『007/美しき獲物たち』:1985、イギリス&アメリカ
シベリアの雪山。MI6報部員ジェームズ・ボンドは、死んだ同僚003が入手したマイクロチップを彼の遺体から回収した。兵士たちに追われたボンドは、スキーやスノーモービルで逃走した。ボンドがMI6に戻ると、上司のMと開発責任者のQ、国防大臣が待ち受けていた。Qはボンドに、軍事産業が開発した磁気電波を遮断するマイクロチップのことを説明した。ボンドが回収したチップと照合すると、映像が完全に一致した。つまり、その会社にKGBが手を回したということだ。
チップを開発した軍事産業は半年前、フランス系のゾーリン産業に買収されていた。社長のゾーリンは強硬な反共主義者として知られている。ボンドはMたちと共に、ゾーリンの所有馬が出走する競馬場へ赴いた。ゾーリンの隣には側近の女メイ・デイがいた。彼の馬は勝利し、祝福を受けた。開発課員のティベットはボンドに、八百長の可能性が高いことを告げる。そのため、フランス騎手クラブが彼の友人である私立探偵オーベルジンを雇ったという。
ボンドはナイトクラブでオーベルジンと会い、ゾーリンについて話を聞く。馬に薬を投与した可能性も考えられたが、検査の結果はシロだったという。オーベルジンは週末にゾーリンの種馬飼育場で競りがあることを話した後、スタッフに化けたメイ・デイに殺害された。ボンドはティベットと共に素性を偽り、競りに出掛けた。警備責任者スカーピンやスタッフのジェニーに案内され、ボンドたちは用意された部屋に入った。ボンドとティベッドは、すぐに盗聴器を発見した。
パーティーに出席したボンドは、ゾーリンが書斎で若い美女に小切手を渡している様子を盗み見た。ゾーリンたちが去った後、ボンドは書斎に潜入して小切手帳を調べ、美女が「S・サットン」という名前であること、金額が500万ドルであることを知った。会場に戻った彼は、種付けの責任者カール・モートナー博士やゾーリンの石油事業を任されているボブ・コンリーと挨拶を交わした。ボンドはサットンを見つけ、声を掛けた。それを目にしたゾーリンは、2人を引き離すようメイ・デイに命じた。
深夜、ボンドとティベットは厩舎に潜入し、エレベーターを発見した。地下に降りると、そこは実験室になっていた。ボンドは、ゾーリンがマイクロチップとステロイド液を使って馬を勝たせていることを知った。翌朝、ボンドが厩舎に侵入したと知ったゾーリンは身許を調査し、スパイだと知った。ボンドはティベットに、街へ出てMに連絡を取るよう指示した。だが、ティベットはメイ・デイに始末され、ボンドは捕まった。ゾーリンはボンドを気絶させ、車ごと湖に沈めた。だが、ボンドは何とか脱出した。
KGBのゴーゴル将軍がゾーリンの元に現れ、当局の許可を得ずにボンドを始末したこと、商業的投機事業に手を出していることを厳しく批判した。これまでKGBはゾーリンを援助してきたからだ。しかしゾーリンは「もうKGBとは縁が切れた」と冷たく言い放った。彼は国際カルテルを組織することで、マイクロチップの流通市場を独占しようと企んでいた。そのために彼は、シリコン・バレーを壊滅させる計画を練っていた。彼は出資者を集め、各自1億ドルを用意するよう要求した。拒否した出資者は、すぐに抹殺された。
ボンドはサンフランシスコでCIA捜査官チャック・リーと会い、ゾーリン関連の情報を聞いた。コンリーは地質学者で、ゾーリンの石油採掘プロジェクトを担当している。モートナーはドイツ出身のステロイド研究者で、第二次世界大戦の時は妊婦を使ってステロイドによる知能増進実験を行っていた。大半の胎児は死亡し、生まれた少数は知能が高かったものの、精神に欠陥を抱えていた。そんなステロイド・ベイビーの一人が、ゾーリンだった。
ボンドはカニ漁師のオルークから、ゾーリンの採油基地のせいでカニが漁業から消えたことを聞かされた。ボンドは採油基地に潜入するが、別の侵入者がゾーリンたちに捕まったのを見て、身を隠した。捕獲されたのはゴーゴルの手下で、爆弾を仕掛けようとしていた。基地を離れたボンドは、顔見知りであるKGBの情報部員ポーラを発見した。ボンドはポーラと関係を持ち、彼女が基地で録音したテープを密かに摩り替えて持ち去った。
ボンドがテープを聴くと、ゾーリンは「シリコン・バレー作戦」「メイン・ストライクは3日後」という言葉を発していた。彼は採油基地を管轄するサンフランシスコ市庁舎へ赴き、記者を詐称してハウ市長と面会した。ゾーリンは石油のパイプラインに海水を注入しようとしていた。それに関してボンドが尋ねると、ハウは「点検のために海水を注入するのは普通だ」と説明した。市長室を出たボンドは、ハウに話し掛けるサットンを目撃した。彼女はステイシーという名で、市役所の職員だった。
ボンドはステイシーの邸宅に潜入するが、彼女に見つかってしまう。そこへゾーリンの手下たちが襲撃してきたので、ボンドは蹴散らした。ボンドはステイシーに、ゾーリンを探っている記者だと自己紹介した。ステイシーは、祖父の残した石油会社をゾーリンが乗っ取ったこと、それに対して訴訟を起こしていること、小切手は持ち株の代金であること、ただしゾーリンは訴訟の取り下げを求めて相場の10倍を支払ったことを説明した。ステイシーは「まだ受け取っていない」と言い、小切手を破り捨てた。
翌朝、小さな地震があった。地質学を勉強したステイシーが調べると、震源地はゾーリンの油田の近くだった。ボンドが海水注入のことを話すと、ステイシーは驚いた。断層に海水を注入すれば、大地震が起きるのだという。夜、ボンドはステイシーと共に市庁舎へ忍び込み、資料を盗み見た。すると、地図にはメイン・ストライクという名前の廃鉱山が記されていた。そこにゾーリンの一味が現れ、2人を捕獲した。ゾーリンはハウを射殺し、ボンドたちに罪を着せようと目論んだ。彼はボンドとステイシーをエレベーターに飛び込め、市庁舎に火を放って逃走した…。監督はジョン・グレン、脚本はリチャード・メイボーム&マイケル・G・ウィルソン、製作はアルバート・R・ブロッコリ&マイケル・G・ウィルソン、製作協力はトーマス・ペヴスナー、撮影はアラン・ヒューム、編集はピーター・デイヴィース、美術はピーター・ラモント、衣装はエマ・ポーテウス、タイトル・デザインはモーリス・ビンダー、音楽はジョン・バリー、主題歌はデュラン・デュラン。
主演はロジャー・ムーア、共演はクリストファー・ウォーケン、タニア・ロバーツ、グレイス・ジョーンズ、パトリック・マクニー、パトリック・ボーショー、デヴィッド・イップ、フィオナ・フラートン、デスモンド・リュウェリン、ロバート・ブラウン、ウォルター・ゴテル、ロイス・マクスウェル、ジェフリー・キーン、ウィロービー・グレイ、マニング・レッドウッド、アリソン・ドゥーディー、パピロン・スー・スー他。
シリーズ第14作。監督は『ユア・アイズ・オンリー』『オクトパシー』に続いて3作連続となるジョン・グレン。
ロジャー・ムーアがジェームズ・ボンドを演じた最後の作品。マネーペニー役のロイス・マクスウェルも、今回がラスト。
ゾーリン役のクリストファー・ウォーケンは、オスカー受賞後に悪役を演じた初めての俳優。
当初はデヴィッド・ボウイの起用が予定されていたが、脚本が気に入らずにオファーを断っている。ステイシーをタニア・ロバーツ、メイ・デイをグレイス・ジョーンズ、ティベットをパトリック・マクニー、スカーピンをパトリック・ボーショー、チャックをデヴィッド・イップ、ポーラをフィオナ・フラートン、ゴーゴルをウォルター・ゴテルが演じている。
ゾーリンの手下ジェニーを演じたアリソン・ドゥーディー、ゴーゴルの部下ベンツを演じたドルフ・ラングレンは、これがデビュー作。
パーティーのシーンでは、日本人モデルの取貝麻也子がエキストラの一人として出演している。007なので、もちろんアクションシーンはそれなりに充実している。
真っ二つになった車を運転したり、炎上するエレベーターから脱出したり、飛行船で格闘したり。
オープニングから、雪山でのスキーやスノボーでのチェイスがある。
ただ、そこでビーチ・ボーイズの『カリフォルニア・ガールズ』ってのは無いでしょ。なんで緊張感をBGMで削ぐかな。
そこにジョークは要らないよ。ゾーリンの厩舎に潜入したボンドは、ゾーリンがマイクロチップとステロイド液のカプセルを馬に埋め込んでいることを知る。
チップにはステロイドの分量を微妙にコントロールするようプログラミングされており、それによって馬の疲労を克服する。鞭に仕掛けられた送信機によって、そのチップが作動するようになっている。
だけど、そこまで手間の掛かる方法を使って競馬で儲けているってのが、なんか悪党としてショボいなあ。
軍事的に使えるようなマイクロチップを、競馬で儲けるために使っているのかと。ボンドの正体を知ったゾーリンは、彼を競馬の障害レースに誘う。そして手下に命じて障害を動かしたり、手下の騎手に鞭で殴らせたりする。
それって明らかにボンドを襲撃しているんだけど、そこまで分かりやすく攻撃するぐらいなら、もう障害レースを偽装している意味なんて全く無い。最初から普通に襲撃した方が手っ取り早い。
だが、変に凝った方法でボンドの命を狙うのが、このシリーズの悪党の定番だ。
その後、ボンドを車ごと湖に沈める時も、気絶させるだけでなく確実に殺してから沈めればいいようなものだが、銃や刃物などで直接的に手を下そうとはしないのも、このシリーズの悪党における暗黙のルールだ。ゾーリンは精神的に欠陥を抱えているはずだが、そんな様子はほとんど見られない。容赦無しに手下を虐殺する行動を精神的欠陥の表現として描いているつもりかもしれないが、それは「冷酷非情」というだけにしか見えない。
そして、そんな冷酷非情な悪党は、映画では特に珍しくも無い。
もっと他の部分で精神的欠陥を表現すべきだった。
それが無いから、ステロイド・ベイビーという設定の意味が皆無に等しい。
モートナーとの「疑似親子」としての関係性も、そんなに重視されているわけではないし。ステイシーはボンドから小切手のことを訊かれると、「まだ受け取っていない」と言う。
だけど、ゾーリンの種馬飼育場で受け取っていたでしょうに。
「野垂れ死にしても戦い抜く」と言って小切手を破り捨てるけど、いやいや、受け取った後で、今さら何を言っているのかと。
受け取るつもりが無かったのなら、なぜ種馬飼育場まで赴いて、ゾーリンから小切手を受け取ったのかと。メチャクチャだ。序盤、ゾーリンの会社で作られているマイクロチップの存在が示されるが、その性能は物語の展開において何の関係も無いと言ってもいい。そのマイクロチップが取引の道具になるとか、それが犯罪計画に使用されるとか、そういうことは無い。
「チップの市場独占を目論み、そのためにシリコンバレーを壊滅させようとする」という展開なので、マイクロチップが別の物であっても支障は無い。
競馬の八百長ではチップを使っているが、そもそも市場独占を狙っているのなら、疑われるような八百長で使うのは愚かしい行為だし。
まあ、そういうボンクラなことをやらかしているのは、ある意味では007シリーズの悪党らしいとも言えるんだけどね。ボンドは、例え敵の女であっても、ベッドを共にすればメロメロにしてしまうというイメージがあるのだが、メイ・デイは違う。
彼女はボンドと寝た後も、その態度は全く変わらない強さを持っている。
精神的な部分だけでなく、肉体的にも彼女は怪力の持ち主だ。
終盤には、その怪力を使って、ボンドが爆弾を解除する手伝いをしている。さらには、自分が命を犠牲にして、大地震を防いでいる。ちなみに、メイ・デイがボンドを手伝い、岩盤爆破を防ぐために爆弾を運んで爆死する時、ステイシーが何をやっているのかと言うと、ボンドと別々になってしまい、離れた場所にいる。
彼女は華を添えるという以外、ほとんど存在価値が無い。
序盤で登場した後、後半に入って再登場かと思ったら、それはKGBのポーラで、その後になって、ようやく再登場。メイ・デイには完敗である。
っていうか、今回の映画、ボンドもゾーリンもメイ・デイに食われている。(観賞日:2011年6月26日)
第6回ゴールデン・ラズベリー賞(1985年)
ノミネート:最低主演女優賞[タニア・ロバーツ]