『評決のとき』:1996、アメリカ
ミシシッピー州のある町で、2人組の白人男性に10才の黒人少女がレイプされ、悲惨な暴行を受けた。犯人は逮捕されたが、無罪になる可能性が高い。裁判の日、少女の父親カール・リーは裁判所に現れ、犯人を射殺する。
カール・リーの知り合いだった白人の新人弁護士ジェイク・ブリガンスは、彼の弁護を引き受ける。しかし、相手は百選練磨のバックリー検事。しかも、ここは黒人差別の根強く残る土地で、KKKの執拗な妨害を受ける。
ジェイクは師匠のルシアン、友人レックス、押し掛けてきた法科生のエレンの協力を得て、なんとか心神喪失による無罪を勝ち取ろうとする。しかし陪審員には全て白人が選ばれ、ジェイクの弁護は思うように進まぬまま、最終弁論を迎えることになった…。監督はジョエル・シューマッカー、原作はジョン・グリシャム、脚本はアキヴァ・ゴールズマン、製作はジョン・グリシャム&ハント・ロウリー&アーノン・ミルチャン&マイケル・ネイサンソン、製作協力はウィリアム・M・エルヴィン、撮影はピーター・メンジースJr.、編集はウィリアム・ステインカンプ、美術はラリー・フルトン、衣装はイングリッド・フェリン、音楽はエリオット・ゴールデンサール。
主演はマシュー・マコノヒー、共演はサンドラ・ブロック、サミュエル・L・ジャクソン、ケヴィン・スペイシー、オリヴァー・プラット、チャールズ・ダットン、ブレンダ・フリッカー、ドナルド・サザーランド、キーファー・サザーランド、パトリック・マッグーハン、アシュレイ・ジャッド他。
ジョン・グリシャムの小説を映画化した作品。ジェイクをマシュー・マコノヒー、エレンをサンドラ・ブロック、カール・リーをサミュエル・L・ジャクソン、バックリーをケヴィン・スペイシー、レックスをオリヴァー・プラットが演じている。
他にもドナルド・サザーランドとキーファー・サザーランドが親子共演していたり(立場としては対立関係にある役を演じている)、ジェイクの奥さんを演じるのがアシュレイ・ジャッドだったりと、役者だけを見れば、なかなかの顔触れである。これは黒人差別を扱った作品である。劇中、ジェイクはカール・リーが犯行当時に心神喪失で無かったことを知りながら、心神喪失で無罪を勝ち取ろうとする。しかも、かなり卑怯なやり方で有利な資料を入手したりする。
ジェイクの行動は、弁護士としては決して正しいことだとは言えないだろう。それを観客に正当だと認めさせるためには、「人道的には賛成できる」と思わせるためには、黒人少女に対する犯人の行動がどれだけ残酷だったかを示す必要がある。しかし、肝心の少女が襲われるシーンは全く描かれず、観客にはジェイクの言葉によって、その時に行われた事実が知らされるだけである。そんな状態では、「怒りによる報復の殺人は無罪だ」と正当化するには不充分であろう。
裁判が始まった後の黒人差別主義者による嫌がらせを描くことで、ジェイク側の正当性を訴えたいようだが、それも不充分。というのも、嫌がらせがジェイクに重大なダメージを与えることが無く、陰湿な感じもそれほど無いからだ。その上、KKKの幹部が焼き殺される場面さえある。そのシーンなどは完全に逆効果だろう。シェイクの味方が多すぎるというのも気になる。敵だらけの中で主人公が追い詰められ、最後に大逆転を成功させるという方が良かったのではないだろうか。それと、エレンが押し掛け法科生ってのは無理があるよなあ。ジェイクの知り合いという設定でいいのに。
ジェイクの敵となる面々のキャラクター設定にも、不満が残る。バックリー検事は単に野心の強い男として描かれているが、彼も黒人差別意識のある男という設定の方が良かったのではないだろうか。全てにおいて、詰めが甘いように感じてしまった。
第17回ゴールデン・ラズベリー賞
ノミネート:ジョー・エスターハス最低脚本賞
第19回スティンカーズ最悪映画賞
ノミネート:【最悪の助演女優】部門[ブレンダ・フリッカー]