『マトリックス リローデッド』:2003、アメリカ
元凄腕ハッカーのネオは救世主として覚醒し、人類をコンピューターの支配から解放するための戦いを続けていた。だが、彼は愛するトリニティーがエージェントに倒される夢を見て、それが現実になるのではないかと不安を抱く。モーフィアスが船長を務めるネブカデネザル号には、ドーザーに頼まれた志願者リンクがタンクに代わる新しいオペレーターとして乗り込んでいる。
人類最後の都市ザイオンの位置が敵に特定され、マシン軍のセンティネルが72時間後に襲撃してくることが判明した。ナイオビやソーレンなど船長達が集まり、会議を開く。船長達はロック司令官の指示に従ってザイオンへ戻ろうとするが、モーフィアスの意見は違っていた。彼はザイオンで充電し、6時間後には戻るという考えを述べた。そして彼は仲間達に、一隻だけ船を残すよう求めた。自分が不在の内に、預言者オラクルが接触してくるかもしれないと考えたからだ。バラード船長が、その役目を引き受けることになった。
ネオは改造されたエージェントを倒した後、ネブカデネザル号でザイオンに入った。ミフネ船長の案内でロックに会ったモーフィアスは、ザイオンを救う手立てはネオだけだと告げた。しかし命令に背いたモーフィアスに怒ったロックは、評議会に解任を進言すると告げた。そこにハーマン評議委員が現れ、人々にセンティネルの接近についてどこまで話すべきかと相談を持ち掛けた。モーフィアスは、全て話すべきだと答えた。彼は集会で人々に事実を全て話し、「恐れるな」と訴えた。
ネオはバラードからオラクルのメッセージを受け取り、ザイオンを離れることにした。エージェント・スミスは自分自身をバラードの船の乗組員ザインにコピーし、ネオを殺そうとするが未遂に終わった。ネオはセラフという男の案内で、オラクルと面会した。オラクルがマシンにコントロールされたシステムの一部ではないかというネオの推理に、彼女は正解だと答えた。
オラクルはネオに、ザイオンを救うためにはソースへ行く必要があり、そのためにはキーメイカーの助けが必要だと告げた。オラクルが去った後、スミスがネオの前に現れた。スミスはルールによって削除されることを拒否し、システムから離れて自由の身となっていた。スミスは無数のコピーと共に攻撃を仕掛けるが、ネオは飛んで脱出した。一方、ザイオン評議会では連絡の無いネブカデネザル号の救出に向かう船長を募り、ナイオビとソーレンが手を挙げた。
ネオ、モーフィアス、トリニティーはキーメイカーに会うため、彼を捕らえているメロヴィンジアンの元へ行く。しかしメロヴィンジアンは「理由も分からず指示に従っているだけだ」とネオ達を批評し、キーメイカーとの接触要請を断った。しかしメロヴィンジアンの妻パーセフォニーが、ネオのキスと引き換えにキーメイカーの元へ案内した。
ネオ達はメロヴィンジアンに見つかり、彼の部下と戦いになる。ネオは戦いを引き受け、モーフィアスとトリニティーはキーメイカーを連れて車で逃亡を図る。メロヴィンジアンの部下ツインズ、さらにはスミスが追い掛けて来るが、モーフィアス達はフリーウェイで追跡を逃れた。ネオとモーフィアスはキーメイカーと共に、ソースに通じるドアがあるビルへと向かう。待ち伏せていたスミスの攻撃をかわしたネオは目的のドアを開き、マトリックスの設計者アーキテクトに出会う・・・。監督&脚本はアンディー・ウォシャウスキー&ラリー・ウォシャウスキー、製作はジョエル・シルヴァー、製作総指揮はブルース・バーマン&グラント・ヒル&アンドリュー・メイソン&アンディー・ウォシャウスキー&ラリー・ウォシャウスキー、撮影はビル・ポープ、編集はザック・ステーンバーグ、美術はオーウェン・パターソン、衣装はキム・バレット、視覚効果監修はジョン・ゲイタ、アクション・コレオグラファーはユエン・ウーピン、音楽はドン・デイヴィス。
出演はキアヌ・リーヴス、ローレンス・フィッシュバーン、キャリー=アン・モス、ヒューゴ・ウィーヴィング、マット・マッコーム、ジェイダ・ピンケット=スミス、モニカ・ベルッチ、ランベール・ウィルソン、ハロルド・ペリノーJr.、ハリー・J・レニックス、クレイトン・ワトソン、ダニエル・バーンハード、ヘルムート・バカイティス、グロリア・フォスター、アンソニー・ザーブ、イアン・ブリス、ランダル・ダク・キム、ノーナ・ゲイ、エイドリアン・レイメント、ニール・レイメント、アンソニー・ウォン、コリン・チョウら。
1作目の大ヒットを受けてトリロジーとなった『マトリックス』3部作の2作目。最初から2作目と3作目を続けて製作しており、この作品1本だけでは話が完結していない。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と同じ方式だ。
ネオ役のキアヌ・リーヴス、モーフィアス役のローレンス・フィッシュバーン、トリニティー役のキャリー=アン・モス、エージェント・スミス役のヒューゴ・ウィーヴィング、オラクル役のグロリア・フォスター(これが遺作)は、前作から引き続いての出演。タンク役のマーカス・チョンがギャラが安いということで揉めたため、新しいオペレーターのリンク役でハロルド・ペリノーJr.が出演。
他に、エージェント・トンプソンをマット・マッコーム、ナイオビをジェイダ・ピンケット=スミス、パーセフォニーをモニカ・ベルッチ、メロヴィンジアンをランベール・ウィルソン、ロックをハリー・J・レニックスが演じている。大抵アクション映画ではアクション部分とドラマ部分という分類が出来ると思うが、この映画においては「ドラマ部分」を「語り部分」と置き換えた方が正確だろう。登場人物は静止状態で説明的なセリフを語り、それが終わるとアクションを演じる。その語りは、絶対にアクションと連動しない。それは連動させようとして上手く行かなかったわけではなく、意図的にバラバラにしてある。
どんなにネオがトリニティーのことで苦悩しようとも、どんなに2人が愛し合おうとも、どんなにモーフィアスが熱く人々に訴えようとも、それによってアクションが盛り上がるということは無い。アニメから香港映画から哲学から神話から、様々な要素を映画に取り込んだウォシャウスキー兄弟だが、ジョン・ウー節を取り込もうという気は無かったようだ。いかにもコンピュータ社会を扱った作品らしく、アクション部分と語り部分は規則正しく交互に訪れる。アクションを繰り広げつつ語るといった表現は用いない。テーマは映像やドラマで表現するのでなく、語りによって全て説明してしまおうという潔い割り切りがある。映像は動きを見せるためのものだという考え方が徹底されている。
アクション場面での注目ポイントは、「インフレ現象」と「アニメへのさらなる傾倒」だ。まずインフレ現象についてだが、ネオは完全にスーパーマンと化しており、誰が出てきても、複数で襲っても太刀打ち出来ない。そこでスミスを無限増殖させ、質より量で勝負しようとしている。ただし、それでもワンチャイ・シリーズのジェット・リーの如くポーズを決めて戦うネオには敵わないのだが。「アニメへのさらなる傾倒」という部分についてだが、この映画ではどれだけ激しく戦おうとも、そこには熱さ、痛み、生々しさといった感覚が無い。ワイヤーワークを多用しても汗臭さ、人間臭さを醸しだすことは可能だと思うが、そういったものを出来る限り排除して、絵空事としての動き、非現実感を強調している。「アニメーションにおけるアクションシーンの“動き”だけを抽出して、そのまんま実写化すると、こんな感じです」ということを描写している。
前作では「アクション俳優でない割には頑張ってカンフー・アクションをこなしている」という風に評価したが、2作目になると、そういう弁護も厳しくなる。最初のネオとエージェントとの戦いは普通に格闘をやっているが、かなりノロい動きだと感じてしまう。加速度的にアニメ化を進めたことは、モッサリとした動きを誤魔化す効果はあるだろう。やたらと哲学的だったり難解だったりするセリフが多いが、深く考察する必要は無い。どうせウォシャウスキー兄弟だって、深く考えてそういう要素を持ち込んだわけではない。
アーキテクト役をオファーされたショーン・コネリーが「コンセプトが良く分からない」という理由で断ったらしいが、たぶんウォシャウスキー兄弟も、自分達が何を描いているのか良く分かっていないと思う。この映画は、1作目で話としては完結している。1作目からウォシャウスキー兄弟は哲学や神話など様々な要素を持ち込んでいたが、それは映画という鎧の見た目がカッコ良くなるために表面上に貼り付けているだけだった。深い所までは考えていなかった。ようするに『新世紀エヴァンゲリオン』と同じパターンである。
一応、当初から兄弟は3部作として構想しており、製作会社から「1作目がヒットしたらトリロジーにしてもいいよ」という条件でゴーサインを貰ったらしい。だが、たぶん3部作の構想が最初からあったと言っても、大まかなコトだけを決めていただけで、風呂敷を包む作業、散りばめたネタを収集する作業に関して、それほど細かく考えてはいなかったんだろうと思われる。ところがトリロジーとしての製作が決まったため、ウォシャウスキー兄弟は1作目で放置したままの趣向を解読する作業を、観客から迫られることになった。しかし適当に放り込んだだけなので、そんな作業は無理だった。
そこで彼らがやったことは、さらに鎧の飾りを増やすことだった。
断言してもいいが、彼らは『新世紀エヴァンゲリオン』と同じで明確な答えなど持っていない。答えを知りながらもあえて謎めいた状態にしているのではなく、自分達でも分かっていないのだ。
第24回ゴールデン・ラズベリー賞
ノミネート:最低監督賞[ウォシャウスキー兄弟]
<*『マトリックス レボリューションズ』と2作でのノミネート>
第26回スティンカーズ最悪映画賞
ノミネート:【最悪な総収益1億ドル以上の作品の脚本】部門
ノミネート:【最悪の続編】部門
<*どちらも『マトリックス レボリューションズ』と2作でのノミネート>