『バットマン リターンズ』:1992、アメリカ
大富豪コブルポッド家に、待望の長男オズワルドが誕生した。しかしオズワルドが奇形だったため、両親は彼を下水道へと捨てられた。オズワルドは、地下に生棲するペンギンの群れに育てられた。33年後、ゴッサム・シティーには怪人ペンギンが現れるとの噂が広まっていた。ペンギンの正体は、かつて下水に捨てられたオズワルドであった。
ペンギンはサーカス・ギャングを操り、電力支配を企む大物実業家マックス・シュレックを拉致させた。現場に駆け付けたバットマンは、マックスの秘書セリーナを助けた。ペンギンはマックスに、自分の両親への協力を要求した。有毒な廃液を垂れ流している証拠をペンギンに握られていたため、マックスは協力せざるを得なかった。
会社に戻ったマックスは、セリーナに電力支配の秘密計画を知られたと思い込み、彼女をビルから突き落とした。だが、セリーナは野良猫の群れに介抱され、死を免れた。それまで内気で臆病者だったセリーナは、事故によって性格が一変していた。自宅に戻ったセリーナはコスチュームを作り、キャットウーマンに変身して街に現れるようになった。
ペンギンはサーカス・ギャングを使って市長の子供を誘拐し、彼を奪還したように振舞って人々の前に登場した。ゴッサム・シティーの人々は、ペンギンとサーカス・ギャングの関係を知らないのだ。ペンギンはマックスから友人として紹介を受け、両親を探していることを人々に訴えた。ペンギンは両親を探すため、マックスの協力で資料館を利用する。
ペンギンは人々の同情を集めて高い人気を得るようになり、マックスの勧めもあって市長選に立候補する。しかし、バットマンこと大富豪ブルース・ウェインは、ペンギンが悪党だということに気付いていた。実際、ペンギンが資料館を利用したのは両親探しのためでなく、金持ちの長男を誘拐する計画に向けての準備だった。
セリーナと再会したブルースは、彼女に心を惹かれた。しかし一方で、バットマンに変身した彼は、相手がセリーナだとは知らないままにキャットウーマンと戦うことになってしまう。キャットウーマンがペンギンと手を組み、バットマンを叩き潰そうとしたからだ。ペンギンとキャットウーマンは氷の女王コンテストの優勝者を誘拐し、バットマンの仕業に見せ掛ける…。監督はティム・バートン、キャラクター創作はボブ・ケイン、原案はダニエル・ウォーターズ&サム・ハム、脚本はダニエル・ウォーターズ、製作はデニーズ・ディ・ノヴィ&ティム・バートン、共同製作はラリー・フランコ、製作総指揮はジョン・ピーターズ&ピーター・グーバー&ベンジャミン・メルニカー&マイケル・E・ウスラン、撮影はステファン・チャプスキー、編集はクリス・レベンゾン、美術はボー・ウェルチ、衣装はボブ・リングウッド&メアリー・ヴォイト、special Penguin makeup & effects producedはスタン・ウィンストン、音楽はダニー・エルフマン。
出演はマイケル・キートン、ダニー・デヴィート、ミシェル・ファイファー、クリストファー・ウォーケン、マイケル・ガフ、パット・ヒングル、マイケル・マーフィー、ヴィンセント・スキャヴェリ、アンドリュー・ブリニアースキー、クリスティ・コナウェイ、スティーヴ・ウィッティング、ヤン・フックス、ジョン・ストロング、リック・ザムウォルト、アンナ・カタリナ、グレゴリー・スコット・カミンズ、エリカ・アンダーシュ、トラヴィス・マッケンナ、ダグ・ジョーンズ他。
DCコミックスの人気漫画を基にした1989年『バットマン』の続編。
ブルース役のマイケル・キートン、アルフレッド役のマイケル・ガフ、ゴードン警察長官役のパット・ヒングルは前作から引き続いての出演。他に、ペンギンをダニー・デヴィート、キャットウーマンをミシェル・ファイファー、マックスをクリストファー・ウォーケン、市長をマイケル・マーフィー、ペンギンの父をポール・ルーベンスが演じている。前作のオープニングでは、悪役ジョーカーを演じたジャック・ニコルソンが最初にクレジットされた。今回は、マイケル・キートンの名前が最初に出る。『バットマン』なのだから、それが本来は正しい形と言える。ただし、「今回はジャック・ニコルソンに匹敵するほどの大物ゲストが出演していない」という言い方も出来るが。
前作からの大きな変更点が2つある。
1つ目は、怪人が1人ではなく2人になったこと。
2つ目に、こちらは1つ目よりも遥かに重要な意味を持つ変更点だが、怪人が悲しい境遇にあるということだ。
前作のジョーカーは最初から悪党だったが、今回はペンギンにしろキャットウーマンにしろ、不憫な理由によって怪人に変身してしまう。
ペンギンとキャットウーマンが哀れな誕生の事情を抱えることによって、ティム・バートン監督が今までの作品で表現してきたような「フリークスへの愛情」は、バットマンよりも彼ら2人に多く注がれることになる。
たぶん、観客がペンギンとキャットウーマンに抱く同情心よりも、バートン監督が彼らに注ぐ愛情の方が圧倒的に上だ。愛情が深いからこそ、最初に脚本家が書いた「ペンギンとキャットウーマンが財宝を探す」というプロットを、ペンギンが市長選に出る内容に変更させたのだろう。前作に関して私は、ジョーカーがバットマンよりも遥かに目立ちまくったことをマイナスだと考えている。
しかし、それはシリーズ続編の場合、事情が違ってくる。
ただし、それは1作目で主人公を充分に描写してあれば、という条件付きだ。
そうであるならば、続編では主人公の描写に多くを割く必要が無いので、悪役の描写を重視することも頷ける。マックスは電力を吸い取る装置を作ろうとしているが、そんな物で何をしたいのか今一つ分からない。ペンギンは子供を下水に放り込むのが最初の目的だったはずが、市長就任に野心を燃やすようになる。キャットウーマンはバットマン退治に熱心で、終盤までマックスへの復讐は忘れている。
ようするに、悪党は揃って目的がファジーな状態なのだ。
たぶんバートン監督にとって、悪党の目的など大した意味は無いということなのだろう。それよりも、ペンギンやキャットウーマンを悲しくても愉快な奴らとして自由に動かしたかったのだろう。
『バットマン』という面白いオモチャを与えられたオタク監督ティム・バートンが、それを使って好き放題に遊びまくったのだと、そういう風に私は解釈している。ちなみに今回のバットマン、終盤にはマックスの目の前で覆面を脱ぎ、ブルース・ウェインの素性を明かしてしまう。
マックスを殺すつもりなら別に構わないのかもしれないが、刑務所に入れようと考えているのである。
しかし、マックスを生かしておいたら自分の正体は間違いなく人々に広まってしまうわけで、後のことは何も考えていないのか、バットマン?
第13回ゴールデン・ラズベリー賞
ノミネート:最低助演男優賞[ダニー・デヴィート]