『ハングオーバー!!! 最後の反省会』:2013、アメリカ

バンコク南部の刑務所で、暴動が発生した。看守たちが対処している間に、収監されていたチャウは脱獄した。一方、カリフォルニアのハイウェイでは、アラン・ガーナーが上機嫌で車を走らせていた。彼はキリンを購入して台車に乗せ、それを車で引っ張っていた。しかし陸橋の下を通過する際、キリンの首が激突して千切れてしまった。切断された首が後方を走る車のフロントガラスにぶつかり、ハイウェイでは大規模な玉突き事故が発生した。
父のシドから「お前は騒ぎを起こすのに私が幾らの小切手を切ったか分かっているのか」と叱られたアランは、「リッチなんだから別にいいじゃない」と全く反省の色を見せない。軽く受け流すアランの態度に激昂したシドは発作を起こし、急死してしまった。葬儀の場でアランは朗々とアヴェ・マリアを歌い上げ、「パパは俺に、自慢の息子だ。自分を変えるなと言っていた」と平気で嘘をついた。
フィルとスチュはダグから、妻のトレーシーが参っていること、最近のアランに異常な行動が目立つことを聞かされる。ダグは2人に、母のリンダがアランに施設で治療を受けさせようと考えていることを明かした。アランの説得に力を貸してほしいと頼まれ、フィルたちは承諾した。フィルは妻のステファニー、スチュは妻のローレンも交えて夕食を取りながら、アリゾナにある治療施設のことを話した。
翌日、2人がガーナー家に行くと、リンダはアランの友人であるニコ、家政婦、水泳仲間のティモシー少年を集めていた。リンダがアランを連れ帰り、フィルたちはリハビリ施設のことを語った。アランは不機嫌な態度を取るが、フィルたちが同行することを告げると承諾した。次の日、フィルたちはアランを車に乗せ、リハビリ施設へ向かう。「気が変わった。もう帰る」とアランが不貞腐れた直後、トラックが車に激突して来た。トラックに乗っていた連中は、4人を拉致して砂漠の真ん中へ連行した。
フィルたちの前に黒いダグが現れ、拳銃を構えた。ギャングのボスであるマーシャルが登場し、4年前にチャウが自分の金塊を奪ったことを話す。姿を消していたチャウがバンコクの刑務所にいると知ったマーシャルは面会に赴き、休戦と引き換えに金塊の隠し場所を教えるよう持ち掛けた。しかしチャウは拒否し、コケにするような態度を取った。チャウが連絡を取っているシャバの人間はアランだけなので、マーシャルは彼らを捕まえたのだ。
脱獄したチャウがアメリカ行きの貨物船に乗ったという情報を掴んだマーシャルは、アランに居場所を明かすよう要求する。アランが「知らない、ずっと連絡は取ってない」と言うと、マーシャルはダグを人質に取って「3日以内にチャウを見つけろ。さもないと、こいつを殺す。警察に喋っても同じだ」と脅した。一味がダグを連れ去った後、アランはフィルたちにチャウからメールが届いていたことを明かす。すぐにフィルは、会う約束を取り付けるためのメールを返信した。
チャウを引き渡すために薬を飲ませようと考えたフィルは、スチュに処方箋を書くよう要求した。薬局の店員に怪しまれながらも、何とかスチュは薬と注射器を購入した。1人でティアワナのバス停まで来るよう求めるメールがチャウからアランに届き、フィルたちは車を走らせる。フィルはアランに行動を指示し、スチュと共に車で待機する。しかしアランの不用意な発言で、チャウはフィルとスチュが来ていることを知った。チャウが激昂するので、フィルは「君に会いたくて来たんだ。愛してるよ」と必死に訴え掛けた。
一行は酒場に移動し、スチュは隙を見て酒に薬を混入させる。しかし見抜いたチャウがスチュにナイフを突き付けて脅すので、フィルはマーシャルとの一件を説明した。チャウは金塊を取りに行くことを承諾し、オークションで人手に渡ったメキシコの家に隠してあることを話す。彼は「持ち主は金塊に気付いていない」と言い、忍び込んで金塊を盗み出す計画を語った。持ち主はバカンスしか利用せず、手伝いの人間も来ない日曜は空き家の状態になっていると彼は説明した。
フィルたちは番犬を薬で眠らせ、家に侵入して金塊を手に入れる。しかしチャウは3人を裏切り、地下室に閉じ込めた。チャウは警報機を鳴らし、フィルのミニバンで逃走した。フィルたちは警察に捕まるが、訴えが取り下げられたので釈放される。刑事に「迎えの車が来ている」と言われ、フィルたちは事情が良く分からないままリムジンに乗り込んだ。運転手は行き先を教えず、リムジンは金塊のあった邸宅に到着した。中に入ると、マーシャルが待ち受けていた。彼はフィルたちに、そこが自分の屋敷であることを教えた。チャウはフィルたちを騙し、マーシャルの金塊を盗んだのだ。
マーシャルは警備主任のダグを射殺し、「チャンスをやる。チャウと俺の金塊を見つけろ」とフィルたちに要求した。3人はリムジンを与えられるが、何の当ても無かった。フィルが携帯電話をミニバンに忘れたことに気付くと、アランはアプリを使えば場所が分かると教える。フィルはアプリを使い、チャウがラスベガスにいることを突き止めた。3人はラスベガスに行き、質店の前に乗り捨てられているミニバンを発見した。ドアは開いており、フィルたちを車内を探るが、手掛かりは得られなかった。
フィルたちは質店に入り、店員のキャシーにミニバンの運転手について尋ねる。キャシーは無愛想な対応を取るが、彼女の着ているビリー・ジョエルのTシャツにアランが興味を示し、2人は意気投合した。キャシーはアランに、中国人が金塊を安価で売却したこと、売春婦を欲しがっていたのでデートクラブのカードを渡したことを教えた。スチュはデートクラブに電話を掛けるが、客の情報は教えてもらえない。そこでフィルは、ジェイドと連絡を取るようスチュに持ち掛けた。スチュは困惑するが、「他に手が無い」と言われて承諾した。
3人がジェイドの家に行くと、彼女は1年前に外科医のジェフと結婚して妊娠中だった。アランは長男のタイラーと2人になると、本当のパパだと嘘をついた。ジェイドは3年前にコールガールを辞めていたが、フィルとスチュに「昔の仲間に電話してチャウのことを聞いてもらえないか」と頼まれて承諾する。彼女の協力で、チャウがシーザーズ・パレスのスイート・ルームにいることが判明した。フィルたちはマーシャルに連絡した後、チャウを捕まえるためにシーザーズ・パレスへ向かう…。

監督はトッド・フィリップス、キャラクター創作はジョン・ルーカス&スコット・ムーア、脚本はトッド・フィリップス&クレイグ・メイジン、製作はトッド・フィリップス&ダニエル・ゴールドバーグ、共同製作はデヴィッド・シーゲル&ジェフリー・ウェッツェル、製作協力はジョセフ・ガーナー、製作総指揮はクリス・ベンダー&J・C・スピンク&トーマス・タル&スコット・バドニック、撮影はローレンス・シャー、編集はデブラ・ニール=フィッシャー&ジェフ・グロス、美術はメイハー・アーマッド、衣装はルイーズ・ミンゲンバック、音楽はクリストフ・ベック、音楽監修はランドール・ポスター&ジョージ・ドレイコリアス。
出演はブラッドリー・クーパー、エド・ヘルムズ、ザック・ガリフィナーキス、ケン・チョン、ジョン・グッドマン、ジャスティン・バーサ、ジェフリー・タンバー、ヘザー・グレアム、マイク・エップス、サーシャ・バレス、ジェイミー・チャン、ソンドラ・カリー、ジリアン・ヴィグマン、メリッサ・マッカーシー、オリヴァー・クーパー、マイク・ヴァレリー、グラント・ホルムクイスト、オスカー・トーレ、ジョニー・コイン、シルヴィア・キュリエル、ベティー・マーフィー、ジム・ラウ他。


「ハングオーバー!」シリーズの第3作にして完結編。監督は3作連続でトッド・フィリップス。
フィル役のブラッドリー・クーパー、スチュ役のエド・ヘルムズ、アラン役のザック・ガリフィナーキス、チャウ役のケン・チョン、ダグ役のジャスティン・バーサ、シド役のジェフリー・タンバー、トレーシー役のサーシャ・バレス、リンダ役のソンドラ・カリー、ステファニー役のジリアン・ヴィグマンは、3作連続での出演。
ジェイド役のヘザー・グレアムと黒いダグ役のマイク・エップスは、1作目からの復帰。タイラー役のグラント・ホルムクイストも同様だが、彼は1作目の時はアンクレジットだった。ローレン役のジェイミー・チャンは、前作に引き続いての登場。マーシャルをジョン・グッドマン、キャシーをメリッサ・マッカーシーが演じている。
オープニングで表記される主要キャストの内、初登場はジョン・グッドマンだけという辺りからも、「シリーズのファンに向けた内輪受け」としての要素が強いように感じられる。

これまでの2作を見ている人は、導入部の段階で「おやっ?」と思うのではないだろうか。
なぜなら、前2作の始め方とは大きく異なっているからだ。
まず、冒頭シーンにフィルたちが登場しない。チャウが脱獄するシーンになっている。
では、その後にフィルたちが登場する流れなのかというと、まだ出て来ない。
次に描かれるのは、アランがボンクラをやらかすシーンだ。シドの葬儀のシーンで、ようやくフィルたちが登場する。

1作目はダグの結婚式直前に起きた騒動が描かれており、2作目はスチュの結婚式直前に起きた騒動が描かれていた。
「フィルたちが仲間の結婚式の直前にバチェラー・パーティーへ出掛ける」→「酒を飲んで乾杯する」→「気が付いたら翌朝で、部屋はメチャクチャになっている」→「仲間の1人が行方不明になっていて、彼を捜索する」→「行動する中で、部屋の異常な状況も1つずつ説明されていく」という流れは全く同じで、2作目は1作目のリメイクのような状態だった。
もはやマンネリズムとか、そういうレベルではなかった。
さすがに製作サイドも「これはマズいかも」と感じたのか、3作目では構成をガラリと変えたわけだ。

しかし、これはこれで「変え過ぎだろ」と言いたくなってしまう。
2作目でダメだったのは、完全に1作目の焼き直しをやってしまったからだ。舞台を変更しただけで、前作の内容を細かい部分まで含めて、なぞり過ぎたからだ。
シリーズ作品で「同じフォーマットを使う」ってのは、全否定するようなことじゃない。
心地良いマンネリズムだって、世の中には幾らだって存在する。

何しろ「ハング・オーバー」というタイトルなんだし(「二日酔い」という意味)、「フィルたちが酒を飲んで意識を失い、目が覚めるとメチャクチャな状況になっている」という部分は踏襲すべきじゃないのか。
そういう骨格部分から完全に崩してしまったら、前2作を観賞している人からすると、特にシリーズのファンからすると、「こんなのは『ハング・オーバー』シリーズじゃないぞ」と言いたくなってしまうんじゃないか。
2作目で1作目と同じフォーマットを使ってしまった以上、3作目でそれを外すことは許されないのよ。
前作の酷評をヤバいと感じて路線変更を決めたとしても、そのフォーマットは絶対に使わなきゃいけないのよ。

前2作は「目が覚めたら異常事態」という状況から物語が本格的に転がり始める構成で、「そんな状況になった原因は何なのか」ってのを探るミステリーとしての要素があった。
ぶっちゃけ、世間的には評価の高い1作目も、その劣化版である2作目も、個人的には「種明かしに何の意外性も無い凡庸なミステリー」という印象だった。「酔っ払った男たちが勢いで取った行動による結果というだけ」という印象だった。
とは言え、2作目はともかく、1作目に関しては一般的な評価は高かったはずだ。
しかし、この3作目では、そういうミステリーの要素も削り落としてしまった。

前2作のフォーマットやミステリーの要素を排除した結果、この映画は単なる凡庸なコメディー映画になった。
いや凡庸どころか、まるで笑えないコメディー映画になった。
排除した要素の代わりになるような、魅力的な要素が新たに投入されているわけでもない。
アランとキャシーの恋愛関係は、申し訳程度にチョロッと触れるだけ。
ジェイドの復活は嬉しいけど、ただの顔見世程度で終わっている。
ダグを人質に取られたフィルたちがチャウを捕まえようとするメインのストーリーは、ちっとも面白くない。
笑いを取ろうとしている幾つものポイントも、まるで笑えないモノばかり。

それと今回の映画って、チャウの扱いがものすごく大きいのよね。
たぶんトッド・フィリップスはチャウを気に入って、だから扱いを大きくしているんだろうけど、そんなに魅力的なキャラクターかねえ。
マーシャルを悪党として扱うなら、チャウだってそうだろうに。
っていうか、むしろチャウの方が明らかにタチが悪いぞ。
そして悪党としての魅力も、チャウには何も見当たらないぞ。ただの卑劣で冷酷で不愉快なクズ野郎にしか思えないぞ。

前作でテディーの指が1本切断されるのは、笑える許容量を完全に超えていた。1作目の「前歯が抜けている」ってのは差し歯を入れることで何とかなるが、指が無くなっちゃうのは笑って済ませることの出来るレベルじゃないからだ。
しかし今回は、それ以上の問題を持ち込んでいる。フィルたちが見舞われる問題ではないが、騒動の中で死人が出るのだ。
それは完全にアウト。
死人を出しておいて「問題が解決してハッピーエンド」という終わり方は、幾ら犠牲者が悪党であっても、このシリーズだとアウト。
トッド・フィリップスは「不謹慎だけど笑えるギリギリのライン」を狙っているんだろうけど、前作では人種差別ネタや僧侶に無礼を働くネタで失敗していたし、今回も違う形で失敗している。

アランの描写でも、やはり失敗している。
そもそも前作の時点で、アランは不愉快極まりないキャラクターになっていた。
1作目でも「何とか笑える奴」というギリギリの範囲だったが、2作目におけるアランの人種差別は全く笑えないレベルに達していた。
そして今回は、まずハイウェイでキリンを首チョンパにした上、玉突き事故を起こしている。
言及されていないけど、あれだけの事故だと死者が出ていたって不思議ではないのだ。
つまり下手すりゃ殺人者になっていたわけで、それは笑えないでしょ。

そんな事故を起こしても、アランは全く反省の色が無い。そして彼が生意気な態度で軽く受け流したせいで、シドは発作を起こして死んでしまう。
それでもアランは、テメエのせいで父親が死んだのに何の責任感も抱かず、それどころか葬儀で嘘をつく始末。
アランが「中身があまりにも幼いし、ホントは精神安定剤が必要な状態」というキャラクター造形になっていることは分かるけど、「だから仕方が無い」と許せるレベルではない。
彼は「愛すべき愚か者」ではなく、「不愉快な厄介者」なのだ。

アランがタイラーに「君の本当のパパだ」と嘘をつき、「俺もパパと仲良しだった。でもガッカリさせた」などと話し、別れの時に強く抱き合う様子を、まるで「ホロリとさせる感動的なシーン」みたいに演出している。
だけどね、心に来るモノなんて何も無いぞ。
あえて言うなら、「幼い男児に、何食わぬ顔で醜悪な嘘を吹き込んでんじゃねえよ」という怒りの感情は湧いてくるぞ。
フォローが無いから、タイラーはアランが本当の父親だと信じ込んだままだし。

トッド・フィリップスは今回の映画で、アランの成長を描こうとしたらしい。
実際、終盤に入ると、アランはチャウから金塊を受け取ることを拒否して袂を分かち、キャシーと結婚する。
でも、彼の成長ドラマなんて終盤までは全く描かれていないので、取って付けた感が否めない。
それと、彼は自分のせいで父親を死に至らしめてしまったこと、葬儀で酷い態度を取って嘘までついたことに関して、その反省や謝罪をアランは見せないのよね。
2作目では露骨に人種差別をしたテディーに対して何の謝罪もせずに終わっていたが、今回も後始末が無いのだ。残り時間が少なくなってから「アランは成長しました」というのを少しだけ描写して、それだけで今までのことを全てチャラにしろってのは無理な相談だぞ。
しかもラストに「結婚式の後で目を覚ましたらメチャクチャな事態になっている」というシーンを持って来ちゃうので、「結局は何も変わっていないじゃねえか」ってことになっちゃうし。

(観賞日:2014年12月19日)


第34回ゴールデン・ラズベリー賞(2013年)

ノミネート:最低リメイク、盗作、続編賞

 

*ポンコツ映画愛護協会