『バーニング・クロス』:2012、アメリカ

ワシントン警察のアレックス・クロスは、幼馴染で相棒のトーマスや同僚のモニカたちと共に、女性を暴行した犯人を追跡して捕まえた。 刑務所を訪れたアレックスは、17歳の女囚ポップと面会した。ポップが2人を殺した罪で収監されているが、アレックスは彼女が前歴の ある伯父を助けるために罪を被ったのだと確信していた。しかしポップは「身代わりだとしても、正しいと思う。お節介は無用だよ」と 告げた。アレックスは口うるさい母のナナ、妻のマリア、娘のジャネル、息子のデイモンと共に、閑静な住宅街で暮らしている。マリア から妊娠を告げられ、アレックスは喜んだ。
その男は車に乗り、賭け試合が行われている格闘技場へ赴いた。彼と電話で話した依頼主は、「女は見つけたな?完璧な仕事をしろ」と 要求した。300万ドルの送金を確認した男は建物の中に入り、試合のマネージャーに試合出場を志願した。賭け金の一部を渡した男は、 「ブッチャー・オブ・スライゴ」と名乗った。観客席の一番前にいる女を確認した男は、王者のスタンジックを締め落として腕の骨を冷徹 に折った。女の屋敷に招待された男は、彼女と護衛の3人を惨殺した。
アレックスはチーフのリチャード・ブルックウェルから呼び出しを受け、現場へ来るよう命じられた。トーマスがアレックスから電話を 受けた時、彼はモニカとベッドインの最中だった。チーム内恋愛は規律違反なのでトーマスは嘘をつくが、アレックスには見抜かれていた 。トーマスはアレックスから忠告を受けるが、モニカを本気で好きになったことと話す。アレックスは彼に、FBIから誘われて移る予定 があること、3人目の子供が出来たことを話した。だが、まだアレックスは、FBI行きをマリアに話していなかった。
殺害現場である豪邸に到着したアレックスは、すぐに犯人が1人だと確信した。女性の所持品を調べたアレックスとトーマスは、ファン・ ヤオ・リーという名前だと知った。バッグには現金8千ドルと無地の磁気カードが入っており、室内からはパソコンが持ち去られた形跡が あった。アレックスは、犯人がファンを脅してパソコンのパスワードを聞き出したことを見抜いた。部屋には犯人が描いたピカソのような 絵が残されていた。
アレックスとトーマスは、指紋認証装置で開く隠し金庫を発見した。金庫の中には、バックアップ用のハードディスクがあった。ファンの 身許を調べると、台湾国籍の28歳であることや学歴は分かったが、最近5年間の足取りは不明だった。メールアカウントを調べてみると、 フランス人資産家のレオン・メルシエとエリック・ヌネマッカーの名前が出て来た。犯人の絵を見ていたアレックスは、次にヌネマッカー を狙う殺人予告が記されていると気付いた。
アレックス、トーマス、モニカがヌネマッカーのいる高層ビルへ赴くと、警備主任のザックスは「令状が無いと入りません」と立ち入りを 拒んだ。ビルの装置が故障したことを知ったアレックスたちは、犯人が既に侵入していることを指摘した。ザックスは3人を中に通し、 部下たちに警戒体制を取るよう指示した。アレックスは犯人を発見し、銃を捨てさせる。しかし犯人は部屋に爆弾を仕掛け、その場から 逃亡した。トーマスに撃たれて軽傷を負った犯人は、ヌネマッカーの殺害を断念してビルから脱出した。犯人はアレックスたちに対する 強い恨みを抱いた。
ヌネマッカーはメルシエの家に匿われ、SPの警護が付いた。ファン・ヤオとヌネマッカーは、メルシエがCEOを務める企業の重役 だった。アレックスは犯人について、元軍人で一匹狼、誰かを苦しめるために人を傷付けている反社会的なナルシストだと分析した。翌朝 、アレックスたちはメルシエの豪邸を訪れた。アレックスは犯人の標的になっていることをメルシエに語り、心当たりを尋ねた。メルシエ は「何もありませんが、死にたくはない」と述べた。
その夜、犯人はモニカの家に侵入し、彼女を殺害した。犯人はモニカの携帯を使い、マリアとレストランへ出掛けていたアレックスに電話 を掛けた。犯人はモニカの死体の写真を送り付け、アレックスを挑発するような言葉を投げ掛けた。犯人は店の近くでライフルを構え、 アレックスに狙いを定めていた。しかし妻が一緒に来ていることを知った彼は、標的を変更した。犯人はアレックスに狙いを教えた上で、 マリアを射殺した。
犯人はマリアの葬儀を観察し、アレックスに電話を掛けた。「お前が余計なことをしなけりゃ、奥さんは死なずに済んだ」と語る犯人に 対して、アレックスは激しい怒りを燃え上がらせた。自分の手で犯人を処刑しようと考えるアレックスに、ナナは思い留まるよう忠告する 。しかしアレックスは「俺が手を下さなければ、また大事な誰かが殺される」と告げ、警護の人間と一緒に避難するよう促した。
彼は犯人に協力した薬の売人を突き止めるため、ポップの伯父であるホリデイに協力を求めようと考えた。アレックスはトーマスと共に 深夜の警察署へ忍び込み、ホリデイの犯行を示す証拠の拳銃を盗み出した。アレックスはホリデイの元を訪れて拳銃を見せ、「売人の情報 を教えれば、これを返す」と取引を持ち掛けた。ホリデイが返答を渋っていると、アレックスがトーマスが銃で狙っていることを教えた。 アレックスとトーマスは売人を捕まえるが、彼は犯人の名前も素性も知らなかった。防犯カメラの映像を確認したアレックスたちは、犯人 の使っている車を突き止めた…。

監督はロブ・コーエン、原作はジェームズ・パターソン、脚本はマーク・モス&ケリー・ウィリアムソン、製作はビル・ブロック&ポール ・ハンソン&ジェームズ・パターソン&スティーヴ・ボーウェン&ランドール・エメット&レオポルド・ゴウト、製作総指揮はジョージ・ ファーラ&ステパン・マーティローシアン&レミントン・チェイス&ジェフ・ライス&イーサン・スミス&ジョン・フリードバーグ& クリストファー・コラビ&ジャン・コーベリン&マリーナ・グラシッチ&スティーヴン・ボスチ、撮影はリカルド・デラ・ロサ、編集は トム・ノーブル&マット・ディーゼル、美術はローラ・フォックス、衣装はアビゲイル・マーレイ、音楽はジョン・デブニー、追加音楽 作曲&演奏はジョー・ペリー。
出演はタイラー・ペリー、マシュー・フォックス、ジャン・レノ、エドワード・バーンズ、レイチェル・ニコルズ、シシリー・タイソン、 カーメン・イジョゴ、ジャンカルロ・エスポジート、ジョン・C・マッギンレー、ステファニー・ジェイコブセン、ヴェルナー・ダーエン 、ヤラ・シャヒディー、サイード・シャヒディー、ボニー・ベントレー、チャド・リンドバーグ、シメノナ・マルティネス、ジェサリン・ ワンリム、クリスチャン・マティス、ティム・ホームズ、インゴ・ラーデマッヒャー他。


ジェームズ・パターソンによる推理小説“アレックス・クロス”シリーズの12作目を基にした作品。
ただし内容は原作と大幅に異なっており、シリーズの他作品の内容も取り込んで構成されている。
これまでに同シリーズの1作目『多重人格殺人者』と2作目『キス・ザ・ガールズ』が、モーガン・フリーマンの主演で映画化されて いる。映画では、それぞれ『スパイダー』『コレクター』という題名で、小説とは逆の順番で製作された。

アレックスをタイラー・ペリー、犯人をマシュー・フォックス、メルシエをジャン・レノ、トーマスをエドワード・バーンズ、モニカを レイチェル・ニコルズ、ナナをシシリー・タイソン、マリアをカーメン・イジョゴ、ホリデイをジャンカルロ・エスポジート、 ブルックウェルをジョン・C・マッギンレー、ファン・ヤウをステファニー・ジェイコブセン、ヌネマッカーをヴェルナー・ダーエンが 演じている。
犯人には「ピカソ」という名称設定があるが、劇中で名前を呼ばれることは無い。
監督は『ステルス』『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝』のロブ・コーエン。
脚本を担当したのは、『スパイダー』に続いて2作目となるマーク・モスと、これがデビュー作のケリー・ウィリアムソン。

まず導入部に観客を引き付ける力が欠けている。
最初にアレックスたちが犯人を追い掛けて捕まえる様子が描かれ、次にアレックスが刑務所を訪れてポップと面会する様子になる。
次は家庭での様子で、アレックスはマリアから「変化に気付かない?」と問われ、変化しているポイントを列挙する。
これを開始から10分に満たない時間で処理しているのだが、欲張り過ぎているという印象を受ける。

最初の犯人追跡は、まずはアクションシーンで観客を引き付け、さらにはアレックスとトーマス、モニカの3人を登場させようという狙い だろう。
続く面会シーンは、アレックスが人情味のある正義感に厚い男ってことをアピールしたいんだろう。
それに続くシーンは、アレックスの家族関係と妻の妊娠、そしてアレックスが観察力に優れていることを示したいんだろう。
それぞれに狙いは分かるが、アレックスというキャラクターの人物像が逆にボヤけてしまっているように感じる。
情報が整理されていないのではないか。

まず最初にアピールすべきは、「アレックスが犯罪心理捜査官である」という部分だと思うのだ。
最初にアクションをやると、それは全く分からないし、普通の刑事のように見える。それに、そこで彼が格闘能力に優れていることを 見せるってのは、なんか違和感が強い。
続くポップとの面会シーンは、バッサリとカットしてもいい。後半にポップの伯父が登場するが、そいつは別に「ポップの伯父」という 設定じゃなくても何とかなるし、登場しなくても話を成立させることは出来る。
家庭でのシーンではアレックスが鋭い観察力を示しているが、それは「犯罪心理捜査官」という職業を示していることにならない。「勘の いい男」ということでも成立してしまう。
やはり最初のシーンは、「犯罪心理捜査官」として事件を解決に導くというエピソードが望ましいのではないか。

チーフは「これは猟奇殺人だ。覚悟して現場に来いよ」と言っており、死体を見たトーマスは「イカれてる」と口にする。
だが、ちっとも猟奇的な殺人いう印象を受けない。
ボディーガードの連中は普通に倒れているだけだし、女は両手を拘束されてベッドで死んでいるだけだ。
どの死体も残虐な殺され方はしておらず、綺麗な状態で残っている。
頭部が切断されているとか、内臓が抉り取られているとか、何かで飾り付けられているとか、異物を挿入されているとか、「残虐」と 感じさせるような要素は皆無なのだ。

ピカソを「猟奇殺人鬼」というキャラ設定にしているのなら、殺人現場の描写はヌルすぎる。
実際、ただ拳銃で射殺しているだけだしね。
アレックスが犯行の内容を再現して説明した際、トーマスの台詞によって、ファンの指が全て切断されていることが明らかにされるが、 それは画面に写らないしね。
それに、それを見せずに台詞だけで説明するにしても、そのタイミングが遅い。死体を発見した時点で観客に説明しておくべき事柄だ。

アレックスは犯行に使われた武器や犯人の行動を全て読み解き、それを再現してトーマスに説明する。
彼は犯人が拳銃を隠し持っていたことも、どういう順番で男たちを射殺したのかも、2階に戻って「パソコンのパスワードを言え」と ファンを脅して手の指を切り落としたことも、9本は遊びとして切り落としたことも、澱みなく話している。
犯人がそういう行動を取っている回想シーンが挿入されるぐらいだから、アレックスの読みは的中しているんだろう。
ただ、その推理には根拠が無いのよね。「こういう証拠が残っているから、こういう行動を取ったに違いない」という裏付けが無い。
だから、ただの勘にしか思えないのだ。
それじゃダメだと思うんだよな。それは心理分析とは言えないでしょ。

ヌネマッカーのビルは厳重な警備によって守られているという設定なんだけど、ちっとも厳重に見えない。
侵入した犯人の退治に赴く警備の人間は、たった2人だけ。その2人が射殺された後、同じフロアでは大きな爆発が起きているのに、誰も 駆け付けていない。
ピカソは水流装置を使ってヌネマッカーのフロアまで到達しているけど、そんなことしなくても侵入できたんじゃないかと思ってしまう。
ただ、「警備は万全」と自信を持っている奴が杜撰な警備のせいで命を落とすってのは良くあるパターンだから、それなら殺されちゃえば いいものを、なんとピカソは殺せずに逃げちゃうんだよな。
それはそれでヌルいぞ。

アレックスは犯人像を分析した後、トーマスから「俺たちは正体を知られてる。標的になる恐れは無いか」と問われて「行動パターンから 見て、それは考えられない」と答えている。
だけど、その直前に、観客はピカソがアレックスたちに対して強い恨みを抱いている様子を見せられているんだよね。
そして、ピカソは3人に狙いを定め、モニカを殺害する。
アレックスの分析は全く当たっていないのだ。

厳重な警備を付けていればモニカは無事だった可能性だってあるわけで、それは大きな失態だ。
しかし、アレックスは自分のミスについて、まるで後悔したり罪悪感を抱いたりしないんだよな。
っていうか、その直後に今度は奥さんが殺されてしまうので、モニカの死を悼むとか、彼女やトーマスに対して申し訳ないと感じるとか、 そういう方向へ感情を働かせる余裕が無いんだよな。それはストーリーテリングとして上手くないでしょ。
そうなると、モニカの死が無駄になってしまう。
それなら死ぬのはマリアだけで充分だ。

モニカが殺されるシーンは、バッサリと省略されている。犯人がアレックスに写真を送り付けるシーンで、彼が殺したことが示されると いう形になっている。
殺害シーンそのものや死体の描写だけでなく、モニカが襲われるシーンさえ無いのだ。
レーティングの問題を懸念したのかもしれないが、「犯人は冷徹で残酷な殺人者」という設定のはずなのに、肝心の殺害シーンが 描かれないってのは、映画の作り方として間違えているとしか言いようがない。
マリアを殺すシーンはあるけど、そこは「狙撃の腕が優れたプロフェッショナル」ということは伝わるものの、残虐性ってのは 伝わらないからね。
とにかく、殺人の描写が淡白でサラッとしすぎているのよ。

犯人がアレックスたちに恨みを抱くことによって、彼の行動目的が変更される。
それによって、物語の筋道も急に別の方向へ折れ曲がる。
犯人がモニカとマリアを始末した後は、「アレックスとトーマスが復讐のために犯人を追い掛ける」という話になる。
メルシエを狙うという行動を犯人が忘れたわけではないので、マリアを殺した後は元の仕事に頭を切り替えているが、中身としては 「アレックスの復讐劇」という印象が強まるし、犯人がメルシエを狙う話がどうでも良くなってしまう。

何故そんなことになってしまうかというと、アレックスは犯人のメルシエ殺害を止めるのが目的ではなくて、犯人を始末するのが目的 だからだ。
メルシエが殺されたとしても、犯人を始末できれば、アレックスとしてはOKという状態になっているのだ。
だから「メルシエの殺害を止めることが出来るか」ということで緊迫感を盛り上げようとしても、今一つテンションが高まらない。
そんで、あっさりとメルシエは殺されちゃうし。

そうなると、もはや「メルシエ殺害」という任務遂行そのものが、要らないんじゃないかとさえ思ってしまうんだよね。
そこをバッサリと削ぎ落として、「アレックスとトーマスが犯人の居場所を割り出し、後を追う」という部分だけで終盤の展開を構築 しても、そんなに大差が無いんじゃないかと。
そこから逆算すると、もっと早い段階で「犯人が仕事を妨害されて恨みを抱く」というポイントを用意して、そこから「アレックスが犯人 に仲間を殺されて挑発を受け、怒りに燃える」という話にシフトしてしまった方がいいんじゃないかと思ったりするわけだが。
そんで「アレックスは犯人と遭遇するが逃げられる」「犯人はアレックスを嘲笑うかのように他の仲間や身内も殺す」といったエピソード で、物語を構築しても良かったんじゃないかと。

最初のシーンで、犯罪心理捜査官というアレックスの仕事をアピールしておくべきではないかと前述した。
しかし最後まで映画を観賞して思ったのは、「アレックスが犯罪心理捜査官である必要性が全く無い」ってことだ。
彼の分析は、事件の解決に全く役立っていないのだ。
ファン・ヤウの殺害現場で犯人の行動を再現するが、それで捜査が進展するわけではない。
そして前述したように、「犯人は自分たちを標的にしない」という大きな分析ミスをやらかす。

後半、犯人が電車からメルシエを狙うことを察知するが、何故そのように感じたのかという理由の説明は無いし、メルシエはロケット・ ランチャーを発射しちゃうので、やはり分析は役立っていない。
犯人を追跡して格闘する展開になると、そこに心理分析の入る余地は無い。
ただの刑事アクション映画だ。
原作の訴求力を期待したのかもしれないが、この話って“アレックス・クロス”シリーズを使って映画化する必要があったのか。
この映画のアレックスは頭脳派じゃなくて、完全に肉体派の刑事だぞ。

ちなみに、アレックスが犯人を始末しても、まだ「なぜ犯人はメルシエを狙っていたのか。依頼主は誰だったのか」という謎は残されて おり、その答えが示される。
まあ正直、どうでも良くなっているんだけど、その答えを書いておくと、「メルシエはロケット・ランチャーの攻撃では死んでいない。
車に乗っていたのは別人で、メルシエは会社の金を横領しており、それを知っている重役2名を始末して、自分も死んだように見せ掛けた 」というものだ。
で、タイに逃亡していたメルシエをアレックスは罠に陥れ、麻薬所持で銃殺刑に持ち込むという展開があるが、 繰り返しになるけど、どうでもいいわ。

(観賞日:2013年12月22日)


第33回ゴールデン・ラズベリー賞(2012年)

ノミネート:最低主演男優賞[タイラー・ペリー(非女装)]
<*『バーニング・クロス』『Good Deeds』の2作でノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会