『フラッシュ・ゴードン』:1980、アメリカ&イギリス

退屈を感じていた惑星モンゴのミン皇帝は、地球を標的に選び、地震やハリケーンなどの天変地異を起こして楽しむ。NFL選手の フラッシュ・ゴードンと旅行会社の社員デイル・アーデンを乗せた飛行機も、異常気象に遭遇する。NASAを追放されたザーコフ博士は助手 のマンソンから、朝なのに太陽が昇らないと聞かされる。月の位置を調べると、軌道が12度移動したために皆既食が起こったことが判明 した。ザーコフは、かねてから彼が主張していた通り、月がエネルギー光線によって支配されたと確信する。
ザーコフは開発したロケットを使い、エネルギー光線の出所へ向かおうと決める。しかしマンソンは及び腰で、逃げ出そうとする。一方、 飛行機では操縦士と副操縦士の姿が消失したため、フラッシュとデイルが操縦桿を握る。緊急着陸したのは、ザーコフの研究所の敷地 だった。ザーコフは2人をロケットの中に誘導し、一人をマンソンの代わりとして連れて行くことにした。彼は2人を銃で脅し、「攻撃が 始まった。11日後に月が地球に衝突する。敵の惑星へ行く」と告げる。
ザーコフは発射ペダルを踏む役目をデイルに決めて、フラッシュにはロケットから降りるよう命じる。フラッシュはザーコフに殴り掛かる が反撃され、揉みあう中でロケットは点火してしまう。フラッシュたちを乗せたロケットは、高度な科学水準を持つ惑星モンゴに到着した 。3人はミンの手下たちに捕まり、宮殿へ連行された。ホークマンのヴァルタン王子が貢物をミンに捧げようとすると、アーボリアの バリン王子が現れて「それは我々の物だ。ヴァルタンが盗んだ」と訴えた。バリンとヴァルタンは一触即発になるが、ミンの配下である クライタスが一喝した。
アーデンシアのサン王子は、「祖国を破壊され、献上できるのは忠誠心だけです」とミンに言う。するとミンは「では腹に剣を突き刺し、 忠誠を示せ」と要求した。サンはミンを殺そうとするが、光線で動きを止められ、抹殺された。ミンはデイルに関心を示し、自分の女に しようとする。フラッシュは阻止しようと暴れるが、すぐに捕まった。ミンの娘オーラはフラッシュに感心を示し、「殺さないで。私に 下さい」と持ち掛ける。しかしミンはフラッシュの公開処刑を決定した。
オーラは自分に好意を寄せるバリンと話し、アーボリアへ戻って待つよう促した。フラッシュはミンの配下であるフィコの手によって処刑 される。だが、フィコは好意を寄せるオーラに依頼され、フラッシュが死んだように偽装していた。オーラはフラッシュを目覚めさせ、 「アーボリアへ行くわ。バリンが味方になってくれる」と語る。ザーコフはクライタスの部下カラによって、洗脳処置を受けた。
フラッシュはオーラを脅してテレパシー交信機を使わせてもらい、デイルに自分が生きていることを教える。デイルがミンの寝室にいる ことを知った彼は、「味方のいるアーボリアへ向かっている。僕が戻るまで時間を稼げ」と述べた。デイルはお付きの女奴隷を酔わせて 眠らせ、服を交換して寝室から抜け出した。クライタスはザーコフをデイルと接触させ、フラッシュが生きていてアーボリアへ向かった ことを聞き出した。そこでクライタスは、わざとデイルたちを脱出させることにした。
クライタスはミンに、協力者がフラッシュを逃がしたことを報告する。ミンは、その協力者とフラッシュを捕まえるよう命令する。一方、 ザーコフはデイルを連れて宮殿から抜け出し、洗脳されていないことを明かす。バリンはフラッシュを檻に入れ、沼に沈める。オーラは クライタスとカラに捕まって拷問を受け、全て白状させられた。ミンはクライタスに、フラッシュとバリンを捕まえろと命じた。
デイルとザーコフはホークマンに捕まり、ヴァルタンの空中城に連行された。ミンを憎むヴァルタンは、反逆者として2人を連行し、信用 を得てチャンスを狙おうと考える。ザーコフたちはフラッシュが生きていることを教え、「戦うチャンスが来たぞ」と持ち掛ける。バリン はフラッシュを始末しようとするが、駆け付けたホークマンに阻止される。ヴァルタンの所へ捕虜として連行されたバリンは、法律に 基づいて決闘を要求し、その相手としてフラッシュを指名した。
フラッシュは対決の場から転落死しそうになったバリンを救い、協力を取り付ける。そこへクライタスが現れ、ザーコフとバリンを反逆罪 で連行しようとする。フラッシュはバリンと協力し、クライタスを退治した。激怒するヴァルタンに、フラッシュとバリンは帝国艦隊へ 奇襲を仕掛けようと持ち掛ける。しかしヴァルタンは拒絶し、ホークマンに避難を指示した。ミンの戦艦が来たため、ザーコフは白旗を 振る。ミンはバリンやザーコフとデイルだけを戦艦に回収し、フラッシュは城に残す。「お前に王国を与えよう」という取引をフラッシュ が拒否したため、ミンは戦艦に戻った。そしてフラッシュを残した城に対して、戦艦の砲撃を浴びせる…。

監督はマイク・ホッジス、原作はアレックス・レイモンド、脚本はロレンツォ・センプルJr.、翻案はマイケル・オーリン、製作は ディノ・デ・ラウレンティス、製作総指揮はバーナード・ウィリアムズ、撮影はギル・テイラー、編集はマルコム・クック、美術&衣装& 装置はダニロ・ドナティー、音楽はクイーン、オーケストラ楽曲はハワード・ブレイク。
出演はサム・J・ジョーンズ、メロディー・アンダーソン、オルネラ・ムーティー、マックス・フォン・シドー、トポル、ティモシー・ ダルトン、ブライアン・ブレッスド、ピーター・ウィンガード、マリアンジェラ・メラート、ジョン・オズボーン、リチャード・ オブライエン、ジョン・ホーラム、フィリップ・ストーン、スザンヌ・ダニエル、 ウィリアム・フッキンズ、ボビー・ブラウン、テッド・キャロル、エイドリアン・クローネンバーグ、スタンリー・レボー、ジョン・ モートン、バーネル・タッカー、ロビー・コルトレーン他。


アレックス・レイモンドのコミック・ストリップ(新聞連載漫画)を基にした作品。
フラッシュをサム・J・ジョーンズ、デイルを メロディー・アンダーソン、オーラをオルネラ・ムーティー、ミンをマックス・フォン・シドー、ザーコフをトポル、バリンをティモシー ・ダルトン、ヴァルタンをブライアン・ブレッスド、クライタスをピーター・ウィンガード、カラをマリアンジェラ・メラート、 アルボリアの司祭をジョン・オズボーン、フィコをリチャード・オブライエンが演じている。

オルネラ・ムーティー、マックス・フォン・シドー、トポル、ティモシー・ダルトンといった脇役の顔触れからすると、フラッシュを 演じるサム・J・ジョーンズは、ただ筋肉があるだけの男に感じられる。
見るからにオツムが弱そうで、デクノボー感が強い。
だから地球を救う正義のヒーローとしてはミスキャストのように思えたが、劇中のフラッシュはデクノボー感が強いキャラなので、そう 考えると、ピッタリのキャスティングだったのだ。

原作は1934年から長期に渡って連載され、フラッシュ・ゴードンはアメリカで大人気のヒーローだった。
ジョージ・ルーカスが映画化を望んでいたが、映画化権が押さえられていたために製作したのが『スター・ウォーズ』だというのは、 ファンの間では有名な話だ。
で、その映画化権を持っていたのが、よりにもよってディノ・デ・ラウレンティス。この人が、本作品をダメにした元凶の一人だ。
この人、マイク・ホッジスがどういう映画を撮ってきたのかも知らず、監督に指名したそうだ。

そのマイク・ホッジスが監督のオファーを受けた時点で、既に美術・衣装・装置を担当するのがダニロ・ドナティーということは決まって いた。
このダニロ・ドナティーが、本作品をダメにした元凶パート2。
ケバケバしい巨大セットも、約600着という大量の派手な衣装も、その必要性や機能性は全く無視して作られている。
まさに「好き勝手」にやっているのである。
この映画は当時の日本円にして80億円の製作費が掛かっているはずだが、それにしては特撮がチープで、たぶん衣装や装置に大半が 投じられたのだろう。

ダニロ・ドナティーが無駄に予算を浪費して大量の衣装を用意したおかげで、役者たちは必要性を無視して着替えている。
例えばオーラは登場シーン、処刑を見守るシーン、フラッシュを助け出すシーンで、わざわざ着替えている。
まるで旗本退屈男である。
また、ダニロ・ドナティーは個人的趣味を持ち込んだのか、フラッシュにピチピチのTシャツやタンクトップを着用させてゲイに受ける 格好にしている。
ちなみに、最初にフラッシュが着ているシャツには「Flash」とプリントされている。
素晴らしいセンスである。

マイク・ホッジスが監督を引き受ける前に、『フラッシュ・ゴードン』の映画化企画は頓挫しそうになっていた。
その時点ではマイケル・オーリンの執筆した脚本があったのだが、監督を引き受けたマイク・ホッジスは、それを採用しないことにきた。
新たにTVシリーズ『バットマン』の脚本家であるロレンツォ・センプルJr.が雇われ、ホッジスの意向に沿ったシナリオが作られた。
ホッジスの意向は、「1930年代のコミック・ストリップを、そのまんま忠実に映像化する」というものだった。
現代風にアレンジしようとか、今となってはバカバカしく思える箇所をシリアスに修正しようとか、そういう気は全く無かったのである。

そうなると当然のことながら、出来上がるのは、おバカでマヌケで陳腐でチープでヌルくてユルくて幼稚でデタラメなシナリオになる。
それこそロレンツォ・センプルJr.が脚本を書いた『バットマン/オリジナル・ムービー』のような、お気楽ご気楽な話になる。
演出次第ではテイストに変化が生じる可能性はあるが、監督を務めるマイク・ホッジスの意向を汲んで作られたシナリオなんだから、演出 もそれに沿ったものになる。
マイク・ホッジスはダニロ・ドナティーの用意した大量の衣装や装置を見て開き直ったのか、あるいは完全に諦めたのか、スタジオに 入ってから、その度に演出プランを考えていたらしい。

とりあえず、マイク・ホッジスが「地球を救うヒーローが悪と戦う、マジなスペース・オペラ」として演出していないことは、ハッキリと 分かる。
のっけから、ミン皇帝の前に「EARTHQUAKE(地震)」「HURRICANE(ハリケーン)」「HOT HAIL(熱い雹)」などと書かれたボタン が用意されており、それを押すと地球に自然災害が起きるのだ。
「HURRICANE」の他に「TYPHOON」というボタンもあるので、その2つに限っては地域が限定されているってことなのね。

ロケットの中でフラッシュとザーコフが揉み合うと、頭がスイッチにぶつかって点火するというギャグシーンもある。
宮殿でフラッシュが戦う時は、楕円形の球体をザーコフから渡された彼が、アメフトのタックルで敵を次々に倒していく。すると、なぜか クライタスが手下を集め、アメフトのゲームのように対戦させる。
デイルは「ゴーゴー、フラッシュ」と、チアリーダーのように応援を始める。
フラッシュがデイルを助けようとして戦うんだから、ホントならヒーローとしてカッコ良く活躍すべきでしょ。そこを、そんな風に演出 しているわけだから、そりゃあマジなスペース・オペラに仕上がるはずがない。
しかも、フラッシュはザーコフの投げた球体が顔面にぶつかり、あっさりと捕まってしまうのだ。
なんちゅう情けないヒーローだよ。

ただし、いっそのこと、おバカで能天気なコメディーとして突き抜けてくれたら、それはそれでカルトな傑作となったかもしれない。
この映画の抱えている最大の問題は、実は「コメディーとしても面白くない」ということにあるのではないか。
フラッシュが球体を持って敵にタックルをカマし、デイルが応援するというバカなバトルの辺りでは「ひょっとすると、ひょっとするかも 」と淡い期待を描いたのだが、それ以降、コメディーとしての弾けっぷりが全く見られないのだ。

もっとデタラメでクレイジーになってくれりゃあいいものを、ただダラダラしているだけ、ただ退屈なだけというシーンが、ものすごく 多い。
序盤は説明不足で慌ただしい印象を受けるが、中盤以降は余計な寄り道が多くてモタついている。
1時間ぐらい経過したところで、「ちっとも話が先に進んでないなあ」と感じる。
ただチープでつまらないだけなので、「おかしなところにツッコミを入れて楽しむ」ということも難しい。

シーンとシーンの繋ぎ方、構成もボロボロだ。
なぜそこでシーンを切ってしまうのか、なぜそんな順番でシーンを並べるのかと言いたくなる箇所が色々と出てくる。
下手な編集マンが作ったテレビ放送用の短縮版なのかと思っちゃうぐらいに、すげえ作りが粗いんだよな。
クイーンが担当した主題歌『フラッシュのテーマ』だけは素晴らしいが、それは映画と切り離しても素晴らしいものであり、そこだけで 作品の評価をプラスに転じるのは厳しい。
それ以外の負債が大きすぎるし。

(観賞日:2013年2月11日)


第1回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演男優賞[サム・J・ジョーンズ]


1980年スティンカーズ最悪映画賞<エクスパンション・プロジェクト後>

受賞:【最悪のカップル】部門[サム・J・ジョーンズ&メロディー・アンダーソン]

ノミネート:【最悪のリメイク】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会