『マックス・ペイン』:2008、カナダ&アメリカ
ニューヨーク市警察のコールド・ケース(未解決事件)ユニットの刑事マックス・ペインは、3年前に妻ミッシェルと幼い娘が殺された 事件の捜査を続けている。犯人の1人が逃亡したまま、捕まっていないのだ。彼は地下鉄の構内へ行き、盗まれた腕時計をエサにして、 泥棒のダグと仲間2人をトイレに誘い込んだ。マックスはダグを脅して妻の写真を見せ、「この女を知ってるか。お前は半年前、ビル・ プレストンと一緒に捕まった。この女性のことを聞かなかったか」と質問した。
ダグは怯えながら、「翼は奴を持ち上げられなかった」と口にした。マックスが「ビルは銃で撃ち殺された。何の話をしてる?」と訊くと 、ダグは「翼は金色だ。羽根は黒い」と言う。一方、線路を逃げていた仲間の男は、翼の生えた悪魔に襲われ、地下鉄にひかれて死んだ。 マックスは情報屋トレヴァーのいるクラブへ赴いた。彼はトラヴァーから、ビルの仲間を見つけろという情報を得ていたのだ。トレヴァー はクラブでパーティーを開いていた。マックスが「ビルの仲間は翼のことを話しただけだ。新しい手掛かりが必要だ」と言うと、「もう 無いよ」と彼は告げる。そこへナターシャという美女が近付き、マックスに声を掛けた。その右腕には翼のタトゥーがあった。
ロシアン・マフィアのモナが手下と共に現れ、妹であるナターシャを連れ出そうとした。ナターシャが嫌がっているのを見たマックスが モナに警察バッジを見せて「落ち着けよ」と制すると、彼女は立ち去った。マックスはナターシャから情報を得ようと考え、後を追う。 行く先にいた屈強な男ルピノの腕にも、やはり翼のタトゥーがあった。マックスは彼と睨み合いになるが、そこへナターシャが来て外に 連れ出した。クラブでドラッグをやっていた女は、翼の生えた悪魔に怯えた。
マックスがナターシャを自分の住まいにに連れて行くと、彼女はベッドで誘惑してきた。何も情報が得られそうにないので、マックスは 苛立って彼女を追い出した。ナターシャはオーウェン・グリーンという男に電話を掛け、「ルピノはどこ?あれが欲しいの」と告げた。 雪の降る中を歩くナターシャの姿を、ルピノが密かに観察していた。ナターシャは翼の生えた悪魔に追われ、悲鳴を上げた。
翌朝、マックスは殺人課時代の相棒アレックスから、ナターシャが殺されたこと、自分に容疑が疑惑が掛けられていることを知らされる。 ナターシャがマックスの財布を盗み取っていたからだ。オフィスに戻って独自の調査を行ったアレックスは、ナターシャ殺しと3年前の 事件に関係があると気付き、マックスに電話を入れる。しかし留守電だったため、アレックスはメッセージを残した。一方、モナは警官 から、ナターシャ殺しに関する情報を手に入れた。
オフィスに戻ったマックスが留守電のメッセージを聞くと、アレックスは「お前のアパートに向かっている」と語っていた。マックスが アパートへ戻ると、アレックスの死体が転がっていた。マックスも何者かに襲われ、相手が分からないまま発砲して意識を失った。彼が目 を覚ますと病院で、警官だった父ビルの元同僚BB・ヘンズリーが傍らにいた。マックスがアレックスの通夜に行こうとするので、BBは 新しいシャツを貸すため、警備責任者として勤務しているエーシル製薬へ連れて行くことにした。
マックスがエーシル製薬へ行くと、気付いた社長のニコール・ホーンが声を掛けて来た。かつてミッシェルはエーシル製薬に勤務しており 、ホーンはマックスを心配している様子を見せた。BBが部屋でシャツを探していると、部下のジョーがやって来てマックスに挨拶した。 マックスはBBと共にアレックスの通夜へ赴くが、彼の妻クリスタに平手打ちを浴びせられ、「出て行って」と追い払われた。
マックスは内務調査部ジム・ブラヴーラに呼び出され、ナターシャの事件について尋問を受けた。マックスは殺人課へ行き、アレックスの オフィスを勝手に調べる。彼はファイルを盗み、ナターシャの写真に「ナターシャとミッシェルに同じタトゥー」というメモがあるのを 発見した。マックスはモナにナターシャ殺しの犯人と決め付けられ、銃を向けられる。暴行を受けたマックスは「俺じゃない。ナターシャ が最後に電話したオーウェン・グリーンを俺に捜させてくれ」と説得した。
マックスはモナと共に、オーウェンのいるアパートへ向かった。モナによると、オーウェンはナターシャの知り合いのジャンキーらしい。 部屋に入るとオーウェンは錯乱しており、翼の生えた悪魔を見て怯えた。彼は「彼女は奴らが翼に乗せて連れて行った」と告げて、窓から 転落死した。その腕にも翼のタトゥーがあった。マックスはモナと共にタトゥー・ショップへ行き、翼のタトゥーの意味を尋ねた。すると 店長は「古代スカンジナビアのヴァルキリーだ。ヴァイキングは身を守るために彫っていた。ヴァルキリーは高潔な死人を捜しながら戦場 の空を飛ぶ。最初の血を流した者に報酬を与える。兵士たちの天使だ。安らかに死ぬ者は地獄に落ちる」と説明した。
モナは黒人ギャングのリンカーンの元へ行き、妹の事件について尋ねる。リンカーンは「彼女が最後じゃない」と述べた。モナが「あの翼 の意味は?」と訊くと、彼は「悪魔が兵隊を集めてる。アンタの探しているのはルピノだ。ラグナロクと呼ばれるイースト・サイドの古い クラブにいる」と答える。モナがマックスのことを尋ねると、「彼は3年間、ずっと神が隠しておきたい何かを探してる。奴には近付くな 。最後の審判の日、一緒にいたくないだろ」とリンカーンは警告した。
マックスは貸倉庫へ行き、ミッシェルの荷物を調べる。エーシル製薬のファイルを見た彼は、会社のマークがヴァルキリーだと気付いた。 彼はBBに会い、「会社はミッシェルに何を望んでた?上司はまだ勤めてるのか」と質問してジェイソン・コルヴィンの名前を聞き出した 。マックスが去った後、BBはジムに「マックスのことで緊急に話がしたい」と電話を入れた。BBは3年前の事件について語り、「彼は 会社の誰かに責任があると思っている。助けてやってくれ。事態が悪化するのを避けたい」と告げた。 ジェイソンは会社の外でホーンと会い、封筒を見せた。そこには会社のファイルが入っており、ルピノ軍曹の写真が挟まれている。彼が 「お知らせするべきだと思って」と言うと、ホーンは「処理しなさい」と指示した。ジェイソンがオフィスに戻ると、マックスが待って いた。ジェイソンはミッシェルの仕事について質問されても、「かなり昔のことですから」とシラを切った。しかしマックスが殴って脅し を掛けると、兵士を攻撃的にする軍事的オペレーションに関わっていたことを白状した。
秘書のジャッキーはジェイソンが殴られる音を聞いて中に入ろうとするが、ドアには鍵が掛かっていた。ジャッキーから電話連絡を受けて 「セキュリティーを呼びましょうか」と相談されたBBは、「私が呼ぶ」と告げた。ジェイソンはマックスに、被験者の兵士の中で強化 されたのは1パーセントに過ぎず、大半は悪魔の幻覚を見るようになったことを明かす。制御不可能になった上に中毒性があったため、 研究は中止となった。被験者の一部は、薬を持ち帰った。会社は過剰摂取で死ぬだろうと想定したのだ。
BBの通報により、警察の特殊部隊がビルにやって来た。ジャッキーはドアの外から、ジェイソンに「セキュリティーが来ます」と教えた 。マックスの「ミッシェルに何が起きた?」という追及を受けたジェイソンは、「何をやっているのか彼女は知らなかった。ここから 出してくれたら全て話す。彼女は薬のために殺された」と焦った様子で言う。彼は「そこの封筒に全てが入っている。頼む、私を助けて くれ」と懇願した。マックスが「誰から?」と訊くと、彼は「君の妻を殺した男から」と答えた。
マックスがジェイソンに銃を突き付けて部屋を出ると、特殊部隊が駆け付けた。特殊部隊は何も言わず、いきなりジェイソンを射殺した。 マックスも撃ち殺されそうになったため、慌てて反撃した。激しい銃撃の中、マックスは何とか封筒を持ってビルから脱出した。彼が倉庫 でエーシル製薬が作った新薬「ヴァルキリー」のPR映像を見ていると、そこへモナがやって来た。新薬の被験者の1人がルピノだった。 マックスはルピノがミッシェルとナターシャを殺したと確信した。モナは彼に、ルピノがラグナロクにいることを教えた。マックスは復讐 を果たすため、ショットガンを手に取ってラグナロクへ乗り込んだ…。監督はジョン・ムーア、脚本はボー・ソーン、製作はジュリー・ヨーン&スコット・フェイ&ジョン・ムーア、製作総指揮はリック・ ヨーン&カレン・ローダー&トム・カーノウスキー、撮影はジョナサン・セラ、編集はダン・ジマーマン、美術はダニエル・T・ドランス 、衣装はジョージ・L・リトル、音楽はマルコ・ベルトラミ&バック・サンダース。
出演はマーク・ウォールバーグ、ミラ・クニス、ボー・ブリッジス、クリス・“リュダクリス”・ブリッジス、オルガ・キュリレンコ、 クリス・オドネル、ドナル・ローグ、アマウリー・ノラスコ、ケイト・バートン、 ラザフォード・グレイ、ジョエル・ゴードン、ジェイミー・ヘクター、アンドリュー・フリードマン、マリアンティ・エヴァンス、 ネリー・ファータド、ジェイ・ハンター、マックスウェル・マッケイブ=ロコス、カー・ヒューイット、スティーヴン・ハート他。
2001年にアメリカで発売された同名の3Dアクション・シューティングゲームを基にした作品。
監督は『フライト・オブ・フェニックス』『オーメン』のジョン・ムーア。
マックスをマーク・ウォールバーグ、モナをミラ・クニス、BBをボー・ブリッジス、ジムをクリス・ “リュダクリス”・ブリッジス、ナターシャをオルガ・キュリレンコ、ジェイソンをクリス・オドネル、アレックスをドナル・ローグ、 ルピノをアマウリー・ノラスコ、ホーンをケイト・バートンが演じている。この映画は序盤から、「かなり慌ただしい」「かなりモタモタしている」という、矛盾した2つの欠陥を抱えている。
どういうことなのかというと、まず慌ただしさの方は、説明が不充分なまま、どんどん話を先に進めようとしているってことだ。
まず最初に、マックスの妻子が殺害された事件のことを丁寧に描写し、その時にマックスが受けた悲しみや怒りの感情を観客にアピール しておかないと、復讐劇に気持ちが乗っていきにくい。
その事件に関して、観客が与えてもらえる情報も少ない。また、登場する連中の情報も少ない。
先にマックスを取り巻く状況を説明し、主なキャラクターを登場させて軽いキャラ紹介を済ませて、それから話を本格的に転がしていくと いう構成にした方が良かった。
話を進めながらキャラを次々に盛り込んでいるのだが、だから登場した段階では、アレックスにしろBBにしろ、何者なのかが良く 分からない。まだ話が先へ進んでいない状況なら、それでもいいんだけど、もう話が進んでいる中だと、そこで気持ち的につっかえて しまう。物語に集中できなくなってしまう。
例えば、ミッシェルが製薬会社勤務だとか、BBが昔は刑事で今はミッシェルの会社の警備責任者だとか、そういうのって、先に提示して おいた方がスムーズだ。
マックスがクリスタにビンタされるのだって、かつて「お前は不充分だ」とマックスがアレックスをなじったからであり、だからこそ アレックスはマックスのために事件を独自に調べていたわけだが、それも全く描写されておらず、クリスタがセリフで「貴方が夫に不充分 だと言ったからよ」と口にしたことで、そういう過去があったことが初めて分かる。
だから、そこでのビンタや冷たい対応が、ピンと来ないのだ。一方の「モタモタしている」というのは、テンポが悪いのだ。
説明が不充分なまま物語を進めているくせに、テンポが悪い。
それも実は、説明が下手だというのが大きく影響しているように思える。
先に必要な情報を提示しておかずに話を進めようとするから、手順が悪いから、結局は話をスムーズに進行すべきトコロで情報を中途半端 に盛り込む必要に迫られてしまい、その結果としてモタついた印象になっているのではないか。マックスはアレックスのオフィスで「ナターシャとミッシェルに同じタトゥー」というメモを見つけるが、彼はナターシャと会った時点で タトゥーに気付いていたし、ミッシェルは自分の妻だし死体も見ているから、そんなことは分かっているはず。
そこで初めて「2人に同じタトゥーがあった」というのを知ったような素振りは変だぞ。ナターシャのタトゥーを見た時点で、ミッシェル と同じだと気付いたはずでしょ。
あと、エーシル製薬のファイルを見た時に、そのマークがヴァルキリーだと気付くのも遅すぎるでしょ。
っていうか、今さら妻の荷物を調べに行くというのも遅すぎるし。今まで何をやっていたのかと。序盤から、地下鉄に逃げ込んだ奴やクラブの女、ナターシャたちが、巨大な鳥の影(その時点では、それが悪魔を表現していることは 分からなかった)に怯えるというシーンが用意されている。オーウェンが黒い巨大な鳥に捕まれて転落するシーンなんて、主観的な映像 じゃないから、実際に鳥(っていうか悪魔)がいるようなミスリードをやっている。
それって、かなり反則っぽいと思うなあ。
っていうか、そのやり方がどうであれ、翼の生えた悪魔が犯罪に関与しているようなオカルト的な描写って、邪魔なんじゃないかと感じる 。これでホントにオカルト的な力が作用しているなら、別にいいんだけど、そうじゃない。実際は、序盤のジャンキー娘の場面で感じた 「単なるジャンキーの幻覚なんじゃねえの」という確信に近い疑念が、そのまま正解なんだよね。
で、それが正解となると、ネタバラしがあった時に、それを肩透かしだと感じてしまうのよ。それに、演出の方向性としては、そんなオカルト的なネタをイースト菌代わりに使って作品を膨らませようとするよりも、アクションの 部分に重点を置くべきなんじゃないの。
だって、シューティング・ゲームの映画化なんだからさ。
復讐劇だから「アクションの爽快感」というのは難しいだろうけど、もっと銃を撃ちまくるシーンを多くして、派手でケレン味たっぷりの アクション映画に仕上げるべきじゃないの。
この映画に必要なのって、おどろおどろしさよりも、銃弾の嵐じゃなかったと。
幻覚の表現ばかりに力が入っているようで、アクションシーンの映像もケレン味が全く無いし。映画が半分ぐらい過ぎてから、BBがジムに「マックスに何が起きたのか」を説明するという形で、ようやくミッシェルが殺された事件の 様子が描かれる。
どんだけタイミングが悪いのかと。そこまで話を進めてから描く意味が、どこにあるのかと。そこをミステリーにして引っ張っても効果 なんて何も無いのに、なぜ出し惜しみしていたのかと。
どう考えたって、最初に描くべき場面でしょ。
マックスが妻子を殺して逃げた犯人を追い掛けているってことは、そこまでの幾つかの台詞によって分かっているわけで。そうなると、 もはや「大体の経緯は分かっている」という状態になっている。BBが説明する中に、意外な事実が含まれているわけではない。まあ、 そんな感じだろうな」という想定内の情報しか無い。
そこまで引っ張っても、マイナスしかないぞ。
しかも、強盗事件そのものが描かれるだけで、その前後については全く描写されないし。
その程度のシーンを、なぜ無駄に出し惜しみしたのか理解に苦しむ。マックスが悪の親玉であるホーンを始末していないどころか、そもそも彼女の存在にすら辿り着いていないというのも、すげえスッキリ しない。
この内容だと、そこだけ残しても続編を作るのは無理だろうし。
っていうか、続編を作るためにホーンに辿り着かないまま終わらせたとしても、それはアウトでしょ。
続編を狙うにしても、また別の事件でも用意すればいい。あるいは、「ホーンを始末して復讐は終わったかに見えたが、あの事件の裏には 別の巨悪が関与していた」ということにでもすればいい。
っていうか、そもそも続編を作ろうと思っていたとすれば、その時点で間違いだよな。後半、エーシル製薬のビルとラグナロクでのアクションシーンがあるが、まずビルでのマックスは基本的に逃げ出すことを考えているし、 武器は1丁の拳銃なので、あまり派手に撃ちまくるわけではない。
ラグナロクに乗り込む際はショットガンを使うが、それしか武器が無いから、やはり物足りないし、すぐにルピノとの肉弾戦になって しまう。しかも、そこでケンカ・アクションをやるのかと思ったら、すぐにBBが来てルピノを射殺してしまう。
完全ネタバレだが、実はミッシェルを始末したのはBBだ。で、そのBBが最後の敵になるわけだが、ちっとも強くないオッサンが最後の 標的って、そんなの誰が得をするのかと。
しかもBBは、これから始末しようとしているマックスを失神させている間に射殺できたのに、意識を取り戻させてから、訊かれても いないのに、自分が犯人であったことや目的を全てベラベラと喋る。
すげえ陳腐。終盤には、凍死しそうになったマックスが生き延びるためにドラッグを飲んでバーサーカー化するという展開があるが、強くなったところ で倒す相手はBBとジョーと名も無き数名のセキュリティーだけだから、あまり意味が無い。
そこはルピノと対決させるべきでしょ。
っていうか、すぐに副作用で弱体化しちゃうから、ドラッグで強くなっている時間は短いし、それも物足りない。
結局、見せ場になるようなアクションシーンが全く出て来ないまま、映画は終わってしまう。(観賞日:2012年2月28日)
第29回ゴールデン・ラズベリー賞
ノミネート:最低主演男優賞[マーク・ウォールバーグ]
<*『ハプニング』『マックス・ペイン』の2作でのノミネート>