『ほぼ300 <スリーハンドレッド>』:2008、アメリカ

スパルタの土地で赤ん坊が誕生すると、長老が肉体を確かめる。不出来な子と判断されると、その場で赤ん坊は捨てられた。レオニダスは完璧なスパルタの子と認められ、幼少の頃から戦い方を教え込まれた。痛みに耐える拷問も受けた。雪の冬山で空腹に耐える試練も突破し、彼は立派な王となって帰還した。レオニダスはマルゴという女に一目惚れし、結婚を申し込んだ。2人は式を挙げて夫婦となり、息子のレオ・ジュニアにも恵まれた。
ある日、レオニダスはペルシアのクセルクセス王が派遣した使者と面会し、スパルタも服従するよう要求された。トレイトロ評議議員は受け入れるべきだと主張するが、高慢な態度に憤慨したレオニダスは使者を始末した。レオニダスは預言者たちの元へ行き、300の兵で敵の背面を突く計画を語って意見を求めた。預言者たちは巫女のオラクルに尋ね、「ペルシアと戦えば必ず死ぬ」という言葉をレオニダスは聞かされた。彼は不安に見舞われるが、マルゴは戦いに賛同して彼を励ました。
翌日、将軍が集めた兵士は小太りのディリオなど13人しかいなかった。レオニダスが出した条件に合う男が、それだけしかいなかったのだ。将軍はレオニダスに、息子のソニオを紹介した。ソニオは兵士ではなかったが、レオニダスは彼も参加させることにした。出陣した一行が熱い門と呼ばれる場所で休憩していると、ペルシアの密使が兵隊を率いて現れた。服従を要求されたレオニダスたちが拒否すると、密使は「では奴隷になるがいい」と言い放った。レオニダスは宣戦布告し、密使と兵隊を崖から突き落とした。
マルゴはロイヤリストから、レオニダスに援軍を送るよう促される。一度は拒否したマルゴだが、「王が負けて敵が乗り込んで来たら全てを失います」と言われて考えを変えたるロイヤリストは評議会と話し合う手配を約束し、票を得たければ影響力の強いトレイトロを味方にするよう助言した。熱い門にはクセルクセスが軍勢を率いて現れて取引を持ち掛けるが、レオニダスは拒否した。マルゴはトレイトロに援軍を送るよう要請し、代わりに何でもすると約束した。
クセルクセスはスパルタの女を買収し、熱い門に通じるヤギの道の存在を聞き出した。ペルシア軍にヤギの道の存在を知られたという情報を得たレオニダスは、両目を失ったディリオにスパルタへ戻る使者の仕事を任せた。ペルシア軍に包囲されたレオニダスは、それでも降伏を受け入れなかった。マルゴは評議委員の面々に援軍を出すよう頼むが、トレイトロは「クセルクセスに許しを請うのです」と言う。激怒したマルゴはトレイトロを退治し、彼がクセルクセスと密かに通じていたことを知った評議委員たちは援軍を送ることを決めた。一方、スパルタ軍はペルシア軍に戦いを挑むが、ソニオと将軍が命を落とす…。

脚本&監督はジェイソン・フリードバーグ&アーロン・セルツァー、製作はジェイソン・フリードバーグ&アーロン・セルツァー&ピーター・サフラン、製作総指揮はアーノン・ミルチャン、共同製作はマーク・マクネアー&ハル・オロフソン、撮影はショーン・マウラー、美術はウィリアム・エリオット、編集はペック・プライアー、衣装はフランク・ヘルマー、音楽はクリストファー・レナーツ、音楽監修はデイヴ・ジョーダン&ジョジョ・ヴィリャヌエヴァ。
出演はショーン・マグワイア、カーメン・エレクトラ、ケン・ダヴィティアン、ケヴィン・ソーボ、ディードリック・ベーダー、メソッド・マン、ジャレブ・ドープレイズ、トラヴィス・ヴァン・ウィンクル、フィル・モリス、ジム・ピドック、ニコール・パーカー、アイク・バリンホルツ、クリスタ・フラナガン、ハンター・クラリー、エミリー・ウィルソン、トーマス・マッケンナ、ティファニー・ハディッシュ、ウィリー・マック、ケニー・イェーツ、ジョン・ディ・ドメニコ、クリストファー・レット、ジェニー・コスタ、ベリンダ・ウェイマウス他。


『鉄板英雄伝説』のジェイソン・フリードバーグ&アーロン・セルツァーが脚本&監督を務めた作品。
レオニダスをショーン・マグワイア、マルゴをカーメン・エレクトラ、クセルクセスをケン・ダヴィティアン、隊長をケヴィン・ソーボ、トライトロをディードリック・ベーダー、密使をメソッド・マン、ディリオをジャレブ・ドープレイズ、ソニオをトラヴィス・ヴァン・ウィンクル、使者をフィル・モリス、ロイヤリスト&サイモン・コーウェルをジム・ピドックが演じている。
邦題で分かるだろうが、ザック・スナイダーが監督を務めた2006年の作品『300 <スリーハンドレッド>』のパロディー映画である。
原題は『Meet the Spartans』なので本家の『300』とは全く違うが、ここだけは『ミート・ザ・ペアレンツ』や『ルイスと未来泥棒』に似ているね(それぞれ原題は『Meet the Parents』と『Meet the Robinsons』)。ただし、『ミート・ザ・ペアレンツ』や『ルイスと未来泥棒』のネタが持ち込まれているかというと、それは無い。

冒頭で長老が確認する不出来な赤ん坊は、『シュレック』のシュレックに似ている。
緑色の液体を吐くのは、ちょっと『エクソシスト』っぽいかな。
「もしベトナムの子であれば、ブラピ夫妻に引き取りの優先権があった」というナレーションが入ると、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーがベトナムの子を引き取りに来る。
レオニダスが拷問されるシーンは彼が「ミスター・ボンド」と呼ばれていることで分かるように、『007』シリーズのパロディーだ。ここでは拷問官がレオニダスの睾丸部分にペットフードを塗り付け、それを犬に食わせるという下ネタが用意されている。

雪の冬山で耐えるシーンでは、ペンギンが登場して踊り始める。ここではレオニダスが「『ハッピーフィート』みたい」と言っちゃってるので、ペンギンが彼に襲い掛かっても、もはや『ハッピーフィート』のパロディーとしては成立していない。
レオニダスが息子を特訓するシーンでは、パイルドライバーからダイビング・エルボードロップを落としたり、チェーンソーで追い回したり、パイプ椅子で殴ったり、エアガンで撃ったりする。
レオニダスが使者の一団を大きな穴に突き落として始末すると、赤ん坊を抱いたブリトニー・スピアーズが現れる。彼女は「なんでみんな私のことを酷く言うの?私は大人だよ。そんなバカに見える?」と文句を言うが、ノーパンでアソコが丸見えになっているのでレオニダスは穴に蹴り落とす。
すると元旦那のケヴィン・フェダーラインが駆け付けて「何すんだよ。大事な金ヅルだったのに」と言い、レオニダスは彼も穴に蹴り落とす。

その直後、今度は『アメリカン・アイドル』シーズン6で最年少決勝進出者となったサンジャヤ・マラカーが現れて歌い出す。レオニダスが彼を蹴り落とすと番組司会者のライアン・シークレストが現れ、今のキックについて審査員に意見を求める。
ランディー・ジャクソン、ポーラ・アブドゥル、サイモン・コーウェルが感想を述べ、レオニダスは3人とも穴に突き落とす。ライアン・シークレストは怖がって小便を漏らし、自ら穴に落ちる。
醜い顔をした預言者たちの預言を聞くシーンでは、賄賂が必要ってことでレオニダスは洗顔料を渡す。レオニダスは地面に図を描いて作戦を説明するが、それがチンコと尻にしか見えないので預言者たちは笑う。
預言者たちがオラクルを紹介すると、「スパルタで最も美しい娘を自分たちの巫女にした」とナレーションが入るが、巫女が顔を上げるとアグリー・ベティー。「チアリーダーを救え。世界を救え」という言葉を聞いたレオニダスは、「いや俺、『HEROES』は見てないし」と言う。

レオニダスが眠っているマルゴの背中を見ると、「レオニダスはここにいる」とタトゥーが彫ってある。だが、その下にはトミー・リー、コービー・ブライアント、シャキール・オニール、ドクター・フィル(フィル・マグロー医師)、タラ・リード、ボラット、オークランド・レイダースの名前も彫ってある。
巫女の言葉で不安になっているレオニダスはマルゴから「耳を傾けるべき女は1人でしょ」と言われ、もちろん「それはマルゴ」ってのが正解だが、「オプラ(・ウィンフリー)だ」と答える。
ソニオが登場すると、レオニダスは『America's Next Top Model』っぽいセットのタイラ・バンクス、ツイッギー、J・アレキサンダーに意見を求める。レオニダスは息子に別れの挨拶をするが、それは息子じゃなくて小人のオッサン。
スパルタ軍が出陣する時には、両手を繋いでグロリア・ゲイナーの『I Will Survive』を合唱しながらスキップする。
峡谷の「熱い門」に着いた一行は、せむし男に変貌したパリス・ヒルトンと遭遇する。レオニダスや将軍が驚くと、パリスは「刑務所に出たり入ったりしていたら、『悪魔の毒々モンスター』みたいな姿になった」と説明する。

熱い門でレオニダスが宣戦布告すると、フロアが用意されてダンス対決が始まる。双方のダンスが終わると『Dancing with the Stars』ならぬ『Dancing with the Spartans』の審査員席が登場し、ブルーノ・トニオリ、レン・グッドマン、キャリー・アン・イナバが採点の札を挙げる。
一方、マルゴはロイヤリストに声を掛けられた時、両乳首と股間だけをトマトのスライスとピザで隠した状態でエステの最中。エステティシャンはマルゴの背中にニードロップを落とし、首を蹴り付け、バック宙でフットスタンプを食らわせる。
クセルクセスが登場すると、ナレーターが『ボラット』に出てくるデブにソックリだと語る。演じているケン・ダヴィティアンは、実際に『ボラット』に出演していた役者だ。マルゴのタトゥーでもボラットをネタにしていたので、2度目だね。
ちなみにボラットやケヴィン・フェダーラインは『鉄板英雄伝説』でもネタにされていたので、当時のジェイソン・フリードバーグ&アーロン・セルツァーにとっては、その辺りが笑いのツボだったんだろう。

クセルクセスがレオニダスに「話し合いに来たんだ」と言うと、『Deal or No Deal』のセットが登場する。クセルクセスが電話を受けて、レオニダスはジュラルミンケースが置かれた台の前でディールかノー・ディールかを迫られる。
迷ったレオニダスは応援席のスパルタ軍と相談し、ノー・ディールを選ぶ。するとナレーターが「怒ったクセルクセスは選りすぐりの戦士にスパルタ軍を襲撃させた」と語るが、登場するのは若者グループで、スパルタ軍との悪口合戦を始める。
粗筋で「クセルクセスはスパルタの女を買収し」と書いたが、買収されるのはパリス・ヒルトン。パリスが異形の右腕を何とかするよう頼むとクセルクセスは剣で突き刺すが、大量の液体が噴射して吹き飛ばされる。
冒頭で「シュレックの赤ん坊がゲロを吐く」という描写があったけど、この「嫌な液体がブシャーと放出される」ってのは、どうやらジェイソン・フリードバーグ&アーロン・セルツァーの好きなネタらしい。『鉄板英雄伝説』でも、似たようなネタを持ち込んでいた。

トレイトロに激怒したマルゴは、スパイダーウーマンに変身する。トレイトロはサンドマンになるが、マルゴに掃除機で砂を吸われる。
熱い門での戦いが始まると、ペルシア軍の助っ人としてゴーストライダーが駆け付けるが、ソニオに消火器で退治される。しかしロッキー・バルボアが現れ、ソニオの頭部をパンチ一発で首チョンパしちゃう。激怒した将軍は、スキンヘッドでオムツを履いていたロッキーにボトックスを注射して殺す。
ロッキーのチャンピオンベルトを掲げた将軍は、クセルクセスの投げた槍に突き刺されて死ぬ。レオニダスが激怒すると画面は『グランド・セフト・オート』っぽくなり、彼はゲームのキャラクターのような動きで敵を倒していく。
慌てて逃げ出そうとしたクセルクセスは、トランスフォーマーのキューブを発見する。彼はキューブを使い、車を変形させてロボットになる。しかしプラグがコンセントから外れて転倒し、下敷きになったスパルタ軍は全滅する。

1年後、ディリオは新たな軍勢を率いてペルシア軍と戦おうとするが、盲目なので道を間違えてマリブへ行ってしまう。すると何度目かのリハビリから戻ったリンジー・ローハンがいて、デイリオに弾き飛ばされる。ちなみにパリスの時に書き忘れたけど、彼女もリンジーもパンツは履いていない。
で、そこで映画は終わり、クロージング・クレジットに入ると登場した面々が『アメリカン・アイドル』の舞台上でグロリア・ゲイナーの『I Will Survive』を歌い踊る。
それが終わると、本編では使われなかったシーンが幾つもオマケで付いている。ブッシュ大統領は「戦争では解決しない」と説得するが、レオニダスに穴へ落とされる。スパイダーウーマンが『アプレンティス』のように、ドナルド・トランプからクビを宣告される。
エレン・デジェネレスはベラベラと喋りまくるが、レオニダスに穴へ落とされる。トム・クルーズはサイエントロジーに勧誘し、レオニダスに穴へ落とされる。デイン・クックもベラベラと喋りまくるが、レオニダスに穴へ落とされる。

パロディー映画ってのは、何か基盤となる1本の作品があっても、他に幾つもの映画のネタを持ち込むケースが多い。
『鉄板英雄伝説』の場合なら、ベースになっているのは『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』だが、『ダ・ヴィンチ・コード』や『ナチョ・リブレ/覆面の神様』、『X-MEN:ファイナル ディシジョン』や『チャーリーとチョコレート工場』など数多くの映画のネタを盛り込んでいた。そもそも原題は『Epic Movie』であり、「叙事詩的な映画のパロディー」という体裁を取っていた。
しかし本作品の場合、『300 <スリーハンドレッド>』の上に乗せる他の映画のネタは、ほとんど用意されていない。大胆なことに、ほぼ1本の映画だけで勝負しようとしているのだ。
これが『007』シリーズや『スター・ウォーズ』シリーズのように、世界的にヒットした超有名作品なら、それでも成立するだろう。っていうか、どっちもシリーズ作品なので、厳密に言うと「1本」じゃないしね。
でも『300 <スリーハンドレッド>』って、確かにヒットしたけど、1本で勝負できるような映画とは言えないんじゃないか。

そもそもベースに使う素材としても、『300 <スリーハンドレッド>』がふさわしいとは思えないんだよね。
あの映画って、荒唐無稽に誇張しまくった「男だらけの筋肉大会」が受けたのであって、「ちょっと笑える」という匂いがプンプンと漂っていたのだ。
ザックリ言うと、おバカなテイストに満ち溢れていた映画だった。
本家の方が、たぶん狙っていないであろうトコでツッコミを入れたくなる要素たっぷりだったわけで、それはパロディーの題材に向いていないんじゃないかと。

で、映画のネタが少ない代わりに盛り込まれているのが、テレビ番組のネタと、芸能人のゴシップ関連のネタだ。
テレビ番組に関しては、日本でも放送された作品も多いので、そういうのを見ていれば元ネタは分かるだろう。
ゴシップについては、かなりマニアックな観客じゃないと厳しいかなあ。
レオニダスがトム・クルーズを穴に落とす時の「ケイティーを自由にしてやれ」という台詞レベルなら分かりやすいけど、エレン・デジェネレスやデイン・クックになってくると難しいよね。

(観賞日:2019年9月21日)


第29回ゴールデン・ラズベリー賞(2008年)

ノミネート:最低監督賞[ジェイソン・フリードバーグ&アーロン・セルツァー]
<*『ディザスター・ムービー!おバカは地球を救う』『ほぼ300 <スリーハンドレッド>』の2作でのノミネート>
ノミネート:最低脚本賞
ノミネート:最低助演女優賞[カーメン・エレクトラ] <*『ディザスター・ムービー!おバカは地球を救う』『ほぼ300 <スリーハンドレッド>』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会