。
そういう過去に触れるにしても、ヒーローボーイがネズミに姿を変えられる展開を先に描いて、その後で祖母が「実は幼い頃に親友がニワトリにされた」と明かすような順番でもいいんだし。
完全ネタバレだが、終盤になって「実はアリスをニワトリに変身させた犯人が大魔女」という事実が明らかになるので、そこに繋げたかったんだろう。
でも、それを知った祖母が復讐心を燃やすわけでもなく、その要素が無くても「祖母が大魔女を退治しようとする」という筋書きは変わらない。だったら、その回想シーンって別に無くてもいいでしょ。

祖母が解毒薬の作成に失敗すると、ヒーローボーイは「このままの姿でもいいや」と簡単に受け入れてしまう。
どう考えたって「人間の姿に戻るために奮闘する」ってのをメインで描くべきだろうに、あっさりと捨ててしまうのだ。他の方法を模索するようなことも無いのだ。
そしてヒーローボーイたちの目的は、「魔女軍団の野望を阻止する」ということだけに限定される。
この段階で、完全なるハッピーエンドは消滅する。「大魔女を倒したら人間に戻れた」という展開でもあればともかく、そんなのは無いし。

ヒーローボーイや祖母たちは、スープに薬を混ぜて魔女軍団をネズミに変身させる作戦を決行する。この流れに入ってからの祖母が、バカ丸出しになっている。
まず、いきなりブルーノの両親にネズミを見せて「これがブルーノよ」と言うのだが、もちろん信じてもらえないどころか不審に思われる。そりゃそうだろ。
で、魔女たちが食堂でスープを飲んでいると、そこへ祖母が赴く。
もちろん「観察する」という目的はあるんだろうけど、じっと見つめていたもんだから大魔女に気付かれてしまう。

大魔女を覗く魔女軍団がスープを飲んで次々にネズミに変身すると、ヒーローボーイたちは大魔女の部屋に行って薬を回収しようとする。
だが、祖母は背中を向けて全く警戒していないせいで、大魔女が来たのに全く気付かない。
ヒーローボーイたちが大魔女を退治する時も、祖母はまるで役に立っていない。
この人って知識はあるけど、子供たちを導いて助ける役目の遂行は薄いんだよね。

この映画が恐ろしいのは、これまた完全ネタバレを書いてしまうが、なんと最後までヒーローボーイたちは人間に戻れないのだ。
冒頭のシーンは、ネズミのまま成長したヒーローボーイが集めた人間の子供たちに対して演説している様子を描いている。ヒーローボーイは薬を使って世界中の魔女を退治する作戦をずっと続けており、そのために子供たちを集めているのだ。
だからザックリ言うと「俺たちの戦いはこれからだ」的なエンディングなんだけど、まあ見事なぐらい投げっ放しジャーマンな終幕だわ。
ある意味ではロアルド・ダールらしいと言えるのかもしれないけど、この映画を分かりやすいハッピーエンドにしないメリットなんて何も無いだろ。

(観賞日:2022年11月27日)


第41回ゴールデン・ラズベリー賞(2020年)

ノミネート:最低主演女優賞[アン・ハサウェイ]
<*『マクマホン・ファイル』『魔女がいっぱい』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会