『ノース ちいさな旅人』:1994、アメリカ

ノースは11才の小学6年生、学校の成績は優秀、スポーツは万能。決して威張り散らすこともなく、周囲に対しても礼儀正しく接する。近所の親達が自分の子供を叱る時にノースを引き合いに出すぐらい、彼は良く出来た子供だ。
ところが、そんな彼にもたった一つだけ悩みがあった。それは両親が自分に無関心なこと。デパートで佇んでいると、ウサギの着ぐるみを来た男が話し掛けてきた。男と話す内に、ノースはフリー・エージェント制について考える。
そして、彼は考えを行動に移す。友人のウインチェルが発行するローカル新聞に彼の意見が掲載された。親子関係におけるフリー・エージェント制度の導入しようとする考えだ。やがてマスコミがノースの元に取材に来るようになり、このニュースは大きな騒ぎになっていく。
ウインチェルはノースに弁護士アーサー・ベルトを紹介。アーサーは子供のFA制についての裁判を起こした。7月1日に出された判決はノースの勝利。彼は9月の労働者の日の正午までに新しい親を探すことになる。ただし、もしそれまでに見つからなかったら孤児院に入れられることになる。
ノースの元には世界中から彼を息子に貰いたいという連絡が入った。彼は新しい親を見つけるため、旅に出ることになった。様々な親候補に出会うが、死んだ息子の代わりだったり、島のPRのためだったりで、なかなか新しい親が決まらない。
その頃、ウインチェルは扇動者となり、子供の権力を強化する運動を広めていた。しかし、ノースが本当の親元に戻ってしまったら全ての計画はパーになる。そこでウインチェルは悪知恵を働かせ、ノースの親が冷たい言葉を投げ付けるビデオをねつ造し、ノースに送り付ける…。

監督はロブ・ライナー、原作はアラン・ツェイベル、脚本はアラン・ツェイベル&アンドリュー・シェインマン、製作はロブ・ライナー&アラン・ツェイベル、製作総指揮はジェフリー・ストット&アンドリュー・シェインマン、撮影はアダム・グリーンバーグ、編集はロバート・レイトン、美術はJ・マイケル・リヴァ、衣装はグロリア・グレシャム、音楽はマーク・シャイマン。
出演はイライジャ・ウッド、ブルース・ウィリス、ジョン・ロヴィッツ、ジェイソン・アレクサンダー、ジュリア・ルイス=ドレイファス、マシュー・マッカレイ、ダン・エイクロイド、キャシー・ベイツ、アラン・アーキン、ロバート・コスタンゾ、フェイス・フォード、マシュー・マッカーリー、グラハム・グリーン、レヴァ・マッケンタイア、ジョン・リッター、ローレン・トム、エイブ・ヴィゴダ、キオーニ・ヤング他。


親子関係におけるFA制という発想がユニーク。
新しい親を探す少年の近くに必ず奇妙な男が現れる。守護天使に守られた少年が、「隣の芝生は青い」ということに気付き、本当の親の愛情を認識するまでを描いたハートウォーミングなファンタジー、のはずだ。

しかし、着眼点は面白いが、映画の出来上がりは面白くない。ブルース・ウィリス、ダン・エイクロイド、キャシー・ベイツなど、俳優陣はなかなか揃っているが、演出がさっぱり冴えない。コメディ調の演出も上辺だけ。

サラッと触れた方が面白い部分を、じっくり描いたりする。
例えば、硬直したままのノースの両親がスミソニアン博物館に展示される場面。いきなり展示されている両親を見せれば面白いのに、館長の前口上や除幕式から見せてしまうから冷めてしまう。待っているのは分かりやすいオチなのに、前振りが長すぎるのだ。

ファンタジー映画のはずなのに、ファンタジーの持つ奥行きが感じられない。気絶して体が硬直したままの両親が法廷に立たされている場面とか、授業中のノースにまで弁護士が助言する場面とか、そういうギャグも上滑り。

ブルース・ウィリスのナレーションで状況を説明するのもダメだろう。謎の男は幻想的な存在であるはずなのに、それによって現実に根を下ろした存在となってしまう。ファンタジックな魅力を出すためにも、ナレーションは不要だった。

ノースを見守る守護天使を演じたブルース・ウィリスが酷評されたが、彼よりもノース役のイライジャ・ウッドの方がミスキャストに思える。それと、ウインチェルを悪役にしたという設定も失敗。やはり悪役は大人に任せるべきだった。

テキサス、ハワイ、アラスカと様々な場所に行くノースだが、その場所ごとにデパートで出会ったのとそっくりな男に出会う。ところが最初のウサギの着ぐるみのインパクトが強すぎて、それ以降にカウボーイ姿やエスキモー姿で登場しても、普通だという印象しか感じない。
どうせなら、様々な着ぐるみで登場すれば面白かったのでは。テキサスでは牛、ハワイでは鮫の機ぐるみで登場するとか。でも、ノース以外の人はそれを本物の牛や鮫として扱う。それぐらい思い切って奇想天外な形にしても良かったかもしれない。

テキサスの親候補であるテックス夫妻がギンギラギンの格好でいきなり歌い出し、そこに派手なカウボーイ&カウガールが何人も加わって踊り始める場面は面白かった。歌い踊る場面はそこだけなのだが、いっそミュージカル映画にしても面白かったかも。

終盤、ノースが銃で命を狙われるという展開も失敗。最後に来てなぜサスペンス・アクションにしてしまうのか。別に命を狙われるのは構わないが、銃を持ち出してはいけない。ファンタジーとしての醍醐味を完全に打ち消してしまう。
最悪なのは、夢オチという結末が待っていること。


第15回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低監督賞[ロブ・ライナー]
ノミネート:最低脚本賞
ノミネート:最低主演男優賞[ブルース・ウィリス]
<*『薔薇の素顔』『ノース ちいさな旅人』の2作でのノミネート>
ノミネート:最低助演男優賞[ダン・エイクロイド]
<*『Exit to Eden』『ノース ちいさな旅人』の2作でのノミネート>
ノミネート:最低助演女優賞[キャシー・ベイツ]


第17回スティンカーズ最悪映画賞

受賞:【最悪の作品】部門
受賞:【最悪の男優】部門[ブルース・ウィリス]
<*『薔薇の素顔』『ノース ちいさな旅人』の2作での受賞>

 

*ポンコツ映画愛護協会