『ほぼトワイライト』:2010、アメリカ

高校生のベッカ・クレーンは、母親とネバダ州で暮らしていた。しかし母親がプロゴルファーと付き合い始めたので、彼女はワシントン州のスポークスという田舎町に引っ越してきた。保安官をしている父親のフランクと暮らすためだ。フランクとは幼い頃に別れたきりで、久々の再会だった。居留地に住む幼馴染のジェイコブと父親のボビーが会いに来たので、ベッカは挨拶した。ジェイコブは彼女に、思春期が来てから体に異変が生じていることを明かした。
ベッカは父親にプレゼントされた中古トラックを運転し、学校へ行く。新入りへのイジメを受けたベッカは、デリックやリック、それにジェニファーといった同級生と知り合いになった。食堂へ入って来る4人の男女が気になったベッカに、ジェニファーは「あれは外科医のカールトン・サレン先生の養子。血は繋がってないけど仲良し。数年前に引っ越して来たけど、変わり者で謎の存在なの」と語る。
ベッカは後から食堂に入って来たエドワードという男子生徒のことが、もっと気になった。エドワードとベッカは見つめ合い、すぐに通じ合った。駐車場でベッカが車にひかれそうになった時、エドワードが驚異的な動きで彼女を救った。心配したジェイコブが見舞いに来るが、ベッカは「貴方はいい人だけど、ゲイの弟みたいな存在」と告げる。「エドワードはやめた方がいい。あいつは何かが変だ」と警告して立ち去るジェイコブの臀部からは、尻尾が生えていた。
フランクはベッカに、殺人事件があったことを告げる。殺されたのは漁師のスカリーで、体から血を抜き取られ、その体に複数の噛み跡があったと彼は話した。その夜、ベッカが目を覚ますと、寝室にエドワードがいる。しかし「これは夢だ」と言われ、また眠りに就いた。エドワードはベッカの顔を静かに眺めようとするが、あまりにも寝相が悪いので困惑した。ベッカが放屁したので、その匂いにやられた彼は窓から転落した。
翌朝、登校したベッカは、中庭でサレン家主催の献血が行われることを知った。ジェニファーたちからプロムのチラシを渡されたベッカは、今年のテーマがヴァンパイアだと知る。ベッカがエドワードを森へ連れ出すと、彼は自分がヴァンパイアであることを明かした。「僕は危険な肉食動物だ。君を食べたい」と彼が言うと、ベッカは「素敵。貴方に食べられたい」と口にした。するとエドワードは、「僕の一族は他のヴァンパイアと違って渇きを抑制できる。でも君の前だと抑えが効かないかもしれない」と述べた。
ベッカはエドワードに好きな気持ちを打ち明け、「一緒にプロムに行ってくれる?」と誘われてOKした。その夜、エドワードはベッカの部屋に現れて「試してみたいことがあるんだ」と言い、彼女にキスをした。初めてのキスにエドワードが喜んでいると、ベッカは「最後まで行きましょう」と彼を押し倒した。しかしエドワードは「やめてくれ、君の安全のためだ」と告げ、ベッカを突き放した。「焦る必要は無い。時間を掛けよう」と彼は穏やかに告げた。
ジェイコブ、フランク、ボビーは、スカリーを殺した犯人を捜索していた。犯人は放浪ヴァンパイア集団のレイチェル、アントワーヌ、ジャックだが、まだフランクは正体に気付いていなかった。そこでボビーは、彼に証拠となる写真を見せた。ベッカが18歳になった日、サレン一家がパーティーを開いてくれた。不安を抱くベッカだが、カーライルと妻のエデン、養子のアイリスは歓迎した。アイリスは未来を見通す特別な力を持っていた。
新入りの養子であるジェレマイアについて、エドワードは人への欲望を終えるのに苦労していることをベッカに教えた。養子のアレックスとロザリンは、あまり歓迎する態度を示さなかった。ベッカが誤って出血すると、サレン家の面々は食欲を剥き出しにした。エドワードはベッカを外へ連れ出した。彼が「僕といると、君は危険な目に遭う」と言うと、ベッカは「私を噛んでヴァンパイアにして」と告げる。しかしエドワードは「ヴァンパイアになんて、なるものじゃない」と反対し、「君とはもう会わない」と述べた。
エドワードが別れを告げて森を去った後、ベッカは放浪ヴァンパイア集団に襲われる。そこへエドワードが駆け付け、ジャックを始末した。アントワーヌは激昂するレイチェルを制止し、森を去った。エドワードは噛まれたベッカを救うため、毒を吸い出した。それっきり、エドワードはベッカの前から姿を消した。何か月も過ぎたが、ベッカはエドワードのことばかり考え続けた。ジェニファーが元気付けるために映画鑑賞へ連れ出すが、ベッカは落ち込んだままだった。
とうとうベッカは、エドワードの幻影まで見るようになった。ジェイコブにバイクの運転を教えてもらった後、猛スピードで走っている時も、エドワードの幻影が現れて「停まれ、怪我をする」と警告した。しかしベッカは「無茶すれば貴方に会えるなら、幾らでもするわ」と告げる。ベッカがバイクから転げ落ちると、ジェイコブが慌てて駆け付けた。ジェイコブの体は、獣への変化が随分と進んでいた。
ジェイコブが助けを呼びに行った直後、アントワーヌがベッカに襲い掛かる。戻って来たジェイコブはベッカを助けようとして、チワワに変身した。ジェイコブは仲間4人を呼び寄せ、アントワーヌの体をズタズタに引き裂いた。一方、酒浸り暮らしを送っていたエドワードの元に、アイリスが現れた。アイリスは「幻を見た。ベッカがバイクで自殺しようとしていた」と告げる。エドワードがベッカの家に電話を掛けると、ベッカを運んで来たジェイコブが出た。エドワードはフランクを呼んでほしいと求めるが、彼はスカリーの葬儀に行っていた。そこでジェイコブが「葬儀に」と言うと、エドワードはベッカが死んだと思い込んだ。絶望したエドワードは、太陽の下で正体を現し、ゾルトゥーリ族のダロたちに殺されようと考える…。

脚本&監督はジェイソン・フリードバーグ&アーロン・セルツァー、製作はピーター・サフラン&ジェイソン・フリードバーグ&アーロン・セルツァー、共同製作はジェリー・P・ジェイコブズ&ハル・オロフソン、製作総指揮はアーノン・ミルチャン、撮影はショーン・マウラー、編集はペック・プライアー、美術はウィリアム・エリオット、衣装はアリックス・ヘスター、音楽はクリストファー・レナーツ、音楽監修はデイヴ・ジョーダン&ジョジョ・ヴィリャヌエヴァ。
出演はマット・ランター、ジェン・プロスク、クリス・リッジ、ディードリック・ベーダー、ケン・チョン、ケルシー・フォード、アンリーズ・ヴァン・ダー・ポール、アリエル・ケベル、デヴィッド・デルイーズ、デイヴ・フォーリー、ジェフ・ウィツキー、クリスタ・フラナガン、ニック・エヴァーズマン、ゼイン・ホルツ、ステファニー・フィッシャー、マイケル・ハンソン、イ・ジュンヒ、B・J・ブリット、チャーリー・ウェバー他。


『ディザスター・ムービー!おバカは地球を救う』『ほぼ300 <スリーハンドレッド>』のジェイソン・フリードバーグ&アーロン・セルツァーが監督&脚本&製作を務めたパロディー映画。
『トワイライト』シリーズの第1作『トワイライト〜初恋〜』と第2作『ニュームーン/トワイライト・サーガ』をベースにして(まだ製作当時は3作目以降が公開されていなかった)、そこにTVドラマ『バフィー〜恋する十字架〜』『トゥルーブラッド』『ヴァンパイア・ダイアリーズ』といった作品のパロディーも盛り込んで構成されている。
ティーンズを中心として大きな流行となったヴァンパイア物を、ことごとく茶化してしまおうというわけだ。
エドワードをマット・ランター、ベッカをジェン・プロスク、ジェイコブをクリス・リッジ、フランクをディードリック・ベーダー、ダロをケン・チョン、アイリスをケルシー・フォード、ジェニファーをアンリーズ・ヴァン・ダー・ポール、レイチェルをアリエル・ケベルが演じている。

『トワイライト』シリーズと比較すると、エドワード・カレンがエドワード・サレン、ジェイコブ・ブラックがジェイコブ・ホワイト。
ベラ・スワン(白鳥)はベッカ・クレーン(鶴)、父親のチャーリーがフランク、ジェイコブの父のビリーがボビー。
ヴォルトーリ族のアロがダロ、カーライルはカールトンで、エズミがエデン。
養子のアリス、ジャスパー、エメット、ロザリーがアイリス、ジェレマイア、アレックス、ロザリン。
放浪ヴァンパイア集団のヴィクトリア、ローランジェームズがレイチェル、アントワーヌ、ジャック。
ベラの友人のジェシカがジェニファー、マイクがリック、エリックがデリックという具合になっている。

大まかな流れとしては、かなり忠実に『トワイライト』シリーズをなぞっていると言っていいだろう。
だから、最低でも『トワイライト〜初恋〜』と『ニュームーン/トワイライト・サーガ』を知らないと、パロディーを理解する以前に、話の流れに付いて行けない可能性がある。
なんせ大雑把に端折りながらなぞっているので、オリジナルのストーリーを脳内補完しながら観賞しないとツギハギだらけで展開がギクシャクしているんだよな。

パロディー映画としては「元ネタが分からない」ということになるのが一番の問題だから、大ヒットした作品をネタにするのは理解できる。
しかし、『トワイライト』シリーズをネタにしたのが果たして正解だったのかどうかってのは、微妙なところだろう。
というのも、そもそも『トワイライト』シリーズはパロディーにしなくても、それ自体がネタ映画と化しているからだ。
喜劇をパロディーにするのって難しいでしょ。
なぜなら、既に笑いがそこにあるから。
『トワイライト』シリーズは喜劇じゃないけど、おバカな映画なのよ。

様々な種類のネタが盛り込まれているが、まずは『トワイライト』シリーズとヴァンパイア物を茶化すネタ。
冒頭、プロム会場でベッカがエドワードを助けようとしていると、エドワード派とジェイコブ派の女性たちが戦い始める。
転校したベッカはデリックが「君って周囲に馴染めず一人で苦しむタイプだね」と言うと、「っていうかユーモアが欠如していて、ひねくれてる。自信なさげで大した魅力も無いのに、カッコイイ男の子たちを引き付けちゃうの」と語る。

食堂でエドワードを見つけたベッカに、ジェニファーは「貴方たち、もう通じ合ったのね」と言う。
「なんで分かるの?」と問われた彼女は、「当然よ、ハードウィック作品の基本。スローモーションで見つめ合う2人。月並みで見え見えの手法だけど、惹かれ合う2人を強調するの」と答える。
生物の授業で教師が教科書ではなく『ヴァンパイア・ダイアリーズ』の本を取り出し、ベッカが「なんで?」と言うと、エドワードが「1980年代はコカイン、1990年代はグランジ、そして今はヴァンパイアの時代なんだ。とにかく、ものすごく流行ってる」と説明する。

ベッカはエドワードに「貴方はヴァンパイアだから私とはセックスしない。これは女の子にとって究極のファンタジーなの」と語った後、「ステファニー・メイヤーのツイッターで読んだ」と明かす。
ジェニファーはベッカを誘って映画鑑賞に出掛け、「意味不明よ。誰が好き好んでヴァンパイアと付き合う?これは絶対にコケる」と言う。
その時に見ていたのは、『ザ・トワイライト・サーガ ブレイキング・ドーン』という映画(まだ本作品の製作当時はブレイキング・ドーンが前後編になることが分かっていなかった)。

下ネタも色々と盛り込まれている。
フランクはベッカが町に来ると、「娘の成長を見るのは辛いものだ。オッパイもデカくなって」と言う。
彼はベッカの部屋に昔の人形を置いてあるが、その中にはダッチワイフもあって「風呂で人肌に温めてから使う」と説明する。
ボビーはベッカから「元気?」と問われて「元気だと?俺は車椅子だ。腰から下は感覚が無い。そこに何があると思う。ペニスだよ」と言う。
ジェニファーはプロムについて、ベッカに「私はパパの精子だった頃からプロム・クイーンを夢見てたわ」と話す。
アイリスに未来を見る力があることをエドワードが説明すると、彼女はベッカにタンポンを渡して「今月は早めに来るわ」と告げる。

テレビ番組のネタも色々と盛り込まれている。
ベッカがナレーションを語っていると、「一方、アップタウンではブレアとネイトがよろしくやってたが、ネイトは密かにセリーナに夢中だった」という『ゴシップガール』のナレーションが急に割り込む。
エドワードがベッカの寝顔を見ていると、彼女は「『ウェイバリー通りのウィザードたち』を録画しなきゃ」と寝言で呟く。
エドワードの告白を聞いたベッカは、ナレーションで「分かったことが3つある。1つ、エドワードはヴァンパイア。1つ、『アメリカン・アイドル』はサイモンが肝」と語る。
放浪ヴァンパイア集団を防犯スプレーで退治しようとしたベッカは、助けに来た聖少女バフィーに誤って浴びせてしまう。

有名人のネタも色々と盛り込まれている。
ベッカの母親の付き合っている相手は、タイガー・ウッズ。
放浪ヴァンパイア集団はレイチェルがファーギー、アントワーヌがウィル・アイ・アムに似ているので、スカリーにブラック・アイド・ピーズと間違えられる。
殺人事件についてベッカに説明したフランクは、「体に複数の噛み跡があった。たぶんカーダシアン姉妹だ」と言う。
エドワードを森に連れ出したベッカは「貴方の肌は青白く、着こなしはオシャレ、でもセックスはしない。貴方の正体はジョナス・ブラザーズね」と語る。

サレン家で鼻血を出したベッカは、「昨夜、リンジー・ローハンと羽目を外すんじゃなかったわ」と口にする。
エドワードはベッカからヴァンパイアにしてほしいと求められ、「ヴァンパイアになんて、なるもんじゃない。超セクシーで世界中を旅する時間と金があるなんて、ジョージ・クルーニーみたいなもんさ」と語る。
「無茶なことはしないと約束してくれ」と彼が言うと、ベッカは「分かった。クリス・ブラウンとは付き合わないわ」と告げる。
アイリスが連れ戻しに来た時、エドワードは「人間の女はもういい。僕に良く似合う変な女を見つけた」と告げて、レディー・ガガもどきの女性を紹介する。

カナダ人を標的にした人種ネタも、少しだけ盛り込まれている。
ジェニファーはサレン家の面々について「彼らは氷のように冷たい肌。人間の肉を食べて、みんな棺で眠るのよ」と語る。
その正体については「カナダ人かもしれないわ」と言い、リックとデリックも納得する。
フランクはスカリーを殺した犯人がカナダ人だと考え、「国境破りどもめ。怠惰なアメリカ人が嫌がるキツい仕事を全て奪った挙句、この国の漁師まで殺すとは」と憤りを示す。

『トワイライト』シリーズを真剣に観賞していた観客、三角関係の恋愛劇に本気でメロメロになっていた観客からすれば、この作品で描かれているパロディーは「そう来たか」という面白さがあるかもしれない。
ただ、『トワイライト』シリーズを真剣に観賞し、本気でハマっていたような人は、こんな映画は見ないだろうし、見ても「自分の好きな作品がバカにされている」ってことで腹を立てるんじゃないかという気もするんだよなあ。
そうなると、この映画を楽しめる人は、『トワイライト』シリーズを知っていて、バカにされても腹が立たず、ちょっとしたことでも笑える人ってことになる。
すんげえニッチ市場になってないか、それって。

(観賞日:2014年9月17日)


第31回ゴールデン・ラズベリー賞(2010年)

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低監督賞[ジェイソン・フリードバーグ&アーロン・セルツァー]
ノミネート:最低脚本賞
ノミネート:最低リメイク・盗作・続編賞

 

*ポンコツ映画愛護協会