『フロム・ダスク・ティル・ドーン』:1996、アメリカ

テキサス・レンジャーのアール・マッグロウが酒店に立ち寄り、店員のピートに話し掛ける。アールは酒を飲みながら愚痴をこぼし、アビリーンで起きた銀行強盗について話し出す。強盗2人は警備員4人と警官3人、一般人1人を殺害し、行員の女性を人質に取って逃亡していた。アールがトイレに入ると、店内に隠れていた強盗のセス・ゲッコーと弟のリッチーが店の客2名を人質にして現れた。セスはピートに拳銃を向け、「さっさと奴を追い出せ」と脅した。セスたちは再び身を隠し、アールはトイレから出て来た。
アールが代金を支払おうとしていると、リッチーが背後から射殺した。セスが「なぜ殺した?」と責めると、リッチーは「合図した。助けてと伝えた」とピートに嫌疑を掛ける。ピートが「俺は何もしてない」と主張すると、リッチーは彼にも発砲する。ピートは金庫から拳銃を取り出し、リッチーを撃つ。その隙に女たちは店から逃げ出した。セスはリッチーに棚の酒を撃たせ、火を付けたトイレットペーパーを投げた。全身火だるまとなったピートは喚きながら発砲するが、セスたちに始末された。
セスはリッチーに「目立つ行動を取るな」と釘を刺し、車で出発する。車のトランクには、行員のグロリアが閉じ込められていた。兄弟は老人が営むモーテルにチェックインし、グロリアを部屋に連れ込む。セスはリッチーに「国境を見て来る。カルロスに電話して落ち合う場所を決める」と告げる。「3割も持って行くのは酷いよな」とリッチーが不満を言うと、セスは「正当な取り引きだ。潜伏するために3割を支払う。交渉の余地は無い」と諭す。
まだ納得できないリッチーを黙らせたセスは、グロリアに「生きて帰りたければ、静かにしていろ。質問は無しだ。俺たちの言う通りにしろ。逃げようとすれば殺す」と告げた。セスが外出した後、リッチーは寝室へ移動してテレビを付け、グロリアに「一緒に見よう」と述べた。同じ頃、街道沿いのレストランではジェイコブ・フラーと娘のケイト、息子のスコットが会話を交わしていた。元牧師のジェイコブは妻の死がきっかけで信仰心を失い、ニューメキシコへ引っ越して新生活を始めようとしていた。
テレビのニュース番組では、ニュースキャスターのケリー・ホーグから取材を受けたFBI捜査官スタンリー・チェイスが「48時間以内にゲッコー兄弟を捕まえる」と宣言する。そのニュースを見たセスは買い物をしてモーテルに戻り、リッチーに「明日、カルロスと会う。彼らが俺たちをエルレイまで護送してくれる。リッチーがグロリアを殺したことを知ったセスは、激しい怒りを示した。セスはリッチーに掴み掛かり、「二度とするな」と告げた。
ジェイコブと子供たちは、キャンピング・カーでモーテルにやって来た。セスとリッチーは彼らに目を付け、人質にした。リッチーはケイトに欲情し、妄想を膨らませた。ゲッコー兄弟は一家のキャンピング・カーに乗り込み、メキシコ国境へ向かう。検問所に到着すると、セスとリッチーはケイトに拳銃を突き付けてトイレに隠れた。ジェイコブはスコットから「国境を越えたら殺される。助けを求めよう」と言われるが、「私の決断に従え。何も話すな」と告げる。
ジェイコブが国境警備人の質問に答えている間に、リッチーはセスに「俺を馬鹿にしてる」と突っ掛かる。セスが黙らせようとしても、リッチーは苛立った態度でお喋りを止めようとしない。国境警備人はトイレの物音に不審を抱き、「車内を調べる」と言う。セスは弟を殴って気絶させた。国境警備人がトイレを開けると、便座に座ったケイトが「失礼ね」と言う。セスはリッチーを捕まえ、シャワー室に隠れていた。
キャンピング・カーは無事に国境を越え、セスはジェイコブに命じてティティー・ツイスターという酒場へ向かった。セスはリッチーを起こし、「メキシコに入った。店でカルロスと合流するぞ」と告げる。店に到着すると、セスはジェイコブたちに「夜明け前にカルロスが来る。飲みながら奴を待つ」と話す。セスとリッチーは騒がしい客引きのチェット・プッシーに暴力を振るい、店内へ入る。ステージではバンドが演奏し、店のあちこちで踊り子たちが体をくねらせていた。
セスが酒を注文すると、バーテンのレーザー・チャーリーは「お前に出す酒は無い。バイカーとトラッカー以外に用は無い。出て行け」と冷たく言う。用心棒のビッグ・エミリオがセスに近付き、一触即発の雰囲気になった。ジェイコブは仲裁に入り、チャーリーに「私の車はトラックだ。駐車場にキャンピング・カーが停まっている。彼は私の連れだ」と告げて免許証を見せた。チャーリーはセスたちを客として認め、酒の注文を了解した。
チャーリーの紹介を受け、“地獄のサンタニコ”という踊り子がステージに登場した。サンタニコは白蛇を体に巻き付け、バンドの演奏に合わせて踊り始める。彼女はセスたちのいるテーブルの上に立ち、リッチーに酒を飲ませた。ショーが終わった直後、チェットが店に入って来た。彼はチャーリーとエミリオにゲッコー兄弟から暴行を受けたことを知らせる。3人がテーブルに来ると、セスとリッチーは拳銃を発砲し、周囲の客たちに「騒ぐと、こいつらと同じ目に遭うぞ」と脅しを掛けた。
リッチーの拳から流れる血を見ていたサンタニコは、吸血鬼に変身し、彼に噛み付いた。セスが銃弾を浴びせてサンタニコを引き離すが、リッチーは死んでしまう。ゲッコー兄弟に射殺されたチェットたちも、吸血鬼に変貌して蘇る。客のセックス・マシーンはチャーリーに襲われ、股間の銃で始末する。踊り子たちも次々に吸血鬼へと変貌し、客に襲い掛かる。人々が逃げ惑う中、セスと客のフロストは戦う。チェットに襲われたケイトは、十字架のペンダントを口に突っ込んで退治した。
セスは起き上がって来たサンタニコに銃弾を浴びせるが、まるで効き目が無く、怪力で吹き飛ばされた。セスはシャンデリアを撃って落下させ、サンタニコを始末した。セックス・マシーンはチャーリーを退治し、フロストはエミリオの心臓を抜き取った。セス、ジェイコブ、セックス・マシーン、フロストの4人は共闘し、残った踊り子たちを倒した。リッチーが吸血鬼として復活したので、セスは心臓に杭を打ち込んで始末した。
コウモリの群れが店に迫って来たため、ジェイコブたちは扉が開かないようにする。ケイトは生き残っていた吸血鬼に襲われるが、セックス・マシーンが助けに入った。一同は残りの吸血鬼が二度と目覚めないようにするため、心臓に杭を突き刺していく。セックス・マシーンは目を逸らした隙に、吸血鬼に腕を噛まれてしまう。彼は吸血鬼に変貌し、フロストとジェイコブが噛まれてしまう…。

監督はロバート・ロドリゲス、原案はロバート・カーツマン、脚本はクエンティン・タランティーノ、製作はジャンニ・ヌナリ&マイアー・テパー、共同製作はエリザベス・アヴェラン&ポール・ヘラーマン&ロバート・カーツマン&ジョン・エスポジート、製作総指揮はローレンス・ベンダー&ロバート・ロドリゲス&クエンティン・タランティーノ、撮影はギレルモ・ナヴァロ、編集はロバート・ロドリゲス、美術はセシリア・モンティエル、衣装はグラシエラ・メゾン、音楽はグレーム・レヴェル。
出演はハーヴェイ・カイテル、ジョージ・クルーニー、クエンティン・タランティーノ、ジュリエット・ルイス、アーネスト・リュー、サルマ・ハエック、ブレンダ・ヒルハウス、マーク・ローレンス、チーチ・マリン、マイケル・パークス、ケリー・プレストン、トム・サヴィーニ、ジョン・サクソン、ダニー・トレホ、フレッド・ウィリアムソン、ジョン・ホークス、ティト・ラリヴァ、ピート・アタナソフ、ジョニー・“ヴァトス”・ヘルナンデス、エイミー・グレアム、ハイディ・マクニール、エルネスト・ガルシア、グレッグ・ニコテロ、クリストス、マイク・モロフ他。


特殊効果スタジオ「K.N.B. EFX Group」の創設者の1人であるロバート・カーツマンが原案を考え、『フォー・ルームス』のロバート・ロドリゲスとクエンティン・タランティーノが再び手を組んで製作した映画。
ジェイコブをハーヴェイ・カイテル、セスをジョージ・クルーニー、リッチーをクエンティン・タランティーノ、ケイトをジュリエット・ルイス、スコットをアーネスト・リュー、サンタニコをサルマ・ハエック、グロリアをブレンダ・ヒルハウス、モーテルのオーナーをマーク・ローレンス、アールをマイケル・パークス、ケリーをケリー・プレストン、セックス・マシーンをトム・サヴィーニ、チェイスをジョン・サクソン、チャーリーをダニー・トレホ、フロストをフレッド・ウィリアムソンが演じている。
後にビデオ作品として続編2本がリリースされ、TVシリーズも製作された。

どうでもいいけど、この原題そのまんまのタイトルは何とかならんかったのか。
1970年代や1980年代の配給会社の担当者だったら、きっと日本語の題名を捻り出していたと思うぞ。
それが上手い題名になるかどうかは別にして。
こんな日本人に意味の伝わりにくい原題のままのタイトルを付けるくらいなら(原題の意味は「夕暮れから夜明けまで」)、まだ昔の東宝東和がやっていた中身と無関係のデタラメ放題(『ガバリン』とか『バタリアン』とか)の方が遥かにセンスがいいよ。

サルマ・ハエック、チーチ・マリン、ダニー・トレホは、ロバート・ロドリゲス一家の顔触れ。
『キラー・ビー』や『エビクターズ/惨殺の家』のマイケル・パークス、特殊メイクアップアーティストのトム・サヴィーニ、『燃えよドラゴン』のジョン・サクソン、『ブラック・サンダー』『ブラック・シーザー』など1970年代のブラックスプロイテーション映画で活躍したフレッド・ウィリアムソンの起用は、たぶんタランティーノの趣味嗜好だろう。
そういうセンスに関しては、嫌いじゃないよ。
っていうか、むしろ好き。

まず厳しいと感じるのは、実質的な主役であるゲッコー兄弟に魅力が感じられないということだ。
わざわざ言うまでも無いが、2人は正義のヒーローではない。「小悪党だけど仁義に厚く、正義感を持っている」というキャラでもなく、完全無欠の悪党どもだ。
それも、美学を持っている「悪の華」ではない。粗野で下品なクソ野郎どもだ。
まだセスの方がリッチーよりは「ちゃんとやろう」という意識は持っているが、大勢を殺しているのはリッチーだけのせいじゃない。
セスにしたって、その行動は無駄に荒っぽい。

ジェイコブが登場し、そんなクソたちから子供たちを守るために必死で立ち向かうという筋書きにでもなっていけば、それはビリングの通りに彼が主役ということになるだろう。
「信仰心を失った父親が家族のために悪党と戦う」というのは、応援したくなる筋書きだ。
それはベタっちゃあベタかもしれない。
だが、魅力的な主人公、共感できる主人公ということを考えても、その筋書きを選ぶのは悪くない。

しかし、ひねくれ者のタランティーノとロドリゲスは、そういう分かりやすくて真っ当な展開を拒絶する。
それは別に構わないんだが、だったら主人公であるゲッコー兄弟に魅力を持たせてくれないとキツい。
こいつら、特にセスは物語を主導していく役回りなんだから。
セスを「主役だから面白味に欠けるのも仕方が無い」と擁護するにしても、だったらリッチーを魅力的にしてくれなきゃ困るんだが、ただのイカれたウザいレイプ犯だからなあ。

で、そんな風に、ちっとも魅力的ではないゲッコー兄弟なのに、酒場に入ると、なぜかケイトとスコットは仲良くなっている。セスから酒を勧められ、積極的に飲んでいる。
なんでだよ。
そこまでに、彼らに心を開いたり懐いたりするようなきっかけなんて無かっただろうに。ストックホルム症候群を患うような出来事も無かっただろうに。
そういう展開にしたいのなら、なんでセスを無駄に荒っぽくて紳士的な振る舞いに欠けているキャラクターにしておいたのか。
あと、酒場での吸血鬼との戦いが始まると、セスは「戦うヒーロー」へと立ち位置を変えるが、だからって魅力的なキャラに変貌するわけじゃないってのが辛いところだ。

犯罪者のゲッコー兄弟が家族を人質に取り、メキシコへ向かう。
その辺りはクライム・サスペンスだが、舞台が酒場に移ると、吸血鬼が登場し、アクション・ホラーへと転換する。
「前半と後半でガラリと話が変わる」という、そのアイデア一本だけで勝負している映画である。
その展開に意外性があるか無いかと問われたら、間違いなく意外性はある。
ただし、それが面白いのかどうかと問われたら、あまり面白くない。
その急激な舵の切り方が悪いというより、それ以外の部分がつまらなすぎるから、その急変の仕掛けも上手く活きて来ないということなんだろうと思う。

映画のジャンルが急変するまでの物語は、極端に言ってしまえば、そのためのネタ振りに過ぎない。
いや、極端に言わなくても、ただのネタ振りになっている。
急展開が起きても、そこまでに張った伏線が回収されるとか、そこまでの人間関係や人物描写が有効活用されるとか、そういうことであれば、ただのネタ振りに終わることは無かっただろう。
しかし後半の急変が起きてしまうと、そこまで積み上げてきた筋書きを全て放り出してしまうのだ。
だから、そこまでに描かれた内容の大半が無意味になってしまうのよね。

吸血鬼との戦いに突入すると、ジェイコブが妻を交通事故で亡くして信仰心を捨てているとか、ジェイコブはアメリカ人なのにスコットは中国人だとか、そういう設定は、特に意味を持たないものと化している。
ケイトはともかく、スコットなんて存在意義さえ無い。
一緒に戦うセックス・マシーンやフロストも、吸血鬼に変貌するサンタニコやチャーリーも、酒場で初登場する連中だから、そこまでの筋書きなんて全く関係が無い。
チーチ・マリンが国境警備員、チェット・プッシー、カルロスの3役を1人で演じているが、そのことにも特に意味は無い。

「それまでは犯人と人質という加害者と被害者の関係だったセスとジェイコブが共闘する」という仕掛けも、まるで効果的ではない。
「最初はジェイコブが反目したり嫌悪感を示したりするが、危機に陥ったので仕方なく手を組み、セスがジェイコブを守ってやるなどして、互いの信頼関係が築かれる」とか、そういった関係性の変化を描いているなら、まだ分からんでもない
だけど、「いきなり吸血鬼に襲われたので、問答無用で一緒に戦わざるを得ない」っていう形だからね。
もはや、それまでの関係性とか、そんなのは何の意味も無いのよ。

(観賞日:2013年7月20日)


第17回ゴールデン・ラズベリー賞(1996年)

ノミネート:最低助演男優賞[クエンティン・タランティーノ]


第19回スティンカーズ最悪映画賞(1996年)

ノミネート:【最悪の助演男優】部門[クエンティン・タランティーノ]

 

*ポンコツ映画愛護協会