『バニラ・スカイ』:2001、アメリカ&スペイン

デヴィッドは「目を開けて」という女の声で起床し、ベッドから立ち上がる。準備を整えた彼は、高級車でマンションを出た。街を走った彼は、誰もいないことに気付いた。車を降りた彼は街を疾走し、空を見上げて絶叫した。そこで彼は目を覚まし、目を開けて」という女の声を耳にした。その声が録音されている時計を止めた彼は、洗面所へ行って髪を整えた。ベッドへ行くと、昨晩に関係を持ったジュリーが微笑を浮かべていた。デヴィッドは「後で電話するよ」と言い、車でマンションを出た。
デヴィッドは街に大勢の人々がいることを確認し、友人で作家のブライアンを途中で拾った。ブライアンは「またジュリーとヤッたな」と見抜き、「君の人生だ、好きにするがいい。その内、真の愛を知るさ」と軽く笑う。デヴィッドが「ジュリーは時々寝る友達だ」と言うと、ブライアンは「ジュリーがセックスフレンド?」と大げさに驚いた。彼からしてみれば、ジュリーはセックスフレンドには勿体無いほどの女性だったからだ。
デヴィッドは3つの雑誌を発行している出版社のオーナーであり、33歳にして大富豪となっていた。役員会に遅刻したデヴィッドは、助手に急かされて会議室へ赴く。7人の役員たちは険しい表情で待ち受けていたが、デヴィッドは軽く挨拶する。そんなデヴィッドは現在、殺人容疑で逮捕されていた。セラミックの仮面で顔を隠した彼は、ある施設で精神科医のマッケイブに尋問されていた。「私の報告書で判事が処分を決定する」と言われたデヴィッドは、「誰も殺してない」と怒鳴った。出版界の大物だったデヴィッドの父親は、母親と共に酔っ払った若者の車にはねられて10年前に死亡した。会社の株の51%はデヴィッド、残る49%は役員たちが引き継いだ。デヴィッドはマッケイブに、役員たちの罠だと訴えた。
デヴィッドは盛大な誕生パーティーを自宅で開き、大勢の友人たちが集まった。ブライアンはソフィアという女性を伴って参加し、図書館で知り合った相手だと紹介する。デヴィッドはブライアンの話に全く耳を傾けず、ソフィアと見つめ合った。長く出版社の弁護士を務めていたトマスは酔っ払った状態でデヴィッドに話し掛け、「別の顧問弁護士にしてくれて感謝してる。役員は君が会社の邪魔になると決め付け、追い出すつもりだ」と告げた。
デヴィッドがプレゼントを寝室へ運ぶと、ジュリーが待ち受けていた。ジュリーはデヴィッドがソフィアと話す様子を見ており、「抱いてくれたら帰るわ。心配なの。あの子が貴方を奪うのが」と告げた。パーティー会場へ戻ったデヴィッドは、ソフィアに声を掛ける。彼はジュリーが見ているのに気付くと、「ストーカーに付きまとわれてる。会話が弾んでいるフリをしてくれ」とソフィアに頼んだ。ソフィアはジュリーの姿を確認し、「すごく悲しそうな表情よ」と口にした。
ソフィアが帰ると言うので、デヴィッドは家まで送って行く。ソフィアはダンサーだが、家賃のためにバイトで稼いでいた。デヴィッドが口説くと、彼女は「ブライアンに何て言うの?」と口にする。デヴィッドは「彼は君の恋人じゃないだろ?」と言う。ソフィアに「それが男の友情?」と問われた彼は、「そうさ。あいつは親友で、女にフラれてばかりの男の小説を書いてる」と語る。デヴィッドはソフィアを口説くものの、その日の内にセックスほ持ち込もうとはしなかった。
翌朝、テレビのトーク番組にはレイモンド・トゥーリーという科学者が出演し、冷凍睡眠によって延命する技術を語った。デヴィッドはソフィアにキスをして、部屋を出た。すると車に乗ったジュリーが待っていたため、デヴィッドは「尾行していたのか?」と笑顔で尋ねる。ジュリーは「まだ話が終わっていなかったから」と軽く言い、デヴィッドがソフィアとセックスしなかったことを指摘する。「理由を当てるわ。引き延ばす楽しみね」と言われたデヴィッドは、「御明瞭」と笑った。
デヴィッドはジュリーに「貴方って友達を粗末にするのね」と告げられ、「そうじゃないが、一人になりたいんだ。色々と頭の痛い問題があってね」と釈明する。「オーディションに出られず、パーティーから外された。償いをしてくれる?」と言われたデヴィッドは、彼女の車に乗り込んだ。最初は穏やかに話していたジュリーだが、突如として感情的になった。彼女は「友達のフリは辛いのよ。愛してるのよ」と喚き、車を暴走させる。「神を信じる?」と問い掛けたジュリーは、車をガードレールへ突っ込ませようとする。デヴィッドは慌てて制止しようとするが、車は橋から落ちて壁に激突した。
デヴィッドはソフィアと公園で会い、「恐ろしい夢を見た。君の家を出た後、例のストーカーが待ち受けていた。彼女は車で僕と無理心中を図って死んだ。僕の傷は治ったけど、まだ夢から醒めないんだ」と語る。ソフィアと話していたデヴィッドは、それが夢だと気付いた。マッケイブから「実際は事故の後、どうだった?」と質問を受けたデヴィッドは、「調書は読んだろ?約3週間は意識不明だった。顔と腕は潰れ、昏睡状態で手術は不可能。これは大企業の陰謀だ」と述べた。
意識が戻ったデヴィッドは、顔が醜く変形した状態で自宅へ戻った。彼はトマスから、「役員たちは君に無能力者のレッテルを貼ろうとしてる。戦線に復帰するんだ。皆に顔を見せろ」と促された。デヴィッドは形成外科医のポメランツたちに、顔を元通りに直すよう求めた。するとポメランツは「人前に出る助けになる」と言い、「義顔」となるマスクを見せた。他の医者は「組織の蘇生にも役立つ」と説明するが、デヴィッドは苛立ちを隠せなかった。
デヴィッドはビデオ回線を使い、素顔のままで役員会に出席した。彼はソフィアの元へ行き、話し掛けて「また会える?」と言う。「一緒にどこかへ」と、ソフィアは笑顔で承諾した。帰宅したデヴィッドがトーク番組を見ると、川で凍結状態となり、3ヶ月後に発見された犬が出演していた。彼はは仮面を装着してクラブへ行き、ブライアンとソフィアを見つけて声を掛けた。ソフィアがトイレへ行くと、「仮面を外せ」とブライアンは言う。デヴィッドが「これが今の顔だ。僕が恥ずかしいなら消えろ」と告げると、ブライアンは「電話もくれず、家に籠もっていたくせに。一度しか会っていないソフィアが可哀想だ」と口にした。
デヴィッドはバーカウンターへ行き、テキーラを何杯も飲んでソフィアに絡んだ。彼とブライアンは店を出て、ソフィアを家まで送ろうとする。しかし途中でソフィアは「ここでいいわ」と断り、1人で去った。デヴィッドはブライアンと別れ、街を疾走した。翌朝、路上で倒れていた彼は、ソフィアに起こされた。ソフィアは「しっかりしなきゃダメ。以前の貴方を失わないで」と語り掛け、デヴィッドを自分の家へ連れ帰った。
デヴィッドは施設でソフィアの幻影を見ながら、彼女の絵を描く。マッケイブは「エリーという女に覚えは?昨夜、何度もその名を口にしたと監視員が行っていた。悪夢を見たんだ」と言うが、デヴィッドは全く知らなかった。マッケイブは「君は事故で顔に傷を負ったが、それ過去だ。マスクを取れ。顔は完全に元通りになっている」と話し、記憶を取り戻すよう促した。デヴィッドは彼に、ポメランツから「新しい手術法がある」と言われたこと、ベルリンの医師が発明したという手術を受けたことを話した。手術を終えて退院したデヴィッドだが、なかなかマスクを外す勇気は出なかった。しかしソフィアが不安を吐露するデヴィッドを諭し、彼のマスクを外した。すっかり元に戻った顔を見て、ソフィアは嬉し涙をこぼした…。

脚本&監督はキャメロン・クロウ、原案はアレハンドロ・アメナーバル&マテオ・ヒル、製作はトム・クルーズ&ポーラ・ワグナー&キャメロン・クロウ、共同製作はドナルド・J・リーJr.、製作協力はマイケル・ドーヴェン、製作総指揮はジョナサン・サンガー&フェルナンド・ボヴァイラ&ビル・ブロック&パトリック・ワックスバーガー、製作総指揮&音楽監修はダニー・ブラムソン、製作協力はスコット・M・マーティン、撮影はジョン・トール、美術はキャサリン・ハードウィック、編集はジョー・ハッシング&マーク・リヴォルシー、衣装はベッツィー・ヘイマン、音楽はナンシー・ウィルソン。
主演はトム・クルーズ、共演はペネロペ・クルス、キャメロン・ディアス、カート・ラッセル、ジェイソン・リー、ノア・テイラー、ティモシー・スポール、ティルダ・スウィントン、アリシア・ウィット、ジョニー・ガレッキ、マイケル・シャノン、デライナ・ミッチェル、シャロム・ハーロウ、オーナ・ハート、イヴァナ・ミリセヴィッチ、ジェイミー・ウィレンズ、アーマンド・シュルツ、キャメロン・ワトソン、ロバートソン・ディーン、W・アール・ブラウン、レイ・プロシア、ティム・ホッパー、ケン・リョン、キャロリン・バーン、マーク・ピンター、ジェフ・ワイス、コナン・オブライエン他。


当時26歳のアレハンドロ・アメナーバルが監督を務めた1997年の映画『オープン・ユア・アイズ』をハリウッドでリメイクした作品。
脚本&監督は『ザ・エージェント』『あの頃ペニー・レインと』のキャメロン・クロウ。
デヴィッドをトム・クルーズ、ソフィアをペネロペ・クルス、ジュリーをキャメロン・ディアス、マッケイブをカート・ラッセル、ブライアンをジェイソン・リー、トマスをティモシー・スポールが演じている。

この映画は『オープン・ユア・アイズ』を大幅に改変することなく、ほぼ忠実になぞった構成となっている。
リメイク版がオリジナル版と似た内容になるのは、当然っちゃあ当然だろう。
ただ、せっかくリメイクするのなら、オリジナリティーを盛り込みたいと思うのが映画人としての感覚ではないだろうか。
しかし、キャメロン・クロウはそういうことに全く興味が無かったのか、あるいはトム・クルーズの指示に従わざるを得なかったのか(何しろ彼とポーラ・ワグナーの会社で製作しているのでね)、BGMを除けば「オリジナル版に寄せる」ってことに神経を注いでいる(ように思える)。

そんなわけだから、既に『オープン・ユア・アイズ』を見ている人は、こっちを見る必要性が乏しい。
興味があるけど、どっちを見ようか迷っているという人は、絶対に『オープン・ユア・アイズ』の方を見た方がいい。
高い評価を受け、アレハンドロ・アメナーバル監督がハリウッドに進出するきっかけとなったのが、『オープン・ユア・アイズ』だからね。
それに比べて、『バニラ・スカイ』の方は、あまり評価が高いとは言えないわけで。

内容は同じでも、もちろん出演している顔触れは全く異なる。
っていうか、この映画とオリジナル版の違いを挙げようとした時に、そこを挙げておけば、ほぼ終了じゃないか。
オリジナル版の主人公を演じたエドゥアルド・ノリエガは、スペイン映画界ではスターだが、世界的な知名度がそれほど高いわけではない。それに比べてリメイク版の主役はトム・クルーズなので、こっちの方が遥かに「スターのオーラ」は強くなっている。
ただし、トム・クルーズが主演することによって「スター映画」という色合いが濃くなってしまったことが、この作品にとってプラスに作用しているのかというと、その答えは「ノー」だけどね。

また、人気モデルのジュリー役にキャメロン・ディアスを起用したことで、そんな彼女に対するデヴィッドの扱いが全面的に「酷い奴」と化している。
何しろ、キャメロン・ディアスぐらいの女性が性的な要求には何でも応じてくれて、しかも結婚を迫るようなことも無いのに、デヴィッドはセックス・フレンドとして軽く扱う。それどころか他の女に夢中になり、ジュリーのことはストーカー呼ばわりするのだ。
キャメロン・ディアスを袖にしてペネロペ・クルスを選ぶって、なんちゅう贅沢な男だ。
ちなみに年齢的には、この両者は2歳しか離れていないので、「年増のジュリーより若いソフィアを選んだ」ってわけでもないのよ。

ただし、デヴィッドってのは調子に乗りまくっているプレイボーイというキャラクターなので、それが合っていると言えなくも無い。
それと、ジュリーのポジションにニコール・キッドマンを置いて、トム・クルーズの私生活を重ねてみれば、とても分かりやすいんだよね。
ようするにトム・クルーズとしては、当時の妻だったニコール・キッドマンとは早く別れて、ペネロペ・クルスと結婚したいってのを本作品を通じて大々的にアピールしているのだ。
そもそも本作品をトム・クルーズが製作した最大の目的は、「ペネロペ・クルスと共演し、それをきっかけに結婚まで持ち込みたい」ってトコにあるわけで。
そういう邪念があるからこそ、ペネロペ・クルスだけがオリジナル版からスライドして出演しているのだ。

カート・ラッセルを精神科医の役に起用しているのは、普通に考えれば明らかにミスキャストだ。カート・ラッセルの精神科医役ってのは、トム・クルーズに全くモテない窓際サラリーマンを演じさせるぐらい似合わない。
しかし、この映画の内容を考えると、実は間違いじゃないのかもしれない。
と言うのも、「カート・ラッセルは精神科医に見えない」→「ってことは、そこのシーンも含めてデヴィッドの見ている夢なのでは」という解釈も成り立つ可能性があるからだ。
ただし、たぶん製作サイドは、そこまで深く考えて彼を起用したわけじゃないと思うので、やっぱりミスキャストなのである。

「配役の違いを挙げれば、オリジナル版との違いはほぼ終わる」と前述したが、実は微妙に演出方面でも違いが生じている。全体の構成や流れは一緒なのだが、やはり監督が変われば持ち味や意識も変わる。
どうやらキャメロン・クロウは、この映画の持つ「サスペンスの妙」に対して、あまり興味を抱かなかったようだ。なので、本来なら「夢と現実の境目が分からなくなっていく」「虚構に虚構が重なる世界へ迷い込む」という展開のはずだが、そういう印象は全く受けない。
しかし、だからと言って話が分かりやすくなっている、取っ付きやすくなっているってわけではない。何しろ、夢と現実が複雑に混在する構成はオリジナル版と同じなのでね。
だから単純に、「その映画が醸し出すべきテイストを放棄している」ってだけになっている。

話が進む中で、何度か「冷凍保存」という要素に言及している。それが終盤になって、「実はデヴィッドにも大きく関わっていた」という展開に繋がっている。
完全ネタバレだが、デヴィッドは事故で顔が潰れた後、冷凍保存の中で夢を見続けているのだ。路上で目を覚ました彼がソフィアに起こされるシーン以降は、全て彼が見ている夢なのだ。実際は、路上で目を覚ましても誰もおらず、デヴィッドは低温保存プログラムのLE社と契約を交わして「冷凍娯楽」という状態の夢を見続けているのだ。
これもオリジナル版と同じ構成なのだが、だから『オープン・ユア・アイズ』を見た時と同じ不満を抱く。
分かりやすい謎解きを用意しているとは言えるが、それによって話が一気に矮小化しちゃったと感じるのよね。


第22回ゴールデン・ラズベリー賞(2001年)

ノミネート:最低主演女優賞[ペネロペ・クルス]
<*『ブロウ』『コレリ大尉のマンドリン』『バニラ・スカイ』の3作でのノミネート>


第24回スティンカーズ最悪映画賞(2001年)

ノミネート:【最悪の主演女優】部門[ペネロペ・クルス]
<*『ブロウ』『コレリ大尉のマンドリン』『バニラ・スカイ』の3作でのノミネート>
ノミネート:【最悪のカップル】部門[ペネロペ・クルス&ニコラス・ケイジorトム・クルーズorジョニー・デップ]
<*『ブロウ』『コレリ大尉のマンドリン』『バニラ・スカイ』の3作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会