『ボーダー』:2008、アメリカ

NY市警のベテラン刑事であるタークが証言するビデオの映像を、内務調査班のステインとロジャースが見ている。タークはカメラに 向かい、「俺の名前はデヴィッド・フィスク。これまでに14人を殺した」と語った。彼は「きっかけはチャールズ・ランドルだ。奴は 4年前に恋人の娘を殺したが、無罪放免となった」と言葉を続けた。タークは許せないと考え、証拠を捏造することにした。30年前から コンビを組む相棒のルースターは「やめるんだ。俺はお前を規範にしてきたんだ」と説くが、タークは「俺が勝手にやることだ」と言う。 彼は拳銃をランドルの家に隠した。ランドルは有罪となった。
数週間前、タークとルースターは麻薬組織の頭領であるスパイダーをマークしていた。スパイダーは潰れた銀行を買い取ってクラブにして いる。それは資金洗浄のための店だ。クラブに潜入したタークは、トイレでドラッグを吸う女弁護士ジェシカと話し、スパイダーから入手 したことを聞き出した。タークは鑑識班に勤務する恋人カレン・コレリのアパートへ行き、彼女と激しいセックスをした。
タークはビデオカメラに向かい、さらに「ポン引きのランボーは10番目に殺した。俺は清掃人。ゴミを始末して追悼のための詩を残す」と 語った。ランボーが殺された翌日、タークは上司のヒンギス警部補に「我々はランボーの事件よりデカいヤマを追ってる。スパイダーを 追い詰めている」と述べた。ジェシカのことを語ると、ヒンギスは「協力者に仕立てて潜入させろ」と指示した。タークとルースターは ジェシカに会い、犯罪歴を抹消する代わりに協力することを承諾させた。
ジェシカは盗聴器を取り付けられ、タークたちの指示を受けてスパイダーのクラブヘ赴いた。ジェシカは「スキー旅行に行くのでヤクが 欲しい」と持ち掛けるが、すぐにスパイダーは盗聴されていることを見抜いた。タークとルースターが慌ててクラブヘ行くと、スパイダー は発見した盗聴器を投げ渡した。その場から去ろうとしたルースターは、隠れて銃を構えているスパイダーの手下に気付く。タークと ルースターは手下を射殺し、スパイダーを逮捕した。ジェシカは手下に撃たれ、怪我を追って入院した。
捜査の失敗を受け、内務調査班の捜査が入ることになった。ステインたちの質問に、タークとルースターは行動の正当性を主張する。2人 は精神科医プロスキーの診断を受けさせられた。プロスキーはメモ帳を渡し、自分について書き留めるよう促した。タークは後輩刑事の ペレスとライリーに、トレガーという銃の売人が殺された事件について尋ねる。現場に詩が残されていたと聞き、タークはルースターに 「ランボーの時と同じ犯人だ」と言う。カレンによると、使用された拳銃は盗品の45口径だという。
タークとルースターは、連続レイプ事件の容疑者ヴァン・ライテンの裁判に出廷した。明らかに有罪であるライテンが不起訴になったため 、2人は納得できずに怒りを露呈する。翌週、ライテンは自宅で射殺され、現場には詩が残された。タークやルースターたちは、過去の 事件を洗い直す。その結果、2003年にエリス・リンドという男が殺された事件が始まりだと判明する。タークはジェシカに、スパイダー からドラッグを買ったという証言を要請した。
カレンはランドル事件の証拠品に疑問を抱き、ルースターに「現場から拳銃が発見されたのは他の現場と違う」と告げた。ルースターから 話を聞かされたタークは、「すまんな。どうなろうと責任は俺一人で負う」と謝った。ルースターは「あいつを牢獄にぶちこめたんだ。 あれは正しい行為だった」と告げる。ルースターは詩を現場に残す連続殺人犯について自身の分析を語り、犯人は警官だという推理を提示 した。ペレスやライリーたちは納得するが、タークだけは「俺は認めない。可能性があるというだけだ」と否定した。
タークはルースターたちに、「元警官という可能性はどうだ。元警部補のマーティン・バウムが数年前、クビになっている。仲間の汚職を 揉み消そうとして、告発を逃れて依願退職をした。俺は奴に不利な証言をした」と語る。タークとルースターがカレンの元へ行くと、彼女 はFBIから届いた詩の紙と筆跡の鑑定レポートを見ていた。タークは「それを戻せ」と声を荒げ、カレンの作業を妨害した。
ペレスはライリーに、「どうしてタークは詩の一件にこだわるんだ。俺たちに手を出すなと言っているようなものだ」と不満を漏らす。 ライリーも彼に同意した。2人はバウムを張り込んでいた。タークはカレンの留守中、合鍵を使ってアパートに侵入した、彼はパソコンを 勝手に開き、カレンがリンドとランドルの検死報告を調べていることを知った。バウムはペレスたちの張り込みに気付いて接触し、自分が 殺しのあった日にブラジルへ出掛けていた証拠を示した。
コネル神父が教会で射殺された。翌朝、教会にやって来たタークは、ルースターに「彼は俺の知り合いだ」と言う。ペレスとライリーは プロスキーに会い、犯人像について質問する。プロスキーは「犯人は逮捕されることを望んでいる。キリが無いからだ。犯人は自己顕示欲 が強い。称賛されたいと思っている」と述べた。ペレスとライリーはタークが犯人だと確信し、ヒンギスにそのことを告げた。
ペレスたちはヒンギスに教会の記録を渡し、「タークはコネルを追っていた。コネルは過去20年で8つの教区を転々としている。おそらく 子供に悪戯をしたんですよ。タークはそれを知って殺した」と語った。タークはヒンギスからコネルとの関係性を問われ、「何も無い」と 答えた。ヒンギスはルースターに、「ペレスとライリーが、タークは信用できないと言っている」と言う。ルースターは「タークは犯人 じゃない。長い付き合いだ、間違いない」と告げた。
ルースターはカレンに会い、「タークの力になりたい。内密に調べてほしいことがある」と語る。彼はペレスとライリーに連絡を取り、 ダーツバーで会う約束を取り付けた。ルースターはシェリル・ブルックスという女を連れて、店にやって来た。シェリルの娘リンは4年前 、強姦されて殺された。10歳だった。殺したのはシェリルの夫だったチャールズ・ランドルだ。シェリルが脅されて「一緒にいた」と証言 したため、ランドルは無罪放免となった。
ルースターはシェリルに事件のことを喋らせ、店から帰らせた。彼はペレスとライリーに、「俺たちは奴の証拠を捏造した。必要なら俺は 何度でもやる。タークを疑っているようだが、奴じゃない。お前たちに協力する代わり、ランドルの拳銃の一件は内緒にしろ。奴が釈放 されたら俺が射殺する」と告げた。タークはヒンギスの命令でデスクワークに異動させられ、ルースターの前で苛立ちを示した。
タークはレストランでルースターと食事をしながら、「ペレスの経歴を調べた。奴が大学出身というのは経歴詐称だ。1年で追い出されて いる」と語る。その店では、マフィアの連中が仕事仲間のロシア人イェフゲニーと会食していた。イェフゲニーが大声で楽しそうに話す 様子を見たタークが「イライラするぜ」と言うので、ルースターは「落ち着けよ。今はトラブルを起こすとマズいぞ」となだめた。店を 出たエフゲニーは、犯人に撃たれた。そのまま犯人はペレスの家へ行き、発砲した。
カレンは尾行に気付き、急いで部屋に入った。すると室内には詩のメモがあった。そこへタークが来て、「リンドやランドルの検死報告を 見たぞ。何を隠してる?」と詰め寄った。カレンは質問に答えず、詩のメモを渡して「筆跡が違う。偽物よ。貴方がやったの?」と逆に 問い掛けた。タークが「お前はペレスと付き合いが長い」と嫉妬心を示すので、カレンは「仕事上よ。何も無いわ」と告げる。タークは 「ペレスたちの動きを全て教えろ。奴らは俺を疑ってる。カレン、俺を裏切るなよ」と険しい顔付きで言う。
イェフゲニーは死んでおらず、意識不明の状態で集中治療室に運び込まれた。翌朝、ルースターとライリーが病院へ赴いた。ライリーは イェフゲニーに「犯人は誰だ」と呼び掛けるが、危険だと判断した担当医が止めた。しかし危険と判断してドクが止める。短期間で出所 したスパイダーは、タークに電話して「トレガーの銃は他の事件にも使われている。その流れを追い掛けてみろ」と告げた。
スパイダーは金曜21時にクラブでタークと会う約束を交わし、電話を切った。それはペレスとライリーが脅しを掛けてやらせたことだった 。2人はタークを罠に掛け、犯人であることを証言させようと目論んでいた。犯人は集中治療室にいるイェフゲニーを始末しようとするが 、見張りの警官が来たため失敗に終わった。予定の変更を余儀なくされた犯人は、カレンの部屋に侵入して彼女をレイプした…。

監督はジョン・アヴネット、脚本はラッセル・ジェウィルス、製作はロブ・コーワン&アヴィ・ラーナー&ランドール・エメット&ジョン ・アヴネット&ラティー・グロブマン&アレクサンドラ・ミルチャン&ダニエル・M・ローゼンバーグ、共同製作はマーシャ・ オグレズビー、製作総指揮はダニー・ディムボート&ボアズ・デヴィッドソン&ジョージ・ファーラ&トレヴァー・ショート、撮影は デニス・レノア、編集はポール・ハーシュ、美術はトレイシー・ギャラハー、衣装はデブラ・マクガイア、音楽はエドワード・シェアマー 。
出演はロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョン・レグイザモ、ブライアン・デネヒー、カーティス・ジャクソン、カーラ・ グギーノ、ドニー・ウォールバーグ、トリルビー・グローヴァー、シャーリー・ブレナー、メリッサ・レオ、オレッグ・タクタロフ、 アラン・ローゼンバーグ、アラン・ブルーメンフェルド、ロブ・デューデック、 サイダー・アーリカ・エクロナ、スターリング・K・ブラウン、バリー・プリマス、フランク・ジョン・ヒューズ、テリー・セルピコ、 ライザ・コロン・ザイアス他。


『北京のふたり』『88ミニッツ』のジョン・アヴネットが監督を務めた作品。
脚本は『インサイド・マン』のラッセル・ジェウィルス。
タークをロバート・デ・ニーロ、ルースターをアル・パチーノ、ペレスをジョン・レグイザモ、ヒンギスをブライアン・デネヒー、 スパイダーをカーティス・ジャクソン、カレンをカーラ・グギーノ、ライリーをドニー・ウォールバーグ、ジェシカをトリルビー・ グローヴァー、シェリルをメリッサ・レオ、イェフゲニーをオレッグ・タクタロフが演じている。

この映画を製作したのは、Overture filmsとMillennium films。
あのミレニアム・フィルムズがロバート・デ・ニーロとアル・パチーノの共演作を手掛けるとは、時代も変わったものだ。
ミレニアム・フィルムズが製作会社としてランクアップしたのか、デ・ニーロとパチーノのランクが下がったのか、その辺りは、まあ 何となく分かるけど、曖昧にしておこう。
なお、本作品を買い付けた配給会社ムービーアイ・エンタテインメントが倒産したため、日本では公開が危ぶまれたが、日活が配給権を 獲得して公開された。

「ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが本格的な共演を果たした初めての作品」というのが、本作品の最大の(そして唯一と言っても いいかもしれない)セールスポイントだろう。
しかし、10年ぐらい遅かったなあというのが正直な印象だ。
残念ながら2008年の段階では、もはや2人とも「一昔前の大物スター」という位置付けになってしまっている。
『ヒート』の頃なら、まだ2人ともバリバリの大物スターだったんだから、あの時にちゃんと「共演」しておけば良かったのに。

あと、キャラ設定に無理があって、デ・ニーロにしろアル・パチーノにしろ、もはやベテラン刑事と言うより、リタイアしているぐらい の年齢なのよね。デ・ニーロは1943年、アル・パチーノは1940年の生まれだから、どっちも60オーバーなのよ。アル・パチーノに至っては 、ほぼ70歳だ。
「実年齢より遥か若く見える」という俳優なら何とかなったかもしれないが、年相応に老けて見えちゃうし。
2人をカッコ良く見せるにしても、イケてるベテラン刑事コンビじゃなくて、イケてるジジイどもにしておいた方が良かったんじゃないか 。タークが草野球でハッスルするとか、女と激しいセックスをするとか、そういうのは、さすがに無理があるぞ。
タークがベンチプレスで体を鍛えているのも、「老体に鞭打って頑張っている」というキャラ設定ならともかく、その年齢に合った フィジカルトレーニングという感じの描写になっている。
劇中、タークやルースターに対して、「ジジイなのに無理をしている」という指摘は全く無い。

タークの「今までに14人を殺した」などという告白映像が、何度も挿入される。さらに、彼が草野球の判定に熱くなるなど、彼が犯人で あることが何度もアピールされている。
でも、そのアピールがあまりにも露骨なので、逆に「こいつは犯人じゃないな」と思ってしまう。
で、タークが犯人でないとすると、もはや他の容疑者候補って、1人しかいないんだよね。
そいつを犯人とする伏線は薄弱だけど、でも奴しかいないなあと思っていたら、その通りになる。

本作品は前述したように、タークの告白映像でミスリードを狙ったりして、ミステリー・サスペンスとしての意識が高い構成になっている 。
でも、それって邪魔な意識なんだよね。
これって、どう考えても「大物2人の共演」を最大限に活かすような作品として仕上げるべき映画でしょ。つまり、タークとルースターの コンビの面白さ、そこの魅力を見せるバディー・ムービーにすべきではないかと。つまり、序盤はタークとルースターのキャラクターや、 いかに固い絆で結ばれた長年のコンビであるかを、丁寧にアピールすべきなのだ。
しかし実際には、タークが草野球の判定を巡ってカッとなる様子や、ルースターがチェスで勝つ様子がタイトルロールで 描かれる程度。
この2人の関係性も、ただ「相棒」という程度にしか示されない。
っていうか、それ以降も、ルースターはタークの相棒という以上の扱いはされていない。キャラ先行じゃなくて、完全に物語重視なん だよね。それは企画がセールスポイントと合致していない。
デ・ニーロとアル・パチーノが共演するんだったら、この企画をチョイスした時点で失敗だよ。

「大物2人の共演」という部分を度外視して、仮に別の俳優だったと仮定しても、やはり構成としては失敗していると思う。
なぜ10番目の殺人を最初に描くのか。最初の犯行があって、そこにポエムが残されていて、そこから順番に描いて「被害者の共通点は これで、だから怪しいのはこういう人物で」と順に描いた方がいい。
それにタークの証言映像も邪魔で、それだと犯人の動機は最初から分かっていて、しかもタークが犯人じゃないこともバレバレで、そう なると容疑者が絞り込まれてしまう。
で、そこの予想を外すようなドンデン返しは無い。
用意されているドンデン返しが、予想通りの展開でしかなくなってしまう。
だからって、まんまタークが犯人だったら、その構成が効果的だったのかというと、そういうことでもないし。

完全ネタバレだが、犯人はルースターだ。で、そのルースターが、ペレスとライリーに「お前らに協力する代わり、ランドルの拳銃の一件 は内緒にしろ。奴が釈放されたら俺が射殺する」と話すシーンがある。
このシーン、ルースターが犯人だったことを観客に明かしているのか、そうじゃないのかがボンヤリしている。
その後でタークがペレスを疑うようなシーンがあったりするので、明かしているつもりは無いようだ。
でも、こっちとしたら、もうルースターが犯人なのはバレバレなので、そこが「ルースターがタークを擁護するために嘘をついている」と 解釈すべきシーンであっても、そのようには受け取れないんだよな。

ルースターがカレンをレイプするのは、ワケが分からない。
顔を見せてレイプしているから、カレンにバレちゃってるし。
「イェフゲニーを殺し損ねたから計画を変更せざるを得なくなり、カレンをレイプする」って、どういうことなのか。
その時点ではタークが犯人だというミスリードが続いており、だから「カレンがペレスと密通していると思い込んだタークがカッとなって レイプした」という解釈なら理解できるんだけど、ルースターが犯人だと明らかになった途端、意味不明な行動になってしまう。
ミスリードのために用意された展開だとしても、真犯人が明らかになった途端、それが支離滅裂な行動にしか見えないようでは ダメでしょ。

タークの証言映像は、実はルースターがスパイダーを射殺した後、自分のメモ帳を彼に渡して読ませているものだ。
このことは終盤になって明らかになるが、どうしてタークに監視カメラの前で読ませるのか、ワケが分からない。
ここもカレンのレイプと同様で、先に「観客をミスリードしよう」という狙いがあって、そのための仕掛けが、こじつけに なっている。
ペレスの家に発砲するのも、そうだよな。それって、タークに疑いを抱かせるための仕掛けだったのかと思ったら、むしろルースターは タークの罪まで被ろうとしているし。
そうなると、どうしてペレスの家に発砲したのか、まるで分からないぞ。

ドンデン返しの後の展開は、本来なら「ずっと信じていた相棒が犯人だった。しかし自分の罪を被って死のうとしている。彼は自分に射殺 されることを求めて挑発してくる。どうすればいいのか」というタークの苦悩や葛藤、ルースターのタークを慕う強い気持ち、そういった モノに心が揺り動かされるように出来ているべきなんだろう。
でも、前半でタークとルースターのキャラクターや絆を充分に描写していないので、厚みのあるドラマとして機能していない。

(観賞日:2012年5月5日)


第29回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演男優賞[アル・パチーノ]
<*『88ミニッツ』『ボーダー』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会