『ハード・キル』：2020、アメリカ
ニューヨーク、 午後11時。エヴァはパードナーが率いるテロリスト一味と密会し、プロジェクト725と呼ばれる小さな装置を渡す。彼女が「サーバー容量が充分ならＡＩが起動する」と言うと、パードナーは「小さいが威力は計り知れない。これを使って世界を変えようじゃないか」と告げた。過去に多くの仲間を戦地で失ったデレク・ミラーは、チャプター・ハウスの社長であるデイトン・チャルマーズと車で面会した。元軍人のチャルマーズは、デレクを推薦した人間がいることを明かした。
そこへデレクの元仲間であるニック・フォックスが合流し、因縁のあるパードナーがチャプター・ハウスの装置を盗んだことを話す。装置には自動運転制御の設定があるが、解除コードを知るチャルマーズが狙われているとフォックスは説明する。チャルマーズは新工場建設地の廃墟を視察することになっており、デレクに警護を要請した。「警護はやらない」とデレクは断ろうとするが、フォックスが説得すると「俺のやり方である。情報は全て教えろ」と条件を付けて承諾した。
デレクはバーへ行き、傭兵チームのハリソン＆サーシャ・ジンデル兄妹、ダッシュ・ホーキンスの３人に仕事の話をする。高額の報酬だと知ったダッシュは迷わず承諾し、サーシャも「デレクと一緒に行く」と言う。ハリソンだけは「嫌な予感がする」と断ろうとするが、妹に説得された。デレクたちはチャルマーズ＆フォックスに同行し、廃墟に到着した。するとフォックスはチャルマーズに確認し、「管理人は来ない。約束も無い」とデレクたちに告げた。
廃墟にパードナーが来ると知ったサーシャたちは、騙したことに腹を立てる。フォックスは「仕方が無かった。素人のフリをすれば、敵も油断する。少数精鋭が必要だった。武装部隊が同行すれば奴らは撤退しかねない」と語り、謝罪はしなかった。携帯は通信妨害で圏外になっており、廃墟にはパードナーがコルトン副官たちを率いて迫っていた。パードナーは連行したエヴァに、「君なら分かってくれると思った。いずれ私が正しいと分かる」と述べた。
デレクが「俺のチームを危機に晒した」と怒ると、フォックスは「口座には報酬の判断が入っている。終わったら残りを振り込む」と話す。「金の問題じゃない」とデレクが声を荒らげると、チャルマーズが「生き残るために、一緒に戦え」と要求した。チャルマーズはデレクに、「奴は私に接触するため、娘を人質にした。娘を救いたい」と語る。デレクは彼を奥の部屋に移動させて拳銃を渡し、「娘さんは必ず助ける」と約束した。
パードナーは偵察チームを派遣するが、デレクたちが始末した。ダッシュが「金は手に入った。逃げよう」と持ち掛けると、デレクは「娘の命を案ずる父親を放っておけるか？」と述べた。パードナーは次の作戦として、エヴァだけを廃墟に向かわせた。フォックスが救出に行こうとすると、デレクは「罠だ」と止めた。フォックスは廃墟の外に出ると、狙撃手に見えるように両手を挙げた。彼は拳銃を収めて、エヴァに声を掛けた。デレクは少し距離を取って、警戒しながら様子を窺った。
エヴァはフォックスに、「ごめんなさい。実地テストだけのはずが、こんなことに」と言う。フォックスが「今はいい、君の救出が先だ」と告げると、彼女は「まさか、パパが来てるの？」と口にする。「君を助けるためだ」とフォックスが話すと、彼女は「私じゃなくて、プロジェクト725でしょ」と述べた。
そこにパードナーが来てエヴァに拳銃を突き付け、「１時間以内に社長とコードを渡さないと地獄を見るぞ」と脅す。彼は狙撃手にデレクとフォックスを威嚇射撃させ、その場から去った。デレクはチャルマーズの元へ行き、プロジェクト725についての説明を求めた。それは量子ＡＩシステムで、エヴァが開発者だった。チャルマーズはデレクたちに、「彼女は私を疎んじていた。経営陣と意見が合わなかった。それで装置を持ち出した」と説明した。
パードナーは通用口と正門口に３人ずつの手下を差し向けるが、いずれもデレクたちに始末された。彼はコルトンたちを引き連れて廃墟に入り、エヴァに拳銃を突き付けた。彼はデレクに、自分と手を組むよう持ち掛けた。隙を見てエヴァが逃走し、激しい撃ち合いが勃発した。ハリソンが命を落とし、フォックスは重傷を負う。エヴァは敵に見つかるが、チャルマーズが駆け付けて助けた。デレクはサーシャたちを退避させ、「ここで待て。エヴァを捜しに行く」と告げて去った。
チャルマーズとエヴァは本心を語り合い、互いに謝罪した。パードナーの一味が来たので、チャルマーズはエヴァを逃がした。パードナーはチャルマーズを連行し、椅子に縛り付けた。北通路で一味に見つかったエヴァは身を隠し、デレクと遭遇した。一味は監視カメラを設置して接続するが、エヴァを見つけることは出来なかった。デレクはエヴァを連れて、サーシャたちの元へ戻った。エヴァはチャルマーズがパードナーに捕まったことを話し、プロジェクト725について「経営陣は軍事利用を考えるようになった。実地テストのデータを得て説得しようと考えた」と説明した。
フォックスはデレクたちに、バードナーはシステムで全データを消去するつもりだと語る。エヴァが協力を要請すると、デレクは何の迷いも無く承諾した。エヴァは建物の図面を書き、管制室で施設全体の電力を管理していることを教える。デレクたちは監視カメラを次々に破壊し、発電室へ向かった。パードナーはマイクを使い、「娘を渡せばチームは自由にしてやる」と持ち掛けた。デレクは取引に応じず、襲って来た敵を始末する。彼らは発電室に到着し、ケーブルを抜いて施設を停電させた…。監督はマット・エスカンダリ、原案はクレイトン・ハウゲン＆ニコライ・フロム、脚本はジョー・ルッソ＆クリス・ラモント、製作はランドール・エメット＆ジョージ・ファーラ＆ショーン・サンガーニ＆アレックス・エッカート＆ティム・サリヴァン＆マーク・スチュワート、製作総指揮はシーザー・リッチボウ＆ガス・ファーラ＆テッド・フォックス＆ルーク・テイラー＆タイラー・グールド＆ジョー・リストハウス＆アリアンヌ・フレイザー＆デルフィーヌ・ペリアー＆ヘンリー・ウィンタースターン＆マイケル・フーヴァー＆ドン・トンプソン＆トーマス・ウォールダー＆ハビブ・パラチャ＆ハワード・チェイス＆デヴィッド・ジェンドロン＆アリ・ジャザイェリ＆ニール・メータ＆リー・ブローダ、共同製作はアラナ・クロウ、製作協力はケリー・ラナン、撮影はブライアン・コス、美術はダニエル・エイダン・ベイカー、編集はＲ・Ｊ・クーパー、衣装はザッカリー・シーツ、音楽はライアン・デリコ、音楽監修はマイク・バーンズ。
出演はジェシー・メトカーフ、ブルース・ウィリス、ナタリー・エヴァ・マリー、ララ・ケント、テキサス・バトル、スウェン・テメル、セルジョ・リッツート、タイラー・ジョン・オルソン、ジョン・ガラニス、ジャッキー・ニューエン、レスリー・エメット、ニック・パトロン、アビゲイル・エスメナ・フロール、ケイティー・グローンマン、アダム・ポッター、クリス・ペティー、ティム・サリヴァン、アレックス・エッカート他。
『THE LAW 刑事の掟』のマット・エスカンダリが監督を務めた作品。
デレクを演じているのは、『ダウト 〜偽りの代償〜』のジェシー・メトカーフ。
彼とチャルマーズ役のブルース・ウィリスがダブル主演という扱いになっている。
サーシャをナタリー・エヴァ・マリー、エヴァをララ・ケント、フォックスをテキサス・バトル、ダッシュをスウェン・テメル、パードナーをセルジョ・リッツート、コルトンをタイラー・ジョン・オルソン、ハリソンをジョン・ガラニスが演じている。オープニングでは、廃墟でデレクのチームがパードナーの一味と戦うシーンが戦う様子が短く描かれる。つまり時系列を入れ替えて、後のシーンに少しだけ触れているわけだ。
だが、そんな構成にする意味は全く感じない。
それよりは、デレクが仲間を失って自分も殺されそうになった過去の戦いを描いた方がいいんじゃないか。
もちろん後半に入ると冒頭シーンが再び描かれることになるのだが、どこだったのか良く分からないぐらいボンヤリしているし。仮に分かったとしても、何の効果も生まないのは確実だし。エヴァがパードナーに装置を渡すシーンでは、プロジェクト725で何が可能になるのかは教えてくれない。フォックスがデレクに依頼内容を語るシーンでも、プロジェクト725がどういう装置なのかは教えてくれない。「テロリストの手に渡ったら悪用される」とボンヤリしたことを言うだけだ。
それどころか、チャプター・ハウスがどんな会社なのか、フォックスがどういう役職なのかも教えてくれない。
予算の都合なのか、面会場所はオフィスじゃなくて車。だから社員もフォックス以外は出て来ない。
デレクが問い詰めた時に、チャルマーズはようやくプロジェクト725について「量子ＡＩシステム」と言うが、それで終わってしまう。デレクは「警護はやらない」と言っているが、なぜ警護の仕事を断っているのかは教えてくれない。
そんなデレクがチャルマーズの依頼を受けた後、場所がバーに切り替わる。カウンターではサーシャが飲んでいて、ダッシュは彼女に惹かれた男に強引な方法でアタックするようそそのかす。まんまと騙された男は、サーシャに制圧される。
でも、この手順は何のためにあるのかサッパリ分からない。
キャラ紹介のためだろうけど、サーシャの強さだけをアピールするのは中途半端だし。デレクが廃墟に着くとフォックスは騙していたことを明かし、「素人のフリをすれば、敵も油断する。少数精鋭が必要だった。武装部隊が同行すれば奴らは撤退しかねない」と言う。
でも、その説明には無理がある。充分な武器を用意していない少数だけで立ち向かうことになるので、勝てる見込みが薄いでしょ。
かつてデレクは充分な準備を整えて、充分な戦力で戦っても、仲間を全滅させられて自分も危機に陥っているんだぞ。なのに、準備ゼロで拳銃しか無い少数チームで一味に勝てってのは、無理ゲーになってるだろ。
相手を油断させるために少数精鋭で廃墟に来るのはいいとしても、事前に計画を立てて、充分な武器は用意しておくべきでしょ。フォックスは「俺のチームを危険に晒した」とデレクに非難された時、「生きるためには使命感だけじゃなく金も必要だ」と言い、報酬の半額を口座に振り込んだことを話す。
だけど死ぬリスクが高すぎる罠にハメておいて「生きるためには」と言われても、説得力が無いだろ。
チャルマーズが「君に子供は？親は子を守るためなら何でもする」という言葉で、デレクは一味と戦ってエヴァを救い出そうと決意する。
でも、デレクには子供がいないので、その言葉で決意が固まるのは説得力に欠けるだろ。チャルマーズはデレクに、「パードナーが自分と接触するために娘を人質にしている」と説明する。だけど、冒頭でエヴァがパードナーに自らの意思で装置を渡す様子が描かれている。
だから、チャルマーズの説明が偽りなのはバレバレだ。
そしてエヴァの軽率な行動が明確になると、助けてやりたい気持ちはゼロになる。こいつのせいで犠牲が出るので、ただの嫌悪すべき人間になっている。
エヴァがパードナーに接触して装置を渡した理由は、「父を疎んじていた」「経営陣と意見が合わなかった」ってことらしいが、何の擁護も出来ない阿呆だ。
「人類を救える物だと証明したかった」という理由でテロリストに装置を渡すとか、ただのクズじゃねえか。パードナーが偵察チームを廃墟に差し向ける理由がサッパリ分からない。
相手が少数なのは分かっているんだから、いきなり本隊で攻撃を仕掛けてもいいはずだ。
慎重を期するにしても、ドローンを飛ばして様子を窺うとか、幾らでも手はありそうだぞ。偵察チームを送って、もし敵と対峙したら戦うことになるし、いなければチャルマーズの身柄を確保すればいい。
どっちにしても、何のための偵察チームなのか意味不明だ。偵察チームが全滅した後、次の作戦としてパードナーがエヴァだけを廃墟に差し向ける意味も不明だ。普通に本隊で攻撃すればいいだろ。
狙撃手を近くに配置して、フォックスが「撃つ気は無い」ってのを示したら撃たないで様子を見るのも意味不明。普通に撃てばいいだろ。
逆に、なぜデレクたちが「攻撃の意思が無い」と示せば向こうが撃たないと確信できたのかも分からん。
っていうか、パードナーはエヴァを人質に取っているんだから、それを利用して「指示に従わないと娘を殺す」とチャルマーズを脅せばいいだけじゃないのか。そういう形で利用しないのなら、何のための人質なのか。パードナーの手下たちは覆面で顔を隠しているが、そんなことをする必要性は全く無い。
それでも顔を隠す理由は、たぶん人数を誤魔化すためじゃないかと思われる。デレクたちに倒された連中が、後から「別の手下」として登場するための策略じゃないかと。
バードナーはデレクたちに「こちらには武器も人員も圧倒的だ」と勝ち誇ったように言うのだが、同時に出て来る最大人数って10人ぐらいだ。
通用口と正門口を襲わせる時も、それぞれ３人ずつしかいない。そもそも、通用口と正門口を３人ずつで襲わせるのが作戦としてバカバカしいのよね。
１時間の猶予を与えたなら、それを待てばいいはずだし。その前に「時間切れだ」と言っているから１時間が経過した設定なのかもしれないが、だとしても全く表現できていないし。
あと、時間切れになったにしても、やっぱり通用口と正門口を３人ずつで襲わせるのはバカバカしいでしょ。
エヴァを人質として連行し、改めて要求を突き付ければいいだけだろ。パードナーはチャルマーズを捕まえた時、「殺されるより辛い時間が待っている」と不敵に言い放つ。
ところが連行して縛り上げただけで、それ以上は何もしない。
「エヴァを捕まえてから目の前で拷問するつもり」という設定だが、実際は何も出来ないままで終わるので、彼の脅し文句は虚しく響くだけだ。
マイクでエヴァを引き渡すよう要求する時も、せっかくチャルマーズを捕まえたのに、彼を拷問して苦悶の声を聞かせ、それを脅しに使うようなことも無いし。パードナーは時間を掛けて監視カメラを幾つも設置し、エヴァの居場所を突き止めようとする。しかしエヴァを見つけることは出来ず、それどころか次々にデレクたちに破壊されてしまう。
結局、監視カメラは何の役にも立っていない。それは「パードナーにとって」というだけでなく、シナリオとしても役立たずになっている。
施設が停電になると、パードナーは急いで発電機を取りに向かう。それは一刻も早く復旧させてプロジェクト725を起動させることが目的だ。
だけど、もう装置は手に入れているんだから、いつだって起動できるわけで。それは可及的速やかに取り掛からなきゃいけない仕事じゃないでしょ。
最優先すべきなのはコードを聞き出すことであり、そのためにはエヴァを捕まえることに集中した方がいいだろ。パードナーがボンクラな行動を重ねているので、そのままだとデレクたちを窮地に追い込むことが難しくなる。そこで、ダッシュがエヴァを捕まえ、パードナーに引き渡すという行動に出る。
バカ満開の裏切り行為であり、もちろんエヴァを引き渡した途端に殺される。
で、ようやくエヴァを捕まえたパードナーだが、ただ彼女に拳銃を突き付けてチャルマーズに「コードを教えろ」と要求するだけ。「殺されるより辛い時間が待っている」と言っていたのに、拷問したりすることは無い。
でもチャルマーズは、あっさりとコードを教える。パードナーはプロジェクト725を起動させると、最初の標的をエヴァに指定させようとする。もちろんエヴァは指定せずに批判するのだが、ここでパードナーはデレクからの無線で差し向けた手下が全滅したことを知る。
するとデレクに挑発されたパードナーは、まんまと彼の元へ向かってしまう。ここでエヴァとチャルマーズがいる場所に残ったのは、装置を操作していた手下のジェマだけになる。
そのジェマは、ずっと「ホントにいいのか」と迷いを見せていたが、さっさと逃げ出してしまう。チャルマーズとエヴァは簡単に拘束を解き、装置を葬る。
後はデレクがパードナーを倒して終わりかと思いきや、「パードナーがデレクに拳銃を向けているとチャルマーズが駆け付けて射殺する」という結末。最後の最後で、ブルース・ウィリスがジェシー・メトカーフから見せ場を奪うのであった。
まあ見せ場と言えないほど冴えないシーンだけどね。（観賞日：2022年6月5日）
第41回ゴールデン・ラズベリー賞（2020年）
ノミネート：最低助演男優賞［ブルース・ウィリス］
＜＊『アンチ・ライフ』『ハード・キル』『ナイト・サバイバー』の３作でのノミネート＞