『マーシャル・ロー』:1998、アメリカ
サウジアラビアのアメリカ海兵隊駐留基地で爆弾テロが発生し、大勢の海兵隊員が犠牲となった。テロの首謀者はアーメッド・タラルと いうイラクの宗教指導者だった。クリントン大統領は記者会見を開き、「犯人には裁きが与えられるべきだ」と語った。アメリカ軍の 偵察衛星はタラルの乗る車を監視し、襲撃を掛けた。襲撃した少数の特殊部隊は、タラールを連行して車を爆破した。この作戦を指揮 したのは、陸軍のウィリアム・デヴロー将軍だった。
FBIのテロリズム対策部長であるアンソニー・ハバード、通称“ハブ”は、ブルックリンでバスが乗っ取られたという知らせを受け、 相棒のフランク・ハダッドと共に出動する。2人が駆け付ける前に爆弾が起動するが、青いペンキが飛び散っただけだった。逃亡した犯人 は、「これが最初で最後のメッセージだ」というメッセージを残していた。ハブが部下のダニーたちと捜査について話していると、別の 部下フレッドが「こんな物が届きました」とファックスを届ける。そこには「彼を解放しろ」と書かれていた。届いた。だが、「彼」が誰 を意味しているのか、ハブたちには分からなかった。
バスの乗客に尋問している人物がいるという報告を受けたハブは、現場に赴いた。先に来ていた部下のフロイド・ローズはハブに、その 人物がCIA捜査官のようだと報告する。ハブが現場調査をしてた女性に話し掛けると、「一日中、連絡してたのよ。NSAのエリース・ クラフトよ」と告げる。すぐにハブは、彼女か嘘をついていると見抜いた。ハブは「捜査協力に関する正式な要請書類が無ければ、出て 行ってもらおう」と述べ、彼女を現場から追い払った。ハブはフロイドに、彼女の尾行を命じた。
中東から入国したカリルという男に不審を抱いたハブは、泳がせて様子を見ることにした。ハブが仲間と共にカリルを尾行すると、彼は ブルックリンで何者かと会った。部下のマイクが気付かれ、カリルが逃げ出した。ハブたちは慌てて追跡するが、カリルは走って来た赤い バンに乗せられて姿を消した。フロイドから連絡を受けたハブは、エリースと仲間たちがいるという家に乗り込んだ。するとエリースは カリルと一緒にいた。ハブは部下たちにカリルを連行させる。エリースが「FBIが邪魔しなければ、彼は仲間の元へ行ったでしょう。 電話一本で彼の身柄は取り返せるわ」と強気に言うと、ハブは彼女を逮捕した。
ハブとフランクがエリースを車で連行する途中、武装したアラブ系の3人組が乗客を人質にしてバスに立て籠もったという連絡が入る。 現場に到着したハブに、エリースは「今度は本当に爆破するわ。交渉は無駄よ。犯人はマスコミを待ってる」と告げる。エリースは狙撃隊 に射殺させるべきだと訴えるが、ハブは自分が犯人と交渉することを選ぶ。彼はアラブ系のフランクに通訳してもらい、乗客の中の子供を 解放させる。続いてハブは、自分が見代わりになるので年寄りの乗客を解放するよう交渉する。しかし犯人はバスを爆発し、25名を超える 人々が犠牲となった。
犯人に対する怒りに燃えたハブは、部下たちに徹底的な捜査で情報を集めるよう指示した。ハブはカリルを尋問するが、彼はただの運び屋 だった。バスで使われた爆弾の成分は、サウジアラビアで使用された物と一致した。死んだ爆破犯の指紋を調べた結果、その中の一人が アリ・ワジリというテロリストだと判明した。ブラック・リストに掲載されていたにも関わらず、彼はフランクフルトから3日前に入国 していた。アリは事件の際、回教徒の埋葬衣装を身に着けていた。つまり、死を覚悟していたということだ。
ハブはエリースを外に連れ出し、話を聞く。エリースは「我々は3月にビル爆破の首謀者を突き止めた。アーメッド・タラル。しかし8月 にレバノンで失踪した」と語る。エリースは、軍がタラルを拉致したと考えていた。そこへフランクが来て、カリルが接触していた男の 身元が割れたことを知らせる。男はサミール・ナジデというブルックリン大学の教授で、アリのビザノ保証人でもあった。彼の弟は、 テルアビブで映画館の爆破事件を起こしていた。
サミールの張り込みに同行したエリースは、彼は放置して大物を狙うべきだと主張した。しかしハブは彼女の意見を無視し、部下に命じて サミールの身柄を拘束した。エリースはサミールが自分の情報源だとハブに説明し、釈放を要求した。サミールの行動を全て報告すると 約束したので、ハブはサミールの釈放を承諾する。実は、エリースはサミールと交際していたのだった。密かにサミールを監視していた ハブとフランクは、2人の関係を知った。
ハブのオフィスにデヴローがやって来た。大統領が捜査状況を気にしていると語るデヴローに、ハブは「犯人側からタラルの釈放要求が 出ていますが」と問い掛ける。するとデヴローは「我々は彼を拉致していない。情報部からは死亡したとの報告が入っている」と嘘を ついた。「CIAの情報と矛盾していますね」とハブが指摘すると、彼は微笑を浮かべて「CIAの目は節穴だ」と告げた。
犯行グループが潜んでいるアパートが見つかり、ハブやエリースたちは捜査に取り掛かる。潜んでいるのは3人で、アパートの管理人に よると宅配ピザばかり頼んでいるという。FBIの特殊部隊が乗り込み、激しい銃撃戦の末に3人は射殺される。部屋からはバスで使用 された爆弾の材料が発見された。ハブやフランクたちが事件解決を祝っている時、新たな事件が起きた。ブロードウェイの劇場が爆破 され、大勢の犠牲者が出たのだ。
さらに事件は続いた。武装したアラブ系のテロリストが小学校に侵入し、教室に立て籠もったのだ。犯人は体に爆弾を巻き付け、子供たち を人質に取っていた。報道ヘリの音を耳にしたハブは、犯人がバス事件の時と同じ行動を取るつもりだと察知する。彼は教室に乗り込み、 犯人を射殺した。ホワイトハウスでは緊急会議が開かれ、大統領が来る前から議論が交わされる。会議には大統領首席補佐官やFBI長官 、ライト上院議員やマーシャル下院議員らが出席し、ハブやデヴローも参加した。
ライトが「州兵を出動させては」と言うと、「彼らの役目は暴動の制圧であり、テロではない」という反論が出た。「軍隊を出動させては どうか」というライトの意見には、司法長官が「軍隊は自国民に銃を向けてはならない」という反論する。ライトはリンカーン大統領が 戒厳令を発令したことを語るが、すぐに司法長官から「後に最高裁が違憲だと裁定している」と反論される。意見を求められたデヴローは 、軍の出動は避けるべきだと告げた。続いて意見を述べたハブも、「軍が出動すれば我々の捜索活動が妨害され、犯人は地下に潜って しまう」と同調する。
「イラクでの秘密工作員だったCIAのシャロン・ブリッジャー」として会議にやって来たのは、エリースだった。彼女は用意した資料を 配布し、「トップを潰せばテロ組織が弱体化するというのは昔の話です。最近のテロ組織は独自で行動します。トップを潰しても、新たな トップが誕生する。バス襲撃グループがFBIに全滅させられ、それを見た別のグループは劇場を爆破した。市内には複数のグループが 存在します」と説明した。
連邦政府ビルに爆弾を積んだバンが突入し、600人を超える犠牲者が出た。ハブの仲間であるマイクとティナも命を落とした。エリースは 陸軍情報部のハードウィック大佐をハブに紹介する。ハードウィックから「私は君たちのアドバイザーだ。君たちの稼働能力は?」と質問 されたハブは、「充分です、お気遣いなく」と返した。そんな中、大統領はニューヨークに戒厳令を発令し、指揮官となったデヴローは 大部隊を派遣してアラブ系移民を次々に連行する…。監督はエドワード・ズウィック、原案はローレンス・ライト、脚本はローレンス・ライト&メノ・メイエス&エドワード・ズウィック、 製作はリンダ・オブスト&エドワード・ズウィック、共同製作はジョナサン・フィリー、製作協力はロビン・バッド、製作総指揮は ピーター・シンドラー、撮影はロジャー・ディーキンス、編集はスティーヴン・ローゼンブルム、美術はリリー・キルヴァート、衣装は アン・ロス、音楽はグレーム・レヴェル。
出演はデンゼル・ワシントン、アネット・ベニング、ブルース・ウィリス、トニー・シャルーブ、サミ・ブアジラ、デヴィッド・ プローヴァル、ランス・レディック、マーク・ヴァレー、リアーナ・パイ、ジャック・グワルトニー、チップ・ジエン、ヴィクター・ スレザク、ウィル・ライマン、ダーキン・マシューズ、ジョン・ロスマン、E・キャサリン・カー、ジミー・レイ・ウィークス、アーシフ ・マンドヴィ、アーメッド・ベン・ラービー、モスレー・モハメッド、ジェレミー・ナスター、ウィリアム・ヒル、フラン・ディエルシ、 ウッド・ハリス、エレン・ベゼア他。
『グローリー』『戦火の勇気』のエドワード・ズウィックが撮った作品。
ハブをデンゼル・ワシントン、エリースをアネット・ベニング、 デヴローをブルース・ウィリス、フランクをトニー・シャルーブ、サミールをサミ・ブアジラ、ダニーをデヴィッド・プローヴァル、 フロイドをランス・レディック、マイクをマーク・ヴァレー、ティナをリアーナ・パイ、フレッドをジャック・グワルトニー、大統領首席 補佐官をチップ・ジエン、ハードウィックをヴィクター・スレザク、FBI長官をウィル・ライマン、ライトをダーキン・マシューズ、 マーシャルをジョン・ロスマン、司法長官をE・キャサリン・カーが演じている。ザックリと言うならば、「風呂敷を大きく広げまくったけれど、上手く畳むことが出来ませんでした」という映画である。
この作品、ものすごく大きなテーマ、難しいテーマを持ち込んでいる。
そこには、本作品が公開された後に勃発したアメリカ同時多発テロに関連して語られることが多くなったテーマも含まれている。
だが、難しい問題を提起したものの、どうやって着地すればいいのか、どういう答えを用意すればいいか思い付かず、あるいは最初から 考えておらず、おかしな形で、おかしな場所へ不時着している。まず、この映画は陸軍が勝手にテロ首謀者を拉致するところから始まる。その情報は、FBIやCIAには明かされない。
ニューヨークでテロが発生し、FBIのハブたちが出動するが、そこにCIAのエリースが関与してくる。しかしエリースは素性を偽り、 目的を隠したまま行動する。
そんな風にFBIとCIAと軍は、それぞれの情報を共有せず、自分たちだけで事件を解決しようとする。
互いの組織に協力体制が無いバラバラの状態では、最近のテロ事件に対処できなくなっている。しかし、組織は自分たちの非を認めようと しないし、体制を改善しようともしない。自分たちのメンツや縄張り意識にこだわるのだ。
そういう「組織の硬直化」「協力体制の無さ」ということに対する問題提起があるのだが、そこを中心に据えて物語を進めていくのかと 思いきや、それは途中で投げ出されて、他の問題に目を向ける。
その問題に対する一応の答えを用意してから次の問題を提起するのではなく、放り出してしまうのだ。新たなテーマとして浮かび上がって来るのは、「多民族国家アメリカ」という問題だ。
アラブ系テロリストが次々に爆破テロ事件を起こすことによって、テロとは無縁のアラブ系移民たちは困難な状況に追い込まれる。他の 人種のアメリカ人たちは、アラブ系だというだけで同一にみなされ、批判の対象となり、次々に拘留される。
これは同時多発テロの後にも、アメリカ合衆国で生じた問題である。
で、そういう問題提起があるので、「では、そういう民族対立が起きた時、どうすべきなのか」という主張が示されるのかと思いきや、 そこも放置したまま次へ行く。
「後回しにしている」ということじゃなくて、最後まで答えは示されない。で、終盤に入ると、戒厳令下における軍のやり方を人々が批判し、アラブ系移民への人種差別的な対応に反対する抗議デモが行われる。
「アメリカの民主主義とは何なのか」という問題提起が行われる。
でも、これに関しては、問題提起に関する答えが云々というよりも、同時多発テロ後のアメリカの動きを見てしまうと、冷笑したくなって しまう。
だって、実際に同時多発テロ後の米国でどういう動きが起きたのかというと、アラブ系移民はバッシングの対象になったのだ。
他の人種の人々が彼らを救うために抗議デモを行うようなことは、一切起きなかったのだ。また、終盤に入り、かつてイラクでサミールが集めた工作員をシャロンが訓練し、サダム・フセイン打倒で共闘していたこと、米国が政策 を転換したことによって支援が中止となったこと、そのためにサミールの仲間が殺されたことが語られる。
「そういうアメリカの外交戦略、他の国との関わり方は正しいのか」という問題提起も感じられるが、それに対して「では、どうすべき なのか」という考えが示されるようなことは無い。
様々なテーマが持ち込まれるが、それらは上手く絡み合うことの無いまま、全てが次々に消え去っていく。そして本作品は色んなことを全て放り出して、「暴走したデヴローが全て悪い」ということで終わらせてしまう。
いやいや、そうじゃないだろうに。
そもそもデヴローは大統領にも隠してタラルを拉致していたけど、「確かに勝手な行動だけど、テロの首謀者を捕まえることは、そんなに 悪いことなのか」ということは引っ掛かる。
また、その後に発生した多くの爆破テロに関しても、「全てデヴローが悪い」ってことで済ませちゃダメでしょ。
何よりも悪いのは、テロを起こした連中なんだからさ。そもそも、シャロンが恋愛感情に溺れてサミールを擁護していなければ、ハブが彼を徹底的に調べ上げ、もっと早く問題は解決できていた 可能性がある。
シャロンはサミールを擁護しただけでなく、彼と仲間たちにビザを与えており、しかも早い段階で「自分が教えた爆弾の 作り方がテロで利用されたのでは」と気付いていた節がある。
そう考えると、シャロンって間接的な重罪犯に思えるぞ。
なぜデヴローは悪玉として糾弾され、シャロンは糾弾されないのか。
なんか、モヤモヤしたモノが色々と残るなあ。この映画、序盤は悪くないんだよね。
派手な爆破事件が起きるからアクション映画としての見栄えがするし、緊迫感が張り詰めているからサスペンス映画としても充実感が 感じられる。
だから、もっとシンプルに「FBI捜査官が縦割り行政の壁にぶつかりながらも、新たな形態へと変化したテロリズムに対抗し、犯行 グループを追い掛ける」というサスペンス・アクションにしてしまえば良かったのに。
上手く処理できないような難しいテーマを幾つも持ち込んだせいで、にっちもさっちもどうにもブルドッグになっちゃってるのね。(観賞日:2013年2月16日)
第19回ゴールデン・ラズベリー賞
ノミネート:最低主演男優賞[ブルース・ウィリス]
<*『アルマゲドン』『マーキュリー・ライジング』『マーシャル・ロー』の3作でのノミネート>