『野性の呼び声』:2020、アメリカ

ゴールドラッシュの時代、金を狙う何千人もの人々が北へ流れ込んだ。探鉱者たちは過酷な雪道を進むため、強健な筋肉を持つソリ犬を欲しがった。サンタクララ郡でミラー判事に飼われているバックは、地元では怖い物無しの存在だった。彼は自由気ままに暴れ回り、周囲の人々を困らせていた。大事なパーティーを台無しにしたバックは、ミラーから反省のためにポーチで過ごすよう命じられた。犬を売って金を儲けようとしていた男たちは、バックを捕まえるために餌を使った。バックはミラーの言い付けを守らずに敷地を抜け出し、男たちに捕まって木箱に閉じ込められた。
馬車で運ばれた木箱は列車に積み込まれ、赤いセーターの販売業者に引き渡された。バックは赤いセーターの男に襲い掛かろうとするが、棍棒で殴られた。バックは男に服従の態度を見せ、棍棒を持った人間に逆らってはいけないことを学んだ。バックは隙を見て逃亡を図るが、そこはアラスカ州スキャグウェイへ向かう船の上だった。
陸地に着いたバックは、別の販売業者に引き渡された。彼は初めての雪に興奮し、販売業者から逃げ出した。ジョン・ソーントンという男は、妻のサラに家と家財を全て譲渡する書類を作成した。ドーソン行きの船に向かった彼は、バックとぶつかった。バックは彼が落としたハーモニカに気付いた。バックはハーモニカをくわえ、ソーントンに知らせた。ソーントンはハーモニカを受け取り、販売業者にロープで繋がれて連行されるバックには礼を述べた。
ペローという郵送便の男はバックを買い取り、相棒のフランソワーズに見せた。フランソワーズは「2匹が必要なのに」と不満を漏らし、「だけどデカいだろ」とペローが言うと「デカすぎて役に立たない」と告げた。ペローはソリを引くリーダー犬のスピッツと仲間たちを、バックに紹介した。ペローは長い雪道を進み、手紙を配達しながらドーソンまで向かう仕事を犬たちに説明した。彼はバックを繋ぎ、ソリを引かせる。しかし初めての仕事でバックは失敗を重ね、疲労困憊になった。
夜、外で寝るよう命じられたバックは寒さに震え、テントに潜り込もうとする。しかしフランソワーズに追い出され、他の犬たちの真似をして雪を掘った。バックは穴に入り、夜の寒さを凌いだ。スピッツは自己中心的なリーダーだったが、バックは仲間のために餌を譲ったり、水が飲めるように湖の氷を割ったりした。彼は覚えが早く、すぐにソリを引く仕事を覚えた。氷が割れてフランソワーズが川に落下した時、バックは飛び込んで救助した。この一件で、ペローとフランソワーズはバックを強く信頼するようになった。
スピッツはバックに嫉妬し、夜中に襲い掛かった。バックが応戦して返り討ちにすると、敗北したスピッツは姿を消した。翌朝、出発時刻になってもスピッツが見当たらず、ペローは仕方なく他の犬を先頭に繋いで出発しようとする。バックは先頭の位置に座るが、ペローは下がらせてソルレクスという犬を新たなリーダーに据えようとする。しかしソルレクスが嫌がったので、ペローはバックを先頭に繋いだ。すると他の犬たちはバックに従い、ソリを引き始めた。
バックは仲間を先導し、大規模な雪崩を避けずに洞穴へ突っ込んだ。ソリは猛スピードで洞穴を通過し、ペローは初めて予定時間内に町へ郵便を届けることが出来た。町にはソーントンが滞在しており、妻に「目が覚める度に息子のことを思い出す。沈黙に耐えられずに去った。俺は少しの安らぎを感じられる場所を探しているが、見つかる自信は無い」と手紙を綴った。翌朝、寝過ごした彼が慌てて手紙を渡しに行くと、ソリは走り出していた。しかしバックは追い掛けて来るソーントンに気付いて立ち止まり、手紙を受け取った。
ソリは80日間で4000キロを踏破し、最終目的地に到着した。ペローは「郵送便は廃止。犬を売りケベックに戻れ」という電報を受け取り、犬たちを売って町を去った。すぐにハルという男がバックたちを買い取り、姉のマーシーディーズと夫のチャールズの元へ戻った。彼らは金を狙っていたが、探鉱者とは思えないゴージャスな身なりをしていた。ハルは犬をソリに繋いで引くよう命じるが、バックたちは全く動かなかった。ハルは腹を立て、チャールズに棍棒で殴れと命じた。
その様子を見掛けたソーントンは、ハルに「ソリ板が凍っているから動かない」と教えた。雪解けを待たないと危険だとソーントンは忠告するが、ハルは無視して出発した。ぬかるんだ道でソリが滑ると、ハルは鞭で犬たちを殴り付けて進むよう命じた。小屋にいたソーントンは氷が割れる音を聞き、「あのバカどもが」と呟いて外出した。ハルは凍っている川を渡るよう犬たちに指示するが、バックはその場に座り込んで動かなかった。ハルはバックに拳銃を突き付け、姉が止めるのも無視して撃ち殺そうとする。そこへソーントンが駆け付けてハルに猟銃を構え、「川の氷は溶ける寸前だ。この犬はお前を守ってくれたんだ」と怒鳴った。
ソーントンはハルを突き飛ばし、傷付いたバックをソリから外した。ハルは「金のありかを知ってるな」とソーントンを睨み付け、残った犬たちにソリを引くよう命じた。彼がソーントンの忠告を無視して川を進むと、マーシーディーズとチャールズは不安を抱きつつも同行した。バックはソーントンの小屋で2日間も眠り込み、ようやく目を覚ました。ソーントンはバックに「少し出掛ける。残るなり出て行くなり、好きにしろ」と告げ、町へ出掛けた。
バックはソーントンの後を追い、酒場に入った彼を窓から覗き込んだ。ハルが酒場に現れてソーントンを殴り付け、「何もかも失った。犬どもに逃げられ、大金がパアだ。邪魔しやがって」と怒りをぶつけた。バックは酒場に飛び込んでハルに襲い掛かり、客たちがロープを繋いで取り押さえた。ハルが「この犬は狂犬病だ」と処分を要求すると、ソーントンが激しく反発する。エデンショーという男が仲裁に入り、ハルが拳銃を携帯していることを指摘した。店主は憤慨し、「ウチの店に銃を持ち込むな」とハルを追い出した。
小屋に戻ったソーントンがウイスキーを飲もうとすると、バックがグラスを倒して酒瓶を外へ持ち出した。バックは穴を掘って酒瓶を埋め、奪い返そうとするソーントンを妨害した。ソーントンは「息子の誕生日だった。息子が死んで、妻と心が離れた。だから、ここへ来た」と、バックに語った。翌朝、彼はユーコンの地図を広げ、「息子は冒険小説を読んで、誰も行ったことの無い野生の地に憧れた。だから、一緒に行こうと約束した。息子は地図に無い未開の地を目指した。一緒に行ってみるか」と話す。彼はカヌーを出し、バックと旅に出た。銃を持って小屋に突入したハルは地図を発見し、ソーントンの後を追った…。

監督はクリス・サンダース、原作はジャック・ロンドン、脚本はマイケル・グリーン、製作はアーウィン・ストフ&ジェームズ・マンゴールド、製作総指揮はダイアナ・ポコーニー&ライアン・スタッフォード&マイケル・グリーン、撮影はヤヌス・カミンスキー、美術はステファン・デチャント、編集はウィリアム・ホイ&デヴィッド・ヘインズ、衣装はケイト・ハウリー、視覚効果監修はエリック・ナッシュ、音楽はジョン・パウエル。
出演はハリソン・フォード、オマール・シー、ダン・スティーヴンス、カレン・ギラン、ブラッドリー・ウィットフォード、カーラ・ジー、マイケル・ホース、ジーン・ルイーザ・ケリー、コリン・ウッデル、アダム・ファーガス、エイブラハム・ベンルビ、マイカ・フィッツジェラルド、ヘザー・マクファウル、ステファニー・チャイコフスキー、トーマス・アドゥエ・ポーク、レイヴン・スコット、ブラッド・グリーンクイスト、ベンジャミン・ホフマン、アレクサンダー・ショーナウアー、アリア・リリック・リーブ、セイラム・ミード、グレッグ・ターザン・デイヴィス、ジェイミー・ボック、カール・マキネン、アダム・ウィリアム・ザストロウ他。


ジャック・ロンドンの同名小説を基にした作品。
監督は『ヒックとドラゴン』『クルードさんちのはじめての冒険』のクリス・サンダース。
脚本は『ブレードランナー2049』『オリエント急行殺人事件』のマイケル・グリーン。
ソーントンをハリソン・フォード、ペローをオマール・シー、ハルをダン・スティーヴンス、マーシーディーズをカレン・ギラン、ミラーをブラッドリー・ウィットフォード、フランソワーズをカーラ・ジー、エデンショーをマイケル・ホース、ケイトをジーン・ルイーザ・ケリー、チャールズをコリン・ウッデルが演じている。

最近は動物愛護団体からの批判が厳しいこともあって、アメリカでは撮影に本物の動物を使うことが大幅に減っている。この映画も、過酷な環境に晒すシーンが多いこともあってなのか、本物の動物は使わずにフルCGで表現されている。
しかも、俳優のテリー・ノタリーがモーションキャプチャーでパフォーマンスし、その動きをバックにトレースしている。
幾らテリー・ノタリーが犬っぽい動きをしたところで、酷い言い方をすると、所詮はニセモノってことになる。つまり、ニセモノの二段重ねってわけだ。
一応はリアルに寄せているが、誇張している部分も色々とある。
もちろん意図的なんだろうが、そうするメリットが私には分からない。

バックを本物の犬として捉えた場合、違和感を覚える動きは幾つも見られる。ミラー判事の元にいる序盤から、それは感じられる。
あまりにも滑らかに動かし過ぎたせいで、逆に不自然さが見えてしまうという問題も生じている。
ソリ犬になったバックがウサギを追い掛ける夜のシーンでも、やはり同じような現象が起きている。
それと、そのシーンでは直後にバックとスピッツの対決があるのだが、緑色に光るオーロラの背景も含めて、何もかもが虚構の世界になっている。

第三者のナレーションで物語を進行し、状況を説明したりバックの心情を語ったりしている。だが、そのやり方にはマイナスしか感じない。
例えば、バックが寒さに震えていると「バックは人間の世界に育ち、主人の声に従って来た。だが今夜、彼は初めて内なる声を聴いた」というナレーションが入る。
そこはドラマ的に深みのあるシーンのはずだが、ナレーションが入ることによって薄っぺらい印象になってしまう。
ナレーションなんて、無くしても良かったのではないか。場所に関しては、スーパーインポーズで処理すれば済むし。

テントを追い出されたバックが寒さに震えていると、真っ黒で狂暴そうな犬が出現する。だが、その犬がバックに襲い掛かることは無い。
そして前述の「初めて野生の内なる声を聞いた」というナレーションが入り、穴を掘って寒さを凌ぐ。バックがスピッツに襲われて倒れ込んだ時にも、また同じ犬が出現する。だが、今回も襲い掛かることは無い。
そしてバックは立ち上がり、スピッツに反撃して勝利する。
ようするに、その黒い犬は「バックの中にある野生の血が目覚めた」ってのを示すため表現なのだ。
でも、その表現が上手い効果を発揮しているとは全く思わない。「別に無くても良くねえか」と、冷めた気持ちになってしまう。

フルCGだからこそ可能だと感じる映像は、色々と用意されている。例えば、川に落下したフランソワーズをバックが救助する水中シーンなんかは、本物の犬を使っていたら絶対に無理だ。
ただ、バックが本物じゃないことは分かっている。それを誤魔化そうという気も無く、開き直ったかのような映像になっている。なので、本来なら緊迫感溢れるシーンのはずだが、スリリングだとは微塵も感じない。
雪崩の中で洞穴を通り抜けるシーンも、「CGだからって、変に派手なアクションシーンを用意しなくてもいいのに」と言いたくなる。
この物語のテーマって、そういうトコには無いでしょ。見栄えに意識を向けすぎて、大切な芯の部分を失ってないか。
これって、「動物が生き抜くために状況に適応し、野生に戻る」ってのを描きたい作品のはずでしょ。

ハルたちが犬を連れて出発した後、小屋にいたソーントンは氷が割れる音を聞いて出掛ける。そしてハルがバックを射殺しようとすると、ソーントンが現れて阻止する。なんて都合のいいタイミングで見つけ出すのかと。
「金を狙う探鉱者が選ぶルートは決まっているから、ハルの居場所も簡単に割り出せた」ってことなのか。「ハルは素人で進むスピードが遅いから、かなり後になって出発しても追い付いた」ってことなのか。
そうやって強引に解釈することは可能だけど、ご都合主義は隠せていないぞ。
あと、ソーントンはバックを助けたらハルが他の犬を連れて進むのは見送るけど、それでいいのかよ。
彼にとってバックが特別な存在なのは分かるけど、「バックが助かれば他の犬はどうなってもいい」ってな感じに見えて、なんかモヤッとするぞ。

ハルはソーントンを逆恨みして酒場で殴り付け、その後も銃を持って小屋に乗り込む様子が描かれる。
ここで彼が地図を見ているので、後を追って来ることは誰でも容易に想像できるだろう。
なので旅に出たソーントンとバックが未開の地で暮らし始めても、観客は「いずれはハルが来て襲って来る」ってのを感じながら見ることになる。
そういう形のサスペンスを感じさせて終盤を進めるのだが、なんか作品のテーマから外れている気がするぞ。

私は未読だが、どうやら原作だと終盤に入って先住民がソーントンを襲うらしい。それだと唐突さが強いので、「それよりはハルの方が流れが見えている」という部分にメリットを見出したのかもしれない。
ただ、どうせ変えるなら、人間じゃなくて熊か何かに襲われる展開にした方が良かったかもね。
あと、バックは未開の地で暮らし始めるとオオカミと出会い、どんどん野生に順応していくんだよね。それを見たソーントンはバックを残して未開の地を去ろうとしているんだから、そういう結末でも良かったんじゃないかと。
ソーントンを殺さず「別れを告げる」という形にしても、やり方次第では、それはそれで改変として有りだったんじゃないかな。

(観賞日:2023年1月13日)


第41回ゴールデン・ラズベリー賞(2020年)

ノミネート:最低スクリーン・コンボ賞[ハリソン・フォード&完全にニセモノにしか見えないCGIの“犬”]

 

*ポンコツ映画愛護協会