『ミスター・アーサー』:2011、アメリカ
アーサーはバットマンのコスチュームに身を包み、運転手のビターマンにロビンのコスプレをさせる。アーサーは酒浸りの状態で、 ビターマンにバットモービルを運転させ、母の主催するパーティーに向かう。母のヴィヴィアンは、バック・ワールドワイド社という 大企業のCEOを務めている。アーサーは適当にボタンを押して事故を起こし、警察署に連行された。彼は収監されていた他の人々の 保釈金も支払って解放し、警察署に押し寄せたマスコミの前に堂々とした態度で現れた。
アーサーは遊び呆けて金を浪費するという、自堕落な日々を送っている。釈放された夜も仲間たちを邸宅に呼び、金を撒いて乱痴気騒ぎを 繰り広げる。翌朝、アーサーがティファニーという女とベッドで楽しんでいると、乳母のホブソンが入って来た。ホブソンは冷静な態度で 、ヴィヴィアンから「午前中に来るように」との伝言があったことを告げる。ホブソンに付き添われて会社へ赴いたアーサーは、短期間 だけ付き合って捨てたスーザンと遭遇する。ヴィヴィアンの側近であるスーザンは、「お母様がお待ちよ」と告げて去った。
ヴィヴィアンはアーサーに対し、「最後通牒よ。我が社の後継者である貴方がバカな行動ばかり取っていると、投資家の信用が下がる。 スーザンと結婚しなさい」と命令する。アーサーは即座に断ろうとするが、「それが無理なら貴方とは縁を切るわ。9億5千万ドルをフイ にするのね」と言われ、途端に態度を変えて結婚を承諾する。オークションで無駄遣いした後、グラント・セントラル駅に足を向けた アーサーは、ガイドの仕事をしているナオミという女性と出会う。「お酒が飲める場所を知らない?」と問い掛けると、ナオミはアーサー が物乞いだと思い込み、「これしかないの」と硬貨を渡して去った。
アーサーはナオミのことが気になり、ツアーに付いて行ってナオミに話し掛ける。ナオミは無許可のガイドだったため、警官が来て退去を 命じた。ナオミが逃げ出したので、アーサーは後を追った。別の警官も来てナオミが連行されそうになると、アーサーは「あれはツアー客 じゃなくて家族なんだ。僕は彼女の婚約者」と喋り、ナオミにキスをする。アーサーが適当な嘘を並べ立てるので、ナオミは話を合わせた 。警官たちは呆れてしまい、ナオミに「ライセンスを取れ」と告げて立ち去った。
ホブソンがビターマンを伴ってアーサーの元に来て、車に乗るよう促した。ナオミが去ろうとするので、「また会いたいんだけど」と アーサーは言う。ナオミは電話番号を告げて、その場を後にした。アーサーはイベンダー・ホリフィールドにボクシングの相手をして もらいながら、ナオミのことを饒舌に語る。ホブソンはアーサーの飽きっぽさを知っており、今回もすぐに飽きるだろうと指摘する。彼女 は「スーザンの父親のバートに、結婚の許可を貰いに行くわ」と言い、拒むアーサーにパンチを浴びせた。
アーサーは建築中のバート・ジョンソン・タワーへ行き、バートが来るのを待つ。勝手にネイルガンで遊んでいたアーサーは、バートの体 に釘を打ち込んでしまう。バートは「大したことじゃない」と軽く言い、釘を引き抜く。彼は「俺はお前と違い、この手で金を稼いだ。 だが、ウチの娘がお前に嫁入りしても構わない。スーザンならお前を叩き直せる。スーザンの言うことは何でも聞け」と語った。
アーサーはバートから結婚の承諾を貰い、スーザンとの食事に出掛ける。「僕らは結婚すべきじゃないよ。違いすぎるし」とアーサーが 告げると、スーザンは「私を単なるビジネス・パートナーと考えて」と言う。アーサーは無軌道な行動を取り、向こうから結婚を断って もらおうとする。しかしスーザンは全く動じず、「私やお母さんに恥をかかせたら、ただじゃおかないわよ」と凄んだ。スーザンに強制 されたアーサーは、彼女に指輪を渡して求婚した。
アーサーはナオミに会いたくなったが、ホブソンが携帯から電話番号を消去していた。そこで彼はグランド・セントラル駅の前へ行き、 ナオミを連れ出した。アーサーはグランド・セントラル駅を貸し切って、警官の前で適当に喋った2人の初デートを再現する。アーサーは 「今夜、イタリアへ行こう。ジェラートを食べに行こう」と誘うが、ナオミは「せっかく貸し切ったんだから、駅に居ましょう」と言う。 デートの後、ナオミはアーサーを家に連れて行く。アーサーは彼女が作った子供向けの物語を読み、「すごくいいよ」と褒める。
アーサーは婚約発表の写真を撮影している最中、ヴィヴィアンに「もし僕がスーザン以外の女性を好きになったら、どう思う?」と尋ねる 。するとヴィヴィアンは、「どんなにロマンティックな恋でも、貧乏では長続きしないわ」と告げる。夜、アーサーはナオミを自分の豪邸 に誘うが、彼女が来る直前に酔っ払ったスーザンが現れる。アーサーはスーザンを寝室に入れ、ナオミを迎えた。ホブソンがシアター・ ルームへナオミを案内している間に、アーサーはスーザンを寝かせてしまおうとする。
何とかスーザンを拘束したアーサーは寝室を出て、ナオミを送って行く。アーサーはナオミと楽しく話し、キスを交わす。ホブソンから 「ナオミはいい子だけど、貴方に貧乏な暮らしは無理よ」と諭されたアーサーは、「金なんか無くても平気だ。働くよ」と言う。ホブソン は鼻で笑い、「だったら働けば?」と告げる。彼はデパートのお菓子売り場で働き始めるが、レジ係よりもキグルミ役がやりたくて仕方が ない。マトモにレジも打てないだけでなく、トレーニング中に酒を飲んだアーサーは、売り場の主任から「もう帰りなさい。明日までに別 の仕事を考えておく」と告げられる。
翌日、アーサーは商品を勝手に食べた上、キグルミを着て酒を飲みながら接客する。巨大キャンディーを子供に渡して「素早く持って 行けば警備員にも気付かれないよ」と言っていた彼は主任に見つかり、あっさりとクビになった。アーサーはホブソンに「仕事をやるには 、まずシラフにならなきゃ」と言い、グループ・セラピーに連れて行ってもらう。しかし、他の参加者の告白を聞いたアーサーは「駄目だ 、暗すぎる。ちっとも楽しくない」と文句を言い、帰りの車で酒を飲む。
アーサーはヴィヴィアンに電話を掛け、「結婚を辞めさせてほしい」と頼む。するとヴィヴィアンは「別に構わないわよ。ただし、いい 解決方法がある。スーザンと結婚して、貴方の好きな女と浮気すればいい」と語る。アーサーはナオミの家へ行き、「スーザンという女と 婚約してる。君が好きだけど、スーザンと結婚しないと金を失うんだ。それで提案なんだけど、家に秘密のドアを作るのはどうだろう」と 愛人になるよう持ち掛ける。ナオミは腹を立て、「帰って。さよなら」とアーサーを追い払う…。監督はジェイソン・ウィナー、原案はスティーヴ・ゴードン、脚本はピーター・ベイナム、製作はラリー・ブレズナー&ケヴィン・ マコーミック&クリス・ベンダー&マイケル・タドロス、製作総指揮はスコット・クルーフ&J・C・スピンク&ラッセル・ ブランド&ニック・リネン、撮影はユタ・ブリースウィッツ、編集はブレント・ホワイト、美術はサラ・ノウルズ、衣装は ジュリエット・ポルクサ、音楽はセオドア・シャピロ、音楽監修はデイヴ・ジョーダン&ジョジョ・ヴィリャヌエヴァ。
出演はラッセル・ブランド、ヘレン・ミレン、ジェニファー・ガーナー、ニック・ノルティー、グレタ・ガーウィグ、ルイス・ガスマン、 ジェラルディン・ジェームズ、クリスティーナ・カルフ、マーフィ・ガイヤー、ホセ・ラモン・ロザリオ、ジョン・ホッジマン、スコット ・アツィット、イヴェンダー・ホリフィールド、ピーター・ヴァン・ワグナー、ロバート・クロヘシー、エド・ハーブストマン、 ジャレッド・パーカー、トム・トーナー、リチャード・ビーキンズ、マット・マロイ他。
スティーヴ・ゴードンが監督と脚本を務め、ダドリー・ムーアとライザ・ミネリが共演した1981年の同名映画をリメイクした作品。
監督はTVドラマ『モダン・ファミリー』のジェイソン・ウィナー。長編映画を手掛けるのは、これが初めて。
脚本は『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』のピーター・ベイナム。
アーサーをラッセル・ブランド、ホブソンをヘレン・ミレン、スーザン をジェニファー・ガーナー、バートをニック・ノルティー、ナオミをグレタ・ガーウィグ、ビターマンをルイス・ガスマン、ヴィヴィアン をジェラルディン・ジェームズが演じている。冒頭、アーサーはバットマンのコスチュームに身を包み、ロビンのコスプレをさせたビターマンにバットモービルを運転させている。
このオープニング・シーンだけでも、「ああ、ダメな映画っぽいな」と感じさせられる。
何がダメかっていうと、アーサーの精神年齢が低すぎるのだ。
金持ちのドラ息子でも、遊び人でも、それは別にいいと思うのよ。ただ、これだと「金持ちの息子」とか「放蕩息子」とかいう以前に、 ただのアホにしか見えない。仮に金が無かったとしても、それならそれで金を使わずに子供じみた遊びをやるだろうと、そんな風に想像 させてしまう。
それはマズいんじゃないかと。アーサーはバットモービルで「これ、何かな」と言って適当にボタンを押し、ジェット噴射にビビる。
つまり、自分が買った車のボタンがどんな機能なのかも分かっていない。
彼はその格好で母のパーティーに行くのだが、心配するビターマンに「こんな他愛の無いコスプレでトラブルになんかならないよ」と軽く 言っている。
つまり、彼は何も分かっちゃいないのだ。
彼は酒浸りだが、酒が入っているから冷静な判断能力が無くなっているというわけではない。そして、分かった上で、あえて場違いな格好 をしたり、ふざけたりしているわけではなく、それで平気だと思っている。
そういう阿呆のボンボンにしているのは、失敗なんじゃないかと。あと、アーサーの遊び方が下品なんだよな。上流階級のエレガントな振る舞いってのが感じられない。
成金の息子なのかとも思ったが、どうやらバック家は名門らしいから、そうじゃないのね。でも、成金のドラ息子っぽく見えるぞ。
もっとブルジョアのボンボンらしさが見えたら、甘ったれた考えを持った世間知らずでも、何となく好意的に受け止めることが出来る 可能性が高そうな気がするのよ(もちろん、描き方次第では不快な奴になるだろうが)。
ブルジョアっぽさに欠けると、同時に好感度も下がる。
現代のアメリカが舞台だから、本物の貴族である必要性は無いにしても、貴族的な佇まいってのが欲しいんだよな。致命的な欠点は、アーサーが母親から望まぬ結婚を強制されても、まるで同情心が沸かないってことなんだよな。
それは製作サイドも何となく分かっていたのか、「スーザンと父親は会社を乗っ取ろうと企んでいる」という設定を用意している。その 2人を野心に満ちた悪役にすることで、観客にアーサーを応援させようという狙いがあるんだろう。
だけど、その目論見を越えてしまうぐらい、アーサーの好感度が低い。スーザンの恫喝で仕方なく求婚させられても、「ざまあみろ」と 思ってしまうぐらいなのだ。
アーサーの不快感が強くなりすぎちゃってるんだよな。
「アーサーの」と言うか、その半分以上は「ラッセル・ブランドの」と言った方がいいかもしれない。クセが強すぎる彼を起用した時点で 、もうマズかったんじゃないかと。アーサーが自堕落な生活を送っているのに、ホブソンはそれを注意しようとしない。
嫌味っぽい態度は取るものの、乱痴気騒ぎをしても叱責せず、生活態度を改めさせようともせず、クールに対応する。
むしろ、会社に連れて行った時も「すぐに済みますよ。帰ったらアニメを見ましょう」と告げるなど、かなり甘やかしている。
母親のヴィヴィアンも、最後通牒を突き付けるまでは、息子を更生させようとした様子が見えない。
誰か教育係や叱責する担当者がいて、それに反発しているというわけではない。オークションで無駄に金を浪費した後のシーンで、ホブソンが「この程度でお母様に打撃を与えたと思ったら大間違いですよ」と言って いるので、ひょっとするとアーサーの中には「母親への反抗」という意識があるのかもしれない。 しかし、だとしたら、その表現は弱すぎる。
っていうか、そうだとしても、それは彼の好感度には繋がらないし。
「ヴィヴィアンが息子との時間を作らなかった」「アーサーが孤独な暮らしを強いられた」というような、アーサーの反抗に共感・同情 させるような設定は見えて来ないのでね。ものすごくエキセントリックで、いきなり強引にキスまでしちゃうようなアーサーから「また会いたいんだけど」と言われたナオミが、 なぜ電話番号を教えるのか、それがサッパリ分からない。
いや、もちろん設定としては「好意を抱いたから」ってことなんだろうと思うよ。
問題は、「あんな奴のどこに好意を抱いたのか」ってのが理解できないってことよ。
ただのキテレツでヤバそうな男だぞ。しかも、どう見ても軽薄でプレイボーイっぽい奴だし。アーサーがナオミに惚れるのも、「女好きとしての軽薄な感情」にしか見えないんだよな。
彼はナオミについて「僕と相性ピッタリと思うんだ」と言うが、そう思ったのは「警察から逃げたり嘘をついたりして楽しかったから」と いうものであり、何の根拠にもなっていない。
「ナオミは物の見方がユニークなんだ」と言っているが、彼女がツアー客と一緒に床に寝転んで天井の星図を見ているシーンと、警察から 逃げて一緒に嘘をつくシーンと、その程度しか絡みは無い。
その中で、ナオミに「これまでアーサーが付き合ってきた女性たちとの大きな違い」を見出すことが出来ない。
アーサーを(そして観客を)惹き付けるスペシャリティーが感じられない。アーサーが用意したデートをナオミは無邪気に喜んでいるのだが、それもキャラの動かし方として引っ掛かるんだよな。
ナオミはアーサーが金持ちであることを、ホブソンが迎えに来た時に分かっている。だから、駅を貸し切っても、決して無理をしている わけじゃないんだろうとは思っているんだろう。
ただ、それにしたって、その贅沢すぎるデートに対して、決して裕福とは言えない暮らしをしているはずのナオミが喜んで受け入れて いるのは、かなり引っ掛かる。
「幾ら掛かったの?」と戸惑ったり、「大丈夫なの?」と心配したりする態度を取らせた方がいいんじゃないかと。アクロバット・チームが登場して、ようやく戸惑った態度を少し見せるけど、駅が貸し切られている時点で、「初デートを再現している」 ってことじゃなくて「どんだけ金を使ったのか」ということで驚こうよ。
っていうか、その後も普通にデートを楽しんでいるんだけど、それも引っ掛かるんだよなあ。
「せっかく貸し切ったんだから」ということなのかもしれんけど、そういう成金チックで下品なデート(そうなのよ、下品なのよね、その デートって)を喜ぶってのが、ヒロインとして魅力的に思えないんだよな。むしろ、そういう贅沢なデートを遠慮したり、恐縮したり、戸惑ったりしてくれた方が、ナオミを可愛く思えたんじゃないかと。まあ、 そこは個人的な趣味嗜好もあるだろうけどさ。
ただ、会ったばかりで電話番号を教えていることも含めて、「金持ちに対する尻の軽さ」ってのを感じてしまうんだよな。
ナオミは会って二度目のアーサーから強引にデートに誘われたのに楽しんでしまうぐらい受け入れているが、彼女が惚れるような魅力が アーサーに見当たらないので、「金に目が眩んだのか」と思えてしまう。
豪邸に招かれた時も、何の戸惑いも無く、ノリノリで浮かれているしね。
決してナオミに何の魅力も感じられないというわけじゃないんだけど、物語が進むにつれて、野心ギラギラでパワフルなスーザンの方が、 次第に魅力的に思えて来るんだよな、皮肉なことに。後半、アーサーは働こうとするが、あっさりとクビになる。それは「仕事のやり方が分からないからヘマをやらかしてクビになる」という 形ではない。
仕事中に酒を飲んだり、勝手に商品を食べたりするのは、「世間知らずで仕事のやり方を知らないから」という問題ではない。
単に不真面目なだけだ。
「真剣に働こうとするけど失敗してしまう」ということなら同情も出来るけど、仕事に対して真面目に取り組もうという態度が無いので、 ただ不愉快なだけ。
一応は喜劇として描かれているが、まるで笑えない。最終的にアーサーとナオミは結婚するのだが、それがハッピーエンドだと思えない。
というのも、アーサーが心底から変わったようには見えないからだ。
グループ・セラピーに行っているシーンはチラッと写るけど、甘ったれた考えから脱却したようには見えない。貧乏生活をしているとか、 真面目に働いているとか、そういう様子は描かれないしね。
人間的に成長していない甘ちゃんのボンボンが、金と女の両方を手に入れてハッピーになっても、それを祝福したいとは微塵も思えない。
貧乏人の僻みだと思われても構わん。
もうハッキリ言っちゃうけど、この映画、嫌いだね。(観賞日:2013年7月19日)
第32回ゴールデン・ラズベリー賞(2011年)
ノミネート:最低主演男優賞[ラッセル・ブランド]
ノミネート:最低序章&リメイク&盗作&続編賞