『ハンナ・モンタナ/ザ・ムービー』:2009、アメリカ

マイリー・スチュワートはカリフォルニア州マリブに住む普通の高校生だが、ハンナ・モンタナという大人気のアイドルとしても活動している。マイリーがハンナだという事実は、彼女のマネージャーでソングライターでもある父のロビー、リコのサーフ・ショップで働いている兄のジャクソン、親友のリリーやオリヴァー、パブリシストを務めるヴィタなど一部の人間しか知らない。だからマイリーは、ハンナのコンサート会場なのに受付で止められることもある。
ある日、ハンナはビーチでプロモーション・ビデオの撮影を終え、仮設テントに戻った。すると侵入していた男が現れ、娘たちがファンなので写真を撮らせてほしいと頼んで来た。ハンナは快諾するが、ヴィタが来て「その男には何もさせちゃダメよ」と止める。彼女は男が低俗雑誌『ボンシック』のオズワルドという悪徳記者であることをハンナに教え、スキャンダル目当てで来たのだと説明した。テントから追い出されたオズワルドは、編集長のルシンダに「必ずハンナの秘密を暴いて」と指示された。
マイリーが高校の授業を終えたところへヴィタが現れ、ビヨンセが急病でNYビデオ・アワードの出演をキャンセルし、代役が回って来たことを知らさせる。大喜びの彼女に、リリーは「私の誕生パーティーは?」と問い掛ける。マイリーは必ず行くことを約束し、ハンナの姿になってヴィタと買い物に出掛ける。ヴィタはハンナに、「貴方はスターよ。欲しい物を口に出せば必ず手に入る」と言う。実際、ハンナが店に入ると、店員たちはチヤホヤして接待した。
ハンナはリリーの誕生日に一点物の靴を購入しようとするが、モデルのタイラ・バンクスと奪い合いになった。密かにハンナを尾行していたオズワルドはカメラを仕掛け、2人の争いを盗撮した。店を出たハンナはパパラッチに囲まれるが、ヴィタの用意した車に乗り込む。彼女はリリーの誕生パーティーが開かれている場所へ向かおうとするが、オズワルドの尾行に気付いた。仕方なく彼女はハンナの姿のまま会場に乗り込むが、たちまちパーティーの客たちに取り囲まれた。
リリーは主役を奪われて不機嫌になり、ハンナは「この埋め合わせは必ずする」と謝る。しかしリリーは「何をやっても埋め合わせにはならない」と告げる。オズワルドからハンナの故郷について質問されたリリーは、マイリーの故郷であるクロウリー・カマーズを教えた。ロビーは店での騒ぎを知ってマイリーを叱責し、彼女が祖母であるルビーの誕生日会よりビデオ・アワードを優先することに苦言を呈した。するとマイリーは反発し、「私は3時間後にニューヨークのレッド・カーペットを歩かなきゃいけないの」と述べた。
ロビーはマイリーを騙してチャーター機に乗せ、ニューヨークではなくクロウリー・カマーズへ連れて行く。彼はジャクソンが用意した車に娘を乗せ、「歌手をしながら普通の生活もするのが夢だったはずだ」と説教する。マイリーが「私にはハンナが全てなの」と主張すると、父は「それが問題だ。マイリーを取り戻せるか、ここで2週間様子を見る」と告げた。置き去りにされたマイリーは幼馴染のトラヴィスと再会し、家まで送ってもらった。
トラヴィスはマイリーがハンナであることに気付かず、「すっかりカリフォルニアの人だ。誰かと知り合いだったりする?」と尋ねる。マイリーは「ハンナ・モンタナとは親友みたいな関係よ」と話し、トラヴィスはルビーの農場でバイトしていることを告げた。マイリーが祖母の家に到着すると、親族が集まって盛り上がっていた。ジャクソンは彼女に、従弟のデリックを紹介した。ロビーはルビーから、町へ引っ越して来たばかりのローレライに挨拶するよう促される。ロビーは自分と結び付ける目論見があると感じつつ、ローレライに声を掛けた。マイリーはルビーから、「すっかり変わったねえ」と告げられた。
翌日、ルビーはロビーに、雨どいやトラックを修理するよう依頼する。外へ出たロビーは、農場長がローレライだと知って驚いた。一方、マイリーはルビーに付き合い、買い物に出掛けた。ルビーはマイリーに、亡くなったクロウリー氏が牧草地を残したこと、税金が払えず資金集めをしていること、開発業者が土地を狙っていることを語った。ショッピング・モールの建設計画があると聞き、マイリーは目を輝かせた。するとルビーは、「向こうじゃ派手な生活だったんだろうけど、こっちじゃ、そうはいかない」と諭した。
オズワルドが町に来ているのを見つけたマイリーは、素知らぬ顔で声を掛ける。オズワルドがハンナの家を尋ねたので、ハンナとルビーは8キロ先のボロ小屋がある場所を教えた。農場へ戻ったハンナが自作の歌を歌っていると、トラヴィスが現れた。感想を問われた彼は、「悪くないけど、君の気持ちが伝わって来ない」と述べた。トラヴィスは農場の小屋を改築し、卵屋を始める計画を立てていた。マイリーが「それが貴方の夢なの?」と尋ねると、彼は「この町のことを、君は何も分かっていないね」と告げた。
トラヴィスは「見せたい場所がある」と言い、マイリーを滝へ案内した。マイリーはトラヴィスを手伝い、一緒に小屋を改装した。ある夜、マイリーはトラヴィスと共に、牧草地の資金集めパーティーに出掛けた。ステージでテイラー・スウィフトが歌い出す中、マイリーはロビーとローレライが惹かれ合っていることに気付いた。彼女は父に、積極的なアプローチを勧めた。ロビーはローレライをダンスに誘い、マイリーはトラヴィスと一緒に踊った。
テイラーの歌が終わると、トラヴィスはマイリーをステージに上げた。マイリーが歌を披露し、パーティーの客は楽しく踊った。そこへ開発業者のブラッドリーが来たので、ルビーは「良く顔を出せたもんね」と睨み付ける。ブラッドリーは「幾ら集まった?」と馬鹿にした態度を取り、「開発に同意すれば全ての住民が潤う」と言う。するとトラヴィスが、「マイリーならハンナ・モンタナを呼べる。資金集めのコンサートで協力してくれるはず」と口にした。マイリーは戸惑いつつも、協力を約束した。
後日、マイリーは手伝いを頼むため、リリーとヴィタを呼び寄せた。マイリーはハンナの姿でトラヴィスと話し、彼が自分を外食に誘おうとしていることを知った。マイリーは変装を解いて再び彼と会い、外食の誘いを快諾する。しかしマイリーはロビーから、ハンナが市長の主催するパーティーに参加する予定を聞かされる。そこでハンナはリリーに協力してもらい、パーティーか開かれる市庁舎とトラヴィスが指定したレストランを行ったり来たりして両方をこなそうとする…。

監督はピーター・チェルソム、キャラクター創作はマイケル・ポリエス&リッチ・コレル&バリー・オブライエン、脚本はダン・ベレンドセン、製作はアルフレッド・ガフ&マイルズ・ミラー、製作総指揮はマイケル・ポリエス&スティーヴン・ピーターマン&デヴィッド・ブロッカー、製作協力はジョン・アルバニス&マシュー・オクムラ&ターニャ・ユソン、撮影はデヴィッド・ヘニングス、美術はキャロライン・ハナニア、編集はデヴィッド・モリッツ、衣装はクリストファー・ローレンス、音楽はジョン・デブニー。
出演はマイリー・サイラス、ビリー・レイ・サイラス、ヴァネッサ・ウィリアムズ、エミリー・オスメント、マーゴ・マーティンデイル、ジェイソン・アールズ、ピーター・ガン、メローラ・ハーディン、ミッチェル・ムッソ、ルーカス・ティル、バリー・ボストウィック、モイセス・アリアス、ジャレッド・カーター、ボー・ビリングスリー、カトリーナ・ハガー・スミス、エミリー・グレース・リーヴス、ジェーン・カー、テイラー・スウィフト、ゲイリー・ラヴォックス、ジェイ・ディマーカス、ジョー・ドン・ルーニー、ジョシュ・チャイルズ、レイチェル・ウッズ、ナタリア・ダイアー他。


ディズニー・チャンネルの人気TVシリーズ『シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ』の劇場版。
監督は『セレンディピティ』『Shall we Dance? シャル・ウィ・ダンス?』のピーター・チェルソム。脚本は、これが初めての劇場映画となるダン・ベレンドセン。
マイリー役のマイリー・サイラス、ロビー役のビリー・レイ・サイラス、リリー役のエミリー・オスメント、ジャクソン役のジェイソン・アールズ、オリヴァー役のミッチェル・ムッソ、リコ役のモイセス・アリアスは、TVシリーズのレギュラー。ヴィタをヴァネッサ・ウィリアムズ、オズワルドをピーター・ガン、ローレライをメローラ・ハーディン、トラヴィスをルーカス・ティル、ブラッドリーをバリー・ボストウィックが演じている。
歌手のテイラー・スウィフトとバンドのラスカル・フラッツが、本人役で出演している。アンクレジットだが、ファッションモデルのタイラ・バンクスが本人役で、TVシリーズにもゲスト出演していたブルック・シールズがマイリーの母親役で出演している。

「普通の高校生であるマイリー・サイラスが、大人気アイドルのハンナ・モンタナに変身する」という話ではあるが、「変身すると似ても似つかぬ姿になる」ってわけではない。誰がどう見たって全く同じ人物だ。
しかも、メイクや衣装で違いを付けようという意識さえ乏しく、ただカツラを被るだけで「マイリーからハンナに変身した」ということになっている。それなのに、既に知っている一部の面々を覗き、周囲の人間はマイリーとハンナが同一人物であることに全く気付かない。
もちろん、「んなわけねえだろ」とツッコミを入れたくなる賢明な諸氏は少なくないだろうし、バカバカしい仕掛けであることは確かだ。
終盤、ハンナがカツラを外して「実はマイリー」と明かした時に大勢の人々が驚いているが、こっちは別の意味で驚かされる。

だから、この映画を観賞する時に何よりも大切なのは、「馬鹿になる」ってことだ。
マイリー・サイラスの大ファンになって、マイリー・サイラスの一挙手一投足を「可愛い、素敵、大好き」と全面的に応援してキャーキャー騒げるぐらいの気持ちが必要だ。
そういう開き直り、じゃなかった入れ込み具合が無ければ、この映画を堪能することは難しい。っていうか無理だ。
オープニング、コンサート会場での歌唱シーンから、カットが切り替わるとビーチでのPV撮影になるのだが、そういうのをオツム空っぽで楽しむ感覚を持つべきなのだ。

真面目に考えたら、そりゃあデタラメだったりテキトーだったりする描写のオンパレードだ。
例えば序盤、マイリーはヴィタと買い物へ行く時、ハンナに変身する。しかし、ただ買い物に行くだけなんだから、ハンナに変装する必要は無い。むしろ無駄にパパラッチから追い回されることを避けるなら、マイリーのままで行った方がいいはずだ。
そもそも、代役でビデオ・アワードに出演することを聞かされた後、すぐ「買い物に行きましょう」ってのが流れとしてスムーズじゃない。
店ではタイラ・バンクスと争いになるが、そこも全く流れに乗っておらず、取って付けた印象しか受けない。

マイリーはハンナの姿のままリリーのパーティー会場に行き、「こうするしか無かったの」と釈明するが、「んなことねえよ」と言いたくなる。
ハンナのままで会場に行くよりも、とりあえずリリーに電話を掛けて「悪徳記者に追い掛けられている」と説明するのが、真っ先に取るべき行動だろう。
そんでハンナが会場に行くとステージにバンドがいて、そこで歌い始めるが、アホみたいな御都合主義だ。
そもそも、そこで歌い始めるのはリリーのためになっていないので、ますます彼女の機嫌を損ねるし。

マイリーがロビーに言い放つ「私にはハンナが全てなの」という言葉は、「マイリーとしての生活は要らない」と言っているのと同じだ。
だからロビーは、「だったら正体がバレてもいいってことだな?」と訊けば良かったのだ。
ところが、「故郷で2週間暮らすことを強要する」と手段に出るので、クエスチョンマークが幾つも頭に浮かんでしまう。
もちろん、それは「マイリーが田舎で暮らす」という展開に持ち込むための手順だが、強引極まりない。

そもそも、マイリーとしての生活を取り戻させるにしても、既に引き受けたビデオ・アワードの仕事をドタキャンするってのはプロとして失格だろう。
そこは本来なら「ロビーが全面的に正しい」ってことになるべきなのに、「ロビーはロビーで問題がある」ってことになっている。
ただ、大事な仕事を正当な理由も無くドタキャンしたら大きな騒ぎになったり、後の仕事に影響が出たりしてもおかしくない。
しかし、そこは何事も無かったかのようにスルーされ、粛々とストーリーが進行するんだよな。

マイリーはロビーから田舎暮らしを強要されるんだから、「最初は嫌悪したり慣れなかったりするけど、次第に順応したり楽しんだりするように変化していく」という展開にするのが普通の考えだろう。
っていうか、それ以外の道を選んでも正解など無いはずだ。
ところが、マイリーは帰郷した翌朝になると、もう前向きな態度を示している。ヘマはするものの、積極的に農場の仕事にも取り組んでいる。
そんな様子が描写されると、「都会での派手な暮らしに馴染んだヒロインが田舎暮らしを強要される」という仕掛けが死ぬ。

ところが、田舎暮らしに前向きなマイリーの態度を描いた後、ショッピング・モールの建設計画を喜ぶ様子が示されるので、「どういうこと?」と感じる。
直後、ルビーが「パパの目は誤魔化せても私は無理よ」と言い、マイリーの前向きな態度が芝居だと判明する。
だが、そんな芝居をしても早く帰れるわけではないし、それでロビーが騙されている様子も無いので、まるで無意味だ。
しかもマイリーは、芝居を除いたところで、そんなに田舎暮らしを嫌がっている様子も無いのだ。普通に順応し、それなりに楽しんでいるのだ。

そうなると、「マイリーが故郷で暮らす」という設定は、「マイリーとトラヴィスが出会って恋をする」「ロビーとローレライが出会って恋をする」という、2つの恋愛劇を描くためだけのモノになってしまう。
つまり、それが田舎である意味ってのは、ほとんど無いということになるわけだ。
おまけに、その2つの恋愛劇にしても、見事なぐらいペラッペラな状態だ。
この映画は途中で何度も歌が入るのだが、その内の1曲が終わると、いつの間にか2組のカップルは惹かれ合う関係に発展しているのだ。

前半で「マイリーの失礼な行動にリリーが憤慨し、絶縁と言ってもいいぐらいの言葉を口にする」というシーンがあるのだから、2人が和解するドラマを用意するのは当然のことだろう。
ところがマイリーは故郷に移動すると、リリーのことなんかまったく気にしていない。後半に入ると協力を要請するためにリリーを呼び寄せるのだが、彼女の方も全く怒っちゃいない。
つまり、「リリーがマイリーに腹を立てる」ってのは、オズワルドがクロウリー・カマーズに来るためだけに用意された仕掛けってことになるのだ。
そのために使うのは一向に構わないが、和解のドラマを用意しないのは手抜きにも程がある。

しかし考えてみれば、これはマイリー・サイラスのアイドル映画であり、マイリー・サイラスの熱烈なファンだけを満足させるために用意された作品なのだ。
だから、脚本のテキトーさや演出のグダグダっぷりは全て受け入れ、あるいは無視して、「マイリーは可愛い、素敵、大好き」という気持ちを保ち続けることの出来る人だけが、この映画を観賞すべきなのだ。
もしも貴方がマイリーのファンなのに、この映画を「つまらない」と感じたとすれば、それはファンとしての熱が足りないのだ。

(観賞日:2016年5月30日)


第30回ゴールデン・ラズベリー賞(2009年)

受賞:最低助演男優賞[ビリー・レイ・サイラス]

ノミネート:最低主演女優賞[マイリー・サイラス]

 

*ポンコツ映画愛護協会