『ポワゾン』:2001、アメリカ
19世紀後半のキューバ。ルイス・ヴァーガスはコーヒーの輸出会社を友人アラン・ジョーダンと共同経営し、巨額の富を手にしている。ルイスはアランから結婚を勧められ、新聞の交際欄を通じてアメリカ人女性ジュリア・ラッセルを花嫁に選んだ。一度も会ったことは無く、写真に映った器量は御世辞にも良いとは言えない。しかしルイスは、結婚相手に愛も美しさも求めていなかった。彼にとって結婚相手とは、子供を産んでくれればいいというだけの存在だった。
ルイスはサンティアゴへ出向き、アメリカからやって来るジュリアを出迎えた。そこに現れたジュリアは、写真とは全く違う美女だった。ジュリアは嘘を謝罪し、外見に惑わされる男かどうかを確かめたかったのだと告げた。ルイスはジュリアに心を奪われ、結婚式を挙げた。すぐにルイスは、個人と会社の銀行口座をジュリアの自由に出来るよう契約を変更した。
ある日、私立探偵を名乗るウォルター・ダウンズという男が現れ、ジュリアの姉エミリーの依頼で訪れたことを語った。ルイスはジュリアに手紙を書いて送らせたことを告げ、それを読めばエミリーも安心するだろうと告げた。ダウンズがジュリアに会いたがったため、ルイスは日曜日に自宅へ招く約束をした。
後日、ルイスのオフィスにエミリーが駆け込んできた。届いた手紙が妹の筆跡ではないという。ルイスが急いで自宅に戻ると、ジュリアは荷物をまとめて姿を消していた。しかも彼女は、ルイスの銀行口座から預金のほぼ全額を引き落としていた。やはり彼女はエミリーの妹ジュリアではなく、まんまと成り済ましていた偽者だったのだ。
ルイスはダウンズに再会し、妻を捜してほしいと依頼した。ダウンズはルイスに、本物のジュリアは偽者に殺された可能性が高く、偽者には共犯者がいるかもしれないと語る。ダウンズと共にハバナへ出向いたルイスは、レストランで妻の姿を見掛けた。彼女はボニー・キャッスルと名乗り、ワース大佐を誘惑していた。
ルイスが目の前に現れても、ジュリアは全く動じることなく、余裕の笑みさえ浮かべた。ただし彼女は、本物のジュリアを殺したことは否定した。彼女はルイスに、同じ施設で育った劇団の役者ビリーが共犯者で、船で死んだ本物ジュリアの身代わりになるよう頼まれたのだと説明した。ルイスは許しを請うジュリアを抱き締め、再び妻として受け入れた。
翌朝、ルイスはダウンズから、本物のジュリアが他殺だったことが確実になり、警察が犯人として偽者ジュリアを追っていることを知らされる。それでもルイスは偽者ジュリアを信用し、彼女を助けるために共に身を隠そうとする。しかし隠れ家までダウンズが追ってきたため、ルイスは彼を射殺してしまう。
ジュリアはルイスに対し、すぐに駅へ行ってハバナ行きのチケットを購入するよう告げた。ルイスが去った後、ジュリアはダウンズの死体に近付いた。すると、死体がむっくりと起き上がった。彼は死んでいなかったのだ。ダウンズの正体は、偽者ジュリアの共犯者ビリーだった。彼は密かに、拳銃を空砲に変えておいたのだ。
ビリーはジュリアに、当初のプランに戻るよう命じた。当初のプランとは、ルイスの金を全て巻き上げ、彼を殺してジュリアを未亡人に仕立て上げるというものだ。一度は拒否しようとしたジュリアだが、結局はビリーの命令に従うことになった。ジュリアはビリーから、ルイスに毒入りコーヒーを飲ませるよう指示される。だが、ルイスはジュリアとビリーの策略を知ってしまう…。監督&脚本はマイケル・クリストファー、原作はコーネル・ウールリッチ(ウィリアム・アイリッシュ)、製作はデニーズ・ディ・ノヴィ&ケイト・グインズバーグ&キャロル・リース、共同製作はエドワード・L・マクドネル、製作総指揮はシェルドン・アベンド&アショク・アムリトラジ&デヴィッド・ホバーマン、撮影はロドリゴ・プリエト、編集はエリック・A・シアーズ、美術はデヴィッド・J・ボンバ、衣装はドナ・ザコウスカ、音楽はテレンス・ブランチャード。
出演はアントニオ・バンデラス、アンジェリーナ・ジョリー、トーマス・ジェーン、ジャック・トンプソン、グレゴリー・イッツェン、アリソン・マッキー、ジョーン・プリングル、コーデリア・リチャーズ、ジェームズ・ヘイヴン、ペドロ・アルメンダリス、マリオ・イヴァン・マルティネス、ハリー・ポーター、フェルナンド・トーレ・ラファム他。
コーネル・ウールリッチがウィリアム・アイリッシュ名義で執筆した小説『暗闇のワルツ』を基にした作品。
同じ原作が1969年にフランスで映画化されている(邦題は『暗くなるまでこの恋を』)。その時は監督がフランソワ・トリュフォー、主演はジャン・ポール・ベルモンドとカトリーヌ・ドヌーヴだった。
今回の監督と脚本は、かつてアンジェリーナ・ジョリーが注目されるきっかけとなったテレビ映画『ジーア/悲劇のスーパーモデル』のマイケル・クリストファーが担当している。
ルイスをアントニオ・バンデラス、ジュリアをアンジェリーナ・ジョリーが演じている。他に、ダウンズをトーマス・ジェーン、アランをジャック・トンプソン、ワースをグレゴリー・イッツェン、アランの妻オーガスタをアリソン・マッキー、メイドのサラをジョーン・プリングル、エミリーをコーデリア・リチャーズが演じている。偽者ジュリアが登場して早々、自分のことを臆面も無く「アタシは美人なのよオホホホ」と言い切ってしまう所がスゴい(そんな言い方はしていないが)。
アンジェリーナ・ジョリーは人気のあるトップスターだし、ブサイクだとは思わないが、そこまで堂々と「美人」と自称されると、違和感を覚える。
まあ、そんなことを言い出せば、アントニオ・バンデラスも「女はガキさえ産めばいいのさメーン」と(そんな言い方はしていないが)考えるタイプには見えないが。ただし、だからといってアンジェリーナ・ジョリーが完全なミスキャストだとは思わない。ある意味では、見事なぐらい敵役だ。何しろ、頭のてっぺんから爪先まで「いかにも男を騙しそうな魔性の女」に見える。
だから偽者ジュリアがルイスから金を奪って逃亡しても、「まさか」ではなく「そりゃそうだろ」と思うわけだ。それがイイのか悪いのかは知らんけど。
まあ、どうせオリジナル脚本じゃないし、簡単に偽者ジュリアが悪党だとバレたっていいという判断もあるんだろうと勝手に解釈しているが。のっけから食わせ者だという匂いが偽者ジュリアにはプンプンと漂っているのに、ルイスはメロメロになっている。どこに、どうして惹かれたのか、映画を見ているだけでは分かりにくいかもしれない。
しかし、それは「演じているのがアンジェリーナ・ジョリーだから」ということで説明が付く。何しろ共演者を百発百中で虜にするような女性なので、そこに説得力を求めればいいのだ。表面的には「悪女だった偽者ジュリアが真実の愛を知って生き方を変えようとする」という話になっているが、それは見せ掛けだと私は睨んでいる。
そのように考えるポイントは、この映画の構成にある。
冒頭、牢屋にいる偽者ジュリアが神父に語る形で話は始まっている。途中にも、何度か牢屋のシーンが入る。つまり、これは逮捕されて死刑を待つジュリアの告白という形を取っているのだ。
ということは、偽者ジュリアが自分に都合のいいように事実を捻じ曲げて美化している可能性があるということだ。いや、「ある」どころではなく、かなり高い可能性だと思う。
何しろ、ずっとルイスを騙し続けていた女なのだ。悪党としての根性が体に染み付いた女なのだ。それぐらいのウソなど、朝飯前だろう。実際、告白シーンを見ても、偽者ジュリアが純朴な若い神父をたぶらかし、何とか死刑を免れようと策を講じているようにしか見えない。
この映画は「出会いから全てがウソだったが愛だけは真実だった」という内容ではなく、「ホントに全てがウソだった」という内容なのだ。
表面的には「愛は勝つ」と見せ掛けて実際には「悪は勝つ」という憎まれっ子世にはばかる的な映画を作ってしまう辺り、マイケル・クリストファー監督にポール・ヴァーホーヴェン監督と通じるセンスを感じるのは私だけだろうか。
まあ、私だけだろうな。
第22回ゴールデン・ラズベリー賞
ノミネート:最低主演女優賞[アンジェリーナ・ジョリー]
*『トゥームレイダー』『ポワゾン』の2作でのノミネート>
第24回スティンカーズ最悪映画賞
ノミネート:【最悪の主演女優】部門[アンジェリーナ・ジョリー]