『PAN 〜ネバーランド、夢のはじまり〜』:2015、アメリカ&イギリス&オーストラリア

ある夜、ケンジントン公園の近くにあるランベス孤児院に、メアリーという女が幼い息子のピーターを抱いて現れた。彼女は手紙を添えて息子を孤児院の前に置き、「愛してるわ、ピーター」と囁いて走り去る。12年後、第二次世界大戦中のロンドン。ピーターは仲間のニブスと共に、孤児院で育っていた。しかし院長のバーナバスは戦時中で物資が不足していることを隠れ蓑にして、子供たちに与えるべき食糧を盗んでいた。それだけでなく、バーナバスは危険な作業を孤児に要求することもあった。
ピーターはバーナバスが貯め込んでいる食糧を手に入れたいと考えるが、ニブスは「誰も見たことが無い。罠が仕掛けてあるんだってさ」と告げる。空中警報が鳴り響いたので、孤児たちは地下シェルターへ避難する。しかしピーターはニブスを誘って、食糧を盗み出すため院長室に潜り込む。2人が秘密の地下室を発見すると、そこには大量の硬貨や食糧が置いてあった。室内を調べたニブスは、ピーターのファイルを見つける。そこにはメアリーの手紙が入っていたが、ピーターは文字が読めなかった。
ニブスが手紙を読み、ピーターは「全ては貴方を愛しているから、したことなのです。貴方に会って、全て説明できる日が来るのを待ち望んでいます。貴方は特別な子よ」という母の言葉を知った。2人はバーナバスに発見され、手紙を破り捨てられた。孤児院では子供たちが次々に姿を消しており、表向きは疎開ということになっていたが、ピーターはバーナバスが売り払っているのではないかと疑う。その推測は的中しており、バーナバスは深夜に屋根を開けて海賊を引き入れた。
気付いたピーターが身を隠す中、次々に孤児たちが連れ去られる。ピーターはバーナバスに蹴り飛ばされ、空飛ぶ海賊船へ連行される。ニブスは船から飛び降りて脱出するが、ピーターは後に続かなかった。海賊船はドイツ軍と誤解した戦闘機部隊の攻撃を受けるが、舵を取るビショップは高度を上げて回避した。海賊船は浮遊する島「ネバーランド」へ到着し、孤児たちは海賊王の黒ひげに跪くよう命令を受けた。黒ひげが「私が辛い暮らしから諸君を解放した。諸君は自由だ」と孤児たちに話すと、島に住む大勢の人々が喝采を浴びせた。彼は新しい孤児たちに、「真面目に働けば賞金が出るが、サボったら厳罰を与える」という掟を説明した。
黒ひげは世界中から孤児たちを集め、鉱山でピクサムと呼ばれる妖精の粉を採掘させていた。監督官のスミーはピーターの質問を受け、かつては島に大勢の妖精がいたこと、黒ひげが獲り尽くして全滅したことを話した。しかし黒ひげが妖精の粉を集めたがる理由については、サムも知らなかった。作業をしていたフックという男は、「いいから掘れ」とピーターに告げた。ピーターは仲良くしようとするが、フックは「友達でもないし、守ってやる気も無い」と冷たく告げた。
次の日、ピーターはピクサムを発見するが、中年男に奪われてしまった。ピーターは自分が見つけたことを主張するが、盗人扱いされて黒ひげの元へ連行される。黒ひげは先住民の集落を手下に捜索させていたが、まだ発見できずにいた。彼は工夫たちへの見せしめとして、一日に数名を処刑することにしていた。その中に入れられたピーターは、谷底へ突き落とされる。しかしピーターは空を飛び、死なずに済んだ。落下した彼は気を失い、目を覚ますと黒ひげの部屋にいた。
黒ひげはピーターに、「壁の向こうに先住民の部族がいる。そこには妖精の王国があった頃から伝わる古い予言がある。その予言に出て来るのが、妖精の王子と人間の娘の間に出来た男の子だ。この世界から連れ去られ、成長して戻ると私への謀反を起こすとある。予言によれば、その子は飛べるそうだ」と語る。彼はピーターが危険だと考え、牢獄に監禁した。すると隣の牢獄に、フックが収監される。彼はピーターに呼び掛け、外に爆弾を仕掛けていることを打ち明けた。
フックから空を飛ぶ力を使って協力するよう持ち掛けられたピーターは、「ママを捜すの手伝う?この島にいるはずなんだ」と告げた。フックは取り引きを承諾し、ピーターと共に脱獄した。フックはスミーの元へ行き、協力するよう要請した。するとスミーは脱走グループに加わり、3人は海賊船を強奪した。しかしフックが約束を守らずネバーランドから逃げ出そうとしたため、ピーターは激しく抗議する。追っ手の攻撃を受けた船は森に墜落し、ピクサムを使って若返りの作業をしていたフックはビショップから報告を受けた。
船は崩壊し、ピーターは地図を見つけて部族の集落を調べる。ピーターは部族の集落へ向かうが、フックは無視して残る。しかしスミーが「部族の連中が彼を予言の男の子だと信じたら、連れてった者に謝礼をくれるかもしれない。海賊と何度も戦っている連中だ。船を手に入れるチャンスもある」と話すと、ピーターは同行することにした。3人は巨大な鳥に襲われるが、先住民の王女であるタイガー・リリーとに救われる。するとリリーは3人を集落へ連行し、フックは部族の男と戦わされる。
族長はピーターがパンフルートのペンダントを付けていることに気付き、それによって部族の態度が一変した。リリーはピーターたちに、族長が妖精の王と手を組んで黒ひげと戦う契約を交わしたこと、妖精の王子が黒ひげの船に忍び込んだこと、そこに囚われていたメアリーと恋に落ちたことを語る。王子はメアリーを救うため、一日しか生きられないと知りつつも人間の姿に変身した。その息子がピーターであり、メアリーが別の世界に隠したのだとリリーは説明した。
ピーターが母について尋ねると、リリーは「戦いで海賊が優勢だったから、妖精たちは秘密の王国に行くしか無かった。そこで再び戦える時が来るのを待っている」と語る。「すぐに連れてって」とピーターが言うと、族長は「駄目だ妖精の国は、最も重要な秘密だ。それを守るのは我々の義務だ。そこへ行く前に、まずメアリーの息子だと証明してもらわねば」と語る。族長は「3度目の月が昇った時、飛んでもらう」と言うが、ピーターは黒ひげに蹴り落とされた時を覗くと、全く飛ぶことが出来ていなかった。
ピーターは空を飛ぶ練習をするが、失敗して「出来ない。本物じゃないよ」とフックの前で苛立つ。するとフックは、「俺に分かるのは、お前が救世主じゃなくて、お前ってだけでも充分ってことだ」と告げた。ピーターの捜索で森に入った黒ひげはスミーを見つけ、脅しを掛けて集落の場所を聞き出した。黒ひげは手下を引き連れて集落を襲撃し、族長を殺害する。彼はリリーを捕まえて銃を突き付け、妖精の国の場所を教えろと要求した。リリーは拒絶するが、フックは「妖精の国へ行く地図がある」と黒ひげに教えた。
フックの手引きで集落から脱出したピーターは、巨大鳥に乗って舞い戻る。鳥が撃たれてピーターが落下すると、黒ひげは「母親は決して見つからん。私が殺したからだ」と告げた。ピーターは黒ひげに追い詰められるが、フックとリリーに救われる。3人は集落から脱出するが、リリーはフックの裏切り行為に激怒し、ピーターはリリーの嘘にショックを受けていた。3人は妖精の国へ向かうが、地図を見つけ出した黒ひげは先回りしようと目論む…。

監督はジョー・ライト、キャラクター原案はJ・M・バリー、脚本はジェイソン・フュークス、製作はグレッグ・バーランティー&サラ・シェクター&ポール・ウェブスター、製作総指揮はティム・ルイス&撮影はシーマス・マッガーヴェイ&ジョン・マシソン、美術はアリーヌ・ボネット、編集はポール・トシル&ウィリアム・ホイ、衣装はジャクリーン・デュラン、視覚効果監修はチャス・ジャレット、音楽はジョン・パウエル。
出演はヒュー・ジャックマン、ギャレット・ヘドランド、ルーニー・マーラ、リーヴァイ・ミラー、アマンダ・サイフリッド、アディール・アクタル、キャシー・バーク、ノンソー・アノジー、ジャック・チャールズ、ルイス・マクドゥーガル、ブロンソン・ウェブ、ナ・テジョー、カーラ・デルヴィーニュ、マイク・シェパード、ブライアン・ボーヴェル、カート・エジアイアワン、ジミー・ヴィー、ポール・ハンター、スペンサー・ワイルディング、ディーン・ノーラン、ジャコモ・マンチーニ、ニール・ベル、フィル・マーティン、ガブリエル・アンドレウ他。


ジェームス・マシュー・バリーの戯曲『ピーター・パン』を下敷きにして、それ以前のピーター・パンを描いた映画。
監督は『ハンナ』『アンナ・カレーニナ』のジョー・ライト。
脚本は『アイス・エイジ4 パイレーツ大冒険』のジェイソン・フュークス。
黒ひげをヒュー・ジャックマン、フックをギャレット・ヘドランド、リリーをルーニー・マーラ、ピーターをリーヴァイ・ミラー、メアリーをアマンダ・サイフリッド、スミーをアディール・アクタル、バーナバスをキャシー・バーク、ビショップをノンソー・アノジー、族長をジャック・チャールズ、ニブスをルイス・マクドゥーガルが演じている。

冒頭、「これからお話するのは、決して大人にならない少年と、彼の命を狙う海賊と、妖精の飛び回る島のお話。でも、今までのお話とは違います。時には友がかつての敵であったり。敵がかつての友であったり。結末を本当に理解するには、始まりを知らねばなりません」というナレーションが入る。
だから、こっちとしては「広く知られている『ピーター・パン』の物語に繋がる内容になっているのだろう」と予想した。
しかし実際は、そんな予想と全く異なる内容の作品だった。
この映画を見ても、広く知られている『ピーター・パン』の物語には全く繋がらないのだ。

まず「ネバーランドは黒ひげに支配されており、そこに孤児だったピーターが連行されて強制労働させられる」という導入部の時点で、既に『ピーター・パン』の物語と整合性が取れなくなっている。それ以降も、描かれる内容は「それって『ピーター・パン』の物語に繋がらないよね」と感じることばかりだ。
ようするに、これは『ピーター・パン』に登場するキャラクターを使って描いた、ただのアナザー・ストーリーなのだ。
で、それならそれで、最初から「アナザー・ストーリーですよ」と言ってくれたら、そういう心構えで鑑賞することも出来ただろう。
だけど、まるで前日譚のように紹介しちゃってるから、「いや全く前日譚になってねえし」ってトコで引っ掛かるのである。

導入部で空飛ぶ海賊船を登場させるだけでなく、「ドイツ軍と誤解したイギリス軍が戦闘機部隊を送り込んで攻撃する」という展開が用意されている。
正直なところ、『ピーター・パン』の前日譚としては「コレジャナイ感」が否めないのだが、「見栄えのするアクションを用意し、観客を引き付けよう」という狙いは感じられるので、だとしたら分からなくも無い。
ただし、「攻撃を受けた海賊船が高度を上げ、宇宙空間へ飛び出す」という描写は、さすがに「やり過ぎ」と言いたくなる。
ファンタジーだから、非現実的な描写を入れることに反対しているわけではない。しかし『ピーター・パン』の世界観を考えると、それは大きく逸脱していると感じる。
ファンタジーだからって、「何でも有り」ってことではないからね。

ピーター・パンと言えば飛行能力を持った少年だが、この映画では「普通の少年」として登場する。
だから、彼が飛行能力を会得する手順、そして初めて空を飛ぶ瞬間ってのは、かなり重要な要素であり、慎重に扱うことが求められる。
ところが、「黒ひげに蹴り落とされたピーターが空を飛ぶ」というシーンで、ものすごく雑に処理してしまう。
それに、初めて空を飛んだのにピーターは喜びだけを表現し、「なぜ空を飛べるのか」という疑問も持たないし、困惑もしていない。
しかし、こっちには「飛翔シーンの心地良さ」など全く伝わらない。なぜなら、あまりに唐突であり、こっちは喜びではなく困惑だけを抱くからである。

黒ひげはピーターに、「妖精の王国があった頃から伝わる古い予言がある。妖精の王子と人間の娘の間に出来た男の子が成長して戻り、私への謀反を起こすと書いてある」と説明する。
だけど黒ひげって、ずっと昔からネバーランドに住んでいたわけじゃないんでしょ。
それなら、古い予言が「黒ひげが謀反を起こされる」と書いてあるのは変でしょ。
それとも、黒ひげがネバーランドに来て支配者になることも含めて、古い予言に書かれているってことなのか。だとしたら辻褄は合うが、納得できるわけではないぞ。

黒ひげはピーターが予言に書かれている少年だと確信し、危険だと感じたからこそ牢獄へ閉じ込めたはず。
しかしピーターを「自分への謀反を起こす危険人物」と思ったのなら、なぜ即座に始末しようとしないのかサッパリ分からない。
他の面々は、見せしめという理由で簡単に処刑していたでしょ。
それを考えると、そもそも牢獄が存在すること自体に疑問が湧くぞ。牢獄で閉じ込める処罰なんてスルーして、逆らった奴や邪魔な奴は全て処刑すればいいだけでしょ。

ピーターはメアリーの手紙に書かれていた「また会える日が来ます。この世界か、別の世界で」という言葉を思い出し、ネバーランドに母がいるはずだと確信する。
まあ実際にメアリーはいるんだけど、強引さは否めない。
そもそも「ピーターがネバーランドで母を捜す」という展開を用意していること自体、賛同しかねるわ。
「ピーター・パンがウェンディーと出会う前の物語」として、そういうのを見たいとは全く思わないのよね。

っていうか、「母を捜している」という要素に限らず、この映画に登場するピーターって空を飛ぶ能力を覗くと「ごく普通の男の子」になってんのよね。唯一の「特別な部分」である飛行能力も、たった2回しか使わないし。
ピーターを「ごく普通の男の子」にしたことがプラスに作用していれば何の問題も無いけど、ただ魅力を失わせているだけなのよ。
ピーター・パンから「空を飛ぶ能力」以外の全てを削り落として、出来る限り凡庸に変化させたような状態なのよね。
たぶん「少年の成長物語」を描きたかったんじゃないかと思うんだけど、それとピーター・パンというキャラクターの組み合わせは違うんじゃないかと。

「ピーター・パンが妖精の王子の息子」という設定も、「そういうことじゃないでしょ」と言いたくなるわ。
そりゃあ前述したように、ピーターを「普通の男の子」にしちゃったら、魅力が無くなることは確かなのよ。だけど、「妖精の王子の息子」という部分で「特別さ」を出すのは、ピントがズレているとしか思えない。
ピーター・パンは「産まれた時から特別な子」じゃなくて、「産まれた後で特別に変化した子」であるべきだわ。
そもそも「妖精の王子の息子」という設定だと、『ピーター・パン』に繋がらなくなるし。それにピーター・パンって、母親によって孤児院に預けられた設定じゃなかったはずだし。

この映画を見ても、「どうしてピーター・パンが年を取らなくなったのか」という理由は説明されない。
妖精は登場するがティンカー・ベルは出て来ないから、ピーターと彼女が特に仲良くなった経緯も分からない。
この映画でピーターとフックは仲良くやっているが、そこから「ピーターがフックの左手を切り落としてワニに食わせたことで恨みを買う」という関係になる経緯はサッパリ分からない。
そもそも、この映画に登場するピーターが、「ちょっとしたイタズラ感覚でフックの左手を切り落としてワニに食わせる」という酷いことをやるような奴になるとは到底思えない。
どこをどう取っても、『ピーター・パン』の物語には繋がらないのである。

なお、この映画でルーニー・マーラが第36回ゴールデン・ラズベリー賞の最低助演女優賞にノミネートされたのは、「演技が云々」という問題ではなく、「ミスキャスト」ということが大きな理由だ。
粗筋では「先住民」と書いたが、『ピーター・パン』の物語における彼女はインディアン(ネイティヴ・アメリカン)の娘なのだ。
その役を白人のルーニー・マーラが演じることについては、製作前から批判の声が出ていた。
ただ、「不幸中の幸い」と言うべきか、「皮肉なことに」と言うべきか、この作品自体が酷評を浴びて興行的に惨敗したため、シリーズ化されて再びルーニー・マーラがリリーを演じる可能性は消えたのであった。

(観賞日:2017年3月16日)


第36回ゴールデン・ラズベリー賞(2015年)

ノミネート:最低助演女優賞[ルーニー・マーラ]

 

*ポンコツ映画愛護協会