『ミッドナイト・キラー』:2021、アメリカ

2004年、ペンサコーラ。1週間前に疾走したルーシー・ベイラーの家族が報奨金を提供し、情報を求めていることがラジオのニュースで報じられている。そのニュースを聞いていた男が立小便のために車を停め、橋の下で女性の遺体を発見した。フロリダ州法執行省(FDLE)のバイロン・クロフォードは現場に来て遺体を確認し、別の場所で殺されて運ばれたと確信した。遺体の身許はサラ・ケロッグという26歳の女性で、薬物と売春の前科があってタラハシーで目撃されていた。
オアシス・モーテルの部屋では男女が揉め始め、16歳のトレイシー・リーは出て行くよう要求された。トラック・ストップで男に絡まれた彼女は、ピーター・ヒルボローという男に助けられた。ピーターは「安全な場所に行こう」と告げ、自分のトラックにトレイシーを乗せた。FBI捜査官のレベッカ・ロンバルディーは相棒のカール・ヘルターの反対を押し切り、売春の囮捜査を繰り返していた。彼女がオアシス・モーテルの部屋で待っていると、ポン引きが入って来た。「標的じゃない。突入する」とカールが無線で告げると、レベッカは2分だけ待つよう頼んだ。男に殴られた彼女は反撃して昏倒させ、駆け付けたカールと共に部屋を去った。
ピーターは車内にベサニーという娘の写真を飾っており、トレイシーに「娘が家で待ってる」と話す。彼が「今夜、泊まれば?娘も喜ぶ」と言うと、トレイシーは承諾した。バイロンは上司のヤーブローから、未解決の失踪事件に固執しすぎだと諫められた。バイロンは反論するが、ヤーブローは「もう関わるな。今すぐ異動だ」と告げた。レベッカはカールから「ハイウェイ作戦は終了だ。もうフロリダを出て北西部の5号線に移る」と言われるが、囮捜査の続行を譲らなかった。
バイロンはクリムニーパインズのケロッグ家へ赴き、ジョージア・ケロッグに娘であるサラの死を伝えた。彼はタイガーポイントの自宅に戻り、妻のカレンと生後間もない娘のベラに会った。彼はカレンに、「16歳の少女が昨夜、トラック・ストップで失踪した。その前には10号線で、タラハシーの売春婦が遺体で見つかってる」と語った。ピーターは帰宅し、妻のチェイシティーとベサニーに笑顔を見せた。レベッカは以前から目を付けていた標的とマスタング・モーテルで会う予定で、反対するカールと共に張り込んでいた。しかし彼女は標的が来ないと判断し、その場を去った。
ピーターは急な配達を頼まれたと妻に話し、家を出た。彼はマスタング・モーテルを訪れ、スザンナという20歳の売春婦に誘われた。彼は部屋に入り、スザンナの首を絞めて殺害した。翌朝、草地へ遊びに出たベサニーは、地下の納屋に繋がる通風孔から女性の声が聞こえて驚いた。母に呼ばれたベサニーは、怯えた様子で走り去った。バイロンとヤーブローが浴室に放置されたスザンナの遺体を確認して部屋を出ると、レベッカとカールがやって来た。「未成年の売春婦を狙う犯人を追っている」という説明を受けたヤーブローは露骨に面倒そうな様子を見せ、「そっちの上司に話を通す」と告げた。
バイロンはレベッカが囮捜査でオアシス・モーテルにいたことを知り、「16歳の少女がオアシス・モーテルの外から姿を消した。何か情報があれば教えてほしい」と名刺を渡した。ピーターはクローゼットに隠してある鞄から女性の衣服を取り出し、匂いを嗅ぐ。ヒルボロー家の納屋では、トレイシーが目隠しをされて両手を拘束され、監禁されていた。ピーターは水の入ったバケツを持って納屋へ行き、目隠しを取って「スポンジで手と脚を洗うんだ」とトレイシーに命じた。
バイロンとレベッカから連絡を受け、バーで会った。彼は「数年前、ヤク中の売春婦2人が首を絞められ、殴られて殺された事件を担当した。噛まれた痕があり、道路脇に捨てられていた。その後も同様の遺体が見つかり、全部で6人になった」と話し、数日前に同じ手口の遺体が発見されたと告げる。バイロンは「そして昨夜の事件。同じ奴の仕業だが、衝動的だ。奴の狙いは君だった」と言い、レベッカは標的について「数週間前、ネットで知り合って会うことになった。だけど地元警察のガサ入れで台無しになり、今度はオアシス・モーテルで会うはずだったけどポン引きに邪魔された」と説明した。
レベッカはトレイシーの姉のヘザーと会い、失踪した夜の出来事について聞いた。ヘザーはオアシス・モーテルのオーナーのカルヴィンを信用して借金したが、体で払えと要求された。彼女はレベッカに、「妹には手を出すなと言ったのに無駄だった。男たちに囲まれたから、ベサニーには出て行けと言った」と語った。レベッカはカルヴィンに銃を突き付けて脅し、部屋に来るはずだった標的について尋ねた。カルヴィンは男が白人のトラック運転手であること、車体に稲妻が描かれていたことを話した。
カールはレベッカに、現場を離れて転属するよう忠告した。レベッカが耳を貸さないので、彼は協力を拒んで立ち去った。レベッカは犯人と会う約束を取り付け、バイロンに同行してもらってバーへ赴いた。バイロンは別人を容疑者だと誤解し、バーの外まで追い掛けた。その間にピーターがレベッカに接触し、酒に薬を混ぜて飲ませた。彼は眠り込んだレベッカを店から連れ出し、トラックに乗せて拉致した。バイロンはトラック・ストップで警備員をしている学友のフレッドに頼んで、監視カメラの映像を見せてもらう。彼はトレイシーを乗せたトラックを確認し、それがサザン・ハーバー社の車だと知った。
レベッカは首輪を装着され、鎖で繋がれてヒルボロー家の納屋に監禁された。バイロンはサザン・ハーバー社の事務員を説得し、運行記録を見せてもらった。木曜は病休中の代理を主任が務めると聞いた彼は、犯人がピーターだと断定した。レベッカは納屋の下にトレイシーがいると推理して呼び掛け、ヘザーが会いたがっていると話す。トレイシーが反応すると、彼女は「そこから何とか逃げ出して。今夜、貴方は殺され、私がそこに入れられる」と告げた…。

監督はランドール・エメット、脚本はアラン・ホースネイル、製作はランドール・エメット&ジョージ・ファーラ&ティム・サリヴァン&ニック・コスコフ&アレックス・エカート&ルイージョ・ルイス、製作総指揮はショーン・サングハーニ&シーザー・リッチボウ&リディア・ハル&テッド・フォックス&バリー・ブルッカー&スタン・ワートリーブ&ライアン・ブラック&アリアンヌ・フレイザー&デルフィーヌ・ペリエ&ヘンリー・ウィンタースターン&マシュー・ヘルダーマン&ルーク・テイラー&タイラー・グールド&ジョー・リスタウス&アラステア・バーリンガム&ゲイリー・ラスキン&チャド・A・ヴェルディー&アルノー・ラニック&シリル・メグレット&マリリー・“ジジ”・レイェス&ダイアナ・プリンシペ&マーク・スチュワート、共同製作はアラナ・クロウ&エドワード・ベックフォード、撮影はデュエイン・マンウィラー&ブラッドリー・ストーンシファー、美術はマイララ・サンタナ・ポメルス&トラヴィス・ザリウニー、編集はコルビー・パーカーJr.、衣装はアナ・C・ラミレス・ヴェレス、音楽はリアム・ウェストブルック&ロビン・スタウト、音楽監修はマイク・バーンズ。
出演はミーガン・フォックス、ブルース・ウィリス、エミール・ハーシュ、ルーカス・ハース、コルソン・ベイカー、マイケル・ビーチ、ケイトリン・カーマイケル、リディア・ハル、システィーン・スタローン、ウェルカー・ホワイト、オリーヴ・アバークロンビー、ジェイソン・トラウィック、アレック・モノポリー、ジャッキー・クルス、セルジオ・リズット、タイラー・ジョン・オルソン、ニコラス・コスロフ、カタリナ・ヴィテリ、スウェン・テメル、アダム・ポッター、ボビー・チャンス、サミアー・アレクサンダー、ドノヴァン・カーター他。


「トラックストップ・キラー」と呼ばれたアメリカの連続殺人鬼、ロバート・ベンジャミン・ローズをモチーフにした作品。
『エンド・オブ・ウォッチ』や『大脱出』など、数々の映画にプロデューサーとして携わって来たランドール・エメットが監督を務めている。
脚本のアラン・ホースネイルは、これがデビュー作。
レベッカをミーガン・フォックス、カールをブルース・ウィリス、バイロンをエミール・ハーシュ、ピーターをルーカス・ハース、カルヴィンをコルソン・ベイカー、ヤーブローをマイケル・ビーチ、トレイシーをケイトリン・カーマイケル、カレンをリディア・ハルが演じている。

2004年という時代設定にしている意味は全く無い。
モチーフにした事件は1975年から1990年に起きているから、そこに合わせているわけでもないし。
仮にモデルの事件が2004年だっとしても、そこに合わせる必要性は全く無いし。2004年という時代じゃないと成立しない事件かというと、そんなことは全く無いし。
当時の世相や流行と事件を、密接に絡ませているわけでもないし。ずっと見ていたら、どこかで2004年という時代設定の意味が分かるのかと思ったけど、最後まで意味不明のままだった。

バイロンが橋の下の現場を去った後、サラ・ケロッグの遺体にカメラがズームしていく。そこからカットが切り替わると、トレイシーが部屋から出て来る様子が映し出される。
一瞬、「サラが殺されるまでの回想に入ったのか」と誤解してしまい、無駄にややこしい。
その後、レベッカが突入しようとするカールに「2分待って」と頼むシーンがあるが、待たせる意味が分からない。相手から何か聞き出す狙いがあるのかというと、そうじゃないし。
殴られて反撃しているけど、だったらカールの突入を待たせた意味は何だったのかと。

ヤーブローはバイロンに未解決事件に固執するなと告げ、異動まで通告している。
じゃあバイロンが厄介で扱いにくいアウトロー刑事かというと、そうじゃなくてヤーブローは優秀な刑事として評価している。
未解決事件にこだわって他の仕事が疎かになっているならともかく、そんな様子は見られない。その上に優秀だと認めているのに異動まで命じるのは、対応として異常に感じる。
なので「何か隠蔽したいことでもあるのか」と思ったが、特に何も無い。
だったら、ヤーブローの対応は変だよ。

バイロンがケロッグ家へ赴いてジョージアと話すシーンは、完全に時間の無駄。
そこではジョージアが「双子の妹がいた」「母が火事で死んでから父が酒浸りになり、暴れるようになった」「サラは妹に似ていた」「サラは1年前に家を出た」などと喋るが、だから何なのか。
被害者がサラだけで、その事件を深く掘り下げていくなら、そういう情報を厚くするのも分からんではないよ。でも、それ以降、サラという個人を掘り下げる方向に話が転がることは皆無なんだから。
バイロンの誠実さをアピールするため、サラの自宅へ赴いて母親に死を伝えるという行動を描いたのかもしれないが、それは他の行動で簡単に代用できるし。

ピーターがトレイシーをトラックに乗せて運転するシーンでは、ラジオで宗教の説法を流している。バイロンはカレンに、「昔は神の存在を感じたけど、今は分からなくなった」と話す。
その辺りからは、事件と信仰心を関連付けようとする狙いが見える。
だが、それが明確な形に至ることは無い。
それ以降、「神の存在」とか「信仰」をアピールするような台詞や描写は全く出て来ない。中途半端に匂わせただけで、雑に捨て去られている。

ピーターの行動はデタラメで、まるで一貫性が感じられない。
彼はサラを別の場所で殺し、橋の下に遺体を捨てる。トレイシーは拉致して納屋は監禁し、なかなか殺そうとしない。スザンナはモーテルで殺し、浴室に残して去っている。共通項が見当たらず、犯人の動機や目的が見えない。
幾らシリアル・キラーであっても、本人なりの信条や哲学、ルールは持っているんじゃないのか。
逆に何もかも関連性ゼロで支離滅裂な奴なら、それはそれで独特のキャラになった可能性も無くはないよ。
でも、中途半端な共通項はあるし、どうやら1つのルールに基づいて行動している設定のようなので、だったら「結果としては大失敗だよね」ってことになる。

レベッカがマスタング・モーテルで「今夜は来ない」と断定して去るのは、なぜなのかサッパリ分からない。
っていうか、そもそも囮捜査そのものがバカにしか見えないんだよね。
彼女が追い掛けているのは、未成年の売春婦を狙ったシリアル・キラーだ。だけどレベッカは、誰がどう見ても未成年を詐称できる外見ではない。未成年に見えるメイクや恰好をしているわけでもないし。
「標的が部屋に来たら即座に捕まえるから、未成年に見えなくても構わない」ってことなのかもしれないけど、作戦としては無理があるとしか思えんよ。

粗筋では全く触れていないが、カールは妻が弁護士を雇って離婚されそうになっている。
レベッカはカールに、「大学時代に上級生と酒を飲んで酷い目に遭った。警官だった父が上級生と家族を追って失職し、両親は離婚した。私は父と一緒にテコンドーを学んだ」と話す。
バイロンは妻から娘の具合が悪いから早く帰ってほしいと電話で言われ、帰宅すると「妊娠した時、家族を優先すると約束した」と非難される。
そういった私生活に関する設定は、まるで本筋と絡まない。
キャラクターの厚みにも貢献しておらず、ほんの少し時間稼ぎをするだけの台詞に留まっている。

レベッカがピーターに捕まるのは、シンプルに「バカだからヘマをしただけ」にしか見えない。
そんな彼女は納屋の地下にトレイシーがいると知っても何も出来ず、「何とか逃げて」と呼び掛けるだけ。周囲の状況を尋ね、脱出の方法を指南するようなことも無い。だから、トレイシーは1人で必死に頑張るだけだ。
で、トレイシーが「脱出しよう」と決めて行動を開始すると、あっさりと脱出できてしまう。
レベッカはピーターを退治する仕事を担当するが、それも「ピーターがバカだっただけ」にしか見えない。
あと、そうなるとバイロンが肝心なトコで何の役にも立っていないという問題は起きているし。

(観賞日:2023年10月22日)


第42回ゴールデン・ラズベリー賞(2021年)

ノミネート:最低主演女優賞[ミーガン・フォックス]

 

*ポンコツ映画愛護協会