『メイド・イン・マンハッタン』:2002、アメリカ

マリッサ・ヴェンチュラは夫と離婚し、ブロンクスの家に小学生の息子タイと母ヴェロニカの3人で暮らしている。タイは1970年代に強い関心を抱き、ニクソンについて勉強している。マリッサは、マンハッタンの5つ星ホテルであるベレスフォードで客室係として働いている。マリッサが担当するスイート・ルームには、手癖の悪いフランス人のガッジ姉妹が泊まっている。
サザビーの理事キャロライン・レインがフォー・シーズンズから移り、お付きのレイチェルと共にパーク・スイートに入った。彼女は横柄な態度でワガママな要求を突き付け、マリッサを困らせる。下院議員クリス・マーシャルも、上院議員選のキャンペーンでやって来た。彼はプレイボーイとして有名で、参謀ジェリーもスキャンダルを心配している。
ホテルではマネージャーが退任し、後任を今のスタッフから選ぶことになった。ベクストラム支配人とバーンズ副支配人は、希望者に願書を提出するよう求めた。メイドが応募してもいいのかというマリッサの同僚ステファニーの質問に対し、支配人は歓迎すると答えた。マリッサはステファニーから、願書を出すよう勧められた。
翌日、マリッサは学校のスピーチ大会で失敗したタイを連れてホテルに出勤した。マリッサはタイを裁縫係に預け、スイートの業務に取り掛かる。彼女は外出するキャロラインから、ブティックで借りたドルチェ&ガッバーナの服を返却しておくよう頼まれた。マリッサがパーク・スイートで清掃に取り掛かろうとすると、一緒に入ってきたステファニーがブティックへ返す服を見て驚きの声を上げた。そのコートには、5千ドルという高額の値札が付いていたからだ。
ステファニーはマリッサに「こんな機会は二度と無い」と告げ、そのコートを着るよう勧めた。そこへマリッサを探していたタイが現れるが、彼はクリスと一緒だった。犬の散歩に出ようとしていたクリスに会ったタイが、同行を求めたからだ。コートを身に着けたマリッサの姿を見たクリスは、一目で心を奪われる。ステファニーはクリスに対し、マリッサを「キャロライン」と紹介した。マリッサはクリスから散歩に誘われ、ステファニーに背中を押されて外出した。
クリスは散歩から戻った後、ホテルの執事ライオネルにキャロラインへ昼食の招待状を届けるよう依頼した。一方、マリッサは支配人から呼び出され、願書の不足部分を埋めるよう告げられる。マリッサは願書など出していなかったが、ステファニーが彼女の名前で勝手に提出していたのだ。支配人も副支配人も、マリッサをマネージャーに昇格させる用意があることを告げた。普通は1年間の研修が必要だが、今回はすぐにでも人材が欲しいため、6週間の見習いを経て昇格させると言う。
クリスは昼食の席でキャロラインと再会するが、彼女が別人だったことに驚く。クリスはライオネルを呼び寄せ、「タイという息子のいる黒髪のキャロラインを探してほしい」と頼んだ。ライオネルは、マリッサがキャロラインに成り済ましたことを察知した。外出したクリスは、偶然にも街を歩くマリッサを発見した。マリッサは別のホテルに移ったのだとクリスに告げ、その場を切り抜けた。
クリスはジェリーから、マドックスの主催する慈善パーティーに出席するよう求められていた。マドックスはパパラッチを雇ってクリスのスキャンダルを広めようとする嫌な男だが、政治家として顔を売るためにはパーティーへの参加も必要だというのだ。クリスはジェリーに、先程の女性「キャロライン」をパーティーに招待すれば自分も参加すると約束した。
ジェリーはライオネルに会い、「キャロライン」へのパーティーの招待状を託した。ライオネルはマリッサに招待状を渡し、本気でマネージャーになりたいのであれば、パーティーに参加してクリスと会い、それっきりにするよう告げた。マリッサは同僚の助けを得てドレスアップを済ませ、パーティー会場へと出掛けていく…。

監督はウェイン・ワン、原案はエドモンド・ダンテス、脚本はケヴィン・ウェイド、製作はエレイン・ゴールドスミス=トーマス&デボラ・シンドラー&ポール・シフ、共同製作はリチャード・バラッタ、製作総指揮はチャールズ・ニューワース&ベニー・メディナ、撮影はカール・ウォルター・リンデンローブ、編集はクレイグ・マッケイ、美術はジェーン・マスキー、衣装はアルバート・ウォルスキー、音楽はアラン・シルヴェストリ。
出演はジェニファー・ロペス、レイフ・ファインズ、ナターシャ・リチャードソン、スタンリー・トゥッチ、タイラー・ガルシア・ポジー、ボブ・ホスキンス、フランセス・コンロイ、クリス・アイグマン、エイミー・セダリス、マリサ・メイトロン、プリシラ・ロペス、マディー・コーマン、シャロン・ウィルキンス、ジェイン・ハウディーシェル、マリリン・トーレス他。


シンデレラの物語をモチーフにして、ジョン・ヒューズが変名のエドモンド・ダンテスで原案を担当し、『スモーク』のウェイン・ワンが監督を務めた作品。
マリッサをジェニファー・ロペス、クリスをレイフ・ファインズ、キャロラインをナターシャ・リチャードソン、ジェリーをスタンリー・トゥッチ、タイをタイラー・ガルシア・ポジー、ライオネルをボブ・ホスキンス、バーンズをフランセス・コンロイ、ベクストラムをクリス・アイグマンが演じている。

マリッサの「移民で、若いシングルマザーで、低所得の労働階級」という設定に、ジェニファー・ロペスはピッタリとハマっている。ホテルの客室係のコスチューム姿も、ものすごく良く似合っている。メイドを演じる他の脇役俳優の中に入っても、全く浮き上がることなく、見事なほどに染まっている。
ただし私がマリッサの上司なら、あの大きなイヤリングは今すぐに外すよう注意するだろう。勤務している内は清掃中に落としてしまう可能性だってあるわけで、アクセサリー関係は外すべきだろう。

マリッサのメイド姿は似合っているが、彼女がドルカバのコートを着て上流階級の人間に成り済ますと、「どちらも似合う」という両立が不可能だということが明らかになる。
見た目がゴツいのだ。
しかし、それでもそこに説得力を持たせることの可能な要素がある。
それは、演じているのがジェニファー・ロペスだということだ。
「あんなゴツい上流階級の女性はいない」と思っても、現実としてジェニファーがそうなのだから、その事実が説得力となる。
まあ地位があって金持ちでも、中身が伴うかどうかは別問題だが。

マリッサの同僚ステファニーは、かなり問題のあるメイドだ。仕事をサボってキャロラインの部屋に入った彼女は、ブティックに返すべき服をマリッサに着るよう勧めるという意味不明な行動を取る。
どうやら彼女は、その時だけおかしくなったわけではなく、普段から無駄口やサボりが目立つチャランポランな性格のようだ。今まで、よくクビにならずに済んだものだ。
ただしステファニーが主導したとはいっても、それを拒否せずにノホホンと他人の服を勝手に着てしまうマリッサも、やはり一流ホテルのメイドとしては失格だろう。
おまけに、それだけでは終わらず、客のキャロラインに成り済まして、これまた客のクリスと散歩へ出掛ける。仕事を放り出して遊びに出掛けるのだから、もはや弁解の余地は無い。

そんなマリッサやステファニーを雇っているだけでなく、マリッサに至っては6週間の見習いでマネージャーに昇格させようとするのだから、支配人や副支配人は節穴ってことだろう。
そんな連中ばかりが働いているのだから、どうやらベレスフォードは5つ星の一流ホテルとされているが、中身は三流のようだ。
キレイなガラスの靴だと思ったら、安物のボロ靴だったってことだな。

前述したようにシンデレラをモチーフにしているが、マリッサはシンデレラと違い、ずっとイジメられている不憫な女ではない(メイドなので客にサービスするのは当然だ)。
ウソをついて仕事をサボったり、さらにウソを積み重ねて上流階級の女に成り済まそうとする女だ。
しかも自分がウソをついていたのに、終盤には逆ギレまでする始末。
そんな女が被害者ヅラしても、同情は出来ない。

マリッサは「私がメイドだから議員とデートする資格は無いのか」と疑問を投げ掛ける。
何を言おうと、彼女には議員とデートする資格が無い。
ただし、それは彼女がメイドだからではない。
彼女が一流のメイドならば、どうぞ大いにデートしてくださって結構だ。
だが彼女は大切な客に対してウソをつき、対等に接しようとするようなメイド失格の人物なので、その資格は無い。


第23回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演女優賞[ジェニファー・ロペス]
<*『イナフ』『メイド・イン・マンハッタン』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会