『ブレス・ザ・チャイルド』:2000、アメリカ&ドイツ

ニューヨークの病院で働く看護師マギー・オコナーの元に、2年間も音信不通だった妹ジェナが現れた。彼女は生まれたばかりの赤ん坊コーディーを連れていたが、父親は分からないという。ジェナはヤク中で、マトモに娘を育てることも難しそうだった。マギーが目を離した隙に、ジェナはコーディーを残して姿を消してしまった。
2度の流産を経験しているマギーは、コーディーを自分の子供のように育てた。コーディーが3歳になった頃、医者から軽い情緒障害だと診断された。医者の勧めもあって、マギーはコーディーをカトリック系の施設に通わせることにした。やがてコーディーは6歳になったが、まだマギーや家政婦マリアなど限られた人間にしか心を開かず、施設のシスター・ローザを困らせたりしていた。
ニューヨークでは、6歳の子供ばかりを狙った連続誘拐殺人事件が発生していた。ニューヨーク市警のブガッティー刑事らが捜査に当たるが、犯人の目星さえ付いていなかった。そこで神学校出身のFBI捜査官ジョン・トラヴィスが、捜査に乗り出した。殺された子供には、何やら奇妙なマークが刻まれていた。
シスター・ローザは、コーディーが三又の槍のようなマークを描くのを目撃した。しかし、近くにそんなマークは見当たらない。それは、殺された子供を誘拐した男の腕にあったのと同じマークだった。その後、マギーやローザの目の前で、コーディーは死んだ鳩を抱き締めた。彼女が手を離すと、鳩は再び空を飛んだ。
病院に行ったマギーは、シェリーというヤク中の少女を担当することになった。彼女の腕には、三又の槍のようなマークがあった、シェリーは、あるクラブを抜けようとして仲間に殺されそうになったと語った。彼女はジェナのことを知っている様子で、「コーディーは特別な子だから狙われている」と告げた。しかし彼女は、マギーが目を離した隙に姿を消した。
トラヴィスは捜査チームに対し、幼児連続誘拐殺人犯がオカルト神秘主義の信奉者だと断言した。彼は、三又のマークが悪魔教一派のシンボルであり、犯人は神を敵視し堕天使ルシファーを崇拝していると告げる。さらに被害者に刻まれた印はスペイン語で「黒い復活祭」を意味しており、犯人が復活祭の前夜に何かを起こすと推理した。
マギーの前に、ジェナが現れた。彼女は夫として、「ザ・ニュー・ドーン」という自己啓発組織の会長エリック・スタークを紹介した。ジェナはマギーに「コーディーを引き取る」と告げ、乳母のダーニャまで連れて来た。マギーはコーディーを引き渡すことに拒否反応を示すが、エリックやジェナはコーディーを連れ去ってしまう。
マギーは警察に誘拐だと訴えるが、相手にされない。事件にエリックが関わっていると知ったトラヴィスは、マギーから話を聞いた。トラヴィスは、エリックには犯罪に関わっている疑いがあるが、大物政治家との関係も深いため、確実な証拠が無ければ手は出せないと告げた。トラヴィスは、コーディーの誘拐と連続誘拐殺人に関連性があるのではないかと考える。コーディーの誕生日は殺された子供達と同じ、1993年12月16日だったからだ。
マギーはシェリーから連絡を受け、彼女に会いに行く。シェリーはマギーに、少し前からエリック達が子供狩りを始めていたことを語った。エリック達は誘拐した子供達にテストを受けさせ、失敗すれば殺しているという。そしてエリックはコーディーの特別なパワーを知り、その利用を企んでいるらしい。さらに詳しい話を聞こうとするマギーだが、シェリーはエリックの部下達に殺されてしまう…。

監督はチャック・ラッセル、原作はキャシー・キャッシュ・スペルマン、脚本はトーマス・リックマン&クリフォード・グリーン&エレン・グリーン、製作はメイス・ニューフェルド、共同製作はストラットン・レオポルド、製作総指揮はブルース・デイヴィー&リス・カーン&ロバート・レーメ、撮影はピーター・メンジースJr.、編集はアラン・ヘイム、美術はキャロル・スピア、衣装はデニース・クローネンバーグ、音楽はクリストファー・ヤング。
出演はキム・ベイシンガー、ジミー・スミッツ、ホリストン・コールマン、ルーファス・シーウェル、アンジェラ・ベッティス、クリスティーナ・リッチ、マイケル・ガストン、ルミ・カヴァゾス、ディミトラ・アーリス、ユージーン・リピンスキー、アン・ベタンコート、イアン・ホルム、ヘレン・ステンボーグ、マシュー・レムチー、ダン・ウォリー=スミス、エリザベス・ローゼン、トニー・リン、ニコール・リン、マイケル・マクラクラン、ジョナサン・メイレン他。


キャシー・キャッシュ・スペルマンの小説を基にした作品。
マギーをキム・ベイシンガー、トラヴィスをジミー・スミッツ、コーディーをホリストン・コールマン、エリックをルーファス・シーウェル、ジェナをアンジェラ・ベッティス、シェリーをクリスティーナ・リッチ、ブガッティーをマイケル・ガストンが演じている。
監督はチャック・ラッセル。『マスク』『イレイザー』を撮った時の名義「チャールズ・ラッセル」から、昔の「チャック・ラッセル」に表記を戻している。

マギーが2度も流産し、子供が欲しかったのに授かることが出来なかったこと、そのせいで夫とも離婚し、今は孤独な日々を送っていることは、とても重要なファクターのはずだ。そういう事情があるからこそコーディーに強い愛情を注ぐのだし、コーディーを奪われることへの不安の強さが、作品に漂う恐怖へと繋がるはずだ。
ところがチャック・ラッセル監督は、前半で描くべきマギーの孤独やコーディーへの強い思い入れを、スッパリと削り落としてしまう。

どう考えても観客はマギーに感情移入すべきなのだが、彼女のコーディーに対する気持ちが今一つ伝わらなかったり、警察に助けを求めず暴走気味の行動を繰り返したりと、幾つかの問題がある。コーディーだけでなくジェナも助けようという素振りも見せるのだが、その気持ちも状況によっては消えていたりして、良く分からないし。

序盤、死体や誘拐犯やシェリーの腕、さらにコーディーの絵などで、意味ありげにマークを示す。ところが前半の内に、いきなりトラヴィスが「犯人はオカルト神秘主義の信奉者。三又のマークは悪魔教一派のシンボル。犯人は神を敵視し堕天使ルシファーを崇拝している。被害者に刻まれた印は「黒い復活祭」の意味で、犯人は復活祭の前夜に何かを起こす」と、一気にベラベラと喋って種明かしをしてしまう。
だから、マギーがヒントを集めて、少しずつ真相を解き明かしていくような経緯は無い。せっかく謎めいた設定にしてあったのに、あけすけにしてしまう。メッセージや現象や数字に対する意味ありげな解釈があってこそ面白いはずなのに、そういうトコを全て簡単に、軽々しく、淡々と、浅いものとして処理してしまうのだ。

この映画、本来ならばオカルト・ホラーになるべきだろう。オカルト映画ってのは、謎めいた存在の持つ不安、見えそうで見えない得体の知れない者の不気味さ、ジワジワと忍び寄る恐怖、そういったモノというものが大切だと思う。だが、そういうことへの配慮が全く無い。
たぶん、そういうのが苦手な人なんだな、チャック・ラッセル監督は。
で、基本的にはレニー・ハーリン的な力押しの演出をする人なのではないかと思うのだが、そこまでのケレン味は無い。残酷描写が充実しているわけでもないので、ショッカー映画として見ることも難しい(そもそも、そういう方向性では作っていないし)。たまに出てくるネズミの大群などのCGはケレン味志向だが、どうも中途半端な印象を受ける。

シスター・ローザやマギーに詳しい話をするグリッソム神父、不気味な乳母ダーニャ、エリックの用心棒エリックなど、かなり意味ありげに登場する脇役キャラが何人もいるのだが、申し訳程度にしか絡んでこない。結局、終盤までマギーは勝手に動いているので、彼女とトラヴィスがコンビを組むということも全く見られないし。
「見せないこと」が肝心要のはずなのに、全てを簡単に見せてしまおうとするんだから、もはやオカルト映画として勝つ可能性は無い。そうなると、殺人シーンをド派手な残酷ショーとして演出し、ヒロインも若いスクリーミング・クイーンを配役するぐらいしか生き残る術は無かったかもしれない。
まあ、それだと全く違う映画になってしまうわけだが。


第21回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演女優賞[キム・ベイシンガー]
<*『ブレス・ザ・チャイルド』『永遠のアフリカ』の2作でのノミネート>


第23回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の主演女優】部門[ジョン・ヴォイト]
<*『ブレス・ザ・チャイルド』『永遠のアフリカ』の2作でのノミネート>
ノミネート:【最も意図しない滑稽な映画】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会