『マザーズ・デイ』:2016、アメリカ

朝から入浴していたサンディーは、次男のマイキーが大声で呼ぶので駆け付ける。マイキーが喘息の発作を起こしていたので、彼女は落ち着くよう促して呼吸器を渡す。マイキーはサンディーに、長男のピーターが飼育していた蟻を全て逃がしてしまったと知らせる。ピーターは朝からお菓子を食べており、「パパがいいって言った」と主張する。サンディーが注意していると、裏口から上がり込んでいた元夫のヘンリーが現れる。彼は「後で話せるか。大事な話がある」と告げ、家を後にした。
友人のジェシーから電話を受けたサンディーは、「ヘンリーが私を変な目付きで見てた」と語る。「ヨリを戻すとか?」とジェシーが言うと、サンディーは「それは有り得ない」と否定する。しかしジェシーが「円満離婚だったじゃない。やっと気付いたのよ」と告げるので、サンディーも気になった。ジェシーは姉のギャビーから、ガレージへ来るよう言われる、ジェシーが赴くと、マックスが母の日のパレード用に作った山車が完成していた。
『ショーティーズ・サルーン』で働く妊婦のヴァルは、来週から休みに入る。彼女は同僚のザックに、「産休中はよろしくね」と告げる。クリステンは赤ん坊のケイティーを連れて店を訪れ、ザックに「パパよ」と口にする。彼女が「今夜分のミルクを冷蔵庫に入れておいて」と頼むと、ザックは「実は、コメディー・コンテストに出る」と打ち明ける。その夜が1回戦で、優勝賞金は5千ドルだと彼は説明した。「コメディアンとして稼げる。出場するだけでも凄いことだ」と彼が語ると、クリステンはケイティーの世話を引き受けた。
ブラッドリーは娘のレイチェル&ヴィッキーと、妻の墓参りに来ていた。トミーという男から電話が入ると、レイチェルはブラッドリーに友達だと告げた。ブラッドリーの妻のダナはアメリカ海兵隊の中尉で、1年前に死去していた。フロリダのスタジオで通販番組が始まり、司会者のアダム・フリーマンはアトランタで著書を宣伝中のミランダに呼び掛けた。ミランダは母親へのプレゼントとして、クリスタルのペンダントを宣伝した。
ジェシーの「ママと長く話してない。ケンカの原因さえ思い出せない」という言葉に、ギャビーはラッセルと一緒にいる写真を見て母が「コーヒー色の肌の男と付き合えば縁を切る」と言った時のことを語った。ギャビーは妹に、電話かスカイプで連絡してみるよう勧めた。秘密を抱えているのは、ジェシーだけではなかった。ギャビーも同性のマックスと付き合って養子を貰ったことを隠し、スティーヴンという男性と交際して不妊治療中だと嘘をついていた。
サンディーはヘンリーから、再婚したことを聞かされる。相手がティナだと知った彼女は動揺し、「大昔に別れたんじゃ?」と問い掛けた。ヘンリーはヨリを戻したと言い、「運命の人だ」と口にする。もうヘンリーが子供たちに再婚のことを打ち明けたと聞き、サンディーは驚いた。スポーツジムで働くブラッドリーは、会員のキンバリーたちから「紹介したい女性がいる」と言われる。しかしブラッドリーは「まだそんな気になれない」と遠慮し、母の日の予定を問われると「何もしない」と答える。彼が「考えたが、母の日をお祝いしない方が娘たちのためだ」と言うと、キンバリーたちは「大間違いよ」と反対した。
ブラッドリーはレイチェルが参加するサッカーの練習でコーチを務め、トミーの姿を確認した。ギャビーはジェシーを同席させてスカイプを繋ぎ、キャンピングカーで移動している母のフローと父のアールに呼び掛ける。彼女は嫌がるジェシーを引っ張り込むが、フローは冷淡な態度を取った。「やっと謝る気になったのね。例のインド人とは別れて正気に戻った」という母の言葉を聞き流したジェシーは、アールに話し掛けた。アールはフローと違い、娘との会話を素直に喜んだ。ジェシーは結婚について告白しようとするが、ラッセルが部屋に来ると慌てて通信を切った。
サンディーは息子たちをヘンリーに預けるため、彼の家へ連れて行く。ティナが高額の指輪を付けているのを見て、サンディーはヘンリーとの結婚を祝福した。ティナは手作りクッキーを子供たちに見せて家に招き入れ、サンディーに「何かあったらツイートして」と告げた。サンディーはティナの言葉や露出度の高い格好に批判的な態度を見せるが、ヘンリーは「別にいいだろ」と気にしなかった。ヘンリーが「母の日に子供たちを半日、預からせてくれ」と持ち掛けると、サンディーは即座に拒否した。
フォー・シーズンズ・ホテルに宿泊するミランダの広報担当者のイネスは、エージェントを務めるランスの訪問を受けた。彼女は番組のインテリアデザイナーが必要だと言われ、「何人か自薦してきたけどサンディーがいいわ」と告げた。ブラッドリーはダナのビデオを見て、思い出に浸った。彼はヴィッキーから買い物を頼まれるが、その中にタンポンも含まれていたので戸惑った。ウォーリー・バーンが営む『バックヘッド・コメディークラブ』でコンテストが開催され、ザックはステージに立った。彼はクリステンとの関係について、「付き合って5年で子供はいるが、結婚していない。プロポーズしたが、同居人のままだ」と笑いを交えて語った。
帰宅したザックがプロポーズすると、クリステンは同意せずに困惑の表情を見せた。「もう少しだけ考えさせて」と彼女が言うと、ザックは「永遠には待てない」と告げた。ジェシーがママ友のクリステンと公園で子供たちを遊ばせていると、サンディーが通り掛かった。彼女は仕事の面接に行くことを告げ、「働いて気を紛らわせないと」と述べた。クリステンが結婚に逃げ腰だと聞いたサンディーは、「結婚してみないと分からないわよ」と言う。クリステンが「娘への影響を考えると離婚が怖い」と話すと、彼女は「離婚を考えて結婚しない」と述べた。
サンディーが去った後、クリステンはジェシーに「実は自分が何者か分からない」と打ち明ける。彼女は養女で、産みの母に会ったことが無かった。彼女は母親が自分を養子に出した理由を知らず、捨てられることを怖がるようになっていた。母親の住所は知っているが、連絡する勇気が無いまま時が過ぎていた。ジェシーは「現実に向き合うのよ」と言い、母親に会うよう勧めた。サンディーは子供たちの学芸会に行き、写真を撮影しようとする。しかし遅れて現れたティナは、サンディーが鞄を置いて取っておいた席に平然と座った。ティナが週末のサプライズについて語ると、サンディーは苛立って彼女に文句を付けた。
ブラッドリーはスーパーマーケットで買い物をするが、店員がマイクを使ってタンポンの値段を確認したので狼狽する。その様子を見ていたサンディーは、彼に話し掛けた。買い物を終えたサンディーはヘンリーからの電話を受けて車に乗り、「子供たちのパスポートは?」と訊かれる。夏休みの旅行でパリへ連れて行くと聞いたサンディーは電話を切り、「私とは13年も一緒で一度も行かなかった」と激しい憤りを吐露した。店から出て来たブラッドリーは、車内で喚き散らすサンディーの姿を目にして怖くなった。
レイチェルはサッカーの試合で得点するが、主審がノーゴールと判定したのでブラッドリーが抗議する。主審を批判したブラッドリーはレッドカードを出され、彼に同調したキンバリーも会場を去った。試合の後、ブラッドリーはレイチェルから、「ずっと悲しみに沈んでて、ママを近くに感じるため代役に没頭してる」と指摘される。レイチェルは「ママは死んだの」と言い、「私には無関心じゃない。妹の世話をして、家事に料理もしてる。私はまだ16歳なの」と声を荒らげた。彼女はトミーの車に乗り込み、ブラッドリーが止めるのを無視して去った。
サンディーは面接に遅刻し、急いでミランダの元へ行く。しかしミランダは作文コンテスト受賞者との写真撮影に入っており、サンディーはアシスタントに追い払われそうになる。彼女は「別れた夫が再婚したり、子供の喘息の薬を貰いに行ったり。ポンコツ車じゃなきゃ間に合ってた」とまくし立てるが、諦めて立ち去った。ミランダは彼女を呼び戻し、家族のことを知りたがる。ミランダはプレゼンを聞かず、「貴方を雇う」とサンディーに告げた。
ジェシーはアールから連絡を受け、「母の日のプレゼントについて最高のアイデアがある」と言われる。「それは面白そうね」とジェシーは返すが、両親が家に入って来たので驚く。ジェシーはギャビーに、「ラッセルにメールして。ガレージから出るな。子供たちも出すな」と頼む。母がマックスに気付くと、ジェシーは「ギャビーのビジネスパートナーよ」と誤魔化した。ギャビーは隠し切れないと考えて事実を告白し、ラッセルがやって来たのでジェシーは動揺した。
ラッセルはジェシーから「両親は認知症の介護施設にいる」と聞かされていたことを語り、彼女の夫だと告げる。娘たちに子供がいることも知り、両親は憤慨して家を後にした。しかしキャンピングカーのタイヤがパンクしていたため、野営する羽目になった。ラッセルは「嘘をついていた」と荷物をまとめ、家を出て行こうとする。ジェシーは「貴方だけじゃない。トレーラー生活から抜け出そうと高校生なのに必死で節約した」などと釈明するが、ラッセルは耳を貸さずに家を出て行った。
ブラッドリーはスポーツジムで仕事をしながら、キンバリーたちにトミーのことを尋ねる。そこへヨガクラスを受講するためサンディーがやって来たので、彼は慌てて隠れた。サンディーは土曜日に子供パーティーを企画し、友人たちに招待状を送る。想定していたより大規模なパーティーになったので、サンディーは戸惑った。アールとフローはタイヤを修理して出発しようとするが、今度はエンジンの部品を盗まれていた。
サンディーがピーターとマイキーもパーティーに参加させたため、約束を破られたヘンリーが乗り込んで来た。サンディーが「時間の感覚が無くなって」と釈明すると、ヘンリーは「無責任すぎる」と批判した。サンディーが「私が無責任?貴方は子供の歯医者に付き添った?学校用品を買ったり、雑用をしたことは?」と反論すると、彼は「君は決まった時間に子供を連れて来る責任がある」と告げる。ヘンリーは「明日の母の日には返す」と言い、子供たちに準備をするよう指示した。
クリステンはミランダのサイン会に行き、「貴方の娘よ」と話し掛ける。彼女が笑顔を見せると、ミランダは頬を引きつらせた。ランスはクリステンを連れ出し、「娘と名乗り出たのは4人目だ」と金目当ての偽者扱いする。クリステンは出征証明書を見せるが、ランスは「誰でも偽造できる」と冷たく告げる。「本物だとしても金は払わない」と彼に言われたクリステンは失望し、「来るんじゃなかったわ。私は何も望まないと伝えて」と立ち去った。
パーティーの後、サンディーはジェシーが近くにいると思って「私は別れた夫と若い女に張り合おうとしてる。母親の代わりは誰にでも務まると思っちゃうの」と語る。しかしジェシーは席を外し、いつの間にかパーティーに呼んだ道化師のランディーが来て話を聞いていた。ランディーは彼女に、「子供との絆は絶対に壊れない」と告げた。ジェシーの家にいたフローはスカイプの着信に気付き、パソコンに触れた。連絡してきたのはラッセルの母のソニアで、ビールを飲みながら会話を交わしたフローは意気投合した。チャーリーに頼まれてタナーの面倒を見たフローは、孫の可愛さに頬を緩ませた。
ザックはケイティーの面倒を見ながらクリステンに電話を掛け、「予定変更だ。参加者の1人が辞退し、今夜の決勝に出ることになった」と知らせた。レイチェルはトミーの車で家まで送ってもらい、彼にキスをして別れる。その様子をブラッドリーは、窓から覗いていた。家に入って来たレイチェルは、ブラッドリーに視線も向けず「ただいま」と言うだけで自分の部屋に向かった。ザックはクリステンへの電話で「ケイティーと3人で暮らそう。結婚しなくてもいい。コンテストに来てくれ」と言う。クリステンは彼の声を聞いていたが、電話には出ようとしなかった。
ザックは出番が来たため、ケイティーを抱いたままステージに上がった。ケイティーが泣き出すと、彼はタイニーという肥満の男性客に彼女を抱いてもらった。すぐにケイティーは泣き止み、それもネタにしてザックは客の笑いを誘った。ザックは再びケイティーを抱き上げ、クリステンが来たことに気付いた。彼は母親の素晴らしさを最後に語り、拍手を浴びて出番を終えた。クリステンはステージ裏へ行き、「母親と会ってた。酷い母親だった。今の幸せに感謝するわ」と言い、ザックにキスをした。優勝者は満場一致でケイティーに決まり、ザックは同伴者としてステージに戻った。
翌朝、サンディーは息子たちの声で目を覚ました。息子たちは朝食とプレゼントを持参しており、サンディーは喜んだ。しかしマイキーが間違えたので、サンディーは2人がティナにも同じプレゼントと手紙を用意していることを知った。ピーターが慌てて「ティナのカードは捨てるよ」と話すと、サンディーは「そんなことしないで」と言う。ブラッドリーが目を覚ますと娘たちはおらず、彼はキンバリーからの電話で「こっちにいるわ」と知らされた。サンディーは子供たちに、「分け合うのは難しいけど、素敵なことなの。後でパパの所に送って行くわ。ティナにもプレゼントをあげなきゃ」と語った…。

監督はゲイリー・マーシャル、原案はリリー・ホランダー&マット・ウォーカー&トム・ハインズ&ゲイリー・マーシャル、脚本はアヤ・コッコフ・ロマーノ&マット・ウォーカー&トム・ハインズ、製作はマイク・カーツ&ウェイン・ライス&ブラント・アンダーセン&ダニエル・ダイアモンド&ハワード・バード&マーク・ディザル、製作総指揮はケヴィン・フレイクス&アンカー・ルングタ&マシュー・フーパー&ウィリアム・バインドリー&ジャレッド・D・アンダーウッド&ダニー・マンデル&ロジャー・メイ&フレッド・グリム&ビル・ヒーヴナー&スコット・リプスキー&レオン・コーコス&デボラ・E・ショセ&ハワード・ギルデン&テッド・ジョンソン、共同製作総指揮はアダム・ボーリンジャー&ゲイリー・ダンクレフセン&コリン・ピアース&チップ・フラハーティー&マイケル・フラハーティー&ヴィシャール・ラングタ&マーク・ファサーノ、共同製作はマーク・B・ジョンソン&ヘザー・ホール、製作協力はデヴィッド・H・ヴェンガウスJr.&グレッグ・ウィルソン、撮影はチャールズ・ミンスキー、美術はミッシー・スチュワート、編集はブルース・グリーン&ロバート・マリナ、衣装はビヴァリー・ウッズ&マリリン・ヴァンス、音楽はジョン・デブニー、音楽監修はジュリアンヌ・ジョーダン。
出演はジェニファー・アニストン、ケイト・ハドソン、ジュリア・ロバーツ、ジェイソン・サダイキス、ヘクター・エリゾンド、ブリット・ロバートソン、ティモシー・オリファント、マーゴ・マーティンデイル、シェイ・ミッチェル、ジャック・ホワイトホール、アーシフ・マンドヴィー、ロバート・パイン、サラ・チョーク、キャメロン・エスポジート、ジョン・ロヴィッツ、ラリー・ミラー、エラ・アンダーソン、ロニ・ラヴ、ジェニファー・ガーナー、ジェシー・ケース、グレイソン・ラッセル、カレブ・ブラウン、ブランドン・シェーン・スピンク、オーウェン・ワイルダー・ヴァッカロ、エイダン・オーガスト・ビヴェク、アドレアナ・ゴンザレス、リサ・ロバーツ・ジリアン、ルーシー・ウォルシュ、ベス・ケネディー他。


『バレンタインデー』『ニューイヤーズ・イブ』のゲイリー・マーシャルが監督を務めた作品。2016年7月19日に肺炎の合併症で死去したため、これが遺作となった。
『ウエディング宣言』のアヤ・コッコフ・ロマーノと、ゲイリー・マーシャル作品の常連俳優であるマット・ウォーカー&トム・ハインズが共同で脚本を務めている。
サンディーをジェニファー・アニストン、ジェシーをケイト・ハドソン、ミランダをジュリア・ロバーツ、ブラッドリーをジェイソン・サダイキス、ランスをヘクター・エリゾンド、クリスティンをブリット・ロバートソン、ヘンリーをティモシー・オリファント、フローをマーゴ・マーティンデイル、ティナをシェイ・ミッチェル、ザックをジャック・ホワイトホールが演じている。
ダナ役でジェニファー・ガーナーが出演しており、オープニングのナレーターを監督の妹であるペニー・マーシャルが担当している。

豪華なキャストを揃え、複数の物語を並行して進める映画である。それは『バレンタインデー』や『ニューイヤーズ・イブ』と共通しており、ゲイリー・マーシャルが味を占めて同じことを繰り返したってことなんだろう。
『バレンタインデー』では21名が「主要キャスト」として表記され、『ニューイヤーズ・イブ』では8つのストーリーが並行して進められた。
それら2作に比べると、今回は主要キャストを一応は4人に絞っているし、並行して描かれるストーリーも5つに限定している。
過去の2作から学習し、数を減らすことで質を高めようと考えたのかもしれない。

まず気になるのは、メインキャストとして表記される4名の顔触れ。3人が女性で、1人だけ男性なのよね。
そこは全員が女性ってことで良くないか。何しろ「母の日」をキーワードにした映画なんだし。
しかも、ブラッドリーと母親の関係を描くストーリーなのかと思いきや、そこに「母親」は出て来ないのよね。
ダナというキャラはいるけど、ブラッドリーからすると「妻」に当たる。つまり、このストーリーではブラッドリーが「娘たちにとって母親代わり」ってことのようだ。
変に「男性を排除するのは差別」みたいな意識が働いたのかねえ。ハリウッドってのは過剰なポリティカル・コレクトネスのせいで面倒なことになっちゃってるけど、まだ2016年なら、そこまで酷い状況ではなかったはずだけど。

サンディーのストーリーは、「シンプルにヘンリーがクソ野郎」という部分が大いに引っ掛かる。
「ティナとの再婚に苛立ちを抱いていたサンディーだが、子供たちのことを考えて寛容に受け入れようと決める」というサンディーの変化を描きたかったのは分かる。でも、彼女が大人の対応で落ち着くのに対して、ヘンリー側は何も譲らないんだよね。
こいつは再婚をサンディーより先に息子たちに教えるわ、再婚したばかりなのに「今はティナが母親だから、母の日は子供たちを半日預からせてくれ」と要求するわと、ものすごく自分勝手な男なのだ。
相手への思いやり、気遣いってモノが、決定的に欠けている。

それはヘンリーだけじゃなくて、ティナも同じ穴のムジナなんだよね。
こいつらは2人とも、自分たちが再婚した幸せに浸って周囲のことなんて何も考えちゃいない。自分たちが再婚して「ピーターとマイキーのパパとママになった」という喜びしか考えず、それがサンディーの幸せを奪っていることに気付いちゃいない。
そして、そういうことに対する反省も改善も最後まで見られないまま、サンディーが一方的に譲っているのだ。
それだとサンディーの優しさや物分かりの良さは伝わるけど、ものすごくモヤモヤしたモノが残っちゃうんだよね。
だから、このストーリーを全面的なハッピーエンドとして受け取れないのよ。

あと、ホントは「サンディーとヘンリーの関係」とか「サンディーのティナに対する感情」よりも、「サンディーと子供たちの関係性」が重要になるはずで。この映画のテーマを考えれば、サンディーの「妻」としての部分より、「母」としての部分が優先されるべきだからね。
だけどピーターとマイキーの存在感って、ものすごく薄いのよね。
サンディーの彼らに対する思いも、子供たちのサンディーに対する思いも、あまり強く伝わって来ない。
彼らがサンディーとヘンリーのことをどう思っているのか、2人の離婚やヘンリーの再婚をどんな風に捉えているのか、今の状況に対して何を考えているのか、そういうことはサッパリ分からない。

ジェシーのストーリーでは、「ラッセルがヘンリーに比べりゃマシだけど、やっぱり不愉快で自分勝手な男」ってのが大いに引っ掛かる。
彼はジェシーが自分の存在を両親に隠していたと知り、激怒して家を出て行く。だけどジェシーは両親からインド人との交際を反対されていたわけで、だから隠す事情も分からなくはない。
そりゃあ、それをラッセルに相談せず「両親は介護施設にいる」と騙し続けていたのは、決して褒められることではない。
ただ、ラッセルがジェシーの弁明を聞こうともせず、ただ「人種差別だ」という方向から怒るだけで家を出て行くのは、「こんな奴と別れた方がいいよ」と言いたくなるぐらい不愉快な対応だ。

ヘンリーやラッセルが発する不快感に顕著なんだけど、この映画って「笑って済ませることが難しい」「微笑ましい出来事として受け取ることが難しい」という問題を抱えているのよね。
ヘンリーやラッセルの対応にしても、そこがコメディーとして成立していればOKなのよ。
だけど、単純に「身勝手な男ども」という印象しか受けない。
だからと言って、全体を通して「女は素晴らしい。それに比べて男どものなんと浅薄で身勝手なことよ」という描き方が徹底されているのかというと、何しろブラッドリーが主要キャストに含まれている関係で、そういうわけでもないしさ。

ブラッドリーのストーリーでは、「彼がダナの死を受け入れられず、今も引きずっている」ってことを上手く表現できていない。表面的な部分だけなら描けているけど、それがドラマとしての厚みに繋がっていない。
さらに言うと、その部分と「ブラッドリーと娘たちの関係」が上手く連携しなきゃ無意味と言ってもいいぐらいなんだけど、そこも機能していない。むしろ、どちらかと言えば、ブラッドリーの妻に対する感情より、現在進行形で描かれる娘との関係の方が重要なわけで。
あと、なぜかレイチェルは演者が1つ目のエンドロールに入っていないんだとげ、どういうつもりなのかと言いたくなるぞ。
なんでヴィッキー役の子役だけが表記されて、レイチェル役の子役は違うのよ。そんなに大きな扱いの差があるようには思えないぞ。

話を戻すが、サッカーの試合後、ブラッドリーがレイチェルから「ずっと悲しみに沈んでて、ママを近くに感じるため代役に没頭してる」と指摘されるシーンがある。
でも、その直前にブラッドリーが取った行動は「主審に抗議して退場させられる」というモノであって。そこに「ダナを亡くした悲しみに沈んでいる」という様子なんて微塵も無かった。
なので、「その流れで言うことか」とレイチェルにツッコミを入れたくなる。
ダナの死が、主審への怒りに関係しているとは到底思えないし。

その続きでレイチェルは、「私には無関心じゃない。妹の世話をして、家事に料理もしてる。私はまだ16歳なの」とブラッドリーを責める。
でもブラッドリーが無関心なのではなく、ただ彼女の出番が少ないだけにしか思えないのよ。
ブラッドリーがレイチェルに無関心なんて、全く感じないぞ。レイチェルが「パパは妹ばかり気にして自分には無関心」と感じるような理由もサッパリ分からないし。
じゃあ「彼女の思い込み」という設定なのかというと、その辺りも判然としないし。

クリステンのストーリーでは、ミランダの描き方に大きな問題がある。
クリステンがサイン会を訪ねて「貴方の娘よ」と告白した時、彼女は驚いて顔を強張らせるだけだ。そしてシーンが切り替わるとクリステンはランスに連れ出されており、偽者扱いで「金は払わない」と冷たく言われている。そこでクリステンのパートを終わらせてしまい、ミランダの反応は描かない。
それだと、ミランダがランスに頼んでクリステンを冷たく拒絶させたようにも思える。
でもミランダはクリステンが来た時点で、実の娘だと分かっているのだ。

だったら、そこは「ランスが勝手に対処した」という形にしておくべきだ。
そしてシーンの最後はミランダの様子に戻り、「娘が来たことに動揺し、どうしていいか分からなかった。すぐに受け入れることが出来なかったけど、後で悔やむ」という姿を見せた方がいいぞ。
もちろん、後で「ミランダがクリテテンに会って母としての愛を語る」というシーンはあるし、着地の方法は間違っちゃいない。
だけど、そこまでのショートカットが酷すぎて、「薄っぺらいなあ」という印象が強くなっている。

(観賞日:2020年3月3日)


第37回ゴールデン・ラズベリー賞(2016年)

ノミネート:最低主演女優賞[ジュリア・ロバーツ]
ノミネート:最低助演女優賞[ケイト・ハドソン]

 

*ポンコツ映画愛護協会