『ピクセル』:2015、アメリカ&中国&カナダ
1982年の夏。サム・ブレナー少年は友人のウィル・クーパーを誘い、近くに開店したゲームセンターへ遊びに出掛けた。サムは初めて遊ぶゲームでも、動きのパターンを読んで高得点を叩き出した。一方、アーゲードゲームは苦手なウィルだが、クレーンゲームでは見事な腕前を発揮した。サムはウィルに誘われ、アーケードゲームの第一回世界大会に出場することを決めた。2人が会場へ行くと、ラドローという少年が『ドージョー・クエスト』のヒロインであるレディー・リサに話し掛けていた。ラドローはゲームの世界では有名人で、サムは彼を良く知っていた。
エディーという生意気な少年が会場に現れ、サムたちを馬鹿にして挑発した。大会にはNASAの幹部が同席しており、司会者の男は撮影したビデオテープを地球外生命体への友好のメッセージとして発信することになっていると説明した。エディーが『パックマン』で、サムが『ギャラガ』でトップの記録を出し、2人は『ドンキーコング』で決勝戦を争うことになった。『ドンキーコング』はレベルが上がるとパターンが読み切れなくなり、サムは敗北を喫した。
現在。大人になったサムは、今でもウィルと親友同士である。ウィルは大統領だが、小学生に絵本を読み聞かせることさえ出来ないほど頭が悪く、国民からは批判を浴びていた。一方、かつては優れたゲーマーだったサムだが、今では冴えない電気店のオヤジだった。次の朝、サムはホームシアターの配線工事を依頼した家へ行き、マティーという少年と会った。マティーはサムに、父親が若い女と浮気して母親が激怒していることを話す。そこへマティーの母親であるヴァイオレットが現れたので、サムは慌てて取り繕った。
サムはマティーから「ゲーマーなの?」と質問され、昔のビデオゲームは得意だと語った。工事を終えたサムが書類にサインしてもらおうとすると、ヴァイオレットは泣いていた。ヴァイオレットが夫の裏切りを愚痴ると、サムは彼女を口説き落とそうとする。しかしサムがキスしようとすると、ヴァイオレットは険しい顔で拒絶した。同じ頃、グアムに数機の宇宙船が飛来し、空軍基地を襲撃していた。宇宙船が光線を放つと、物体や人間が全て立方体に変換された。
サムはウィルから電話を受け、ホワイトハウスへ来るよう頼まれる。サムが車でホワイトハウスへ向かうと、ヴァイオレットも付いて来た。サムは厄介な女だと感じるが、彼女は海軍の中佐としてホワイトハウスへ呼ばれたのだった。サムはウィルの元へ行き、グアムの基地が攻撃されたことを聞かされる。ウィルは攻撃された時の映像を見せ、国家安全保障委員会に出席する。敵の正体について様々な意見が出るが、ウィルは1980年代のビデオゲームである『ギャラガー』だと告げる。
閣僚が全く相手にせず会議を進めようとする中、サムが来て「1982年版のギャラガーだ」と指摘する。しかし海軍提督であるポーター大将の怒りを買い、すぐに追い払われた。サムは車に潜んでいたラドローから、「見せたい物がある」と告げられる。今でもレディー・リサに夢中の彼は、「世界大会の映像を異星人が発見し、地球を攻撃するために見た物を実体化して攻撃して来た」と語る。彼は録画したテレビ番組のビデオテープを見せ、ヴォルーラ星人のメッセージが挿入されていることをサムに教えた。
ヴォルーラ星人は受け取った映像が自分たちへの挑戦状だと誤解し、地球人に宣戦布告していた。彼らはグアム基地のコーハン軍曹を人質に取り、1戦目の勝利を宣言した。そして3本勝負に負ければ地球は破壊されることを通告し、次のゲームが始まる場所と時間を教えた。サムとラドローはウィルの元へ行き、そのメッセージを見せた。その夜にインドが攻撃されることを告げたラドローは、軍を派遣するようウィルに求めた。しかし国民から馬鹿にされているウィルは、さらに支持率が下がることを懸念して受け入れなかった。
インドのタージ・マハルは『アルカノイド』による攻撃を受けて崩壊し、デート中の男が連れ去られた。ウィルはサムとラドローに協力を要請し、対策に動き出したヴァイオレットに会わせた。ヴァイオレットは現場に落ちていたキューブを解析し、通常の武器では倒せないと確信していた。彼女は新しい武器の開発に取り掛かり、ポーターは精鋭部隊の訓練を始めていた。サムとラドローは兵士たちに、ゲーム機を使った指導を始めた。
そんな中で次のメッセージが送信され、3戦目の舞台がイギリスだと判明する。サム&ラドローは精鋭部隊と共にイギリスへ飛び、ウィルは英国首相と会って協力を取り付けた。ヴァイオレットは新兵器のライト・キャノンを用意するが、まだテストの段階だった。その夜、ロンドンに『センチピード』のキャラクターが出現し、サムは兵士たちに退治する方法を教える。しかし部隊は指示通りに攻撃することが出来ず、苛立ったサムはライト・キャノンを奪って自ら参加した。
サムは次々に敵を撃ち落とし、ラドローにも加わるよう求めた。嫌がっていたラドローだが、サムに説得されて了承した。2人は見事な腕前を発揮し、敵を全滅させて勝利した。しかし今回だけで終わりだと思っていたサムとラドローは、ウィルから次の戦いに備えるよう指示される。サムには苦手なゲームもあるため、ウィルとラドローは次の戦いに向けてエディーをチームに加えようと考える。エディーは20年の懲役刑を受け、刑務所に収監されていた。
ウィルは協力する代わりに減刑すると持ち掛けるが、エディーは拒否した。彼は税金の免除や自家用ヘリの提供、セリーナ・ウィリアムズかマーサ・スチュワートとのデートを要求し、ウィルは1つ目と3つ目の条件を飲んだ。その夜にニューヨークで4戦目が開催されると判明し、エディーを加えたチームは急行する。敵が『パックマン』だと知ったサムたちに、ヴァイオレットは用意した戦闘用の車を見せる。さらに彼女は、『パックマン』の生みの親であるイワタニ教授を日本から呼んでいた。
サムたちは『パックマン』のモンスター役として戦うが、ラドローとエディーが立て続けに脱落してしまう。最後に残ったサムは敵の行動パターンを利用し、勝利を収めた。ラドローはサムの元へ来て、戦利品として出現したQバートを見せた。ウィルは祝賀パーティーを開き、サムとヴァイオレットは心の距離を縮める。だが、パーティー会場に異星人のビデオメッセージが流れ、ルール違反があったので地球を破壊すると通告する。エディーがサングラスを利用し、密かにチートコードを使っていたのだ…。監督はクリス・コロンバス、原作はパトリック・ジーン、映画原案はティム・ハーリヒー、脚本はティム・ハーリヒー&ティモシー・ダウリング、製作はアダム・サンドラー&クリス・コロンバス&マーク・ラドクリフ&アレン・コヴァート、共同製作はケヴィン・グレイディー、製作総指揮はパトリック・ジーン&ベンジャミン・ダラス&ジョニー・アルヴェス&マティアス・ブカール&セス・ゴードン&ベン・ウェイスブレン&ラー・ペイカン&ジャック・ジャラプト&スティーヴ・コーレン&ヘザー・パリー&バリー・ベルナルディー&マイケル・バーナサン、製作協力はリン・ルシベロ=ブランカテラ&デヴィッド・ウィッツ&K・C・ホーデンフィールド&ユカ・カトウ、撮影はアミール・モクリ、美術はピーター・ウェナム、編集はヒューズ・ウィンボーン、衣装はクリスティーン・ワダ、視覚効果監修はマシュー・バトラー、音楽はヘンリー・ジャックマン。
主演はアダム・サンドラー、共演はケヴィン・ジェームズ、ミシェル・モナハン、ピーター・ディンクレイジ、ジョシュ・ギャッド、ブライアン・コックス、ショーン・ビーン、ジェーン・クラコウスキー、アフィオン・クロケット、アシュレイ・ベンソン、マット・リンツ、レイニー・カザン、ダン・エイクロイド、デニス・アキヤマ、トム・マッカーシー、ティム・ハーリヒー、ジャクリーン・サンドラー、ジャレッド・サンドラー、ウィリアム・S・テイラー、ローズ・ロリンズ、タッカー・スモールウッド、セリーナ・ウィリアムズ、マーサ・スチュワート、アレン・コヴァート、ビル・レイク、マーク・ウィーラン、ダン・パトリック、ロバート・スミゲル他。
2011年アヌシー国際アニメーション映画祭短編部門賞を受賞した短編映画(パトリック・ジーン監督)を基にした作品。
監督は『RENT/レント』『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』のクリス・コロンバス。脚本は短編も手掛けた『Mr.ディーズ』『ベッドタイム・ストーリー』のティム・ハーリヒーと、『ウソツキは結婚のはじまり』『Black & White/ブラック & ホワイト』のティモシー・ダウリング。
サムをアダム・サンドラー、ウィルをケヴィン・ジェームズ、ヴァイオレットをミシェル・モナハン、エディーをピーター・ディンクレイジ、ラドローをジョシュ・ギャッド、ポーターをブライアン・コックス、SASのヒル伍長をショーン・ビーン、大統領夫人のジェーンをジェーン・クラコウスキー、コーハンをアフィオン・クロケット、リサをアシュレイ・ベンソンが演じている。セリーナ・ウィリアムズとマーサ・スチュワートは、本人役で出演している。
アンクレジットだが、英国首相役でフィオナ・ショウ、パックマンが襲って来たことをサムたちに話す男の役でニック・スウォードソンが出演している。「ゲームのキャラクターが巨大化して実際の世界に現れる」というアイデアは面白い。
これが短編映画なら、そのアイデアだけで観客を満足させることも出来るだろう。
しかし長編映画だと、そこで思考停止するのはマズい。そのアイデアを軸にして、どのようにストーリーを展開させるか、どのようにドラマを膨らませるかなど、様々な工夫が必要になる。
そういう作業の部分で、この映画は手抜きをしている。あるいは、思考停止に陥っている。まず導入部は、「サムがいかにゲームへの情熱を持っているか」というアピールが足りない。
サムがゲームに熱中する少年時代のシーンが少ないのは、そこで時間を使っていたら後の展開に皺寄せが来るだろうから、仕方が無いだろう。それに、実は少年時代のシーンって、そんなに重要なわけではない。
何より重要なのは、「大人になっても、まだ子供の頃と同じぐらいゲーム好き」ってのを示すことだ。
彼は「かつてはゲーム好きだったけど、大人になって当時の気持ちを封印、もしくは捨て去った」というキャラではない。今でもゲームに熱中しているキャラだからだ。極端な話、現在から物語をスタートさせて、1982年のシーンは「当時のゲームの映像を宇宙に向けて発信した」ってことを説明するための回想として軽く挟む程度でも構わない。
本作品で問題なのは、少年時代のシーンが短いことではなく、「大人になったサムは今でもゲームが得意」というアピールの弱さだ。大人になったサムがゲームをやっているシーンが、まるで描かれていないのだ。
それどころか、かなりボンヤリしているけど、サムは「もうゲームは卒業した」という設定のようにも思える。
だけど、それは違うんじゃないかと。サムは未だにゲームオタクだからこそ、「特技はあるけど何の役にも立たず、冴えない日々を送っている男」であるべきだ。だから、大人になった彼が、今でもゲームに夢中である様子を描いておくべきだ。
とっくの昔にゲームと距離を置いてしまったのだとすれば、その能力は錆び付いているはずだしね。そうなると、もはやゲームは彼にとって「特技」ではなく「かつての特技」になってしまう。
これは随分と大きな違いである。ブランクがあったら、それを取り戻す作業も必要になるはずだからね。
せっかくサムが大人になった一発目でウィルと話しているシーンがあるんだから、そこでゲームのことを話題にするなり、一緒にゲームで遊ぶなりという様子を描けばいい。
「エディーに負けたショックでゲームから離れた」ってことにしてあるのかもしれないけど、そこの「過去に負った心の傷と向き合って立ち直る」というドラマは、ぶっちゃけ全く要らないわ。どうせ上手く機能していないし、そのせいで「サムがゲームと距離を置いている」という形になってしまったことのマイナスが大きいし。ウィルを大統領にしてあることで、物語を進めるのに色々と都合がいいってのは確かだ。
サムが異星人との戦いに参加するのも、「友人であるウィルが大統領として要請する」という形を取れるので、色んな手順をスッ飛ばすことが出来る。
しかし、その安易な設定が、ドラマとしての魅力を著しく薄めている。
本来なら、これは「冴えない日々を送っていた主人公が、何の役にも立たなかった能力によって地球を救い、ヒーローになる」という人生逆転のドラマになるべき話なのだ。
だが、サムが「大統領の友人だから」ってことで簡単に討伐チームの一員として選ばれてしまうので、逆転の面白味が減退してしまうのだ。そもそも、サムが冴えない生活を送っていることに描写からして、まるで物足りない。
「ゲームの才能が日常生活では何の役にも立っていない」ってのを充分にアピールしておいてから、「そんなサムが、ひょんなことから異星人の討伐チームに選ばれて」という展開に移るべきだ。
だけど「親友のウィルが大統領」という設定を使うと、「ひょんなことから」じゃなくて「親友だから、すぐに事実を知らされて協力を要請される」という形になる。
それはメリットよりデメリットの方が遥かに大きいのよ。当然のことながら、グアム基地が襲われた時、政府や軍の人間は「異星人がビデオゲームで攻撃してきた」という話を全く信じない。
だが、インドが攻撃されると、あっさりとサム&ラドローを受け入れている。
それは色んな経緯を雑にスッ飛ばしているように感じるぞ。
時間の余裕が無かったのかもしれないけど、例えば「まだ政府や軍の人間は半信半疑、もしくは全く信じていないけど、ウィルの命令なのでサムとラドローの指導を受け入れる」という形にでもすれば良かったんじゃないかと。指導教官になったサムは、ゲーム機を使って兵士たちに敵の倒し方を教える。しかし実戦だと全くパターンを読めない兵士たちが苦戦を強いられるので、自ら武器を使って敵を倒す。
だけど、ゲームと実戦では全く異なる能力が必要なわけで。ゲームで銃を撃つのが得意な人でも、じゃあ本物の射撃が得意かっていうと、それは違うでしょ。
「そんな細かいことを気にする類の映画じゃないでしょ」と思うかもしれないけど、この映画は「ゲームオタクが普段は役に立たない能力で地球を救い、ヒーローになる」ってのが肝なのよ。
だからこそ、「ゲームオタクならではの技術で敵に勝利する」という部分は、もっと丁寧に扱うべきじゃないかと。
まだ『センチピード』はともかく、『パックマン』の戦いなんて、どう考えてもゲームの能力より運転技術の方が重要でしょ。最終決戦にしても、明らかにゲームの能力より普通の戦闘能力が重要なはずで。いつの間にか、なし崩し的にヴァイオレットがチームの一員となっているのも、素直には受け入れ難い。彼女に「実はゲーマーだった」という設定があれば何の問題も無いけど、そうじゃないわけで。
そこは「ゲームオタクだけのチーム」にしておかなきゃダメでしょ。
オタクじゃなくてもゲームで襲って来る敵と戦って活躍できるのなら、サムやラドローがゲームオタクである意味は弱くなっちゃうでしょ。
まあ実際には大して活躍しないけど、だからってヴァイオレットがチームに入っても歓迎できるわけではないぞ。かなり大雑把な作りで、色々と引っ掛かる箇所は多い。
例えば、エディーは『パックマン』のチートコードを使った設定だが、どうやって入力したのかサッパリ分からない。そもそもヴォルーラ星人が作ったゲームに、本家『パックマン』用のチートコードは使えないだろ。
あと、情報を聞き出せるかもしれないってことでQバートをチームに引き入れたのに、なかなか活用しないのは不可解だ。
それと、最終決戦に実体化したレディー・リサが登場し、すぐにラドローと仲間になって戦うが、あまりに唐突で違和感が強い。
他にも色々とあるが、とにかく最初から最後まで雑な作りが目立つ。何よりも引っ掛かるのは、「これを作った面々は、それほどビデオゲームに対する愛が無いのかなあ」と感じさせるってことだ。
まず、1982年に送信されたビデオメッセージを見た異星人が同じ物を実体化させた設定なのに、それ以降に開発されたはずの『テトリス』や『ペーパーボーイ』、『ジャウスト』のキャラクターが登場するのは整合性が取れない。
また、最終決戦では『ドンキーコング』で使用されるが、サムがハンマーを放り投げてコングを倒すってのは実際のゲームと違うので、そこは引っ掛かってしまう。何よりもゲーム愛の無さを感じるのは、『ドージョー・クエスト』が架空のゲームってことだ。
古いゲームを知っている観客からすると、かつて自分が遊んでいた機種のキャラクターが登場することで、「懐かしい」という気持ちになり、高揚感を覚えるはずで。
それなのに、そこだけ存在しないゲームってのは、ある意味では裏切り行為でしょ。
しかも、わざわざ架空のゲームを用意するほど、そのゲームに登場するキャラクターであるレディー・リサが重要なキャラってわけでもないのよ。どうしてもゲームのヒロインを絡ませたいのなら、実際に存在した機種を選ぶべきだよ。
「ゲームのヒロインに似た女優を見つけるのは難しい」と思うかもしれんけど、そもそもリサだって大して似ているわけではないぞ。そもそも粗いドット絵なんだから、そこまで酷似している必要は無いんだし。
っていうか、そもそもゲームのキャラを登場させている意味も薄いんだよね。と言うのは、他のキャラクターと違って、ゲームの絵のままで実体化するわけじゃなくて、リサだけは人間として登場するからだ。で、そいつにラドローが惚れるので、「なんか違うんじゃないか」と言いたくなるのよ。
そりゃあ、イラストが3D化された状態のリサに惚れるのは気持ち悪いかもしれない。
だけど、それで本人が幸せなら、「ゲームオタクの恋路」としては別にいいんじゃないかと思うのよね。(観賞日:2017年2月10日)
第36回ゴールデン・ラズベリー賞(2015年)
ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低主演男優賞[アダム・サンドラー]
<*『靴職人と魔法のミシン』『ピクセル』の2作でのノミネート>
ノミネート:最低助演男優賞[ジョシュ・ギャッド]
<*『ピクセル』『ベストマン -シャイな花婿と壮大なる悪夢の2週間-』の2作でのノミネート>
ノミネート:最低助演男優賞[ケヴィン・ジェームズ]
ノミネート:最低助演女優賞[ミシェル・モナハン]
ノミネート:最低脚本賞