『ヘルボーイ』:2019、アメリカ
紀元517年の暗黒時代、英国では人間と魔物との戦争が延々と続いていた。不死の魔女であるヴィヴィアン・ニムエは人間の非道な行いに報復するため、恐ろしい伝染病を広めた。アーサー王と魔術師のマーリンはペンドルヒルへ赴き、ニムエと会った。表向きは降伏することが目的だったが、アーサーはニムエを欺いて剣で突き刺した。ニムエの腹心であるガネイダが裏切り、アーサーに協力したのだ。ニムエは首を切断されるが、それでも死ななかった。アーサーは体を切り刻んで別々の棺に納め、地の果てに封印した。
現在、メキシコのティファナ。超常現象調査防衛局(BRPD)の捜査官を務めるヘルボーイは、飲み仲間であるエステバン・ルイーズの捜索に来ていた。ルイーズは3週間前に吸血鬼の巣を調べに行き、そのまま連絡を絶っていた。ヘルボーイはルチャ・リブレの会場へ行き、覆面レスラーのカマゾッソとしてリングに立っているルイーズに呼び掛けた。ヘルボーイが一緒に帰ろうと告げると、彼はリングの戦いを要求した。ヘルボーイは困惑するが、ルイーズが襲い掛かったので仕方なく反撃した。ヘルボーイが覆面を剥すと、ルイーズは吸血鬼の姿に変貌した。ヘルボーイはルイーズを投げ飛ばし、誤って瀕死の重傷を負わせてしまう。ルイーズは「お前はアヌン・ウン・ラーマだ。心に怒りが満ちている。最後は奴らの仲間になる。やがて終わりが訪れる」と言い残し、息を引き取った。
親友を殺したショックでヘルボーイが酒を飲んでいると、捜査官のマディソンとストロードが迎えに来た。BRPDの本部に戻ったヘルボーイは、育ての親であるブルーム教授からオシリス・クラブについて聞かされる。オシリス・クラブは1866年に創立された英国の友愛結社で、太陽神のラーを崇める人々の集まりだ。ブルームはヘルボーイに、オシリス・クラブで大きな問題が起きて力を借りたいと言っていることを教えた。ブルームとオシリス・クラブの代表を務めるグラーレン卿は、古くからの親友だった。同じ頃、魔女のバーバ・ヤーガは自分と同じくヘルボーイに恨みを持っている妖精のグアルバッガを呼び、「お前をニムエの元へ導く。女王を元の姿に戻せば、復讐の力を与えてくれる」と告げた。
ヘルボーイはオシリス・クラブの本部を訪れ、グラーレンや仲間のカープ博士、オーガスト・スウェインたちと会う。グラーレンは彼に、かつて英国には人を食い殺す凶悪な巨人がいたことを教える。「ギガンティス・モルティス」と呼ばれる巨人の亡骸は埋められたが、墓場から蘇って暴れることがあり、そんな時はクラブの面々が狩ることになっている。しかし2人なら手に負えるが、3人以上だと難しい。今回はニューフォレストに複数の巨人が出現したため、クラブはヘルボーイの力を借りようと考えたのだ。
1943年に巨人が出現した時は、ブルームも狩りに参加していた。その時の集合写真を見たヘルボーイは、ブルームやグラーレンたちが全く年を取っていないことに気付いた。すると霊能者のレディー・ハットンが現れ、交霊術の副作用だと告げる。その時に呼び出した霊は、「人類を滅ぼす何かが現れる。それを防げ」と話していた。その「何か」の正体は、ヘルボーイだった。そしてヘルボーイが生まれた時、その場にはハットンもいた。
第二次世界大戦末期、敗北が濃厚となったドイツはグレゴリ・ラスプーチンの能力に頼った。ナチスのカール・ルプレクト・クロエネン、ヘルマン・フォン・クレンプト、レオポルド・クルツ、イルザ・ハウプシュタインたちはスコットランド沖へ行き、古代の儀式を執り行う。しかし失敗に終わったため、ナチスはラスプーチンを射殺しようとする。そこへナチス・ハンターのロブスター・ジョソンンと連合軍が現れ、ナチスを攻撃した。
ロブスターはラスプーチンを殺害し、ナチスの面々は連行された。ブルームとハットンは連合軍に雇われ、地獄から召喚されたヘルボーイを殺す任務に当たった。しかし生後間もないヘルボーイを見たブルームは本質を見抜いて始末せず、息子として育てて善に導いたのだった。話し終えたハットンが「ブルームから聞いていなかったの?」と尋ねると、ヘルボーイは「話し忘れていたんだろう」と述べた。一方、グアルバッガは修道院に乗り込んで修道僧を全滅させ、ニムエの頭部が納められた棺の封印を解いた。
ヘルボーイはグラーレンの率いるオシリス・クラブの部隊に同行し、ニューフォレストへ赴いた。するとグラーレンたちはヘルボーイを包囲し、不意を突いて襲い掛かった。彼らの狙いは最初から、ヘルボーイを騙して始末することにあったのだ。しかし3人の巨人が現れ、グラーレンは首を落とされた。グアルバッガは山荘の所有者を始末して隠れ家に使い、ニムエの肉体を集めた。ニムエはテレビを見て現在の世界について知識を深め、残るパーツは左腕だけになっていた。
ヘルボーイはグラーレンたちを全滅させた3人の巨人に襲われるが、何とか撃退した。彼が倒れて意識を失うと、車が来て救助した。意識を取り戻したヘルボーイは、1人の女性の家で手当てを受けていた。女性はヘルボーイに、4人の男を雇って運んだことを説明した。「君は誰だ?」と問い掛けたヘルボーイは、相手の言葉でアリス・モナハンだと気付いた。アリスは霊能力を生かして、占い師になっていた。ヘルボーイはアリスと20年ぶりの再会で、その間に彼女の両親は亡くなっていた。
アリスが「霊は貴方を殺せと言っている」と告げると、ヘルボーイは「どいつもこいつも俺の命を狙うが、理由は何だ?」と訊く。アリスは「終わりをもたらすのが貴方だからよ」と答えるが、自身は子供の頃にヘルボーイに助けられたこともあり、殺す気は無かった。そこへブルームが現れ、M-11特殊部隊の隊長を務めるベン・ダイミョウ少佐を紹介した。ベンが「化け物と組むとは」と露骨に嫌悪感を示すと、ヘルボーイも悪態をついた。
ブルームはヘルボーイに、「今回は合同作戦だ。ニムエの棺が盗まれた」と言う。オシリス・クラブが棺の1つを保管しており、それを手に入れるのが合同作戦の目的だった。アリスが同行を要求すると、ブルームはベンに連れて行くよう指示した。彼はヘルボーイに、拳銃を渡した。車がオシリス・クラブの本部に近付くと、アリスは何か恐ろしいことが起きたことを悟った。ヘルボーイたちが建物に入ると、クラブの会員たちは皆殺しにされていた。
アリスはハットンの遺体を見つけ、霊を呼び出した。ハットンの霊はヘルボーイに、「女王に王を見つけさせてはならない。魔女が完全に復活すれば、お前の運命が明らかになる」と話す。しかし彼女はヘルボーイの運命について話す前に、姿を消してしまった。ヘルボーイはグアルバッガを発見し、ニムエの左腕を奪い返そうとする。ヘルボーイに襲われたグアルバッガは、ニムエを呼び出した。ニムエは仲間になるようヘルボーイを誘い、グアルバッガと共に姿を消した。
ヘルボーイはベンとアリスに、オシリス・クラブを襲った敵がグアルバッガだと教える。1992年、まだアリスが赤ん坊の頃、ヘルボーイはグアルバッガと会っていた。その頃、妖精が赤ん坊を盗み、別の子を置いていく事件が起きていたアリスの両親から相談されたヘルボーイは、取り替え子に化けているグルアガッハの正体を暴いた。グルアガッハはヘルボーイに捕まり、「妖精にアリスを返させる」と約束する。ヘルボーイはグルアガッハの言葉を信じなかったが、逃げられてしまった。彼が「赤ん坊を返さないと、取り返しに行くぞ」と脅すと、アリスは無事に戻された。
全ての肉体を取り戻したニムエは、グルアガッハに仕事を命じた。ベンはバーを隠れ蓑にした秘密本部にヘルボーイとアリスを連れて行き、「どこへも行くな」と指示して去った。秘密本部ではブルームが資料を読んでおり、ヘルボーイに「ニムエは完全な体にならないと、力も元に戻らない。魔女を葬り去れ」と命じた。ベンは銃器店へ行き、ヘルボーイを殺すための弾丸を受け取った。ヘルボーイはブルームに「俺を武器に仕立てた。本当に愛しているなら、俺の命を狙った連中を止めるべきだろ。なのに同胞の魔族を殺せと言っている」と怒りを向け、その場を後にした。
バーバ・ヤーガは自分のいる別次元へヘルボーイを誘い込み、「お前のせいで醜い姿になった」と言う。ヘルボーイが「お前がスターリンの亡霊を呼び出そうとしたから止めただけだ」と話すと、バーバ・ヤーガは失った目を渡すよう要求する。ヘルボーイはニムエの居場所を教える条件で、その要求を受諾した。バーバ・ヤーガは契約のキスを交わし、「ペンドルヒルに行け。彼女が力を取り戻すには血が必要だ。刻限は今日の真夜中」と教えた。
ヘルボーイ、アリス、ベンはヘリコプターに乗り、ペンドルヒルに向かう。ベンはアリスから魔物を毛嫌いする理由を問われ、「訓練中、村の長老から魔物退治を頼まれた。しかし部隊は魔物に襲われて全滅し、生き残ったのは自分だけだった」と述べた。地上に降りた3人はペンドルヒルを目指すが、地中から蘇った死人の群れに襲われた。ベンはアリスを守りながら死人たちと戦うことを引き受け、ヘルボーイにニムエの元へ向かうよう指示した。
ニムエは左手を切って血を流し、木に向かって呪文を唱えていた。彼女は復活し、集まって来た魔物の軍団に「共に戦え」と呼び掛けた。ガネイダが許しを請うと、ニムエは「忠誠心を示せ。ヘルボーイを運命に導け」と告げた。ヘルボーイが来てニムエに挑むが、圧倒的な力の差を見せ付けられる。ニムエが王になるよう持ち掛けると、ヘルボーイは拒絶した。するとニムエはヘルボーイを追って来たアリスに毒針を突き刺し、「お前から全てを奪い、愛する者を全て殺す」と言い残して姿を消した…。監督はニール・マーシャル、原作はマイク・ミニョーラ、脚本はアンドリュー・コスビー、製作はローレンス・ゴードン&ロイド・レヴィン&マイク・リチャードソン&フィリップ・ウェストグレン&カール・ハンプ&マット・オトゥール&レス・ウェルドン&ヤリフ・ラーナー、製作総指揮はマイク・ミニョーラ&マーク・ヘルウィグ&アヴィ・ラーナー&トレヴァー・ショート&ジョン・トンプソン&ラティ・グロブマン&クリスタ・キャンベル&ジェフリー・グリーンスタイン、共同製作はマーティン・バーンフェルド、共同製作総指揮はロニー・ラマティー、撮影はロレンツォ・セナトーレ、美術はポール・カービー、編集はマーティン・バーンフェルド、衣装はステファニー・コーリー、視覚効果監修はスティーヴ・ベッグ、クリーチャー・デザイン&メイクアップはジョエル・ハーロウ、音楽はベンジャミン・ウォルフィッシュ。
出演はデヴィッド・ハーバー、ミラ・ジョヴォヴィッチ、イアン・マクシェーン、サッシャ・レイン、ダニエル・デイ・キム、トーマス・ヘイデン・チャーチ、ソフィー・オコネドー、アリステア・ペトリー、ブライアン・グリーソン、ペネロペ・ミッチェル、マーク・スタンリー、リック・ウォーデン、ニッティン・ガナトラ、マリオ・デ・ラ・ローサ、アタナス・スレブレフ、ドーン・シャーラー、マルコス・ローンスウェイト、トロイ・ジェームズ、ダグラス・テイト、イルコ・イリエフ、ジョエル・ハーロウ、ディミター・バネンキン、ヴァネッサ・エイクホルツ、クリスティーナ・クレーベ、チャールズ・シャノン他。
声の出演はスティーヴン・グレアム他。
マイク・ミニョーラの同名コミックを基にしたリブート作品。
監督は『ドゥームズデイ』『センチュリオン』のニール・マーシャル。
脚本はTVドラマ『ユーリカ 〜事件です!カーター保安官〜』のアンドリュー・コスビー。
ヘルボーイをデヴィッド・ハーバー、ニムエをミラ・ジョヴォヴィッチ、ブルームをイアン・マクシェーン、アリスをサッシャ・レイン、ベンをダニエル・デイ・キム、ロブスターをトーマス・ヘイデン・チャーチ、ハットンをソフィー・オコネドー、アダムをアリステア・ペトリー、マーリンをブライアン・グリーソン、ガネイダをペネロペ・ミッチェル、アーサー王をマーク・スタンリーが演じている。マイク・ミニョーラの同名コミックは2004年にギレルモ・デル・トロ監督が映画化し、2008年には続編も作られている。この映画は、そのリブート版ってことになる。
ただ、ギレルモ・デル・トロ監督が手掛けた2作は、決して大ヒットしたわけではない。それに、そういうことを抜きにしても、リブートなんだから「最初から仕切り直し」という意識が必要なはずだ。
ところが、なぜか「もうヘルボーイのことは御存知ですよね」と言わんばかりのスタンスで、「シリーズ3作目」みたいな映画になっているのだ。
「最初からやり直し」という映画としては、考え方を間違えているとしか思えないのだ。まず導入部では、ヘルボーイという主人公のキャラクターを紹介した方がいい。
最初に戦いのシーンを用意するのなら、そこで彼の怪物としての能力や、その強さをアピールした方がいいはずだ。
しかし実際には、何しろ相手が親友なので最初は戦おうとせず、反撃しても全力ではない。
「倒すべき悪党と戦う」という状況ではなく「ルチャのリングで親友と仕方なく戦う」という状況にしてあるのは、話の入り方として明らかに失敗だ。ヘルボーイはルイーズの覆面を剥ぐと、驚きの表情を見せる。
でも、こっちはルイーズの素顔を知らないので、そこで驚かれてもピンと来ない。
いや、何となく「本来の顔じゃなくて別人みたいに変貌しているんだろうな」ってことは伝わるよ。ただ、ヘルボーイの見た目が怪物なので、ルイーズが人間の姿をしていなくても「そういう奴なのかな」と思ってしまうのよ。
っていうかさ、なんで最初のアクションシーンが、ルチャのレスラーとのリングでの戦いなのよ。TPOを全て間違えているとしか思えんわ。ヘルボーイのキャラ紹介を省略するなら、そのまま突っ走ってしまうのも1つの手だ。
でも開始から20分辺りで、2004年版で描かれていた「ヘルボーイの誕生シーン」が挿入される。ただし丁寧に描くわけではなくてザックリと申し訳程度なので、「そんな中途半端ならカットでいいよ」と思ってしまう。
あとコミックのキャラであるロブスターを登場させているけど、それ以降は全く話に絡まない奴なのよね。だから、そんな奴を出す意味が無いし、悪目立ちさせているだけだわ。
「2004年版で描かれたエピソードだからサラッと処理した」ってことかもしれないが、だったら丸ごとカットでもいいのよ。こっちが求めている「ヘルボーイのキャラクター紹介」ってのは、そういうことばかりじゃないからね。ハットンは生後間もないヘルボーイと出会った時の出来事を語ると、「教授から聞いてない?」と問い掛ける。それに対して、ヘルボーイは「話し忘れたんだろう」と返す。
ここで初めて、ヘルボーイが自身の出自について何も知らないことがハッキリする。
ヘルボーイは自分が怪物ってことは理解しているので、そういうのも分かっているんだろうと思っていたのよ。そこは説明が下手だわ。
そもそも、彼の過去が今回の話に大きく絡んで来るのなら、そこの説明を省略して話を進める構成自体が間違いだし。オシリス・クラブはヘルボーイに仕事を依頼してニューフォレストへ行き、油断させておいて始末しようとする。
でも、最初から彼を始末するのが目的なら、わざわざホントに巨人がいるような場所まで連れ出す必要は無いでしょ。そこで戦っていたら、巨人に襲われる危険もあるんだからさ。
そして実際に襲われているし。
それに、巨人を倒す仕事もあるのなら、そこにヘルボーイを協力させておいて、狩りが終わってから用済みの彼を殺せばいいでしょうに。オシリス・クラブの不意打ちを受けたヘルボーイが川で追い込まれていると巨人の唸り声が聞こえ、グラーレンの首が水に落下する。
ここでシーンを切り替え、ニムエが山荘でテレビを見ている様子が映し出される。
これは構成として、明らかに失敗だ。
そこは「ヘルボーイが窮地に陥っていたら巨人が現れてグラーレンたちを全滅させる。ヘルボーイも襲われるが、何とか倒す」ってのを一気に見せた方がいい。そっちの方が、観客を引き込む力は強くなるはずだ。バーバ・ヤーガとグアルバッガの登場シーンでは、名前も分からないし正体も不明。そしてヘルボーイを憎んでいる理由も全く分からない。
同じようなことが他にもあって、それはアリスの存在。ヘルボーイはアリスに救われて意識を取り戻すと、「君は誰だ?」と訊く。彼女の言葉で「アリス・モナハンか。見違えた」と口にするが、こっちはアリスと初対面なので「誰だよ」と言いたくなる。
で、ヘルボーイがグアルバッガと戦った直後に回想シーンが入り、ここで「ヘルボーイとグアルバッガの関係」「ヘルボーイとアリスの関係」が説明される。
でも、そうやって何度も回想シーンを入れて後から説明する方法が、ものすごく不細工になっている。話の流れやテンポも悪くしているし、何もプラスが無い。赤ん坊のアリスを巡る回想シーンでは、取り替え子に化けた妖精がグアルバッガであることが、ちょっと分かりにくい。
化けている妖精が正体を現した時のサイズが小さくて、現在のグアルバッガとは見た目が異なるのだ(デザイン的には似ているんだけど)。
なので、そいつじゃなくて、その背後にいる黒幕がグアルバッガなのかと思っちゃうんだよね。
でも後から現在のグアルバッガがヘルボーイに対する恨みを語るシーンがあって、そこで「あの取り替え子がグルアバッガだったのね」と分かるんだよね。そこも説明が下手。あと、回想シーンのグルアバッガはヘルボーイから逃げ延びているし、ずっと強い復讐心を抱き続けるほどの出来事には見えないんだよね。
後のシーンで「人間になりたかった。ヘルボーイのせいで不可能になった」という恨みを口にしているけど、そこでようやく理解できるというのは構成として下手だよ。
あと、もちろん赤ん坊を拉致して化けるグルアバッガの行動は悪いけど、「人間になりたい」という願望は同情心を誘う要素に繋がるでしょ。そういうキャラとして描くのならともかく、徹底して「醜悪な怪物」として描いているわけで。
それなら、そういうのは邪魔でしょ。それと、その回想シーンでアリスは赤ん坊なので、ヘルボーイを認識しているはずがない。しかも、霊能者としての力にも目覚めていない。
なので、ヘルボーイとアリスの関係性とか、アリスのキャラを紹介するための回想シーンとしては、あまりにも不充分だ。
回想シーン繋がりで言うと、ヘリコプターでペンドルヒルに向かう途中では「ベンが魔物を毛嫌いするようになったきっかけ」の出来事も挿入される。
でも、そんなの全く要らないわ。序盤でヘルボーイがブルームを「パパ」と呼び、全面的に信頼して慕っている様子が描かれている。しかしアリスの元へブルームが来た時に、ヘルボーイは反発する態度を見せる。そして秘密本部では、ブルームを激しく批判している。
「ハットンから出自に関する話を聞いてブルームへの不信感を抱くようになった」ってことは、筋立てとしては理解できる。でも、そんなに簡単に揺らぐような関係性だったのか。
そもそもヘルボーイとブルームの疑似親子関係が充分にアピールされているとは言い難いので、「ヘルボーイが不審を抱いてブルームとの関係がギクシャクする」というドラマも上手く含まらない。
それなら、いっそのこと最初から「ヘルボーイがブルームを全面的に信用せずに反発している」ってな関係にでもしておいた方がマシだわ。バーバ・ヤーガはヘルボーイに恨みを抱いており、グアルバッガに「お前をニムエの元へ導く。女王を元の姿に戻せば、復讐の力を与えてくれる」と持ち掛けている。
しかし、ニムエの目的はヘルボーイを殺すことじゃないので、この時点で初期設定としては少し問題がある。
それは置いておくとして、じゃあバーバ・ヤーガは「グアルバッガを使ってヘルボーイを殺すこと」なのかと思ったら、ヘルボーイを呼び寄せて取引を持ち掛ける。彼女は奪われた目を取り戻すことを望んでおり、そのためにニムエの情報を与えている。
でも、そこは徹底して「ヘルボーイに復讐する」という目的を押し出さなきゃダメでしょ。バーバ・ヤーガはヘルボーイに、「ニムエが力を取り戻すには血が必要だ。刻限は今日の真夜中」と告げる。
ではタイムリミットを使ったサスペンスになるのかと思いきや、ヘルボーイが到着する前にニムエは復活し、「今日の真夜中」という刻限は完全に忘れ去られてしまう。
そんなニムエの復活劇は、ものすごく淡々としている。呪文を長々と唱えていると手の出血が止まり、ニムエが「復活した」と言うだけなのだ。
姿が変わることも無いし、派手な特殊効果が入るわけでもない。まるで絵としての盛り上がりが無い。
あと、ガネイダを殺さずに済ませるのは、「ヘルボーイが立ち向かう強大なラスボス」としてヌルすぎるだろ。マーリンは冒頭だけの登場かと思ったら、後半に復活してヘルボーイたちと絡む。そして「ヘルボーイはアーサー王の末裔だ」と説明し、エクスカリバーを抜いて魔女を倒すよう促す。
でも、ヘルボーイの世界観とアーサー王伝説の世界観が、上手く融合しているようには全く思えないんだよねえ。
ひょっとすると原作コミックでは、上手く描けているのかもしれない。
だとしたら、そこの処理を映画では失敗しているってことじゃないかな。ラスボスのニムエにヴィランとしての歯ごたえが足りず、しょっぱい存在と化している。彼女の目的はヘルボーイを自分たちの王にすることなので、そこの関係が一向に戦いへと発展しないのよね。
ニムエはヘルボーイの周囲の人間は襲うけど、ヘルボーイに対しては甘言で誘うばかりだ。
しかも周囲の人間にしても、アリスは助かっちゃうし。
それ以外でも、それなりに行動はしているものの、ラスボスとしての脅威は全く物足りない。終盤、ヘルボーイがブルームを殺害したニムエの策略に落ちてエクスカリバーを抜き、彼が王になることで世界の危機が訪れる。
ところがアリスに呼び出されたブルームの霊が説得に当たると、すぐにヘルボーイは冷静さを取り戻す。
ついにヘルボーイとニムエの最終決戦が勃発するのかと思いきや、「ヘルボーイがニムエの首を切断する」という形で、あっさりと終わってしまう。
なので当然のことながら、クライマックスがちっとも盛り上がらない。エンドロールの途中、ブルームを失って落ち込んでいるヘルボーイの前にロブスターが現れる。
ロブスターの大ファンであるヘルボーイは興奮し、「次の戦いが待っている」と声を掛けられると前向きな気持ちを取り戻す。
でも、ロブスターを知らない人からすると、そこで彼に重要な役回りを担当させる意味がサッパリ分からないよね。
で、最後にバーバ・ヤーガが何者かに「ヘルボーイを殺して目玉を持って来い」と要求する姿が描かれ、続編を匂わせているが、これが完全にコケたのでシリーズ化は厳しいんじゃないかな。(観賞日:2021年3月22日)
第40回ゴールデン・ラズベリー賞(2019年)
ノミネート:最低主演男優賞[デヴィッド・ハーバー]
ノミネート:最低序章&リメイク&盗作&続編賞
ノミネート:最低監督賞[ニール・マーシャル]
ノミネート:最低脚本賞
ノミネート:最も人命と公共財産に無関心な作品賞