『バーレスク』:2010、アメリカ

アイオワの田舎町。アリはドワイトズ・バーというバーで働いているが、給料の支配は滞っていた。ドワイトは給料を支払ってくれず、 ウンザリしたアリはレジから自分の取り分を貰い、町を出ることに決めた。アリはロサンゼルスへ赴き、安ホテルを当面の住まいに決める 。それから求人広告を調べ、バックコーラスやダンサーの仕事を探す。その夜、「バーレスク・ラウンジ」という店の前を通り掛かった アリは、気になって中に入った。ステージではセクシーな衣装を着たジョージア、ココ、スカーレット、アンナ、ジェシーという面々が 上がり、妖艶に踊っていた。
アリは店長のアレクシスに「ストリップ・クラブ?」と質問し、「口には気を付けて。ウチはストリップなんてしないわ」と叱られる。 テスという女性が歌い、ジョージアたちが踊るショーを見たアリは感激し、ウェイターのジャックに「どうすればステージに上がれる?」 と尋ねる。ジャックは「僕の紹介だと言って、テスと会ってごらん」と告げた。テスは歌手であり、店の経営者でもあったのだ。
アリが次のショーの準備をしている楽屋へ行くと、テスは衣装係のショーンや元夫のヴィンスたちと話していた。店の所有権の半分は ヴィンスが保有しており、彼は店が抱える多額の負債についてテスと話していた。アリはテスに会い、働かせてほしいと頼むが、適当に あしらわれる。遅刻していたスターのニッキが、ようやく楽屋にやって来た。楽屋を出たアリは、ジャックに頼み込んでウェイトレスと して働き始める。テスも事後承諾という形で、アリが働くことを認めた。
ある日、アリは常連客のマーカスから、ニッキを呼ぶよう頼まれた。彼は不動産会社の社長で、ニッキの恋人だ。そのニッキはまた遅刻 しており、ステージには代役のジョージアが立っていた。遅れて現れたニッキはショーの途中からステージに登場するが、ジョージアも 負けじと張り合う。ニッキはジョージアを強引に奥へと引っ込ませた。アリはニッキたちが踊るショーを見ながら、自分がステージに立つ ことを妄想した。
マーカスはテスとヴィンスに会い、「店を100万ドルで買い取ろう」と持ち掛ける。借金の返済期限は来月に迫っていたが、テスは店の 売却を断った。アリはテス以外の歌い手が、みんな口パクだと知った。彼女は楽屋へドリンクを運んだ際、テスに「生歌を聴かせた方が いいと思わない?」と提案する。しかしテスは冷淡に「そんなの無理よ」と言い、ショーンは「客の目当てはダンサーの踊りと往年の スターの歌声だ」と告げる。アリは「でも新しい分野を開拓したら?」と食い下がるが、テスは面倒そうに追い払った。
ある夜、アリがホテルに戻ると部屋が荒らされ、置いてあった金が全て盗まれていた。困り果てたアリは、ジャックの家を訪れた。彼に 「電話したら?長距離でもいいよ」と促され、アリは「相手がいないわ」と身寄りが無いことを明かす。彼女が泣き出すと、ジャックは 「ここにいてもいいよ」と優しく言う。アリは「一晩だけ泊めて。どうするかは、明日になってから決めるわ」と告げた。ジャックは ピアノで自作の曲を演奏し、アリに聴かせた。
翌朝、アリはジャックに女性の婚約者ナタリーがいることを知る。ニューヨークで芝居をしているらしい。ジャックがゲイだと勘違いして いたアリは、慌てて「すぐにここを出るわ」と荷物をまとめる。「行く当てはあるの」と口にしたアリだが、本当は当てなど無かった。 大雨の中で困っているアリの様子を見たジャックは、半ば強引に彼女を家へ連れ帰り、「しばらく、ここにいろよ」と告げた。
テスはジョージアの妊娠を知り、「彼には言ったの?」と尋ねる。「まだ。怖いの」と不安を吐露するジョージアに、テスは「言うべきよ 。きっと喜ぶわ」と告げる。テスはジョージアの代役をオーデイションするが、目ぼしいダンサーが見当たらない。アリはステージに立ち 、自分をテスに売り込む。するとテスは音響のデイヴに音楽を止めさせ、「私はダンサーを探してるのよ」と厳しい口調で言う。
アリが「どうすればいいの」と強い態度で言うと、テスは「自信があるなら本物のスターだと証明して」と要求する。「どんなダンスが いいの?」とアリが訊くと、テスは「何でも踊れるのね」と告げて曲を流す。アリは笑顔を浮かべながら、激しく踊る。テスはクールな 態度で、「後半が遅れたわ」と口にした。しかしアリが「チャンスをちょうだい」と必死に頼み込むと、「合格よ」と告げた。
アリはジョージアの代役として、他のダンサーたちとステージに立つようになった。アリが古いブラシしか持っていないのを見たテスは、 自分の使っていた物を差し出した。さらに彼女は、正しい化粧のやり方も教える。テスが「ママに化粧のやり方、教わった?」と訊くと、 アリは「7歳の時に死んだから、これが初めてのレッスンよ」と答える。テスは「きっと仲間に入れるわ」と穏やかに微笑した。
アリはジャックから、早くアパートを見つけるよう促される。しかしナタリーとの電話を切った彼は、急に「もう少しだけウチにいても いいから、家賃をシェアしよう」と意見を変える。ナタリーとの電話で何かあったと感じたテスが問い掛けると、ジャックは「公演が延期 になってニューヨークの家賃が必要だから、こっちは俺が払えって。だから、君がシェアしてくれたら助かる」と正直に明かす。立場の 逆転したアリは条件を提示し、それをジャックに飲ませた。
テスは月末までに借金を返済しなければ店を失う状況に陥り、ショーンの前で涙する。ニッキが出番前のアルコール摂取を全くやめようと しないことから、テスはアリに代役を命じる。腹を立てたニッキはデイヴを騙して音響室から追い出し、ショーの最中にマイクのジャック を抜いた。会場がざわつく中、テスは幕を閉じようとする。しかしアリがアカペラで歌い出し、その圧倒的な歌唱力を聴いたテスは幕を 上げさせる。再び音楽が流れ、アリの生歌は客の喝采を集めた。
すぐにテスは、翌日からアリに生歌を歌わせ、彼女をメインにした新しいショーを企画することに決めた。ショーンはジャックがアリに 惹かれていることを見抜き、それを指摘する。一方、アリもジャックに好意を抱くようになっていた。アリはマーカスにバッグを奪われ、 「これが取り戻したかったら付いておいで」と強引にディナーに誘われる。マーカスは「パーティーに顔を出さないと」と言い、アリを ホーム・パーティーの開かれている豪邸に連れて行く。そこは彼の邸宅だった。
マーカスはテラスからの夜景をアリに見せて、「あのモールも私の物だが、空中権だけだ。所有者が土地を売ったら高層タワーが建つ。 でも空中権が無いと2階以上は無理だ」と語る。マーカスは「私なら才能ある君の希望を叶えられる」とアリを口説き、翌日には楽屋に カードと高価な靴を届ける。アリの歌声は評判を呼び、新聞でも一面で取り上げられた。それはマーカスが記者に電話を掛けて、書いて もらった記事だった。彼はアリに、エタ・ジェイムスのスタッフだったハロルド・セイントを紹介した。
店には大勢の客が来るが、テスが借金を返済するには焼け石に水だった。アリがマイクと仲良くしているのを見たテスは、「彼には 騙されないで」と警告する。仕事を終えたテスが店を出ると悪酔いしたニッキが待っており、「あんな田舎娘に主役はやらせない」と喚く 。「だったら店を辞めて。何度、酔っぱらって店に迷惑を掛けたの」とテスは叱責し、「店を失うかもしれないのよ。命より大切な店を。 酔っ払いの貴方に構っている暇は無い」と告げる。アリは腹を立てて、「分かったわ、辞める」と口にした。
アリは些細なことで、ジャックと言い争いになる。マーカスのことで「悪魔と手を組めばいい」と言われたアリは、「彼は立派な紳士よ。 貴方なんかマトモに曲も書けないバーテンダーよ」と罵ってしまう。ジョージアの結婚パーティーに出席したアリは、ジャックが電話で ナタリーと喧嘩しているのを耳にする。泥酔するジャックにアリが声を掛けると、「ナタリーと別れた」と告げられる。2人は家に戻り、 関係を持った。アリはジャックと恋人関係になり、幸せな気分に包まれる。だが、ある日、急にナタリーが家に現れ、ベッドにいる2人を 見て喚き散らす。アリはジャックがナタリーと正式に別れていなかったことを知り、激怒して家を出た…。

脚本&監督はスティーヴン・アンティン、製作はドナルド・デ・ライン、製作協力はジェフ・ハンセン&ボージャン・バゼリ&デイヴ・ ゴールドバーグ、製作総指揮はダナ・ベルカストロ&ステイシー・コルカー・クレイマー&リサ・シャピロ、撮影はボジャン・バゼリ、 編集はヴァージニア・カッツ、美術はジョン・ゲイリー・スティール、衣装はマイケル・カプラン、振付はデニース・フェイ&ジョーイ・ ピッツィー、音楽はクリストフ・ベック、音楽製作総指揮はクリスティーナ・アギレラ、音楽監修はバック・デイモン。
出演はシェール、クリスティーナ・アギレラ、スタンリー・トゥッチ、クリステン・ベル、エリック・デイン、キャム・ジガンデイ、 ジュリアン・ハフ、アラン・カミング、ピーター・ギャラガー、ダイアナ・アグロン、グリン・ターマン、デヴィッド・ウォルトン、 テレンス・ジェンキンズ、チェルシー・トレイル、タニー・マッコール、ティン・ステックレイン、ポーラ・ヴァン・オッペン、 イザベラ・ホフマン、ジェームズ・ブローリン、スティーヴン・リー、デニース・フェイ、バルディープ・シン、マイケル・ランデス、 ウェンディー・ベンソン他。


歌手のクリスティーナ・アギレラが初主演した映画。
ダブル主演のシェールは、これが7年ぶりの映画出演となる。
テスをシェール、アリ をクリスティーナ・アギレラ、ショーンをスタンリー・トゥッチ、ニッキをクリステン・ベル、マーカスをエリック・デイン、ジャックを キャム・ジガンデイ、ジョージアをジュリアン・ハフ、アレクシスをアラン・カミング、ヴィンスをピーター・ギャラガーが演じて いる。
俳優出身のスティーヴン・アンティンが『グラスハウス2』に続いて2度目の監督を務め、脚本も担当している。

ざっくりと言うならば、これは「1にアギレラ、2にアギレラ、3・4もアギレラ、たまにシェール」という作品である。
まあ実質的には、クリスティーナ・アギレラのミュージック・クリップだと言ってしまっていいだろう。
2つだけシェールの歌唱シーンが入っているのは、「アギレラのミュージック・クリップ」という形が露骨に出てしまうことを避けるため だ。
上手く避けきれていないけどね。

スタンリー・トゥッチやアラン・カミングのようにミュージカルの経験も豊富な役者を起用しておきながら、彼らに歌ったり踊ったりする シーンを与えることは無い。
アラン・カミングにはショーのシーンが用意されているが、カットバックで断片的な処理だし。
まさに宝の持ち腐れだ。
アギレラが誰かとデュエットするようなシーンも無い。
とにかく本作品は、「クリスティーナ・アギレラのパフォーマンスをたっぷり見せまショー」という作りなのだ。

この作品にミュージカル映画としての魅力を感じ取ることは、それほど簡単な作業ではない。
やはりミュージカル映画というのは基本的に、「歌って踊れる役者」が歌ったり踊ったりしてくれるところに醍醐味があると思うのだ。
本職の歌手が歌ったり踊ったりしても、それはコンサートのようなモノだ。
ゲストとして1曲だけ歌ったりするというなら、そこに「スペシャル感」が生じるかもしれないが、主役として何曲も歌われると、 ちょっとねえ。

ただし、これを「クリスティーナ・アギレラのミュージック・クリップ」として受け入れれば、その印象はガラリと変わる。
何しろ彼女が何曲もパフォーマンスしてくれるのだから、特にファンにとってはたまらないだろう。
中でも一番の見せ場は、やはり『Tough Lover』のシーンだろう。
マイクを抜かれたアリがアカペラで歌い始め、テスが「幕を上げて」と指示し、伴奏が入ってバックダンサーも踊り出す。
ここは、かなりテンションが上がるよ。

クリスティーナ・アギレラのミュージック・クリップであり、とにかく彼女のパフォーマンスを存分に見せることが最大の目的なので、 物語はどうでもいい扱いだ。
物語なんてのは、映画としての体裁を整えるために用意されただけだから、そこは適当に処理されている。
例えば序盤、アリが面接を受けるシーンでも、新聞の欄に幾つかバツが付いていくだけ。
実際に面接を受けようとして冷たく断られるとか、実際に面接を受けたけど酷い対応をされて傷付くとか、そういう描写は皆無だ。

そんなわけだから、アリが落ち込んだり自分を失ったりするという手順を経ないまま、仕事探しを始めた夜には、もう「バーレスク・ ラウンジ」のショーと出会っている。
で、すぐに働き口を見つけて、妊娠したジョージアの代役に売り込んだらダンサーに起用されて、その才能を見込まれてニッキの代役に 指名されて、生歌を披露したら喝采を浴びて、他のダンサーたちからも一目置かれる存在になる。
アリは、かなり簡単にスターへと上り詰める。

最初はダンスが下手だったアリが練習して次第に上手くなっていくとか、精神的に問題のあったアリが少しずつたくましくなっていくとか 、そういう「成長物語」は全く描かれない。
「田舎で少しダンスをやっていただけ」のはずのアリは、オーディションでいきなり上手に踊って見せる。
テスは「後半が遅れたわ」などと文句を付けているけど、他のダンサーと踊る時に注意されるとか、見劣りがするとか、 そういう描写は無い。
そして彼女は何の挫折も無く、スターになっている。

アリはバーレスク・ラウンジのショーに感動し、テスに「働かせてほしい」と頼んでいる。
しかし、その時点で「歌手になりたい」という彼女の情熱なんて全く感じないから、むしろ「歌手になりたいなんて全く思っていなかった けど、バーレスクのショーを見て感激し、そのステージに立ちたいと思い、まずはウェイトレスとして働かせてもらう」という流れの方が いいんじゃないかと感じるぐらいだ。
あと、そのショーに感激するというところも、ちょっと説得力に乏しいんだよな。
逆に「ストリップまがいのショーだと思っており、でも仕事が無いから仕方なく店でウェイトレスとして働き始める。ダンサーと触れ 合って自分の考えの過ちに気付き、興味を抱くようになる」という風に、「アリがバーレスクのショーに惹かれ、自分もやってみたいと 思うようになる」というところまでに少し時間を掛けた方が良かったんじゃないかと思ったりもする。

店は盛況で儲かっている様子なのに、どうしてテスが多額の負債を抱えているのかは良く分からない。
例えばライバル店が卑劣な手段で客を奪ったとか、花形ダンサーが抜けたことで客足が遠のいて経営が苦しくなっているとか、そういう ことでもないしね。
っていうか、そういうことなら「アリがダンサーになって新しいアイデアを打ち出し、客が入るようになる」という展開にも出来るん だけどね。
あと、テスは「命より大切な店」と表現しているが、その店に強くこだわる理由は、特に用意されていない。

アリとジャックの恋愛劇が持ち込まれているが、そんなに丁寧に描かれているわけではない。
例えば些細な言い争いから仲直りまでの経緯が全く無いまま、結婚パーティーでアリがジャックに声を掛けるシーンに至っているし。
ニッキとの反目や、マーカスの悪役ぶりも薄味だ。
店の借金問題は、向かいのビル所有者に空中権を売却することで、あっさりと解決する。
でも物語なんてのは、アギレラの歌唱シーンを飾る役目さえ果たしてくれれば、それでいい。
歌唱シーンの邪魔さえしなければ、それでいいのだ。

ここまでの批評だと、なんか皮肉を書いているように思われるかもしれないけど、そうじゃないよ。
褒め殺しをしているとか、そういうことではない。
クリスティーナ・アギレラのミュージック・クリップとして割り切ってしまえば、意外に好きなのよ、この作品。
ただし、もっとドラマ部分を短く処理してほしいし、「いっそシェールの歌唱シーンも削ってくれればいいのに」とは思っちゃうけどね。

(観賞日:2012年5月29日)


第31回ゴールデン・ラズベリー賞(2010年)

ノミネート:最低助演女優賞[シェール]

 

*ポンコツ映画愛護協会