『M:I−2』:2000、アメリカ

ロシア人生物学者ドクター・ネロルヴィッチ博士は、人間の赤血球を30時間で破壊できる殺人ウイルス“キメラ”と解毒剤“ベレロフォン”を開発した。元IMF諜報員のショーン・アンブローズや配下のヒュー・スタンプ達は博士を殺害し、ベレロフォンを奪う。
IMF諜報員のイーサン・ハントは司令官スワンベックに呼び出され、女泥棒ナイアとコンビを組んで、キメラとベレロフォンをアンブローズから奪還するよう命じられる。スペインへ飛んだハントはナイアと接触し、彼女と惹かれ合うようになる。
イーサンはスワンベックから、ナイアがアンブローズの元恋人だと知らされる。そして彼女に任せる仕事は、アンブローズのアジトに潜入して計画を探ることだった。イーサンは恋と任務に悩みつつも、ナイアが警察に逮捕されたという偽情報を流した。
イーサンとナイアは、アンブローズのアジトがあるオートスラリアへ向かった。ナイアはアンブローズのアジトに出向き、イーサンは今回の作戦に携わる仲間と合流した。コンピュータの天才ルーサー・スティッケルと、ヘリコプター操縦士のビリー・ベアードだ。
アンブローズはナイアを連れて、製薬会社“バイオサイト”の社長ジョン・マックロイと会った。マックロイは、研究室でネロルヴィッチ博士にキメラを開発させた人物だ。アンンブローズはウイルス情報の入ったデジタルディスクをマックロイに見せ、取り引きを迫る。
ナイアはイーサンの指示を受け、ディスクを盗み出す。イーサンはナイアからディスクを受け取り、ルーサーにコピーさせた。ナイアはディスクをアンブローズのポケットに戻すが、ミスを犯してしまう。そのため、アンブローズはナイアの裏切りに気付いた。
イーサンはアンブローズがベレロフォンしか入手していないことを知り、バイサイト社にあるキメラを破壊することにした。そうすれば、ベレロフォンは無価値になるからだ。イーサンはバイサイト社に潜入するが、そこにはアンブローズの一味が現れる…。

監督はジョン・ウー、TVシリーズ創作はブルース・ゲラー、原案はロナルド・D・ムーア&ブラノン・ブラガ、脚本はロバート・タウン、製作はトム・クルーズ&ポーラ・ワグナー、製作協力はマイケル・ドーヴェン、製作総指揮はテレンス・チャン&ポール・ヒッチコック、撮影はジェフリー・L・キンボール、編集はクリスチャン・ワグナー&スティーヴン・ケンパー、美術はトム・サンダース、衣装はリジー・ガーディナー、音楽はハンス・ジマー、テーマ音楽はラロ・シフリン。
主演はトム・クルーズ、共演はダグレイ・スコット、サンディー・ニュートン、ヴィング・レイムズ、リチャード・ロクスバーグ、ジョン・ポルソン、ブレンダン・グリーソン、レイド・セルベッジア、ウィリアム・メイポーサー、ドミニク・パーセル、マシュー・ウィルキンソン、ニコラス・ベル、クリスティーナ・ブロジャース、キー・チャン、キム・フレミング、アラン・ラヴェル他。


かつての人気TVシリーズ『スパイ大作戦』をリメイクした1996年の映画『ミッション:インポッシブル』の続編。ビデオタイトルは『M:I−2 ミッション:インポッシブル2』。監督は前作のブライアン・デ・パルマから、ジョン・ウーにバトンタッチしている。
イーサンをトム・クルーズ、アンブローズをダグレイ・スコット、ナイアをサンディ・ニュートン、ルーサーをヴィング・レイムズ、ヒューをリチャード・ロクスバーグ、ビリーをジョン・ポルソン、マックロイをブレンダン・グリーソンが演じている。また、アンクレジットだが、スワンベックをアンソニー・ホプキンスが演じている。

第1作において、我らがイーサン・ハント先生は「俺さえ目立てばいいんだ」というジャイアニズムを発動させた。序盤で仲間を消し去り、後から加わった仲間にも大した役割は与えなかった。「おいしいトコロは、これっぽっちも仲間に渡さない」というわけだ。
2作目になっからといって、イーサン・ハントの考え方は変わらない。「チームプレーなんて要らない、俺だけがカッコ良く活躍すればいいんだ」という信念を貫いている。

前作でイーサンには「変装が得意分野」という設定があったが、そんな設定は前作の内に意味が無くなっている。何しろ、彼は変装だけでなく、他の分野においてもスーパーマン的な活躍を見せたからだ。ようするに、何でも得意な男なのだ。
イーサンの得意分野は、諜報活動だけに留まらない。女を口説くのも得意だ。ダンディーな態度でナイアに接近し、余裕の態度でカーチェイス。あっという間にナイアと恋に落ちたイーサンは、すぐセックスに持ち込む。
IMFというより、まるでMI6の某人物だ。

前作でマルチに活躍したイーサンが、「今回は変装以外の分野は他人に任せる」なんて殊勝なことをする意味は無い。
だから、「1人で出来るもん」な男であるイーサンは、今回も仲間の存在を無価値にしてしまうような活躍を、あらゆる分野において披露する。
さすがは我らがジェームズ・ボンド。
いや違った、イーサン・ハントだった。

序盤のロッククライミングや終盤の格闘シーンにおいて、トム・クルーズはスタントを使わずに自らの肉体で演技している。それは凄いことなのだが、それは事実を知らなければ「スタントマンかCGだろう」と思ってしまうことも確かだ。そう考えると、せっかく頑張ったトム・クルーズも、ある意味では骨折り損のくたびれ儲けってことになる。

序盤、イーサンがロッククライミングをしている場面がある。これは任務の中での行動でも何でもなく、単なる休暇中の遊び。イーサンの肉体的な強さをアピールする意味はあるが、彼の特技は変装のはずだから、本来ならばアピールのポイントを間違えている。だが、前述したように、もはや彼の特技は全包囲に渡っている。
ロッククライミングで頂上に登ったイーサンの近くに、ヘリコプターからロケット型の筒が撃ち込まれる。入っていたサングラスを掛けると、今回の指令が出される。で、こんな凝った(凝りすぎた)方法で指令を聞いた後、イーサンはスペインでスワンベックに会って説明を受ける。
だったら、あのサングラスは何の意味も無いんじゃないのか。

スパイとスパイの対決だが、ここに知能ゲームは無い。
何しろ、みんなバカばっかりなのだ。
IMFは、イーサンの替え玉諜報員としてアンブローズが存在するという妙な組織だ。諜報員の替え玉って、どういうシステムなんだ。それ、どういう意味があるんだろ。
そのIMFは女性諜報員を使わず、民間人のナイアに危険な仕事を任せる。ナイアがイーサンに惚れたから協力したものの、普通なら断られるだろう。場合によっては敵に情報を流すかもしれない。そこに部外者を起用する意味が分からない。

ナイアは腕の立つ泥棒という設定だが、盗んだディスクを逆のポケットに戻すというドジをやらかす。まあ、そもそも泥棒とスリってのは似て非なるものなのだが。
さらにナイアは、敵の一味が見張っているのにイーサンと顔を見合わせるというバカな行為に出る。
アンブローズは膨大な情報の中から、簡単にナイア逮捕の情報をキャッチする。GPSや無線機は、都合良く(もしくは都合悪く)使えたり使えなかったりする。ナイアに死が迫っているのに、イーサンは武器を使わず、素手による戦いにこだわる。

イーサンもアンブローズも変装が得意なはずなのに、それを生かして薬品会社に潜入することは無い。アンブローズはイーサンが製薬会社に潜入するのを察知していながら、先回りして対策を取ることは無い。イーサンは、あえて難しい方法で侵入する。
アンブローズは仲間と共に製薬会社に出向き、正面から暴力によって突入する。さらには、最初からナイアを使ってイーサンを脅せばいいのに、なぜか激しい銃撃をやってからナイアの姿を見せる。元スパイなのに、とにかくコソコソするのは嫌いらしい。

イーサンは、あれだけの超人なのだからナイアを連れて製薬会社から脱出できそうに思えるのだが、それはムリらしい。で、彼は1人だけでパラシュートを使って脱出する。ナイアなんて体重が軽そうだし、彼女1人ぐらいは抱えて逃げても大丈夫そうだが。
イーサンもアンブローズと同じで、綿密な計画を進めていくのではなく、とにかく派手に暴れることを重視する。前述したように、「俺がカッコ良く活躍する」ことが何よりも大切だからだ。地味な作戦をチマチマと進めるより、爆発やアクションの方が活躍が目立つのだ。

この映画は、まずアクションシーンが設定され、それを繋ぎ合わせる形でシナリオが作られている。終盤、唐突にバイクに乗った男が出現したり、なぜかアンブローズがイーサンをバイクで追ったりする展開などは、あからさま過ぎて笑ってしまう。
ジョン・ウー監督は、この映画をセルフ・パロディーとして捉えている。スローを多用し、二丁拳銃を使い、アクションシーンでハトが飛ぶ。
というか、基本的に彼がハリウッドに渡って以降の作品は、全てセルフ・パロディーだと言っても過言では無いが。

トム・クルーズもジョン・ウーも、あえて前作とは統一感の無い映画を目指したようだ。
なるほど、だからスパイ映画ではなくアクション映画になっているのだろう。
しかし、だったら『ミッション・インポッシブル』シリーズではなく、別の独立した映画として作れよ。


第21回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低リメイク・続編賞

 

*ポンコツ映画愛護協会