『Mr.ディーズ』:2002、アメリカ

巨大メディア企業である「ブレイク・メディア」を築いたメディア王プレストン・ブレイクが雪山登山で無茶をして凍死した。遺産として会社の株の49パーセントが残されたが、それは金額に換算すれば400億円の価値がある。側近のチャック・セダーと顧問のセシル・アンダーソンの調査により、相続の権利を有するのが甥のロングフェロー・ディーズだけだと判明した。
ディーズはニューハンプシャー州の小さな田舎町マンドレイク・フォールズに暮らし、ピザ屋を経営している。彼は老人にピザを配るなど親切で面倒見が良く、狂人クレイジー・アイズにまで優しく接している。そんなディーズは、ピザ屋で働くジャンやマーフだけでなく、マンドレイク・フォールズの全ての人々から愛されている。
何も知らない素人が経営に口出しすることを嫌がったセダーは、ディーズに金を渡して株を買い取ろうと考えた。そこで彼はセシルと共にヘリコプターでマンドレイク・フォールズへ行き、ディーズに会う。セダーはディーズに、ニューヨークに来て書類にサインしてほしい、それまでは騒ぎ立てるマスコミを避けてほしいと依頼した。同じ頃、テレビ番組「インサイド・アクセス」のディレクターを務めるマック・マクグラスは、スタッフのマーティーからセダー達が遺産相続人を見つけたという情報を聞かされる。
ニューヨークに到着したディーズは、プレストン・ブレイクの屋敷に案内された。屋敷では、執事のエミリオやエレベーター係のルーベン達が働いている。書類が整うまですることの無いディーズは会社に現れ、契約のことで文句を言いに来たジェッツのクォータバック、ケヴィン・ウォードを殴り倒す。ケヴィンは他のチームへ移ると脅すが、ディーズは「だったらクビ」と告げる。後日、ケヴィンの父バディーから電話があり、息子のことで感謝しているとの言葉がディーズに告げられた。
インサイド・アクセスのレポーターを務めるベイブ・ベネットはマーティーと共謀し、ひったくりに襲われた芝居をディーズの目の前で打つ。助けに入ったディーズは、マーティーをボコボコにして怪我を負わせた。ベイブは「学校の看護婦をしているパム・ドーソン」と自己紹介し、ディーズに近付いた。ディーズは、すっかりベイブに心を奪われてしまう。
ベイブが隠しマイクとカメラを仕込んでいるとも知らず、ディーズは彼女とレストランへ出掛けた。ディーズはベイブにけしかけられ、無礼な態度を取った文化人を殴り付けた。その後、店にいたジョン・マッケンローと意気投合したディーズは、酒を飲んで大暴れする。翌日、その様子がインサイド・アクセスで放送され、マクグラスは「遺産相続人の乱行」として紹介する。だが、ディーズはベイブが撮影した映像だとは全く気付かなかった。
後日、またもパムはマイクとカメラを仕込み、ディーズとデートに出掛けた。その途中、火事の現場に遭遇したディーズは、中年女性と彼女が飼っていた猫達を救出した。その行動に感動したベイブは、会社に戻って映像を編集する。しかしインサイド・アクセスで放送された映像は、まるでディーズが猫を殺したかのように編集されていた。マクグラスが勝手に編集をやり直したのだ。
ディーズはベイブとの結婚を考えるようになり、セダーに株の売却をやめて経営の勉強をするつもりだと話す。セダーはディーズを追い払うするため、策を練る。ベイブは本気でディーズに惹かれ、自分の素性を彼に明かすとマクグラスに告げた。マクグラスはセダーに接触し、ディーズを追い払うための作戦があると持ち掛ける。
ディーズはベイブを豪華なディナーに招待し、そこでプロポーズしようと計画する。そこにセダーが現れ、大型ヴィジョンにインサイド・アクセスを映し出す。マクグラスが番組に登場し、ベイブの正体を明かした。ショックを受けたディーズは相続権を放棄し、マンドレイク・フォールズへ戻る。邪魔者を追い出したセダーは、会社をバラバラにして売り払い、従業員を解雇しようとする…。

監督はスティーヴン・ブリル、原作はクラレンス・バディントン・ケランド、『オペラハット』脚本はロバート・リスキン、脚本はティム・ハーリヒー、製作はシドニー・ギャニス&ジャック・ジャラプト、共同製作はアレックス・シスキン、製作協力はアレン・コヴァート、製作総指揮はジョセフ・M・カラッシオロ&アダム・サンドラー、撮影はピーター・ライオンズ・コリスター、編集はジェフ・ガーソン、美術はペリー・アンデリン・ブレイク、衣装はエレン・ラッター、音楽はテディー・カステルッチ。
出演はアダム・サンドラー、ウィノナ・ライダー、ジョン・タートゥーロ、アレン・コヴァート、ピーター・ギャラガー、ジャレッド・ハリス、エリック・アヴァリ、ピーター・ダンテ、コンチャッタ・フェレル、ハーヴ・プレスネル、スティーヴ・ブシェーミ、ブレイク・クラーク、ジョン・マッケンロー、J・B・スムーヴ他。


クラレンス・バディントン・ケランドの短編小説を基にした1936年の映画『オペラハット』(フランク・キャプラ監督、ゲイリー・クーパー主演)をリメイクした作品。
ディーズをアダム・サンドラー、ベイブをウィノナ・ライダー、エミリオをジョン・タートゥーロ、マーティーをアレン・コヴァート、セダーをピーター・ギャラガー、マクグラスをジャレッド・ハリス、セシルをエリック・アヴァリ、マーフをピーター・ダンテ、ジャンをコンチャッタ・フェレルが演じている。

他に、ブレイクをハーヴ・プレスネル、クレイジー・アイズをスティーヴ・ブシェーミ、バディをブレイク・クラーク、ルーベンをJ・B・スムーヴが演じている。さらにジョン・マッケンローが本人役、脚本家ティム・ハーリヒーが消防士役、「ラジオマン」ことクレイグ・カスタルド(ニューヨークの名物ホームレスで、首からラジオを下げてセレブのサインを貰うのが趣味)が本人役、アル・シャープトン牧師(ハーレムの黒人活動家)が葬儀のゲスト役で出演している。
ディーズがパムにプロポーズするために用意したディナーの席で、ヴァイオリン演奏者として登場するのは、アンクレジットだが監督のスティーヴン・ブリル。また、同じくアンクレジットで、ロブ・シュナイダーがイタリアンの宅配屋として登場する。これは、アダム・サンドラー主演作『ビッグ・ダディ』で演じたのと同じキャラクターだ。

日本語吹き替え版では中川家の弟がディーズ、兄がエミリオの声を担当している。
まあ日本ではアダム・サンドラー人気が低いし、有名人の起用で話題作りを狙ったのは分かるが、ハッキリ言って最低だ。
上手いか下手かという問題じゃなくて(いや兄の吹き替えは腹立たしいほどヘタクソなんだが)、関西弁が全く合っていないってことよ。

ディーズは「子供じみた行動を取るけど子供のように純朴でもある」という人物設定のようで、まあアダム・サンドラーが良くやっているキャラクターだ。
ただ、どうもサンドラーは「子供の純粋さは暴力に対しても発揮される」という考えの持ち主らしく、この映画でもディーズは簡単に暴力を振るう。
その考え方は間違っちゃいないが、映画的には大間違いだと思うぞ。そこは「中身が子供だから力も弱い」ということにしておいた方がいいぐらいだ。

ディーズは老人の面倒を見るなど心優しい男のはずなのに、すぐに暴力を振るうことで「心優しい」という部分に矛盾が生じていると感じる。ベイブのバッグを取り返すために、マーティーをボコボコにする必要は無いだろう。
だからベイブが「あんな優しい人」と言った時にマーティーが「俺をこんな目に遭わせたのに優しい人?」と疑問を呈すると、うなずいてしまう。
しかも心優しさより、無作法な態度を取ったり簡単に暴れたりするなどの悪い意味での子供っぽさの方が目立っている。なので、「純朴なディーズに触れてベイブが本気で惹かれる」という筋書きも上手く機能しない。

あと、子供に大金を渡して自転車を貰うなど、その場の笑いのためにキャラ設定をボンヤリさせている印象も受けた。
優しさをアピールするための猫&飼い主救出シーンですら、笑いのために猫をトランポリンに放ったり、火ダルマの猫を乱暴に投げたりする。
それを見て「心がキレイで優しい人」と思うのは、難しい作業だと思うんだが。

屋敷のホールでエコーが響くのを何度も試すとか、凍傷の左足を幾ら殴っても痛くないとか、それが笑えるかどうかは別にして(まあハッキリ言えば笑えないんだが)、小さなネタを色々と盛り込んでいる。リメイクと言っても、思い切りコメディーに傾いている。
で、それならそれで潔くコメディー・オンリーにすりゃいいものを、感動劇の部分は捨てられなかったらしい。
ってなわけでハートウォーミング・コメディーを狙っているようだが、この映画において「笑い」と「感動」は全く混ざり合わない。それは、石けん水となるべき主人公のキャラクターが全く感動劇に向いていないからだ。どこか冷めたような感じもあるキャラなので、「マジでベイブに恋して、素性を知ってショックを受けて」という心の揺れ動きも伝わってこないし。

あとディーズ以外の部分でも、終盤にあるジャンとベイブの女闘美のように、笑いのためにハートフル・ドラマとしての流れを犠牲にしている部分もある。

終盤にディーズが会社を救うため株主総会に出向くのも、それまで会社や従業員のことなんてこれっぽっちも考えていなかった、ベイブのことしか考えていなかったので、その行動に付いていけない。
そこで「みんなの夢を聞かせてほしい」などと感動を誘うかのごとき演説を始めるが、これまた唐突感ありありで、さらに付いていけない。
それで拍手喝采できる株主の気が知れんよ。


第23回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低リメイク・続編賞
ノミネート:最低主演男優賞[アダム・サンドラー]
<*『Adam Sandler's 8 Crazy Nights』『Mr.ディーズ』の2作でのノミネート>
ノミネート:最低主演女優賞[ウィノナ・ライダー]


第25回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪のリメイク】部門
ノミネート:【最も気が散るセレブのカメオ出演】部門[ジョン・マッケンロー]

 

*ポンコツ映画愛護協会