『ファイティング・テンプテーションズ』:2003、アメリカ

1880年、ジョージア州。幼少期のダリンは教会の前で幼馴染のリリーに「恋人になってくれない?」と言い、「マイケル・ジャクソンと結婚したい」と断られた。ダリンは母のメアリーアンと共に、教会の聖歌隊で歌っていた。メアリーアンは酒場で歌い、カセットテープ出していた。それを知ったポリーナは、メアリーアンの歌を「悪魔の歌詞」と糾弾した。ダリンの伯母のサリー・ウォーカーは「彼女は誰にも迷惑を掛けていない」とメアリーアンを擁護するが、ポリーナは弟のルイス牧師に「教会の規則を守らせなさい」と迫った。ルイスは仕方なく「世俗の歌を続けるなら聖歌隊は辞めてもらう」と言い、メアリーアンはダリンを連れて町を出た。
現在、ニューヨーク。広告代理店で働くダリンは秘書のローザから探偵が自分を捜していると聞き、身を隠した。彼は酒造メーカーへのプレゼン会議に参加し、業績を大幅に上昇させる計画を提案した。ダリンは一般管理職だったが、酒造メーカーの代表は彼のプレゼンを気に入った。これを受けて、社長のフェアチャイルドはダリンに昇進を告げる。その夜、女性とデートしたダリンは、虚偽の経歴を並べて気を引こうとした。
翌朝、フェアチャイルドはダリンに呼び出され、クビを通告された。フェアチャイルドはダリンの学歴詐称を知り、会社に残すことは無理だと判断したのだ。荷物をまとめて会社を出ようとしたダリンは、探偵からサリーの死を伝えられた。葬儀は翌日だと知り、ダリンは故郷のサンタモニカに戻った。すると旧友のルシウスが出迎えに現れ、ダリンを車に乗せた。彼は女性の尻についての研究結果を饒舌に語り、ダリンが1人の女性に目を留めて「あれは誰?」と訊くと「リリーだ。彼女は特別だ」と教えた。ルシウスが嬉しそうに話す様子を見て、ダリンは「凄い女性なんだね」と軽く笑った。
ルシウスはダリンが泊まる場所として、下宿を用意していた。下宿を営む女性の孫であるジミーを車に同乗させ、ルシウスは教会に向かう。教会に入ったダリンは、リリーの姿に気付いた。ポリーナがルイスと共に教会へ現れ、ダリンは彼女がジミーの祖母だと知る。リリーに気付いたポリーナは、「異教徒のくせに、あつかましい」と睨み付けた。サリーを称えるシャーリー・シーザーの歌が始まろうとした時、ダリンの携帯電話が鳴った。ルイスから電源を切るよう言われたダリンだが、電話に出た。ローザから私物を没収されると聞いた彼は大声を出してしまい、慌てて誤魔化した。
シャーリー・シーザーと聖歌隊の歌を聴いたダリンは、感動して目に涙を浮かべた。彼はルイスから、サリーの思い出を話すよう促された。仕方なく壇上に立ったダリンは、「母は3年前にひき逃げで死んだ。父が戦死した後、家に置いてくれたのがサリーだと言っていた」と語った。ルイスはサリーと親しかったベッシーやホーマーたちを集め、遺言書を読み上げた。「聖歌隊のリーダーの地位をダリンに譲る」と書かれていたので、ダリンは困惑した。2番手だったポリーナも、自分が後継者だと思っていたので反発した。
ダリンは聖歌隊に何の興味も無く、ポリーナに譲ると申し出た。しかし遺言書に「リーダーを引き継いでコロンバスのゴスペル大会に出るならジョージア・テレコムの株を譲る。今なら15万ドル以上の価値がある」と書いてあることを知り、すぐに「引き受ける」と態度を変えた。未経験であることを理由にポリーナは反対し、ルイスも難色を示した。そこでダリンは「僕の仕事は音楽プロデューサーだ」と嘘をつき、ルイスは歓迎した。ポーリーナは納得せず、下宿での生活で細かく使用料を徴収することを通告した。
ダリンはルシウスの案内でナイトクラブへ行き、そこでリリーが歌っていることを知った。ダリンが声を掛けると、リリーは「私のこと、覚えてないの?」と言う。ようやく相手が幼馴染のリリーだと気付いたダリンは、「サリーが倒れた日、電話で話した。素敵な友人を紹介すると言われた。君のことさ」と嘘をつく。すぐにリリーは、サリーは2週間も昏睡状態にあったことを指摘した。「僕の彼女になってくれないかな」とダリンが軽く言うと、彼女は「ディーンっていう焼き餅焼きの彼がいるの」と断った。
翌日、ダリンはローザと電話で話し、負債の延滞料金が膨れ上がっていることを知らされる。ダリンは「目処は立った」と言い、2週間か3週間で戻るので何とか対処するよう頼んだ。彼は聖歌隊を集めるが、ビルやアルマなど6人しかいないこと、全員の歌が下手なことを知った。ダリンはナイトクラブを訪れ、リリーをスカウトしようとする。リリーが「ダメよ。私は追い出された身」と言うと、「ポリーナのことなら僕が何とかする」と彼は説得する。リリーは「御見通しよ。私を利用したがってる男は匂いで分かる。昨日もそうだった。明日もそうでしょ」と冷たく告げ、彼の誘いを拒絶した。
ダリンはマイルス・スモークがDJを務める地元のラジオ番組に出演し、聖歌隊のメンバー募集を呼び掛けた。彼はオーディションを開催するが、使えそうな人材は全く見つからなかった。ダリンはルシウスにも誘いを掛け、「タダじゃ無理だ」と言われたので賞金の山分けという条件を付けてOKしてもらった。彼はチラシを貼ってもらうため、ジョセフの理髪店を訪れた。そこにリリーが現れ、息子のディーンをジョセフに預けて向かいの食料品店へ出掛けた。
ジョセフが仲間のフランク&サミュエルとディーンのために歌うと、ダリンは笑顔になった。彼は食料品店へ行き、「結婚してないのか。だから罪人扱いなんだ」と嬉しそうに言う。リリーが腹を立てると彼は慌てて弁解するが、さらに神経を逆撫でする羽目になった。リリーは買い物を済ませようとするがカードは使えず、小切手を切るのも忘れていた。ダリンは他人名義のカードを何枚も所持しており、その内の一枚を使って代わりに支払った。
ルイスはポリーナに内緒で、歌が上手い人のリストをダリンに渡した。ダリンはスクーターやデレクといった新メンバーを聖歌隊に加えるが、リードシンガーが必要だと考える。彼はリリーの家を訪れ、聖歌隊に入るよう頼んだ。その場では断ったリリーだが、教会に現れて「サリーのためよ」とダリンに告げる。ポリーナがリリーを罵って追い出そうとすると、ダリンは「気に入らなきゃ聖歌隊から出て行ってくれ」と告げる。ポリーナは即座に抜けるが、彼女に続く者は誰もいなかった。
リリーが加わって3週間後、聖歌隊の歌はみちがえるように上達した。しかしポリーナが大会の知らせを隠していたため、オーディションのテープ審査受け付けは既に終了していた。聖歌隊のメンバーが残念がると、ダリンは「何とかする」と約束した。彼はローザと電話で話し、「カード使用で足が着いた。詐欺罪で信用調査会社が動いてる」と知らされた。ダリンはルシウスの仲介で刑務所長と会い、ショーで囚人たちを満足させれば大会にねじ込んでくれるという約束を取り付けた。リリーのリードで聖歌隊が熱唱すると囚人たちは盛り上がり、所長は約束の遂行を引き受けた。所長は「今のままでは優勝は無理だ」と言い、囚人にも歌の上手な人間がいることをダリンに教えた。ダリンは警備の看守付きで、囚人のビッグスやジョンソンたちを聖歌隊に加えた…。

監督はジョナサン・リン、原案はエリザベス・ハンター、脚本はエリザベス・ハンター&サラディン・K・パターソン、製作はデヴィッド・ゲイル&ロレッサ・ジョーンズ&ジェフ・ポラック、製作総指揮はヴァン・トフラー&ベニー・メディーナ、共同製作はスーザン・ルイス&モミタ・セングプタ、製作協力はティレル・ターナー&シュー・ローランド、撮影はアフォンソ・ビート、美術はヴィクトリア・ポール、編集はポール・ハーシュ、衣装はメアリー・ジェーン・フォート&トレイシー・A・ホワイト、音楽はジミー・ジャム&テリー・ルイス&ジェームズ・“ビッグ・ジャム”・ライト、音楽製作総指揮はジミー・ジャム&テリー・ルイス&ジェームズ・ビッグ・ジャム”・ ライト&ロレッサ・C・ジョーンズ、音楽監修はスプリング・アスパーズ。
出演はキューバ・グッディングJr.、ビヨンセ・ノウルズ、マイク・エップス、フェイス・エヴァンス、スティーヴ・ハーヴェイ、ウェンデル・ピアース、ラターニャ・リチャードソン、デイヴ・シェリダン、アンジー・ストーン、ルー・マクラナハン、メルバ・ムーア、レヴェレンド・シャーリー・シーザー、モンテル・ジョーダン、T−ボーン、デイキン・マシューズ、ルー・マイヤーズ、ミッキー・ジョーンズ、ゼイン・コープランドJr.、アン・ネズビー、ルルド・ベネディクト、ミッチャー・ウィリアムズ、オージェイズ他。


『遺産相続は命がけ!?』『隣のヒットマン』のジョナサン・リンが監督を務めた作品。
ダリンをキューバ・グッディングJr.、リリーをビヨンセ・ノウルズ、ルシウスをマイク・エップス、メアリーアンをフェイス・エヴァンス、マイルスをスティーヴ・ハーヴェイ、ルイスをウェンデル・ピアース、ポリーナをラターニャ・リチャードソン、ビルをデイヴ・シェリダン、ビルをアンジー・ストーンが演じている。
ジョンソン役は歌手で牧師のモンテル・ジョーダン、スクーター役はドラマーのミッキー・ジョーンズ、デレク役はラッパーのリル・ゼイン、ジョセフ&フランク&サミュエルを演じているのはオージェイズのメンバー。

序盤の段階で、話のピントがボヤけている。
粗筋にも書いたように、ダリンは広告代理店で出世のチャンスを掴んだ直後、経歴詐称が発覚して解雇される。
そういう形で「喜びの絶頂からの転落」があるのなら、そこからの展開としてパッと思い付くのは「ダリンが広告マンとして再びチャンスを得ようとする」という内容だ。
しかし実際には、帰郷したダリンが聖歌隊の責任者を引き受ける展開が用意されている。彼は全く迷わず、大金が手に入ると聞いてホイホイと飛び付いている。

ダリンが大金目当てで門外漢の「聖歌隊のリーダー」という仕事に食い付くのなら、「エリート広告マンとしての成功からの転落」という要素は邪魔になる。
ダリンは広告マンになる時も聖歌隊の仕事を引き受ける時も嘘をついているので、「ダリンは嘘つき」という部分を軸にして話を構築しようと思ったのかもしれない。ただ、そうであっても、ダリンの初期設定は大手企業の広告マンじゃなく、口八丁で金を儲けるヤクザな稼業か何かにしておいた方がいい。
ダリンが聖歌隊の仕事に飛び付くってことは、都会で成功したかったわけでもなければ、広告マンとして出世したかったわけでもないってことになる。ただ金持ちになりたかっただけってことになる。
だったら、「広告マンとして出世を目論んでいたのにクビになった」という要素は邪魔なだけでしょ。

ダリンがリリーをまったく覚えていないのは、大いに引っ掛かる。
冒頭で2人だけで仲良くしているシーンを描いているし、そこでリリーの名前もハッキリと口にしている。それなのに、久々に帰郷してリリーの名前を聞いても、幼馴染であることをまったく思い出さないのだ。
ところがリリーに「私のこと、覚えてないの?」と言われると、すぐに思い出す。だったら、忘れていた設定なんて全く無意味だわ。ルシウスから名前を聞いた時点で思い出しても、何の問題も無いわ。
むしろ、覚えていない設定で、どんな効果が得られるという計算をしていたのか疑問だわ。

サリーの葬儀では、シャーリーのバックで大勢の聖歌隊が見事な歌を披露している。それなのにダリンが聖歌隊を集めるシーンでは、6人しかいない。
だったらサリーの葬儀で歌っていたのは、どういう連中なのか。あれもシャーリーが外から連れて来た面々なのか。
その町の聖歌隊のメンバーが、サリーの葬儀でゴスペルに参加していないのも変だし。
あと、ダリンがガキの頃は大勢のメンバーがいて見事な歌を聞かせていたのに、ドイヒーな状態に変化した理由は何なのか。そこは説明する必要があるだろうに。

あとさ、ダリンは聖歌隊のメンバーが少なくて歌が下手だと知ると慌てて改革に乗り出すけど、そんなことをする必要なんて無いはずだ。
だって彼が聖歌隊のリーダーを引き受けたのは、サリーの株を手に入れるためなんでしょ。もちろん大会の賞金も貰えればラッキーだけど、自分が歌のプロじゃないんだし、優勝なんて難しいのは最初から分かり切っているはず。
それなのに「優勝を目指して頑張る」という展開になるのは、色んな手順が抜け落ちているようにしか思えないのよ。
聖歌隊の面々にしても、ポリーナが何とか改善したいと思っている様子は無いし、他のメンバーも危機感を募らせている様子は無い。そっ ちサイドからの突き上げがあるわけでもないので、ますますダリンが必死になってメンバーを集めなきゃいけない理由は無いのよ。

ダリンが理髪店でジョセフたちの見事なコーラスワークを聴いたら、「その3人を聖歌隊にスカウトする」という展開になるべきだろう。
ところが実際には、ダリンがリリーの元へ向かう展開になる。
いやいや、どういうことだよ。だったらジョセフたちが歌ったのは何なのか。そこの展開は、デタラメにしか思えないぞ。
「ダリンがジョセフたちの歌を聴き、リリーが未婚だと気付いた」と解釈するのも無理があるし。リリーの元へ行くにしても、ジョセフたちを勧誘してからにしろよ。
とにかく、流れの計算が全く出来ていない。

ローザが電話で「負債と延滞金がかさむ一方」と話しているので、ダリンが聖歌隊のリーダーを引き受けたのは「金持ちになりたい」ってことよりも「借金を返済したい」という気持ちの方が強かったのかもしれない。
しかし、それなら最初から「ダリンは多額の負債を抱えて困っている」という状況を強くアピールしておくべきだろう。
でも、なぜダリンが多額の負債を抱えているのか、その理由さえ明かさないまま話を進めているんだよね。
そんなダリンにローザが全面協力している理由もサッパリ分からないし。

リリーはダリンのスカウトを断っていたのに、「貴方の為じゃなくてサリーのためよ」ってことでOKする。
でも、彼女は「サリーのために引き受けた」というダリンの説明が嘘で、ホントは金目当てだと知っているのだ。その上で断ったのに、次のシーンで教会に現れるのは違和感しか無い。
そこは気持ちが変化するきっかけが何か必要じゃないかと。「サリーのためよ」という台詞だけで突破しようとしても、説得力はゼロだぞ。
そこに限ったことじゃないけど、この映画って観客を牽引する力が全く足りていないのよね。

聖歌隊への参加を決めたリリーは、当然のようにポリーナたちから酷い言葉を浴びせられる。しかしポリーナが追い出そうとしても、彼女は負けずに聖歌隊で歌おうとする。
でも、そうまでして聖歌隊に加入しようとするモチベーションがサッパリ分からない。
あと、リリーは歌が上手いけど、たった1人で聖歌隊のレベルを急激に上昇させることなんて絶対に無理だ。ところが場面が3週間後に飛び、聖歌隊はみちがえるように上手くなっている。「練習を重ね、壁にぶつかり、苦労や衝突もありつつ少しずつ上達していく」という手順は何も無い。
そこの経過をバッサリと省略するのは、ただの手抜きにしか思えないぞ。

本来ならば、「リリーが加入したことで聖歌隊が大きく変化する」というトコが重要なはずだ。
しかし彼女の後から加わるメンバーの力も大きいという形で話を進めているので、リリーの重要性は薄れている。
で、リリーの重要性を薄めてまで多くの新メンバーを集めているが、ものすごく雑な形で聖歌隊に加えるので、1人ずつのキャラは全く粒立っていない。
大半のメンバーは出オチになっているし、出オチのパワーさえ無い奴もいる。

終盤、広告代理店は酒造メーカーと契約を結ぶため、カード詐欺の件は無かったことにするので復帰するようダリンに要請する。聖歌隊のメンバーには音楽プロデューサーという嘘がバレているけど、それでも彼らはダリンが残ることを望んでいる。
それなのにダリンは、会社に復帰することを選ぶのだ。そうなると、やっぱりニューヨークでの出世が目的だったことになるでしょうに。
終盤に入って、「ダリンが聖歌隊を離れてニューヨークに戻る」という展開を用意すること自体は、そこまで間違っているとは思わないのよ。
だけど枝葉の部分が間違いだらけなので、結果としては失敗と言わざるを得ないのよ。

もちろん誰でも簡単に予想できるだろうけど、一度は広告代理店に復帰したダリンは、ゴスペル大会に駆け付けて一緒に歌う。その際、彼は先にリリーと会って謝罪し、「僕が聖歌隊に診せた意気込みは本物だ」と語る。
だけど、それも嘘にしか聞こえないのよ。
「金目当てで頑張っていた」という意味では「本物の意気込みだった」と言えるのかもしれないけど、そういうことじゃないでしょ。
あと、この映画で悪者なんか要らないので、最後はポリーナと和解して「全員で優勝」という形に着地した方がきれいだったと思うぞ。

(観賞日:202年7月7日)


第24回ゴールデン・ラズベリー賞(2003年)

ノミネート:最低主演男優賞[キューバ・グッティングJr.]
<*『バナナ★トリップ』『ファイティング・テンプテーションズ』『僕はラジオ』の3作でのノミネート>


第29回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の主演男優】部門[キューバ・グッティングJr.]
<*『バナナ★トリップ』『ファイティング・テンプテーションズ』『僕はラジオ』の3作でのノミネート>
ノミネート:【最悪のカップル】部門[キューバ・グッティングJr.&彼との共演を強いられた任意の俳優]
<*『バナナ★トリップ』『ファイティング・テンプテーションズ』『僕はラジオ』の3作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会