『バッド・トレジャー』:2021、アメリカ

一人でアパート暮らしをしているD・フォレスターの元に、弟のショーンから手紙が届いた。手紙には「誕生日おめでとう。仮釈放期間も、あと数ヶ月。これで過去を克服できるな。このガーディアン島は綺麗で、兄さんも気に入るよ。探してた物も見つかった。スーザンとフレディーも待ってる」と綴られていた。感謝祭にも手紙が届き、ショーンは島に来るよう誘った。12月8日、ショーンの妻のスーザンから手紙が届いた。そこにはショーンが死去したことが記されていた。Dが部屋に戻ると、男が侵入して何かを調べていた。男が拳銃に手を延ばすと、Dは「やめてくれ」と口にした。
FBIのショーネシー特別捜査官が部隊を率いて部屋に突入するとDは去っており、男が浴槽に吊るされていた。男は拷問を受けて血だらけだったが、死んでいなかった。部屋には抑制剤の瓶が転がっており、アルダーウッド医師の名が記されていた。アルダーウッドを訪ねたショーネシーは、Dについて質問した。アルダーウッドが「回復の見込みがある」と話すと、彼女は「被害者は拷問されてた」と告げる。アルダーウッドが「今の彼がするはずがない」と否定すると、ショーネシーは「8年前に殺人罪で逮捕したのは私だから分かる。Dならやりそうなことよ」と述べた。
アルダーウッドは「Dは嫌悪療法や私の行動療法を繰り返し実行し、社会復帰できる術を身に着けた」と語るが、ショーネシーは「そんなことでは変わらない」と断言した。彼女が協力を求めると、アルダーウッドは拒否した。ショーネシーは部下のワグナーから、ショーンに関する情報を聞いた。ショーンは有名な歴史学教授だったが1年半前に辞職し、ワシントン州の離島に移住して宿を始めた。葬儀が明日と知ったショーネシーはDが来ると確信し、ガーディアン島へ向かうことにした。
Dはガーディアン島に上陸し、宿へ向かった。宿では「ショーンの友人と家族の集い」が開かれており、従業員のジョーはDに部屋の鍵を渡した。ジョーはDに、元は軍の施設でショーンがシャッターを残したことを教えた。集いの場にはスーザン、ショーンの母親のリンダ、保安官のマッコイ、研究者仲間のマッシー、料理人のヒューが来ていた。Dが棺に歩み寄ると、リンダは睨み付けて立ち去るよう命じた。スーザンはショーンが足場から落ちて死んだこと、発見者がヒューであることをDに説明した。
Dはスーザンから「お義母さんのことはゴメンね。辛すぎるのよ」と言われ、「ショーンが死んだのは数日前なのに、なぜ辛いんだ?」と首を傾げた。リンダはスーザンからDへの冷たい態度を諫められ、「あれが家族に何をしたと思う?何度も警察が来て夜中に起こされた」と声を荒らげた。マッコイは無線でFBIが島に来ることを知らされ、船着き場に向かった。Dはアルダーウッドに電話を掛け、「母に帰れと言われた」と相談する。アルダーウッドは想定内だと告げ、「過去の君じゃないことを家族に見せてやれ」と告げた。
Dはショーンの息子のフレディーと遭遇し、「異常ってのは本当?」と質問された。彼は否定し、「反社会性パーソナリティー障害だ。他人の気持ちを理解せず、恐怖も感じない。だけど異常じゃない」と語った。船に戻ったマッコイは、Dが殺人容疑で指名手配されていることを知った。リンダはフレディーがDと一緒にいるのを目撃し、2階の自室へ戻るよう命じた。Dが「俺は治療してる」と言うと、彼女は「お前は変わらない。だって異常から」と冷酷に言い放った。
宿に戻って来たマッコイはショットガンをDに突き付け、手錠を掛けて地下壕へ連行した。Dは全く抵抗せず、牢に入った。投薬の時間が来ると、彼はマッコイに頼んでポケットの抑制剤を飲ませてもらった。ジョーが地下壕へ来て、マッコイにコーヒーを差し出した。船の音を耳にしたマッコイはFBIが到着したと思い、テーブルに銃を置いて船着き場へ向かった。コールと部下のフェリックス、ブランチャード、パイク、スナイパー、ウィンパーが島に上陸し、マッコイは「ここで何を?」と問われて「指示が来たので、然るべき対処を」と言う。一味がFBIではないと気付いたマッコイはショットガンを構えるが、コールに始末された。
Dは銃声を耳にしたジョーから「どうすればいい?」と質問され、「銃を。俺に任せるか、俺を撃ってもいい」と答えた。コールは灯台へ行くようスナイパーに命じ、パイクには島全体を調べるよう指示した。彼はウィンパーに地下壕を調べるよう告げ、残る2人を連れて宿へ向かった。一味は銃を構え、宿の面々を制圧した。マッシーが「奴を捜しに来たんだろ。保安官が地下壕に連行した」と言うと、一味は無視して携帯電話を回収し、踏み潰して破壊した。
ウィンパーが地下壕に入ると、ジョーが牢に入っていた。ウィンパーの報告を受けたコールは、情報を聞き出すまで殺すなと命じた。宿に来たパイクは、「島に異常は無い」と報告した。コールはFBIが来るという情報を知るが、計画の続行を指示した。Dはウィンパーを殴って昏倒させ、ジョーが「殺さないの?」と訊くと「もう人は殺さないんだ」と答えて地下壕を出た。コールはウィンパーと連絡が取れなくなったため、フェリックスを差し向けた。彼はブランチャードに、2階を調べるよう命じた。
ヒューはコールから「ヘマしたな」と責められ、「身元を疑われて、仕方が無かった」と弁明した。ヒューが逃走を図って宿を飛び出すと、コールはスナイパーに射殺させた。ブランチャードはフレディーを発見し、フェリックスは倒れているウィンパーを見つけてコールに報告した。コールはフレディーを連れて来たブランチャードに宿の見張りを命じ、パイクを連れて地下壕へ向かった。Dは裏口から宿に入り、ブランチャードを確認した。彼は後から入って来たジョーを襲ってナイフで手を切り、悲鳴を上げさせた。ブランチャードが悲鳴を聞いて駆け付けると、Dが襲って昏倒させた。
地下壕に入ったコールは、Dの手配書を見つけた。彼らはDが戦地で大量虐殺した出来事を知っており、マズいことになったと感じる。コールは意識を取り戻して痛がるウィンパーを射殺し、「仕事に戻るぞ」と告げた。Dはスーザンからレバーの場所を聞き、シャッターを閉めた。彼はブランチャードを拘束した地下倉庫へ移動し、アルダーウッドに電話を掛けて「ヤバいことをしたいんだ」と訴える。行動に意志を持つよう諭されたDはブランチャードに包丁を突き付け、島に来た目的を吐くよう要求した。ブランチャードが白状しないので、彼はジョーたちの元へ戻った。
リンダは全てDが招いたことだと決め付け、「奴らと一緒に島から出てって」と激高する。パイクが宿を覗き込んで侵入しようとすると、彼女はショットガンを持ったマッシーに早く撃つよう迫った。マッシーがためらっていると、Dが手伝った。パイクは右目を撃たれて苦悶し、その場を離脱した。スナイパーはコールの指示を受けて狙撃手を撃とうとするが、防弾壁に防がれた。Dはリンダに「犯人はお前よ。出てって」と言われ、反抗せずに承諾した。
ショーネシーはワグナーから、ショーンが多額の借金を抱えていたこと、第二次世界大戦で軍の基地だった島を倍額で買っていることを聞かされた。Dはスーザンに、ショーンがどうやって死んだのか尋ねた。スーザンは灯台の修復作業を業者に任せず自分でやっている最中に転落死したこと、1ヶ月ほど前に来たヒューが食事を届けに行って遺体を発見したことを語った。裏口から宿を出たDは船着き場へ行き、コールたちが大きな機械をヨットから運び出す様子を目撃した。
リンダたちはDが去ったことを一味に伝えるため、2階のバルコニーに「Dは去った」というメッセージを出した。Dはスナイパーの狙撃を逃れ、ヨットで岸を離れた。フェリックスとパイクは機械を使い、宿の周辺の地下を調べ始めた。Dは密かに島へ戻り、アルダーウッドに電話を掛けた。宿の面々を助けたい考えを彼が話すと、アルダーウッドは1つずつ問題に対処するよう助言した。電話を切ったDは灯台へ行き、スナイパーを倒して磔にした。
コールは宿に近付き、「ドアが開くことになった時、君たちの命は保証しない。だが、我々の探し物を手伝う気があれば、話は別だ」と呼び掛けた。スーザンが「Dは関係無かったのよ」と言うと、リンダは「Dじゃないなら、何が目的なのかしら」と首をひねった。パイクが地下室から宿へ侵入するのを目撃したDは、2階のバルコニーから忍び込む。パイクは縛られているブランチャードを見つけて解放した。ブランチャードがフレディーの部屋に行くと、Dが現れた。フレディーはリンダたちの元へ行き、パイクはジョーを捕まえた。彼は銃をジョーに突き付け、リンダたちに脅しを掛けた。
Dはブランチャードを倒して1階へ行き、ショットガンでパイクの腕を撃って宿から退散させた。コールが「出て来い、話がある」と言うと、Dはドアを開けて外へ出た。コールは本当の自分を受け入れろと告げ、「ショーンに島の秘密を聞いただろ」と問い掛ける。Dの様子を見て何も聞いていないと気付いた彼は、スナイパーに撃つよう命じた。しかしスナイパーは吊るされているので狙撃できず、Dはドアを閉めて宿に入った。
Dはリンダたちに、「奴らはショーンに関わる何かを探してる。誰も知らないのか」と尋ねる。誰も秘密を聞いておらず、Dはショーンの仕事場だった地下室を調べた。彼はワインセラーの隠し扉を発見し、地下道に足を踏み入れた。ショーネシーはワグナーからヨット盗難犯の写真を送ってもらい、Dの元ボスで闇の資産家たちのフィクサーであるコールだと説明した。Dは地下道を進み、大戦で日本軍が使っていた潜水艦と大量の金塊を発見した。コールたちの目的は、山下財宝にあったのだ。機械は灯台に繋がる地下トンネルを探知し、コールは入り口を探すようフェリックスとパイクに命じて宿へ乗り込んだ…。

監督はデヴィッド・ハックル、脚本はクリス・ボレッリ、製作はベンジャミン・デウォルト&ケヴィン・デウォルト&ダグラス・ファルコナー、製作総指揮はデヴィッド・ハックル&スコット・イーストウッド&エリック・ゴズラン&チャールズ・サイカレー&アリソン・テイラー&ジェイソン・ブルックス&メーガン・マーティン&クリス・ワツク&ダニエル・マスターズ&ベン・サックス&ジェームズ・ホルト&マイケル・ベナロヤ&オリヴァー・ヘンゲスト&エリザベス・ワン=リー、製作協力はジョニー・リード、撮影はマーク・ドブレスク、美術はキャシー・マッコイ、編集はジャッキー・ジュバク、衣装はマキシン・ベイカー、音楽はトッド・ブライアントン。
出演はスコット・イーストウッド、ケヴィン・デュランド、ファムケ・ヤンセン、メル・ギブソン、タイリース・ギブソン、ブレンダ・バジネット、ライアン・ロビンス、ブレンダン・フレッチャー、リアン・ラップ、チャド・ルック、ブロック・モーガン、デスティニー・ミルンズ、アトリー・スモールマン、ジェイス・バレイロ、アル・ミロ、エマニュエル・アドー、ジャック・ミッチェル、グラント・ヴラオヴィッチ、マシュー・チェズ、アルヴィン・タム他。


『ソウ5』のデヴィッド・ハックルが監督を務めた作品。
脚本は『バチカン・テープ』のクリス・ボレッリ。
Dをスコット・イーストウッド、コールをケヴィン・デュランド、ショーネシーをファムケ・ヤンセン、アルダーウッドをメル・ギブソン、マッコイをタイリース・ギブソン、リンダをブレンダ・バジネット、フェリックスをライアン・ロビンス、マッシーをブレンダン・フレッチャー、スーザンをリアン・ラップ、ブランチャードをチャド・ルック、パイクをブロック・モーガンが演じている。

オープニングではDが誕生日に来たショーンの手紙を読んでおり、その次は感謝祭に来た手紙を読む。そして今度は、スーザンから来た手紙を読む。
この「3通の手紙を読む」という手順は、どう考えても無駄だよね。
Dが仮釈放中であることや、ショーンが家族で離島に住んでいることなど、手紙から分かる情報の大半は、ショーネシーがアルダーウッドやワグナーと話すシーンでも説明されるし。ショーンが探している物を見つけたという情報は、別に言わなくてもいいし。
どうしても前半で言っておきたいのなら、Dが宿に着いてからの会話で誰かに喋らせればいい。あるいは、それを伝える手紙やメモをショーンがDに残している設定でもいいし。

幾ら過去に苦労が絶えなかったとは言え、リンダのDに対する「異常者は何をやっても変わらない」という完全否定の態度は、さすがに親としての愛が無さすぎる。
ただ、こういう人物を配置することによって、Dがヤバい奴でも同情心を誘うことが出来るという利点がある。
そんな冷酷無比なリンダと対照的な人物として、ジョーが配置されている。彼女はDが殺人容疑者と知った後も全く怖がらず、フランクに接している。
ただ、これはこれで、「なんでだよ」と言いたくなる。
Dとは初対面で、どういう人物は良く知らないはずでしょ。そんな奴が殺人容疑者と知らされたら、普通は警戒するだろ。

そのジョーは銃声を耳にしてDに相談し、ウィンパーが地下壕に来ると牢に入っている。
でも、この行動の意味がサッパリ分からない。
ウィンパーが喋っていると背後からDが襲い掛かって昏倒させるけど、別にジョーを牢に入れておく必要は無いでしょ。それが無くても、Dがウィンパーを襲って昏倒させることは出来るでしょ。
「ジョーに気を取られて云々」みたいなことは、特に感じないし。
ウィンパーが「女が牢に入ってる」と報告する手順があるが、ここも特に意味は無いし。

Dがジョーの手を切って悲鳴を上げさせ、ブランチャードをおびき寄せる餌として利用するのは、彼の異常性をアピールするための手順だ。
でも、そんな行動を取らなくても、ブランチャードをおびき寄せる方法なんて幾らでもある。
そしてジョーを傷付けて餌にしなくても、Dの戦闘能力なら普通にブランチャードを倒せるだろう。
そのため、そのシーンは「Dのキャラ設定を有効活用するための強引さが半端ないな」と感じてしまう。

死人も出ているし、悪党が宿を制圧するので、シリアスな話ではある。しかしDが電話でアルダーウッドに相談したり薬で自制したりしながら、ヤバい行動を取りつつ悪党を倒していく展開には、ユーモラスの種がある。
しかしシリアスとコミカルのさじ加減が、あまり上手く行っていない。
この作品の最大のセールスポイントがDのキャラ設定にあることはハッキリしている。何しろ、話自体は何の新鮮味も無く凡庸だからね。
それを考えると、Dのキャラ設定を最大限に活用するためにも、もう少しコミカルの度合いを上げても良かったかもね。
その場合、難しいかもしれないが、死人を出さない内容に出来なかったかな、とは思うが。

序盤でジョーがDにフランクな態度で接する様子が描かれ、Dがウィンパーやブランチャードを倒す時には利用されている。
そんな様子を描いているので、この2人のコンビネーションを積極的に使いながらアクションを描いていくのかと思った。
だけど、それ以降は2人の辛みがほとんど無い。ジョーは存在感を引っ込めてしまい、「宿にいるメンバーの1人」として埋もれてしまう。
リンダやスーザンなど他の面々も同等に使おうとしたのかもしれないが、その結果として「全員が薄い」という状態に陥っている。

コールたちの目的はDじゃないので、彼が島を離れたら後を追い掛けることは無い。Dが宿に入った後は、何とかして始末しようとすることもなく、地下の調査に集中する。
Dの方も、コールたちの始末が目的じゃないので、ショーンの秘密を解き明かすことに集中する。
そのように、「Dとコール一味の対決の構図」がフワッとしている時間帯が結構長い。
でも、もっと対決の構図を強く掲げた状態で、ずっと話を進めた方が良かったんじゃないかな。

コールたちは宿のシャッターが封鎖されると中に入るのを諦め、機械を使って地下を調べ始める。でも、そんな道具をヨットに積んで持参しているなら、最初からそれを使っても良かったんじゃないかと思ってしまう。
もちろん秘密を知っている人物から財宝の場所を聞き出す方が楽だけど、そのための行動が見られないまま話が進んでいるのよね。「宿の面々に尋問する前に問題が起きて、そっちに気を取られて云々」ってことなのかもしれないけど、それよりも「話の都合」を強く感じるんだよね。
どういう都合かと言うと、それは「一味の目的がDじゃなくて財宝だと早い段階で分かるのは都合が悪い」という都合だ。
宿が封鎖されても、ドア越しに呼び掛けることは可能だ。実際、コールが呼び掛けて、その声をリンダたちが聞いているシーンはあるしね。
だから「ショーンから何か聞いているだろ。協力しろ」と呼び掛けることも出来るが、そういうことは無い。

コールはDがいると知って「マズい」と一気に表情が変わっているし、終盤には「Dには敵わない」と真正面から戦うことを避ける言葉も口にしている。
それぐらい警戒する存在なのだから、Dは圧倒的に強くて一方的に敵を叩きのめす存在として描くべきだろう。
ところがフレディーの部屋でブランチャードと戦うシーンでは、苦戦を強いられている。
でも、そんなの全く要らないわ。それで緊迫感が高まるとか、そういうのを狙ったのかもしれないけど、邪魔な趣向だわ。

「反社会性パーソナリティー障害の主人公が悪党と戦う」という基本のアイデアは、B級アクションの軸に据える要素としては、決して悪くないと思う。
ただし、それを上手く使って物語を無理なく進めるための作業は、まるで足りていない。
終盤、Dがアルダーウッドから自己防衛のための殺人を許可されて暴れると、一気にアクションシーンの熱が上がる。そうなった時、「最初からそれで良かったのに」と思ってしまう。「ずっと我慢していたから得られた熱の高まり」とは、全く思わない。
あと、せっかくDがキラーモードに突入したのに、直後に「コールがリンダを人質に取り、Dが従順に従う」という展開があるので、「つまんねえなあ」と言いたくなる。

(観賞日:2023年9月13日)


第42回ゴールデン・ラズベリー賞(2021年)

ノミネート:最低主演男優賞[スコット・イーストウッド]
ノミネート:最低助演男優賞[メル・ギブソン]

 

*ポンコツ映画愛護協会