『フラッシュダンス』:1983、アメリカ

ペンシルヴェニア州のピッツバーグ。アレックス・オーウェンズは男たちに混じり、溶接工として働いている。夜になるとモービーズと いうバーへ行き、フロア・ダンサーとしても働いている。モービーズで彼女のダンスを見た溶接現場の社長ニックは、興味を抱いた。翌日 、アレックスが現場で休憩していると、ニックは「昨夜、ダンスを見たよ」と声を掛けて来た。倉庫を改造した家に戻ったアレックスは、 クラシック・バレエの番組を熱心に見た。それから彼女は、ダンスの練習に励んだ。
アレックスはピッツバーグ・ダンス・アンド・レパートリー・カンパニーのオーディションを受けるため、入団願書を貰いに事務所を訪問 した。しかし他の応募者がバレエの学校でレッスンを積んでいることを知り、願書を受け取らずに立ち去った。ある日、アレックスが仕事 を終えると、ニックがディナーに誘って来た。しかしアレックスは「ボスとは食事をしない主義なの」と言い、誘いを断った。
休みの日、アレックスはダンスの恩師ハンナ・ロングの家を訪れた。ハンナは「夢を見ているだけでは実現しないのよ。決断しなさい」と 、エールを送った。アレックスはバーでウェイトレスをしている友人ジェニーと共に、コインランドリーへ出掛けた。ジェニーは店の コックであるリッチーと交際している。ジェニーはプロのスケーター志望で、リッチーはロサンゼルスでスタンダップ・コメディアンと して成功することを夢見ている。ジェニーは父のフランクから、「あのロクデナシは結婚するのか」と言われている。
ヌード・クラブ「ザンジバー」の前では、オーナーのジョニー・Cと子分のセシルが呼び込みを掛けていた。アレックスとジェニーは ジョニー・Cにヌード・ダンサーとしてスカウトされるが、軽く受け流して立ち去った。アレックスはジェニーの家へ行き、彼女の両親と 夕食を取った。ジェニーの父フランクも、母ローズマリーも、ジェニーがプロのスケーターを目指していることに、あまり賛成している 様子ではなかった。ジェニーが練習に出掛けたので、アレックスは付き合った。
リッチーは店のオーナーであるジェイクの計らいで、幕間のステージに上がらせてもらう。緊張してステージに立ったリッチーはトークを 始めるが、客には全く受けない。しかし追い込まれて「笑わなきゃハンバーガーにゴキブリを入れるぞ」と口にすると、笑いが起きた。 そこから調子が出て、彼のトークは客に受けた。店に来ていたジョニー・Cは、またアレックスを口説いた。アレックスは彼のズボンに酒 を浴びせ、その場から立ち去った。
店が終わった後、アレックスは駐車場で待ち伏せていたジョニー・Cに捕まり、強引に車へ連れ込まれそうになる。しかし近くにいた ニックが気付いて声を掛けると、ジョニー・Cは立ち去った。ニックが「送るよ」と声を掛けても、アレックス「いいの」と断り、自転車 で駐車場を去った。ニックは彼女を家まで追い掛け、またディナーに誘った。やはりアレックスは「ボスとは食事をしない」と断るが、 ニックは強引に「翌朝8時に迎えに来る」と言う。しかし車で去る彼を見送ったアレックスは、嬉しそうに微笑していた。
ジェニーがアイス・ショーのオーディションを受ける日、アレックスはニックと一緒に応援に駆け付けた。リッチーやジェニーの両親も、 会場に来ている。しかしジェニーは2度も転倒してしまい、途中で諦めた。アレックスが励ましに行くと、「あれだけ練習したのに無駄 だったわ」とジェニーは漏らす。そこへフランクが来て、「あれだけジャンプできれば上出来だよ」と優しい言葉を掛ける。ジェニーは 思わず涙ぐみ、フランクに抱き付いた。
その夜、アレックスとニックに車で送ってもらい、家に招き入れる。2人はキスを交わして関係を持ち、付き合うようになった。店に来た ジョニー・Cは、今度はジェニーを口説き始め、チップとして100ドルを渡した。アレックスはハンナに誘われてバレエ公演を観劇した 帰り、ニックが美しい女性と車で去る様子を目撃した。怒ったアレックスは、ニックの家の窓ガラスに石を投げ付けて去った。
家へ戻ったアレックスの元にリッチーが現れ、ロサンゼルスへ行くことを告げる。「ジェニーは?」とアレックスが訊くと、リッチーは 「愛しているけど、今はどうしようもない。ここでハンバーガーを焼いていても成功できない」と言って去った。次の朝、アレックスは 作業現場でニックと会い、「あの女は誰よ」と激しく非難するアレックス。他の作業員たちがいる前で、2人は言い争いを始める。しかし ニックに「あれは離婚した妻だ。知人が理事だから仕方なく出席した」と言われて、すぐにアレックスは仲直りした。
その夜、アレックスはニックに誘われ、レストランで食事をする。そこへニックの元妻ケイティーがやって来た。アレックスは嫌味っぽい 態度で挑発されるが、余裕の態度で応対した。彼女はオーディションに挑戦しようと決意し、入団願書を貰いに行く。事務所から彼女が 出て来る様子を、ニックは密かに見ていた。彼は事務所へ行き、受付係に話し掛ける。それから友人であるバレエ団の理事ラリー・ ブラッドレーに電話を掛け、アレックスのことを頼んだ。
モービーズで仮装パーティーが開かれていた夜、リッチーがロサンゼルスから戻って来た。しかしジェニーは冷淡な態度を取り、ジョニー ・Cと一緒に店を出て行った。アレックスの元にはオーディション参加の通知が届き、彼女は大喜びしてニックに報告する。しかしニック が「昨夜からディナーの予約を取ってあった」と口にしたため、彼が裏で手を回していたことに気付き、アレックスは激怒する…。

監督はエイドリアン・ライン、原案はトム・ヘドリー、脚本はトム・ヘドリー&ジョー・エスターハス、製作はドン・シンプソン& ジェリー・ブラッカイマー、製作協力はトム・ジェイコブソン&リンダ・ローゼン・オブスト、製作総指揮はピーター・グーバー&ジョン・ピーターズ、撮影はドン・ピーターマン、編集はバド・スミス& ウォルト・マルコネリー、美術はチャールズ・ローゼン、振付はジェフリー・ホーナデイ、衣装はマイケル・キャプラン、音楽はジョルジオ・モロダー、音楽監修は フィル・ラモーン。
出演はジェニファー・ビールス、マイケル・ヌーリー、ベリンダ・バウアー、リリア・スカラ、サニー・ジョンソン、カイル・T・ヘフナー、リー・ヴィング、ロン・カラバトソス、マルコム・ダネア、フィル・ブランズ、ミコール・ マーキュリオ、ルーシー・リー・フリッピン、ドン・ブロケット、 シンシア・ローズ、 ダーガ・マクブルーム、ステイシー・ピックレン 、リズ・セイガル他。


CMディレクター出身のエイドリアン・ラインが、長編監督デビュー作品『フォクシー・レディ』の次に手掛けて大ヒットを記録した作品。
当時はイェール大学の学生だったジェニファー・ビールスが、オーディションでヒロインのアレックス役に抜擢された。彼女は1980年の 映画『マイ・ボディガード』に端役で出演していたがアンクレジットだったため、これが本格的な映画デビューとなる。
ニックをマイケル・ヌーリー、ケイティーをベリンダ・バウアー、ハンナをリリア・スカラ、ジェニーをサニー・ジョンソン、リッチーを カイル・T・ヘフナー、ジョニー・Cをリー・ヴィング、ジェイクをロン・カラバトソス、セシルをマルコム・ダネア、フランクをフィル ・ブランズ、ローズマリーをミコール・マーキュリオが演じている。
また、ヒップホップのダンサーとして、「Rock Steady Crew」のリーダーであるクレイジー・レッグス、当時のメンバーだった ノームスキー、ミスター・フリーズ、フロスティー・フリーズ、プリンス・ケン・スウィフトが出演している。

監督がエイドリアン・ライン、共同脚本がジョー・エスターハス、製作がドン・シンプソン&ジェリー・ブラッカイマー、製作総指揮が ピーター・グーバー&ジョン・ピーターズ、音楽がジョルジオ・モロダーというのは、ポンコツ映画好きには垂涎の陣容である。
ちなみに、本作品以降に彼らが手掛けた主な映画を挙げると、エイドリアン・ラインは『ナインハーフ』や『幸福の条件』、エスターハス は『氷の微笑』や『ショーガール』、シンプソン&ブラッカイマーは『トップガン』や『デイズ・オブ・サンダー』、グーバー& ピーターズは『フーズ・ザット・ガール』や『虚栄のかがり火』、モロダーは『ネバーエンディング・ストーリー』や『オーバー・ザ・ トップ』などである。
いやあ、素晴らしい作品群だね。

劇中では、ヒットしたアイリーン・キャラの主題歌『Flashdance...What a Feeling』を始めとして、ローラ・ブラニガンの『Gloria』、 シャンディーの『He's a Dream』、カレン・カモンの『Manhunt』、ドナ・サマーの『Romeo』、マイケル・センベロの『Maniac』などの 楽曲が使用されている。
主題歌を含む使用楽曲はポップでキャッチーだけど、それだけの映画である。いかにも1980年代らしい、「使用された楽曲だけは魅力的」 という映画の1つである。
いっそのこと、全ての歌をフルコーラスで流して、完全にミュージック・フィルムを繋いだような構成にした方が潔かったのではないかと 思うぐらいだ。シーンの途中でセリフが入って音楽が小さくなると「セリフが邪魔だな」と感じるし、歌が途中で終わると「フルコーラス で流せばいいのに」と思ってしまうんだから、どれだけ歌の力だけに頼った作品、それ以外に何も無い作品かってことだよな。

当時は公表されていなかったが、ダンス・シーンでは複数のスタント・ダブルが起用されている。ジェニファー・ビールスは、ほとんど 踊っていない。バストショットのシーンで、上半身を揺らしている程度だ。
全身を写しているカットでは、なるべく顔がハッキリと写らないようにしている。実は顔が見えるような全身のカットもあるのだが、その せいで別人であることがバレバレになっている。
終盤のオーディションのシーンなんて、男性であるクレイジー・レッグスもスタント・ダブルをやっていたりするし。
どうして踊れる人を起用しなかったんだろう。ヒロインに有名女優を起用しているのであれば、知名度や人気を優先してのキャスティング なのかとも思うけど、ジェニファー・ビールスは新人だからね。
新人を起用するなら、「踊れるかどうか」をオーディションの合格基準にすべきでしょ。ダンスシーンが何よりのセールス・ポイントに なるような映画なんだから。っていうかダンスシーン以外は何も無いような、キャラや物語はペラペラな作品なんだから。

アレックスはジャズ・ダンスしかやっていないのに、なぜかクラシック・バレエ団のオーディションを受けようとしている。 それは無茶な挑戦でしょ。
「バーではジャズ・ダンスをやっているけど、それ以外の場所でクラシック・バレエのレッスンを積んでいる」ということならともかく、 自宅でもジャズ・ダンスの練習しかしていない。専門の学校に通っていないにしても、個人的に練習しているのかというと、そんなことは 無いのだ。クラシック・バレエに関しては、番組を見たり写真を飾ったりするだけ。
それって、ただの「熱烈なバレエのファン」でしかないでしょ。
そんな状態で、本気でクラシック・バレエをやりたがっているとは到底思えない。

アレックスは恩師であるハンナが応募するよう勧めたから入団願書を貰いに行ったらしいけど、ハンナも無責任すぎるだろ。
彼女は、ただ「決心しろ」としか言っていない。
その前にアレックスはバレエ学校に通ったり、専門家の個人レッスンを受けたりしているわけでもないのに、いきなりオーディションを 受けるよう勧めるのは無茶でしょ。
恩師は経験者なんだから、そのぐらいのことは分かるはず。

アレックスがクラシック・バレエのダンサーになるために努力している様子は、ほとんど伝わって来ない。
願書を貰わずに逃げ出した後は、ずっと恋愛の方にばかりに気持ちが行っている。
落ち込んでいたけど再び意欲を燃やすとか、壁を乗り越えるために苦労するとか、そういうドラマは無い。
ダンスに懸ける情熱や意気込みは、全く見えて来ない。
ジェニーやリッチーにしても、夢を実現させるためのドラマは、ものすごく薄い。彼らの苦悩や葛藤、悲しみや喜びといった感情は、 ほとんど描かれていない。

アレックスはニックが裏で手を回したことに激怒したくせに、結局はオーディションを受けている。
彼女は実力勝負ではなく、恋人のコネを利用することを選ぶのだ。
いや、そりゃあさ、現実の世界で考えれば、コネを利用するのは決して悪いことじゃないよ。成功するために利用できるモノは何でも利用 するという考え方は、全面的に非難されるようなモノではない。
ただ、映画の中で「ヒロインがコネを利用してチャンスを掴む」という筋書きを用意して、それで高評価を得ようとするのは、なかなか 難しいものがあると思うぞ。
ヒロインがチャンスを掴んでも、観客の心は掴めないんじゃないか。

あと、現実的に考えれば、クラシック・バレエ団のオーディションでジャズ・ダンスやブレイク・ダンスを踊っても、絶対に合格しないと 思うぞ。
「踊り」という大きな枠で捉えれば仲間かもしれないけど、そこで使われる技術は全く違うんだからさ。
それは例えば、「どっちも同じ球技だから」ということで、サッカーチームの入団テストで野球の腕前を披露するぐらい、おかしなこと だよ。

(観賞日:2012年2月27日)


第4回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低脚本賞

 

*ポンコツ映画愛護協会