『ハングリー・ラビット』:2011、アメリカ

ニューオリンズ。ボーデットという男は、ある男から取材を受けていた。「話してくれ、どんな組織なんだ」と問われ、彼は「私が喋った と知れたら、奴らに殺される」と怖気付いて逃げようとする。男は彼を捕まえて「待ってくれ。正しいことをしているんだ、勇気を出せ」 と座らせる。男は取材の様子を録画しており、「腹ペコのウサギは飛ぶ、の意味は?」と質問した。取材を終えたボーデットが駐車場で車 に乗り込むと、別の車が後ろから突っ込んで来た。ボーデットは車ごと転落し、命を落とした。
高校教師のウィルは音楽家の妻ローラとラフィット・ホテルへ出掛け、結婚記念日を祝った。ウィルの親友で校長のジミー、ローラと同じ 楽団のトルーディーの2人も、夫婦を祝福してくれた。帰宅したウィルは、ローラにルビーのネックレスをプレゼントした。翌日、ウィル は普段通りに出勤する。ウィルの勤務するランパート高校は荒れているが、彼は熱意を持って生徒たちを指導しようと努めている。しかし 反抗的なエドウィンのように、彼の熱意が全く伝わらない生徒も少なくない。
授業を終えたウィルは、チェス・クラブでジミーと勝負する。一方、ホールでの練習を終えたローラは帰宅するため車に乗り込むが、銃を 持った男に襲われてレイプされる。店を出たウィルは携帯電話をチェックし、病院へ駆け付ける。ローラは暴行を受けて重傷を負い、 鎮静剤で眠っていた。ウィルがロビーで座っていると、見知らぬ男が声を掛けてきた。彼は「2年前に私も似たような目に遭った。貴方の 気持ちは良く分かる」と言う。
その男が「奥さんを襲った男は3週間前に仮釈放されたばかりで、レイプの常習者だ。お望みなら、我々が解決しますよ」と語るので、 ウィルは「解決って、捕まえるのか」と訊く。すると男は「警察に引き渡せば、DNAの称号だけで半年は掛かる。それに裁判が始まれば 、奥さんは事件を何度も思い出すことになる。もし検察が裁判に勝ったとしても、犯人は11ヶ月服役するだけだ」と述べた。
ウィルが「アンタ、誰だ」と尋ねると、男は「私はサイモン。組織を代表して、君に会いに来た。被害者に代わって悪質な犯罪者を始末 する正義の組織だ」と答えた。困惑するウィルに、彼は「組織は金を要求しない。ただし見返りとして、後で頼みを聞いてもらう。簡単な 手伝いだ。どうするか、早く決めてくれ」と言う。一度は断ったウィルだが、サイモンが立ち去ろうとすると呼び止める。サイモンは 「正義を求めるなら、ガン病棟のカフェテリアの自販機でチョコバーを2つ買え」と告げて去った。
ウィルはカフェテリアへ行く、チョコバーを2つ購入した。自宅に戻ったレイプ犯は、侵入してきた男に銃を向けられる。その男は「女を レイプしただろ。俺の女房は3ヶ月前、お前のような男に殺された」と口にする。レイプ犯は銃を奪おうとするが、男に射殺された。家を 出た男は、どこかに電話を掛けて「腹ペコのウサギは飛ぶ」と告げる。ウィルの元に一人の男が来て、「保険の書類にサインをお願い します」と封筒を渡す。ウィルが封筒を開けると、射殺された犯人の写真とローラのネックレスが入っていた。
退院したローラは傷が癒えて、銃を買いたいと求める。ウィルは反対するが、ローラは撃ち方を練習し、銃だけでなく催涙ガスも購入した 。事件から半年が経過した頃、ウィルはサイモンから電話で呼び出された。サイモンは「オーデュボン動物園の入り口に郵便ポストがある 。明日の仕事帰りに立ち寄って、4時15分にこれを投函してくれ」と語り、封筒を差し出した。その宛名はサンタクロースになっている。 ウィルが「これで終わりだな」と訊くと、彼は「それは上が決める」と告げた。
翌日、ウィルがポストの前に来ると、サイモンから電話が入り、手紙を開封しろと指示してきた。ウィルが開けると、電話番号のメモ、 少女2人と母親の写真、そして一人の男の写真が入っていた。サイモンは「入場券を買って動物園の入り口で待ち、写真の親子連れを尾行 しろ。男が現れたらメモの番号に電話して、『腹ペコのウサギは飛ぶ』と言え。番号と写真は、覚えたら細かく破って捨てろ」と指示した 。ウィルは言われた通りに親子を尾行するが、男は現れなかった。
次の日、ウィルが授業を始めようとすると、ホワイトボードに昨日の電話番号が書かれていた。サイモンが学校に来たので、ウィルは 「言われた通りにした。写真の男は来なかった。もう終わりだ」と苛立った態度で言う。するとサイモンは「まだ借りが残ってる。約束は 守ってもらう」と告げて去った。ウィルは帰宅途中、見知らぬ男に封筒を渡される。開封すると、前回と同じ写真に加え、その男の詳細な 資料も入っていた。資料によると、男はレオン・ウォルザックという性犯罪者らしい。
ウィルはサイモンからの電話で、「明日の朝、君の車にトラブルが起きる。7番のバスで学校に向かえ。途中で降りて、ウォルザックに 体当たりして歩行者用スロープから突き落とせと。自殺に見せ掛けろ。防犯カメラ2つは壊してあるから大丈夫だ」と指令を受ける。翌日 、ウィルは命令に従わずに登校した。すると放課後にサイモンが現れ、「あの男は幼児ポルノを売ってる。何も知らない子供にセックス させてビデオを撮るんだ」と語る。ウィルは「そんな奴は報いを受けるべきだろうが、渡しには人殺しなんて無理だ。二度と現れないで くれ」と声を荒げ、バスで去った。
ウィルがローラとレストランで食事をしていると、サイモンが旧友を装って話し掛けて来る。「今日はローラと2人で食事をしたいんだ」 とウィルが言うと、サイモンは「電話してくれ」と葬儀社の名刺を渡して去った。ウィルが帰宅すると、冷蔵庫にマグネットで「選べ」と いう文字が示されていた。ウィルは葬儀社に電話を入れ、「サイモンに伝えろ、俺の妻に手を出すなと」と怒鳴った。家に戻ると、また 冷蔵庫に「選べ」のマグネットがあった。
翌日、ウィルはバスを途中で降り、スロープでウォルザックを待ち受けた。向こうからウォルザックが来たので話し掛けようとすると、 いきなり襲ってきた。ウィルが体当たりをかわすと、ウォルザックはスロープから転落して死亡した。ウィルは慌てて逃げ出す。一方、 ローラはウィルの車でネックレスを発見した。ウィルの元にサイモンから電話が入り、「良くやった。ウォルザックは死んだ。これで 終わりだ」と言う。ウィルは喧嘩しているエドウィンを殴り、停職処分になった。
帰宅したウィルはローラからネックレスを見せられ、「どこで見つけたの。誰が持ってたの」と問い詰められる。「君には話せない」と ウィルが言うと、ローラは怒って練習に出掛ける。ニューオリンズ警察のルデスキー刑事とグリーン刑事が家に現れ、アラン・マーシュ 殺害容疑でウィルを連行した。「アラン・マーシュって誰だ?」と狼狽するウィルに、2人はスロープに設置された防犯カメラの映像を 見せた。ウィルがウォルザックと思っていた男が、アラン・マーシュだった。
ウィルが「バスを待っていただけだ」と釈明すると、刑事たちはマーシュの携帯電話に残されていた動画を見せる。そこには、動物園に いるウィルの姿が撮影されていた。ウィルはマーシュが取材熱心な新聞記者だと聞かされて驚いた。取り調べを交代したダーガン警部補は 、心理テストのような質問を幾つか投げ掛け、「腹ペコのウサギは?」と言う。ウィルが「飛ぶ」と答えると、彼は手錠を外して逃げる 手順を説明した。ダーガンに「今逃げないと、自殺に見せ掛けて殺されるぞ」と言われ、ウィルは警察署から脱走した。
ウィルはトルーディーに電話を掛け、「ローラに伝えてくれ。明日、練習の時間に会いに行く」と告げた。深夜の高校へ侵入したウィルは 、パソコンでマーシュについて調べる、確かに優秀な新聞記者だと知る。次の日、ウィルは練習場から密かにローラを呼び出し、事情を 説明した。彼はローラに、ラフィット・ホテルに移って自分を待つよう指示した。ウィルはマーシュの死を仲間たちが悼んでいるパブへ 赴いた。そして彼は、マーシュが組織の暴露記事を書こうとしていたことを知った。マーシュは密告者が消されてから、別人のように 怯えるようになったという。
パブにサイモンの部下であるスカーとキャンサーが来たので、ウィルは慌てて逃げ出した。サイモンは「君が欲しがる物を持って来たぞ。 防犯カメラの映像だ。これがあれば人殺しじゃないと証明できるぞ」と言い、ウィルを誘い出そうとする。ウィルが無視して逃走すると、 スカーたちは発砲してきた。組織の連中はローラに刑事として接触し、「ご主人の潔白を示す証拠が見つかりました。署で確認を」と同行 を求める。車に乗せられたローラは、男たちが組織の人間だと気付き、催涙スプレーを噴射して逃げ出した。
ウィルはマーシュの勤務していた新聞社に潜入し、デスクからメモの束を盗み出す。ウィルはマーシュが借りていたボートを調べ、金属の 箱を見つける。その中にはDVDが入っていた。パトカーに追われたウィルは逃走し、DVDを再生する。そこにはボーデットの取材映像 が収められていた。ボーデットは「組織は性犯罪者や殺人犯、幼児を狙った犯罪者を始末していた。だが、この支部のボスであるサイモン は対象を広げすぎた。気に食わなければ誰でも殺す。支部のメンバーは数名しかいない。トラブルが起きれば支部を容赦なく切り捨て、 組織を守る。組織に借りが出来た人間にも協力させている」と証言していた。さらにDVDには、ジミーがサイモンと会っている写真も 収められていた…。

監督はロジャー・ドナルドソン、原案はロバート・タネン&トッド・ヒッキー、脚本はロバート・タネン&ユーリー・ゼルツァー、製作は トビー・マグワイア&ジェームズ・D・スターン&ラム・バーグマン、共同製作はデイヴ・ポーミア&ルーカス・スミス、製作総指揮は ジェンノ・トッピング&ジュリー・ゴールドスタイン&クリストファー・ペツェル&ダグラス・E・ハンセン、撮影はデヴィッド・ タッターサル、編集はジェイ・キャシディー、美術はデニス・ワシントン、衣装はキャロライン・エスリン・シェイファー、音楽はJ・ ピーター・ロビンソン。
出演はニコラス・ケイジ、ジャニュアリー・ジョーンズ、ガイ・ピアース、ハロルド・ペリノー、ジェニファー・カーペンター、ザンダー ・バークレイ、 アイアン・シングルトン、ウェイン・ペレ、マーカス・ライル・ブラウン、ダーカン・チュレイン、ジョー・クレスト、ディミトリウス・ ブリッジス、ジェイソン・デイヴィス、ブレット・ジェンティル、レンウィック・ドワイト・スコット、ジョー・ジェリーニ、アレックス ・ヴァン、シャロン・ランドリー、アシフ・タージ他。


『世界最速のインディアン』『バンク・ジョブ』のロジャー・ドナルドソンが監督を務めた作品。
ウィルをニコラス・ケイジ、ローラを ジャニュアリー・ジョーンズ、サイモンをガイ・ピアース、ジミーをハロルド・ペリノー、トルーディーをジェニファー・カーペンター、 ダーガンをザンダー・バークレイ、スカーをアイアン・シングルトン、キャンサーをウェイン・ペレ、グリーンをマーカス・ライル・ ブラウン、ルデスキー刑事をジョー・クレスト、エドウィンをディミトリウス・ブリッジスが演じている。

序盤、チェス・クラブにいるウィルと練習しているローラの様子がカットバックで描かれる箇所があるが、そこは少し引っ掛かる。
チェス・クラブには「携帯禁止」の張り紙があり、店に入ったウィルは携帯の電源を切る。それが描かれた後、練習しているローラの姿が 描写される。
だけどローラは練習中なら、ウィルの携帯がオンであろうとオフであろうと、関係が無い。
カットバックをやるのなら、ウィルが携帯の電源を切った後、練習を終えて帰路に就いたローラを描くところから始めた方が緊迫感が 出るんじゃないか。
っていうか、ウィルの携帯がオンであろうとオフであろうと、まるで意味が無いことなんだよな。ローラはレイプ犯に襲われた時、ウィル に携帯で助けを求めようとしたわけでもないし、助けを求めたとしても救えるわけじゃないし。
つまり、ウィルが事件を知った後で「自分が携帯電話の電源を切らなかったら、ローラを助けられたかもしれないのに」と後悔するような 流れに繋げられるわけじゃないので、わざわざ携帯の電源を切ったことを強調するような描写を入れている意味が無いのよ。

サイモンがウィルに接触するタイミングが、早すぎるように感じる。
ウィルがローラのレイプ被害を知った直後に接触しているけど、その段階だと、まだ頭の中が混乱していると思うのよね。
だから何を言われても、あまり頭に入って来ないんじゃないかと。
むしろ、少し時間を置いて、ウィルの中で犯人への怒りが強く湧き立ってきたタイミングを見計らって接触した方が、効果的なんじゃ ないかと。

それと、サイモンは「犯人はムショを出たばかりの常習犯」と言っているけど、それをウィルが信用するかどうかも微妙でしょ。 事件が発生した直後なのに、なぜサイモンが犯人の情報を知っているのかと、そこで疑問を持つかもしれんでしょ。
そりゃあ妻を襲った犯人への怒りはあるだろうけど、だからって、初対面の男が、ほとんど情報を与えない中で「犯人を始末してやろうか 」と持ち掛けたところで、殺人を依頼したくなる奴って、そんなに多くないように思えるんだよね。
犯人の素性が見えない時点での被害者遺族って、まずは「犯人を見つけ出したい」ってのが先で、その正体が分かった上で「復讐したい」 っていう思考回路になるんじゃないかと。

「犯人の正体を全く知らないまま、復讐を依頼する」って、ちょっと解せないんだよなあ。まあウィルは依頼してるけどさ。
でも、犯人の正体が分かった上で、報復したいと考える人の方が多いんじゃないかなあと。誰か良く分からん奴が、自分の全く知らない ところで殺されても、それって報復になってないでしょ。
例えば、犯人の正体が分かっていて、だけど警察に逮捕してもらえるだけの証拠が無かったり、何らかの事情で手が出せない相手だったり して、でも自分で殺すほどの覚悟や勇気も持てなくて苦悩しており、そこにサイモンが代理殺人を持ち掛けるということなら、すごく納得 できるんだけど。
それと、たまたま犯人がネックレスを奪っていたから、それをウィルに渡すことで「その写真の奴が犯人ですよ」という証拠になっている けど、もし何も奪っていなかったり、奪った物品が見つからなかったりしたら、どうやってウィルに「間違いなく犯人を殺しましたよ」と いうことを伝えるつもりだったのかと。

とにかく、「組織の行動に無理が多いなあ」「シナリオに粗が多いなあ」と感じてしまうんだよね。
勢いやパワーだけで乗り切れるような類の映画じゃないので、もっと繊細に設定を作り込まないと、厳しいんじゃないかと。
サイモンが個人的に、あるいは少数の素人集団として、交換殺人をやっているというのなら、その行動に穴が多すぎるのも、まだ受け 入れられたかもしれない。
だけど、どうやらプロと言ってもいいような集団、それも相当に大掛かりな集団っぽいんだよね。

そういう裏の組織が、わざわざ防犯カメラを壊したりしてお膳立てを整えて、その上で素人に人殺しをやらせるのって、あまり賢くないと 思うんだよね。
そこまでやるのなら、テメエたちで殺した方がいいんじゃないかと。そうすりゃ隠蔽工作だって、キッチリとこなせるはずだし。
素人に「自殺に見せかけて殺せ、証拠は残すな」と要求しても、そりゃ難しいでしょ。
っていうか、レイプ犯に関しては銃殺だから明らかに「他殺」ってことで警察が動くし。

で、素人ばかりで殺しをやらせているんだから、必ずヘマをしたり、証拠を残したりして、捕まっちゃう奴もいるはずでしょ。実際に ウィルは捕まっているし。
その時に、捕まった奴が組織のことを言わないという保証は無いよね。っいうか、たぶん言う奴もいるよね。
そういう諸々を考えた時に、どう考えても、組織のやっていることはリスクが大きすぎるんじゃないかと。
それだけのリスクを負ってまで、わざわざ素人に殺人をやらせる意味って、何なのかと。

組織の人間が学校や家に侵入してまでウィルに任務の遂行を促しているけど、気付かれずにそういうことをやれるスキルを持つ連中がいる のなら、そいつらが犯人を殺せばいいじゃねえか。
どうやら今までは、ヘマして逮捕された奴は組織に消されているらしく、警察内部にも組織の奴がいるんだけど、だったら、ますます素人 にやらせる意味が無い。
組織の人間が殺しをやって、その隠蔽工作に警察内部の仲間が協力するという方式を取れば、遥かにリスクは少ないはずでしょ。

組織がレイプ犯の情報を知っているってことは、たぶん警察が絡んでいるから知り得た情報だよね。それだけの情報網もあるんだし、素人 を巻き込んでリスクを冒す意味が分からない。
「実は正義の組織というのは建て前で、別の目的があるから素人を巻き込んでいる」というドンデン返しがあるならともかく、そうじゃ ないんだからさ。
「犯罪者を駆逐する正義の組織」という団体なんだから、テメエたちだけで正義を遂行すればいいでしょ。
特に、組織を追っていた新聞記者を始末するのは、支部のメンバーがやるべきでしょ。
向こうは警戒心を強めており、素人が殺すのは難しそうなんだからさ。

(観賞日:2013年1月15日)


第33回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演男優賞[ニコラス・ケイジ]
<*『ゴーストライダー2』『ハングリー・ラビット』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会