『ナイト・サバイバー』:2020、アメリカ

マティーとジェイミーの兄弟は、駐車場に車を停めて休憩を取った。「ヤバかったな、あんなに抵抗するとは」とジェイミーが告げると、マティーは「だが撃つ必要は無かった」と言う。鞄の中にある大金を確認したマティーは、「2万ドルぐらいある。やっぱり俺の上前をはねてやがった」と告げた。「自業自得だ」と弟に言われた彼は、「そうだな」と受け入れた。「とにかく、このままメキシコへ直行だ」と彼が口にすると、ジェイミーは「海辺に家を買おう」と語った。
医師のリッチは妻のジャンと娘のライリーを連れて、田舎の実家へやって来た。都会の病院を辞めた彼は、妹のアリスが働くカントリー・クリニックで仕事を始めることになっていた。アリスはリッチにやり直すきっかけを与えるため、手を差し伸べたのだ。リッチは彼女に、礼を述べた。ジャンはレイチェルに、「一度の失敗で、あの人は逃げた」とリッチへの不満を吐露した。リッチは弁護士を雇わず、破産宣告を受けていた。
元保安官のフランクから「お前は判断を誤った」と批判されたリッチは、「裁判に何年も費やしたら、家族に迷惑が掛かる」と反論する。「お前が俺の執刀医で、助かる確率は50パーセント。俺に何と言う?」と問われたリッチは、「僕の腕を信じてと。だけど失敗することもあるから信じない方がいい。実際、失敗した」と答えた。フランクが「負け犬みたいな言い方をするな」と諌めると、彼は「確かに父さんは、いつも勝者だった。家族をそっちのけにして」と声を荒らげた。リッチはジャンから、弁護士を雇わなかったことについて責められた。彼女はリッチに、「貴方は私を理解してない。私は納得してない」と述べた。
ガソリンスタンドに着いたジェイミーは、鞄の金を持って売店へ行こうとする。「足が付く」とマティーが止めようとしても、彼は聞く耳を貸さなかった。店主は売店に入ったジェイミーを警戒するような様子を見せ、声を掛けた。銃声を耳にしたマティーが店に飛び込むと、ジェイミーは女性客を人質にしていた。店主はカウンターの裏に身を隠し、ショットガンを握っていた。ジェィミーはマティーに、「勝手に手が動いた」と釈明した。彼は「出て来ないと女を撃つぞ」と店主を脅迫し、出て来ないので女性客を射殺した。店主が怒って発砲し、マティーは左脚の太腿に銃弾を受けた。ジェイミーは店主を殺害し、マティーを連れてガソリンスタンドから逃亡した。
リッチはアリスから呼び出され、クリニックへ仕事に出掛けた。ジェイミーは足が付かないようにマティーを治療するため、クリニックの前で張り込んだ。2人は仕事を終えたリッチが出て来るのを見て、家まで尾行した。リッチはジャンと仲直りし、眠りに就いた。マティーはジェイミーに「縛り上げるだけだ。殺すな」と釘を刺し、家に侵入する。しかしジェイミーは夜中に起きたレイチェルを殺し、フランクに襲い掛かられる。弟の声を聞いたマティーが駆け付け、フランクを殴って昏倒させた。
物音に気付いたジャンはライリーの部屋へ行き、一緒に逃げ出そうとする。そこへジェイミーが来てジャンを殴り倒し、ライリーに部屋へ戻るよう命じた。リッチはマティーを見つけて拳銃を構え、出て行くよう要求した。マティーは弟が妻子を人質に取っていることを教えて脅し、リッチに拳銃を捨てさせた。兄弟は家族の携帯と車のキーを没収し、全て破壊した。彼らは一家をリビングで縛り上げ、リッチだけを連れ出して傷の手術を要求した。兄弟はリッチに、レイチェルの死を知らせた。
リッチが「専門外だ」「手術器具が無い」などと言って手術を断ると、マティーはジェイミーにジャンを連れて来るよう指示する。リッチは慌てて「学生時代に実験で使った道具が納屋にあるかも」と言い、マティーはジェイミーに納屋へ連れて行くよう命じた。マティーはフランクたちの元へ行き、「危害を加えるつもりは無い」と述べた。納屋に到着したリッチは、ジェイミーに「交通事故の急患を手術で死なせた。遺族に訴えられて全てを失った。裁判なら勝てたが、遺族の言う通りだから破産は当然だ」と語った。
リッチはジェイミーの隙を見て襲い掛かるが、すぐに制圧された。フランクはマティーの目を盗み、ジャンのロープを解いた。戻って来たジェイミーはマティーを移動させ、リッチの足を鎖でテーブルに繋いで手術を命じた。リッチは助手が必要だと述べ、ジャンを連れて来るようジェイミーに要求する。リビングへ行ったジェイミーはジャンの腕を掴むが、平手打ちを浴びせられた。フランクが「5分だけ1人になりたい。解放してくれ」と言うと、ジェイミーはジャンではなく彼を連れて行くことにした。
リッチはフランクとジェイミーにマティーを押さえ付けてもらい、弾丸を取り出した。彼は止血の処置を施すが、「縫合しないと死ぬ」とジェイミーに告げる。フランクはメスを掴んでジェイミーを襲うが、すぐに反撃されて怪我を負う。彼は庭に逃げ出し、ジェイミーは後を追う。その間にジャンは自分とライリーのロープを解き、リッチはマティーのポケットを探って鎖の鍵を見つけた。ジャンはリッチの元へ行って没収された携帯を使おうとするが、全て壊されていることを知った。
戻って来たジェイミーはジャンを殴り付け、拳銃を構える。リッチはマティーにメスを突き付けて拳銃を捨てろと要求するが、ジェイミーは構わずに彼の肩を撃って「最後まで手術しろ」と命じた。ジェイミーはジャンをリビングへ連れ戻り、彼女とライリーを縛り上げてから再びフランクの捜索に向かう。その間にリッチは鎖を外してリビングへ行き、ジャンとライリーのロープを外した。彼は2人に「物置小屋に鍵を掛けて外に出るな」と指示し、銃を探しに向かった。
戻って来たジェイミーは、リッチたちが逃げ出したことを知る。マティーは目を覚まし、手術が終わっていないことを知った。落胆する彼に、ジェイミーは「俺が何とかする」と約束した。フランクは窓から家に入り、洗面所で傷口を消毒した。妻の額にキスをした彼は窓の外に目をやり、リッチに気付いた。彼はリッチの元へ行って肩を貸し、傷を応急手当てした。翌朝、ジェイミーはマティーから「金を持って1人で逃げろ」と言われるが、「1人で逃げるなんて耐えられない。何とかする」と出て行く…。

監督はマット・エスカンダリ、脚本はダグ・ウォルフ、製作はランドール・エメット&ジョージ・ファーラ&ショーン・サングハーニ&マーク・スチュワート、製作総指揮はティム・サリヴァン&アレックス・エカート&シーザー・リッチボウ&バリー・ブルッカー&スタン・ワートリーブ&アリアンヌ・フレイザー&デルフィーヌ・ペリエ&ヘンリー・ウィンタースターン&リチャード・L・バクスター&ピーター・F・バウデン&アダム・エンゲルハード&テッド・フォックス&カーク・ショウ&ジョナサン・ベイカー&リー・ブローダ、共同製作総指揮はライアン・ブラック、共同製作はアラナ・クロウ、撮影はブライアン・コス、美術はスザンナ・ロウバー、編集はライアン・クーパー、音楽はニマ・ファクララ、音楽監修はマイク・バーンズ。
出演はチャド・マイケル・マーレイ、ブルース・ウィリス、シェイ・バックナー、タイラー・ジョン・オルソン、リディア・ハル、ライリー・ウォルフ・ラック、ジェシカ・エイブラムス、サラ・リン・ホルブルック、ジェフ・ホルブルック、ラヴァレ・エリーズ・ルパート、チャーリー・アルヴァラード、ナタリー・ディドナート他。


『蝋人形の館』『レフト・ビハインド』のチャド・マイケル・マーレイが主演を務めた作品。
監督は『THE LAW 刑事の掟』のマット・エスカンダリ。脚本のダグ・ウォルフは、これがデビュー作。
リッチをチャド・マイケル・マーレイ、フランクをブルース・ウィリス、ジェイミーをシェイ・バックナー、マティーをタイラー・ジョン・オルソン、ジャンをリディア・ハル、ライリーをライリー・ウォルフ・ラック、レイチェルをジェシカ・エイブラムスが演じている。

マティー&ジェイミー兄弟が家に侵入するまでは、「兄弟のパート」と「リッチと家族のパート」が並行して描かれる。それ自体は別にいいのだが、中途半端にマティー&ジェイミーに感情移入させようとしているのは大間違い。
やり方として間違っているわけではないのよ。ホントに兄弟に同情の余地があるのなら、それでも一向に構わない。
だけど、ただのヘドが出そうなクズどもなので、そんな連中に同情させようとするのは間違いでしょ。
マティーはたまにジェイミーの行動を注意することはあるけど、結局は全く制止できていないし、それを厳しく叱責するわけでもないし。
売店の殺人にしても、被害者への罪悪感は皆無だし。

映画の冒頭で、「マティー&ジェイミーは上前をはねていた男を殺して金を奪った。これからメキシコへ逃亡する」という情報が示される。
だが、その情報は、それ以降のストーリー展開に難の影響も与えない。
そこを全てカットして、いきなりガソリンスタンドのシーンから入ったとしても、ほとんど同じストーリー展開になる。
冒頭シーンの描写が、兄弟のキャラクター描写や人間ドラマに厚みを与えているわけでもないし。

一方、リッチと家族のパートでは、抱えている問題や過去の出来事、人間関係について描かれている。
リッチは医療ミスで患者を死亡させ、弁護士を雇わずに破産している。そのことでジャンは不満を抱いており、フランクもリッチの対応に批判的だ。リッチは都会の病院を辞め、再起を促すアリスの紹介でクリニックの仕事を始めている。
だが、そういう情報も、これまた以降のストーリー展開に与える影響は皆無に等しい。
「患者を死なせた罪悪感で人生をドロップアウトした主人公が、危機に見舞われたことで前向きな気持ちを取り戻す」というドラマだと解釈しても、それを上手く表現できているとは全く思わない。
早々とレイチェルが殺されてしまうことで「そのための犠牲がデカすぎるわ」と感じるので、ほぼ破綻していると言ってもいい。

ジェイミーはリッチと納屋へ行く時、「俺は兄貴の命を救ってほしいだけだ。たった1人の家族なんだ」と話す。マティーはフランクたちに、「ウチは親父しかいない家族だ。俺は家を出られず、大学にも行けなかった。俺の人生は、親父のための物だった」と語る。
そんな風に、兄弟に同情させようとする台詞も用意されている。
マティーは確実に衰弱していくが、それだけでも同情を誘おうとしている匂いは強く漂って来る。
だけど既に売店の女性客&店主とレイチェルを殺す様子を見せられているので、同情心など微塵も湧かない。

フランクはマティーの目を盗み、ジャンのロープを解いている。なので、そこから反撃を狙う展開に繋がるのか、あるいは反撃の前に露呈してしまうのかと思っていたら、「ジェイミーが連れて行こうとしたらジャンがビンタする」というだけで終わってしまう。
その程度で片付けるなら、わざわざロープを解いた意味なんて無いわ。成功するにしろ失敗するにしろ、少なくとも「反撃に出ようとする」という手順には繋げるべきだろ。
あと、そこまで些細なことで殺人を重ねていたジェイミーだが、ビンタされて腹を立てたのに、そこはジャンを殺さないのよね。
それはキャラの動かし方として都合が良すぎるだろ。

ジャンは自分とライリーのロープを解くが、何も出来ないままジェイミーに見つかって連れ戻される。
そうなると、ロープを外す手順が無意味になってしまう。せめて「何かしようとして失敗に終わる」という手順があればサスペンスに繋がるが、そういうのも無いからね。
「携帯を使おうとするけど全て破壊されている」ってのは、サスペンスを生み出すための手順には該当しない。
なぜなら、こっちは携帯が没収された時点で、全て壊されているのを知っているからだ。

ジェイミーはロープを解いたジャンとライリーを再び縛ったのに、リッチが鍵を使って鎖を外したことには全く気付かないボンクラっぷりを露呈する。
ただ、せっかくジェイミーがボンクラだったおかげでリッチは拘束を外したのに、そこから反撃のターンに入ることは無い。
リッチにしろ、先に反撃を試みたフランクにしろ、「怪我を手当てする」ということを最優先に考えている。そして、なぜか「フランクがリッチを手当てする」という手順を丁寧に描き、時間を割いている。
「すぐに手当てしないと死ぬ」という危険な状態でも無いんだから、それよりはジェイミーを制圧する、もしくは殺すことを最優先に考えた方がいいんじゃないのか。
自分たちが見つからなくても、ジャンとライリーがピンチに陥ることは充分に考えられるんだし。

ただ、なぜかジェイミーも、逃げた面々を必死になって見つけ出そうとしないんだよね。
フランクだけが逃げた時は、「外へ追って、また戻って、また捜索に出て」という無駄な手順を踏んでまで見つけ出そうとしていたのに、リッチ&ジャン&ライリーまで逃げ出すと、今度はマティーの傍らで喋り続けるだけで全く動かないのだ。
そして、そのまま翌朝を迎えるのだ。
マティーに助かってほしいと思っているんでしょ。だったら、一刻も早くリッチを見つけ出せよ。もしくはジャンやライリーを見つけて脅迫の材料に使えよ。

終盤、フランクは車で逃亡してジェイミーをおびき寄せ、その間に行動するようリッチに指示する。
ところがフランクがジェイミーを誘い出している間、リッチは何もしていないのだ。
フランクがジェイミーを屋敷から誘い出している時間は、少なくとも2分ぐらいある。でもリッチがジャンとライリーの元に行くのは、もうジェイミーが屋敷へ戻って来た後なのだ。
だから当然の流れとして、すぐに見つかって殴り倒されている。
リッチがノロマだから、フランクの行動が無駄になっているのだ。

リッチはジャンの元へ来た時に「必ず助ける。何とかする」と言っているけど、そんなことを喋っている間にも何か出来ただろ。だけど、そもそも何の策も持たずに妻子の元へ来ている感じなのよね。
結局、リッチはジェイミーから手術の続行を命じられ、フランクが深手を負いながらも屋敷へ戻り、ジャンの拘束を解く。リッチがジェイミーに殺されそうになって窮地に陥ると、ジャンが駆け付けて発砲する。
逃げ出したジャンをジェイミーが追い掛けている間に、リッチは拳銃を発見する。彼はジェイミーを追い掛け、射殺する。
最後はリッチがジェイミーを片付けているけど、彼がボンクラなせいで手間と時間が無駄に掛かっていると感じるぞ。

(観賞日:2022年5月7日)


第41回ゴールデン・ラズベリー賞(2020年)

ノミネート:最低助演男優賞[ブルース・ウィリス]
<*『アンチ・ライフ』『ハード・キル』『ナイト・サバイバー』の3作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会