『ミスター・ガラス』:2019、アメリカ

デヴィッド・ダンは息子のジョセフと一緒に防犯グッズの店を経営しながら、散策活動を続けていた。彼は正体こそ露呈していないものの、防犯カメラの映像などから世間では「監視人」と呼ばれるようになっていた。ジョセフは3件の事件現場を結んだ三角形の中にダンがいた地下鉄があることを指摘し、「この内側に犯人はいない」という仮説を話す。そこから遠く離れた工場地帯に犯人がいるのではないかと彼が話すと、ダンは「明日、調べてみよう」と述べた。ジョセフは警察無線を傍受しており、マークされているので気を付けるよう言う。一方、ケヴィン・ウェンデル・クラムはチアリーダーの女子高生4人組を誘拐し、監禁していた。
翌日、ダンは息子に店を任せ、雨の中で散策に出掛けた。工場地帯を散策しても該当者は見つからず、彼は店に戻ろうと決めてジョセフに連絡を入れた。その直後、ダンは歩き去るケヴィンを目撃し、彼が犯人だと悟った。ダンはジョセフに情報を伝え、女子高生たちが監禁されている廃墟の場所を割り出してもらう。フードで顔を隠して廃墟に侵入したダンは、鎖を外して4人を解放した。そこへビーストが現れ、ダンに襲い掛かる。ダンは4人に逃げるよう指示し、ビーストに戦いを挑んだ。
ビーストが後ろから羽交い絞めにすると、ダンは彼を引きずったまま窓を突き破って飛び降りた。すると精神科医のエリー・ステイプルが武装した部隊を率いて待ち受けており、光を照射されたビーストはバリーに変身した。エリーはダンに対して逃げないよう要求し、「市民の犠牲が出る」と訴えた。部隊はダンとバリーを捕まえ、エリーはレイヴンヒル記念病院へ連行させた。ダンは水が噴射される高圧ノズルを何本も設置した特殊な部屋に監禁され、エリーは「逃げようとすれば作動する」と説明した。
ケヴィンの病室には催眠ライトが設置してあり、危険な人格が現れると光ることで別人格へ強制的に入れ替わるように出来ていた。エリーは誇大妄想を研究していると言い、6日間に渡って治療すると2人に告げた。看護師のピアースは担当の患者に、「あの医者が来た途端、仕切り始めた。2人で上手くやれてたのに」と語り掛けた。ケイシー・クックは校長に呼び出され、ケヴィンが捕まったと里親から連絡があったことを知らされた。
ジェイドは看護師のダリルを騙して脱出しようと企むが、失敗に終わった。ダリルは光を当て、次々にケヴィンの人格を入れ替わらせた。プライス夫人は病院を訪ねてエリーと面会し、「あの子がやったことは褒められたものじゃない。あれだけ大勢を死なせるなんて。でも、そこまでして知りたかったんです。自分の存在意義を」と話す。エリーが「今は鎮静剤を与えています。大量の投与が平和をもたらす」とと語ると、彼女は「本人の理屈としては、あの子のような人間がスーパーヒーローになるの。ここに入院したデヴィッド・ダンのように」と話す。エリーは彼女に、「同じような妄想を持っている人は大勢います。それが私の研究テーマです」と述べた。
プライス夫人はイライジャの病室へ行き、「病院に屈しては駄目よ。誇りは捨てないで」と話し掛ける。しかしイライジャは、何の反応も示さなかった。ダンは食事が運び込まれる時、通路の反対側の病室にケヴィンが収容されていることを知った。エリーはダンにMRI撮影の許可を求め、「15年前の事故で前頭葉を損傷した可能性がある」と言う。パトリシアたちは諦めずに逃亡を狙うが、ライトを照らされて失敗を繰り返した。
ジョセフは病院を訪ね、エリーに父の解放を求めた。しかしエリーは「被害者も怪我をした。当局に任せれば解決できた」と言って却下し、「お母さんを失って、貴方は父親が不死身だと信じるようになった。のめり込まないようにして」と説いた。病院を出たジョセフは、少年時代のことを振り返る。ケイシーは病院へ行き、ケヴィンとの面会を求めた。エリーは「貴方を逃がしたからって善良とは言えません。裁判までは、私の監督下でケアします」と語るが、それでもケイシーは面会を求めた。
ケイシーはエリーが見守る中で、バリーやデニスたちと話した。ケイシーが体に触れると、ケヴィンの人格が現れた。しかし少し話しただけで、すぐにケヴィンの人格は消えた。ケイシーはエリーはから「治療に必要なの」と協力を求められるが、拒否して去った。エリーはイライジャの病室へ行き、高度な頭脳を解明するための治療を3日後に実施すると通告した。その夜、ピアースとタリルは車椅子で廊下に出ているイライジャを見て驚いた。「どうやって外に出たんだ?」とダリルが口にすると、ピアースは「ドアを開けっ放しにしただろ。お前は患者に甘すぎる」と告げる。ダリルは困惑しながら車椅子を病室に戻し、イライジャは無反応のままだった。
次の日、エリーはダンとケヴィンを同じ部屋に集め、「これが最後の診察です」と告げた。そこへイライジャも運ばれて来て、エリーは「貴方たちは超人だと思い込んでいる。それが間違いだという視点に基づいて話します」と告げた。エリーはダンにMRIの画像を見せると、前頭葉の損傷が原因で妄想が生まれたのだと説明する。そして彼女はケヴィンとイライジャにも、医学的な裏付けがある同じ病気だと告げた。エリーはダンが善人と悪人を直感で見分けていると聞き、事実に基づいてビジョンを作り上げているだけだと指摘した。彼女はパトリシアに対し、全ては妄想だとする断定する根拠を語り、ビーストの力は大したことが無いと告げた。
ジョセフはコミックショップを訪れ、ヴィランを主人公とする1冊の本に目を留めた。店に戻った彼はパソコンを使い、ケヴィンの両親について調べた。夜、廊下で物音を耳にしたピアースはイライジャの病室へ行くが、彼が外へ出た形跡は無かった。ピアースは勤務時間を終え、ダリルと交代した。ダリルが警備員と話している間にイライジャは病室を抜け出し、警備室に潜入して情報を探った。彼はケヴィンの病室へ行き、「明日の夜にビーストと会って確かめたい。本物なら、全員を出してやろう」とパトリシアに持ち掛けた。
イライジャは「スーパーパワーは理屈で否定できるが、実在する。科学には限界がある。コミックの世界とは違う」と話し、パトリシアは取引を承諾した。「貴方の名前は?」と質問されたイライジャは、「ミスター・ガラス」と答えた。イライジャが部屋を抜け出す映像が残っていたため、エリーたちは早朝に彼を処置室へ連行した。レーザーを照射されたイライジャは、幼少期に移動遊園地で体験した事故を思い出した。
その夜、ダリルが食事を病室に運ぶと、イライジャは隠し持っていたガラスの破片で彼を殺害した。イライジャは監視カメラを細工してケヴィンの病室へ行き、複数の人格と話す。ケヴィンを部屋から連れ出した彼はビーストと対面し、「コミックでは能力者が世間に存在を認知されるが、それにはデヴィッドが必要だ。全世界の人々の前で、奴と戦え」と話す。彼はオオサカ・タワーがオープンすることを教え、「カメラの前で我々の存在を見せ付けてやろう」と大量殺人を提案した。イライジャは警備室のマイクを使い、ダンに話し掛けた。彼はオオサカ・タワーを爆破する計画を明かし、「我々を止めてみろ。今日がアンタの世界デビューだ。高圧ノズルのスイッチは切っておいた。後は金属のドアだけだ。自分で打ち破らなければ大勢が死ぬぞ」と述べた。イライジャとビーストはピアースを始末し、地下通路を使って脱走を図る。ダンはドアを破壊し、彼らの後を追う…。

脚本&監督はM・ナイト・シャマラン、製作はマーク・ビエンストック&アシュウィン・ラジャン&M・ナイト・シャマラン&ジェイソン・ブラム、製作総指揮はスティーヴン・シュナイダー&ゲイリー・バーバー&ロジャー・バーンバウム&ケヴィン・フレイクス、共同製作はジョン・ラスク、製作協力はドミニク・カタンザリーテ、撮影はマイク・ジオラキス、美術はクリス・トゥルヒーヨ、編集はルーク・チャロッキ&ブル・マーリー、衣装はパコ・デルガド、音楽はウェスト・ディラン・ソードソン、音楽監修はスーザン・ジェイコブズ。
出演はジェームズ・マカヴォイ、ブルース・ウィリス、サミュエル・L・ジャクソン、サラ・ポールソン、アニャ・テイラー=ジョイ、スペンサー・トリート・クラーク、シャーリーン・ウッダード、ルーク・カービー、アダム・デヴィッド・トンプソン、M・ナイト・シャマラン、シャノン・ライアン、ダイアナ・シルヴァーズ、ニーナ・ワイズナー、カイリー・ザイオン、セルジュ・ディデンコ、ラッセル・ポスナー、キンバリー・フェアバンクス、ローズマリー・ハワード、ブライアン・マッケルロイ、オーウェン・ヴィトゥッロ、ウィリアム・ターナー他。


『アンブレイカブル』『スプリット』に続く3部作の第3作。脚本&監督は全てM・ナイト・シャマランが担当。
ケヴィン役のジェームズ・マカヴォイとケイシー役のアニャ・テイラー=ジョイは、『スプリット』からの続投。
デヴィッド役のブルース・ウィリスは、3作全てに出演(ただし前作ではアンクレジット)。
イライジャ役のサミュエル・L・ジャクソン、ジョセフ役のスペンサー・トリート・クラーク、イライジャの母役のシャーリーン・ウッダードは、『アンブレイカブル』に続いての出演。
他に、エリーをサラ・ポールソン、ピアースをルーク・カービー、ダリルをアダム・デヴィッド・トンプソンが演じている。

短く感想を述べるとすれば、「めんどくせえな」という言葉が最初に思い浮かぶ。
ザックリ言うと、『アンブレイカブル』は「スーパーヒーロー誕生篇」であり、『スプリット』は「ヴィラン誕生篇」だった。
そして今回は「スーパーヒーローとヴィランの対決」を描く作品であり、それを通じて「スーパーヒーローは存在するんだよ、君が信じていればね(ハート)」ってことを伝えようとしている。
だけど、それを描くのに、ここまで回りくどくて分かりにくい方法を取る意味は何なのかと。それが「めんどくせえな」と思うわけよ。
自分の考えで変に回りくどいことをやっておいて、そのくせ「スーパーヒーロー物だと分かってね」ってのは、虫が良すぎやしないかね。
「分かる人だけ分かればいい」という芸術家チックな自慰行為の作品ならともかく、そうじゃないんでしょ。

『アンブレイカブル』ではスーパーヒーローのダンに対するヴィランのような立場だったはずのイライジャだが、いつの間にか「影の仕掛け人」のようなキャラになっている。
ケヴィンをヴィランとして登場させたので、彼に仕事を譲ったってことなのか。でも、ヴィランが複数じゃダメってことも無いけどね。
で、じゃあ全ての黒幕なんだから彼は悪玉なのかというと、そうじゃなくて「命懸けでヒーローの存在を世間に知らしめようとする立派な人物」として描かれる。
なかなかの荒業である。

『スプリット』でケヴィンかが多重人格のキャラクターとして登場した時、「そこまで多くの人格を設定している意味が無い」と感じた。
24の人格があるという設定だが、実際に登場するのは8つだけ。しかも、その内の4つはチラッと出て来るだけで、基本的にはデニス&パトリシア&ヘドウィグ&バリーの4つで回していたからだ。
今回は余計に、その印象が強くなっている。
極端なことを言っちゃうと、ケヴィンとビーストの二重人格だけでも事足りるんだよね。

病室でダリルを騙そうとするキャラを粗筋では「ジェイド」と書いたが、これが分かるのは本人が「ジェイド」と名乗るからだ。それが無かったら、こいつがどの人格なのかはサッパリ分からない。
他の人格も同様で、「ノーマ」とか「プリチャード教授」と自己紹介してくれないと、誰が誰なのかを把握するのは至難の業だ。分かるのは、ビースト、ケヴィン、パトリシア、バリー、それぐらいじゃないか。
しかし問題なのは、実はそこではない。
「判別できなくても全く支障が無い」ってことが、本当の問題なのだ。
判別できなくても支障が無いってことは、つまり「そんなに多くの人格は要らない」ってことなのだ。

粗筋で「看護師のピアースは担当の患者に語り掛けた」と書いた箇所があるが、この患者がイライジャだ。しかし、この段階では彼の顔を見せていない。腕だけは見えるし、何となく「たぶんイライジャだろうな」と予想できる人はいるだろう。
で、ここで彼の正体を隠していることによる効果が得られているかというと、答えはノーだ。
翌日のシーンで母親がエリーと話した後にイライジャと面会するシーンがあり、ここで彼の姿が写し出される。
このタイミングで明かしてしまうぐらいなら、ピアースが話し掛けるシーンで見せておいても大して変わらない。中途半端に引っ張る意味が無い。

始まって早々にダンとケヴィンが捕まり、そこからは「エリーが誇大妄想であることを納得させようとする」という時間帯が続く。ずっと病院にダンたちが監禁されたまま話が進むので、それだけでも退屈を招いてしまう。
さらに厄介なのは、「スーパーヒーローやヴィランというのは誇大妄想に過ぎない」というエリーの主張を、どうやら観客にも信じ込ませようとしている節が感じられるってことだ。
もちろん、それはミスリードであって、実際にダンとケヴィンは特殊能力を持っている。そして、そんなことは3部作を最初から見て来た人からすれば、「何を今さら」という事実だ。
なので、今から「誇大妄想」というミスリードを図っても、まるで意味は無い。
そして意味が無いだけでなく、「余計な道草で時間を稼いでいる」としか思えないのだ。そんなトコでダラダラしている暇があったら、さっさと最終決戦へ向けて話を進めろと言いたくなるのだ。

スーパーヒーローとヴィランの対決篇なんだから、アクションシーンに期待するのは何もおかしなことではない。
私は「だってシャマラン監督だから」ってことで最初から期待していなかったけど、そこに期待してもガッカリするだけなので注意が必要だ。シャマラン監督はアクションシーンの演出能力が著しく低いし、そこに対する意識も低いので、そこが見せ場として全く盛り上がらない。
それは序盤に用意されているダンとビーストの格闘シーンから顕著に表れている。
ビーストが強烈な力で締め付けていることも、ダンが耐えて引きずっていることも、ちっとも伝わらない。戦いの高揚感や迫力なんてゼロだ。

そんなことになっている原因は明白で、カメラワークに問題があるからだ。
ビーストが鉄骨の上を移動する時も、極端に寄ったカットで描き、スピードも重厚さも全く伝わらないようになっている。
彼がダンを後ろから羽交い絞めにして振り回そうとするシーンも、なぜか「ダンの正面に取り付けた固定カメラ」みたいな映像になっていて、どう見ていいのか困ってしまう。
テレビ番組でタレントがジェットコースターに乗る時に、その表情を捉えるためにCCD付きヘルメットを被らされたりするでしょ。ザックリ言うと、あんな感じの映像になっちゃってんのよ。

イライジャはビーストにオオサカタワーの爆破を持ち掛け、その計画をダンに知らせて止めに来るよう要求する。イライジャはビーストと共に脱走を図り、ダンもドアを壊して病室から抜け出す。
そこまでの流れがあるんだから、もちろんクライマックスはオオサカタワーでの対決になると誰もが思うんじゃないだろうか。
ところが実際には、病院の前でビーストとダンが対峙して戦いが始まるのだ。
いやいや、だったら「薬品を使ってオオサカタワーを爆破するぞ」という予告は何だったのかと。そこで変な肩透かしを食らわせても、誰も得する奴なんていないだろうに。

対決が終わった後で、「イライジャは最初からタワー爆破など考えておらず、自分たちの存在を世間に知らしめることが狙いだった」ってことが明かされる。
イライジャは自分たちの映像をネットにアップするため、エリーに始末されることを覚悟した上で、大量の監視カメラが設置されている病院で騒ぎを起こしていたのだ。
だけど、それが分かっても肩透かしの印象が払拭されることなんて無いからね。
そして、そこでのマイナスを取り返せるほど、「実は」という種明かしの内容に強烈な力があるわけでもないからね。

(観賞日:2020年11月14日)


第40回ゴールデン・ラズベリー賞(2019年)

ノミネート:最低助演男優賞[ブルース・ウィリス]

 

*ポンコツ映画愛護協会