『僕はラジオ』:2003、アメリカ

1976年、サウスカロライナ州アンダーソン。知的障害を持つ黒人青年のジェームス・ロバート・ケネディーはショッピングカートに鞄や枝を入れて、町を歩き回った。彼はハナ高校の前を通りかかり、フットボール部の練習風景をフェンス越しに眺めた。イエロー・ジャケッツの愛称で呼ばれるフットボール部は開幕を1週間後に控え、練習に熱が入っていた。ヘッドコーチのハロルド・ジョーンズは、家でも試合の映像を見て熱心に研究していた。
翌日、ボールが校庭の外へ出たので、部員のジョニー・クレイは見ていたジェームスに取ってくれと声を掛けた。ジェームスがボールをカートに入れて持ち去ろうとするので、ジョニーはハロルドに「ボールを取られた」と訴える。しかしハロルドは何も言わず、ジェームスを見送った。次の日、ハロルドはジョニーと仲間たちがジェームスを縛り、体育倉庫に閉じ込めたことを知る。彼はジェームスを解放し、ジョニーたちに罰として厳しい練習を課した。
ハロルドはダニエルズ校長から、「あの若者は以前から辺りをうろついてるが、他人に迷惑を掛けたことは一度も無かった。今後もそうあってほしい」と告げられた。ハロルドの娘のメアリーはハナ高校の2年生で、チアリーダーになっていた。ハロルドは妻のリンダから、保護者会の欠席を咎められた。彼が「親が教師なら出席は不要だ」と言うと、リンダは「行くのを忘れたと白状しなさい」と告げる。「私には選手がいる」とハロルドが語ると、彼女は「娘のために時間を作ってやって」と説く。ハロルドが「明日、担任と会えば満足だろ」と口にすると、リンダは「私じゃないの。あの子の高校生活は今年と来年で終わりなの」と考えを改めるよう諭した。
イエロー・ジャケッツは開幕戦に勝利し、ハロルドは離れた場所で見ているジェームスに気付いた。ハロルドはデル&ドン理髪店へ行き、仲間たちと会った。ジョニーの父であるフランクは、強豪のイーズリー校と当たる次戦について対策を尋ねた。ハロルドは次戦に向けた練習の最中、ジェームスに気付いた。彼はコーチのハニカットに「彼は何がしたいのかな。喉が渇いてるのかも」と言い、水を持って行くよう指示した。練習が終わると彼はジェームスに話し掛け、コーチの部屋に招き入れてハンバーガーを御馳走した。
ジェームスはラジオに興味を示し、ハニカットは「使ってないから、気に入ったならプレゼントする」と告げた。ハロルドはジェームスを車に乗せ、家まで送り届けることにした。貰ったラジオを抱えるジェームスの名前を知らないハロルドは、「ラジオ」と呼ぶことにした。彼はラジオに、「明日も練習に来るといい」と告げた。翌日、ハロルドは部員たちにラジオを紹介し、「今後は彼が練習を手伝う」と言う。手伝いを始めたラジオは全く役に立たず、それどころか邪魔になる行動も取った。
イエロー・ジャケッツはイーズリー高に敗れるが、その後は勝利が続いた。ラジオは練習の手伝いにも少しずつ慣れていき、試合会場では観客から拍手を浴びる人気者になった。ハロルドが理髪店へ行くと、フランクは軽く笑いながら「運動部か慈善団体か分からない」と口にした。ハロルドはラジオの母であるマギーに、遠征試合でチームバスに乗せたい考えを伝えた。「息子さんはどこが悪いんですか」と彼が訊くと、マギーは「医者も病名は分からないと。頭の回転が遅い以外は、他の人間と同じです」と答えた。
ダニエルズはハロルドからチームバスにラジオを乗せたいと言われ、「生徒ではないので乗せられない」と却下した。ハンプトン高との試合に敗れたイエロー・ジャケッツは、プレーオフへの進出を逃した。ハロルドはラジオを遠征に連れて行けなかったお詫びとして、最後の試合ではチームの先頭に立たせて一緒に入場させた。ラジオはハロルドの隣に立ち、試合を見学した。ラジオはハロルドの指示を大声で叫び、そのせいで相手に作戦を知られた。ハロルドが審判に罵るとラジオは真似をして、チームがペナルティーを受けた。前半はリードを許したイエロー・ジャケッツだが、後半に入るとジョニーの活躍もあって逆転勝利を収めた。
ハロルドは理髪店を訪れ、試合を振り返って満足そうな様子を見せた。しかしフランクは「全試合の半分を負けるようなチームじゃない。余計なことに気を取られている」と言い、ラジオの存在が迷惑を掛けていることを指摘した。ハロルドは不快感を覚え、すぐに店を出た。彼は外にいたハニカットに、自分の行動が正しいと思うかどうかを尋ねた。ハニカットは彼に、全ては自分次第だと告げる。ハロルドは「ラジオに仕事を与えてやりたい」と言い、バスケットボール部に掛け合うよう頼んだ。
ダニエルズはハロルドがラジオを教室に入れていると知り、「試合と違って、授業の邪魔は困る。目を離さないで」と釘を刺した。理事会のタッカーが学校を訪問し、ラジオの件を調査した。彼はハロルドとダニエルズに、「今まで知的障害者が校内に入った例は無い。危険は大きいですよ」と告げた。ハロルドはダニエルズに、「ラジオは何もしませんよ」と述べた。クリスマス、多くの町民がラジオのためにプレゼントを用意し、ハロルドが家まで届ける仕事を引き受けた。メアリーが「みんながラジオに同情してるのね」と言うと、ハロルドは「彼は同情なんか求めない。嫌がる」と語った。
ハロルドが「最近、会話の機会が無いな」と言うと、メアリーは「機会はあるのに、パパが話そうとしない」と指摘した。しかし彼女は笑顔を浮かべ、「私なら平気」と口にした。ハロルドはラジオの家へ行き、自分と妻が用意したラジオをプレゼントした。翌朝、新任警官が何も知らず、ラジオを窃盗犯と誤解して警察署に連行した。先輩警官たちは留置されたのがラジオだと気付き、すぐに釈放した。身柄の引き取りにハロルドが赴くと、新任警官は気まずそうな表情を浮かべていた。
ジョニーと仲間たちはラジオに「先生が呼んでる」と嘘を吹き込み、女子更衣室を覗かせた。ハロルドから事情を追及されたラジオは、ジョニーたちの指示があったことを言わなかった。しかしハロルドはジョニーの仕業だと見抜き、彼に「明日の試合には出さない」と通告した。ダニエルズはジョニーから訴えを受けるが、ハロルドの決定を尊重した。その夜、ハロルドはマギーが心臓発作で急死したことを知り、泣いているラジオを慰めた…。

監督はマイケル・トーリン、脚本はマイク・リッチ、製作はマイク・トーリン&ブライアン・ロビンス&ハーバード・W・ゲインズ、製作総指揮はトッド・ガーナー&ケイトリン・スキャンロン、製作協力はティエール・ターナー、撮影はドン・バージェス、美術はクレイ・A・グリフィス、編集はクリス・レベンゾン&ハーヴェイ・ローゼンストック、衣装はデニース・ウィンゲート、音楽はジェームズ・ホーナー、音楽監修はローラ・ワッサーマン。
出演はキューバ・グッディングJr.、エド・ハリス、デブラ・ウィンガー、アルフレ・ウッダード、S・エパサ・マーカーソン、ブレント・セクストン、クリス・マルケイ、サラ・ドリュー、ライリー・スミス、パトリック・ブリーン、ビル・ロビンソン、ケネス・H・カレンダー、マイケル・ハーディング、チャールズ・ガーレン、レベッカ・クーン、ハイ・ベッドフォード・ロバーソン、マイケル・クローカー、マーク・エリス、シェリー・リード、エヴァン・アルドリッチ、メーガン・コフマン、ベンジャミン・L・ピータースJr.、レナード・ウィーラー、テロンド・ジャスティン・アダムス、オセロ・コールマン三世、バート・ビートソン、タイ・オファレル、ドロシー・マクドウェル他。


スポーツ専門誌に掲載された実話を基にした作品。
監督は『サマーリーグ』のマイケル・トーリン。
脚本は『小説家を見つけたら』『オールド・ルーキー』のマイク・リッチ。
ラジオをキューバ・グッディングJr.、ジョーンズをエド・ハリス、リンダをデブラ・ウィンガー、ダニエルズをアルフレ・ウッダード、マギーをS・エパサ・マーカーソン、ハニカットをブレント・セクストン、フランクをクリス・マルケイ、メアリーをサラ・ドリュー、ジョニーをライリー・スミス、タッカーをパトリック・ブリーンが演じている。

ハロルドはジョニーから「ボールを取られた」と言われた時、何の反応も示さずに聞き流している。それはダメだろ。
そもそもボールが持ち去られるのを黙認している時点で問題はあるが、せめてジョニーに「構わないから、そのまま行かせてやれ」とでも言ってやれよ。無言で終わらせるのは、部員に対して冷たい奴だと感じるぞ。
ハロルドって部員には厳しい練習を課す一方で、ラジオに対しては無条件で甘やかし、何があっても叱らない。それは部員から、不公平で理不尽だと思われても仕方が無いだろう。
なぜラジオだけ特別扱いするのか、それについて何の説明も無いしね。

ハロルドが個人的な思いでラジオに優しくするのなら、それは自由にやればいい。でも、そこにフットボール部を巻き込むのは、身勝手な行動に感じる。
周囲の了解を得るための作業は無くて、いきなり「ラジオが練習を手伝う」と一方的に通告しているし。丁寧な説明をして地均しをするとか、段階を経て少しずつ仕事を増やしていくとか、そういうことは全く無いのよね。
しかも当然のことながらラジオは何の経験も無いので役に立たないし、それどころか練習の邪魔になっているし。
試合に向けて大事な時期なのに、そのせいで集中力を研がれるし、部員からすると、たまったモンじゃないだろう。

ハロルドは母の急死で悲しむラジオを慰めた帰り、同行したメアリーに「話したいことがある」と告げて幼少期の出来事を明かす。
12歳の頃、ハロルドは早朝の新聞配達の仕事をしていた。ある朝、森の近道を通った時、彼は地下の金網に閉じ込められている同年代の少年を目撃した。
何か問題を抱えていたのだろうと推測したハロルドは、その少年と目が合った。それから2年間、ハロルドは同じ道を通ったが、何もしなかった。
ようするにハロルドは、その時のことを悔いていて、それがラジオへの対応に繋がっているのだ。

ハロルドがラジオを特別扱いしてチームに深く関与させるのは、慈愛の精神が云々とかいう問題じゃない。個人的な感情だけで走っており、完全なるエゴだ。
周囲から批判の声が出ても、それは差別でも何でもなく当然だと感じる。
フランクから批判の声が出るのは、ハロルドが招いた事態だ。例えラジオが健常者だとしても、いきなり部外者をチームに加えたら、そりゃあ不快感を覚える人がいても仕方が無いだろう。
しかも、ラジオはコーチの指示を対戦相手にバラしたり、審判を罵ってペナルティーを受けたりするんだから、チームに迷惑も掛けているし。

それでもチームが勝っていればともかくプレーオフ進出を逃しているので、フランクが「余計なことに気を取られている」と批判するのも理解できる。ハロルドがチームよりもラジオを優先しているように感じるのだ。
この不公平感は、別の部分でも見られる。それは、ラジオが女子更衣室を覗いた事件の処理。
ラジオを騙したのはジョニーだけでなく、他にも数名の選手が関与していた。それなのにジョニーだけを非難して試合から外すのは、決して適切な対応とは言えないだろう。
ラジオを守りたいがために、ハロルドが指導者としてのバランス感覚を見失っているんじゃないかと。

実はハッキリとした形でラジオを排除しようとするのって、フランクぐらいなんだよね。フットボール部員は迷惑を掛けられているはずなのに、あっという間にラジオと仲良くなって受け入れる。
それは都合が良すぎるんじゃないか。
ラジオがチームのマスコット的な存在として人気者になるのも、やはり都合が良すぎると感じる。
結局、フランクという個人だけを憎まれ役に据えて、「アンダーソンの人々は最初からラジオに好意的だった」という見せ方にしているのは、どうにも偽善と欺瞞を感じてしまうなあ。

ハロルドはメアリーから「みんながラジオに同情してるのね」と言われ、「彼は同情なんか求めない。嫌がる」と口にする。
だけど町民が多くのプレゼントを用意するのは、間違いなく同情心でしょ。
それに、ハロルドがラジオに手を差し伸べたのだって「可哀想」と思ったからであって、それも同情でしょ。
ラジオの周囲で、同情心ゼロで動いている人間なんて、ほとんどいないように見えるぞ。
同情による行動を全面的に否定したら、この話は成立しなくなるぞ。

「ラジオは危険」という考え方には、偏見や差別に当たるかもしれない。ただし、ちゃんとして手続きを経ないでラジオを教室に入れたり、授業に参加させたりするハロルドの行為には、大いに問題がある。ラジオは生徒じゃないんだから。
なので、ハロルドの行動を無条件で「正しいこと」と称賛し、全面的に肯定するのは、慈愛の精神を履き違えているようにしか思えない。
そういうのは、周囲の協力や理解があってこそのモノだ。ハロルドの独断専行は、下手をすれば軋轢を生むことに繋がる。
周囲の面々は大半が理解して協力してくれているし、大きな問題は起きていないけど、それは結果論に過ぎないからね。

(観賞日:2023年6月29日)


第24回ゴールデン・ラズベリー賞(2003年)

ノミネート:最低主演男優賞[キューバ・グッティングJr.]
<*『バナナ★トリップ』『ファイティング・テンプテーションズ』『僕はラジオ』の3作でのノミネート>


第26回スティンカーズ最悪映画賞(2003年)

ノミネート:【最悪の主演男優】部門[キューバ・グッティングJr.]
<*『バナナ★トリップ』『ファイティング・テンプテーションズ』『僕はラジオ』の3作でのノミネート>
ノミネート:【最悪のカップル】部門[キューバ・グッティングJr.&彼との共演を強いられた任意の俳優]
<*『バナナ★トリップ』『ファイティング・テンプテーションズ』『僕はラジオ』の3作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会