『トゥー・ムーン』:1988、アメリカ

南部の名門大学は卒業式を迎え、クイーンのエイプリル・デロンプレはパーティーで婚約者である男子同窓会会長のチャドをダンスを踊った。エイプリルが豪邸に帰宅すると、妹のサマンサとジョディーはランジェリーをプレゼントした。2人をカーニバル会場へ連れて行ったエイプリルは上半身裸で遊具の傍にいる従業員のペリーに目を奪われた。彼から遊具に乗るよう誘われ、エイプリルは断った。財布を拾ったペリーはチャドの写真を見て、エイプリルに「旦那かい?」と尋ねる。妹たちが「あと2週間で結婚よ」と告げた。
エイプリルはチャドから「一緒においでよ。モーテルを取ろう」と誘われるが、「一生ずっと暮らせるのよ」と肉体関係はお預けにした。その夜、ペリーはカーニバル経営者のスマイリーと手下たちに、施設の修理費をケチっていることを批判する言葉をぶつける。しかしスマイリーは相手にせず、カード遊びに興じた。ペリーはエイプリルの視線に気付き、「俺に会いに来てくれたのか」と声を掛けた。彼女が「眠れなくて」と言うと、ペリーは「式が近いからな。分かるよ」と告げた。2人はお休みを言って別れた。
翌朝、エイプリルは家族が別荘へ出掛ける中、「式の準備があるから」と告げて家に残った。彼女が読書していると、いつの間にかペリーが上がり込んでシャワーを浴びていた。「出て行かないと警察を呼ぶわ」とエイプリルが警告すると、彼は「呼ぶもんか。昨夜の君を見ていれば分かる」と言う。実際、エイプリルは警察を呼ばず、逃げようともしなかった。ペリーは「あと2日で町を去る。もっと互いを良く知り合おう。誘ったのは君だ」と告げ、エイプリルを誘惑する。ペリーがビデオを回す中で、エイプリルは彼に抱かれた。
エイプリルは祖母のベルを訪ね、メイドのデライラから「すっかり美しくなられて」と歓迎される。ベルはエイプリルに、「まだチャドを抑え付けては駄目よ。男は出来る限り手綱を緩めておくのよ」と助言した。「時々、自分が分からなくて怖くなるの」とエイプリルが吐露すると、ベルは「そうやって大人になるのよ。私が貴方の年の頃には、もう妊娠していた。同じ年に父が死んで、私は後を継いだ。夫は全く協力しなかったけど、とてもハンサムだった。多くの女を虜にしたけど、私は目をつぶって家を守った」と語った。
エイプリルが「後悔してない?」と訊くと、ベルは「後悔なんて贅沢よ」と答えた。エイプリルは「もっと時間が欲しいわ」と口にする。彼女はデライラに、「このまま家に帰りたくないの。ママから電話があったら散歩に出掛けたと伝えて」と頼んだ。ベルはエイプリルの様子に不安を抱き、保安官のアールに電話を掛けて監視を依頼した。エイプリルはペリーに会うため、カーニバル会場へ赴いた。するとペリーは酔っ払っており、従業員のパティーと一緒にいた。
エイプリルはペリーから「パティーと一緒にバーボンを買って来い」と要求され、不愉快な気分になった。「私って馬鹿ね」と彼女が口にすると、パティーは「でも彼、魅力のある男よ」と言う。エイプリルはパティーに誘われて大型トラックに乗り、酒を買いに出掛ける。パティーはエイプリルに、ペリーと寝た時のことを話す。彼女は「いいオッパイしてるんだから、もっと強調すればいいのに」と告げ、エイプリルと服を交換した。
カーニバル会場では老朽化した遊具が暴走事故を起こし、ペリーがハンマーで機械を壊して停止させた。ペリーはスマイリーに激怒し、「貴様のせいだ。客が死んだら貴様の責任だぞ」と声を荒らげた。スマイリーの手下たちが襲って来たので、ペリーは喧嘩を始めた。彼は押さえ付けられて窮地に陥るが、戻って来たエイプリルとパティーが加勢した。ペリーは愛犬を殺され、激昂した。スマイリーの手下であるスピードが拳銃を構えて威嚇し、ペリーに犬と女たちを連れて立ち去るよう要求した。
ペリーはエイプリルに、「レディーは秘密をお持ちだ。俺には秘密なんて無い。あるのはバイクとトラックとフロリダの私書箱だけだ」と言う。エイプリルはパティーに誘われ、クラブのホールで一緒に踊った。パティーはペリーがエイプリルを見ているのに気付き、「いい感じだよ。バイクに乗せてもらいな。私は朝のバスで発つよ」と告げた。エイプリルはペリーとモーテルへ行き、情欲に乱れた。
翌朝、エイプリルデライラに電話を掛け、母から連絡があったかどうか尋ねた。電話が無かったことを知ると、彼女は「私は家に帰ったと伝えて」と頼んだ。その会話を、ベルが密かに聞いていた。エイプリルはペリーがプエルトリコ出身の女性2人を口説いている様子を見て「セックスが全てなのね」と激怒した。彼女が「家に帰れば良かった」と言うと、ペリーは全く悪びれずに「それがリビドーさ。体が求めるんだ。抑えられない欲望だ」と述べた。
エイプリルはペリーを罵り、2人は激しい言い争いになった。モーテルの客や従業員たちが注目する中、エイプリルは車に乗り込んだ。ペリーはモーテルの面々に、「騒がせて悪かった。頭のイカれた素敵な女でね」と釈明した。人々が拍手する中、エイプリルは笑顔を浮かべてペリーに「朝食を御馳走するわ」と告げた。彼女はオープンカフェへ移動し、ペリーにベルのことを語った。彼女はペリーに熱烈なキスをすると、「南部の女は激しいのよ」と告げて立ち去った。その様子を、アールがずっと監視していた。
アールはペリーに声を掛け、犬の死体を私有地に埋葬したことを理由に拘束した。アールは私有地へ赴き、ペリーを所有者の親子に面会させた。アールは死骸を掘り起こすことを条件にして、告訴の取り下げを親子に承知させた。ペリーが死骸を掘り起こして火葬した後、アールは町から出て行くよう要求した。しかしペリーは要求に従わず、結婚式前日のパーティー会場設営現場に作業員として現れた。その夜、彼はエイプリルの部屋に侵入して鏡にメッセージを残し、彼女を呼び出した…。

監督はザルマン・キング、原案はザルマン・キング&マグレガー・ダグラス、脚本はザルマン・キング、製作はドナルド・P・ボーチャーズ、製作協力はスーザン・ゲルブ、製作総指揮はメル・パール&ドン・レヴィン、撮影はマーク・プラマー、編集はマーク・グロスマン、美術はミシェル・ミンチ、衣装はマリア・マンキューソ、振付はラッセル・クラーク、音楽はジョナサン・イライアス。
出演はシェリリン・フェン、リチャード・タイソン、ルイーズ・フレッチャー、バール・アイヴス、クリスティー・マクニコル、ドン・ギャロウェイ、ダブス・グリア、マーティン・ヒューイット、ファニタ・ムーア、ミリー・パーキンス、ハーヴ・ヴィルシェーズ、ミラ(ミラ・ジョヴォヴィッチ)、ニコール・ローゼル、ケリー・レムゼン、クリス・ペダーソン、ハリー・コーン、ブラッド・ローガン、リサ・ペダース、ジェームズ・ジョンソン、ルイーザ・レシン、ナンシー・フィッシュ他。


俳優出身で、『ナインハーフ』の脚本を担当したザルマン・キングの初監督作品。
エイプリル役のシェリリン・フェンは、映画初主演。
ペリーをリチャード・タイソン、ベルをルイーズ・フレッチャー、ホーキンスをバール・アイヴス、パティーをクリスティー・マクニコル、デロンプレをドン・ギャロウェイ、カイルをダブス・グリア、チャドをマーティン・ヒューイット、デライラをファニタ・ムーア、デロンプレ夫人をミリー・パーキンス、スマイリーをハーヴ・ヴィルシェーズが演じている。
サマンサ役で、ミラ・ジョヴォヴィッチが映画デビューしている(「ミラ」名義)。ブルースクラブの歌手として、スクリーミング・ジェイ・ホーキンスが出演している。

序盤、帰宅したエイプリルはチャドや妹たちと芝生の上ではしゃぐ。そこへ不安を煽るようなBGMが流れ、映像がスローモーションにになる。サマンサが髪をかき上げる様子がアップになり、続いてカーニバルの車両が道路を通過していく様子、そしてエイプリルとチャドが視線を向けている様子が写し出される。2人の表情に笑顔は無く、やけに意味ありげな演出になっている。
ただし、じゃあ何の意味があるのかというと、サッパリ分からない。
エイプリルがプールで泳いだり、シャワーを浴びたりする様子と、カーニバルの設営作業が行われる様子が、カットバックで描写されている。これまた、どういう狙いの演出なのかがサッパリ分からない。
そもそも、その辺りで不安を煽られても、違和感しか無い。むしろ、少なくともエイプリルがペリーと会うまでは、「彼女はチャドという婚約者とラブラブで幸せ一杯でした」という形にしておくべきじゃないかと。そして、ペリーと出会うことで、それが急激に変化するという落差を付けるべきじゃないかと。

エイプリルはシャワー室の壁のタイルを外し、覗き穴から男子のシャワー室を見てオナニーにふけるんだけど、その描写もダメでしょ。
それだと、エイプリルは単なるエロい女ってことになってしまう。
つまり、ペリーと出会ったことで情欲に目覚めて云々」ということではなくて、その前から筋肉ムキムキな男を求めていて、そういう男に抱かれる気が満々だったってことになるでしょ。
そもそも、壁に覗き穴があるってことは、以前から彼女は同じ行為を繰り返していたってことになるし。

そんなエイプリルが惚れるペリーは、ただの不愉快な野郎にしか思えない。
まず遊具に乗るよう執拗に誘う態度が疎ましいし、断られて「一回戦はプリンセスの勝ちだ」と言うのも不快感が強い。財布を拾っても返さずに、「本人だという証拠が?」と言う態度は偉そうだ。写真を見て「アンタの旦那かい?」と訊くのも余計な御世話だし、「返すよ、それでご満足かい」という言い方も不愉快だ。チャドの愛称がチューチューだと知った後、通り掛かった彼を見つけて「チューチュー」と呼び掛けるのも嫌悪感が強い。
ところが、その夜には、もうエイプリルは彼の元へ行っている。ペリーに誘惑されて、戸惑いつつも惹かれていくということではなくて、自分から近付くのだ。
つまり、こっちからすると嫌悪感しか抱かせないようなペリーに、彼女は最初から惹かれていたってことなのだ。
もう彼の肉体を見た時点で、落ちていたってことなんだろう。性格とか態度とか、そういうのは度外視して、とにかく「エロい体に欲情した」ってことなんだろう。

エイプリルは酔っ払ったペリーから偉そうに命令されても、その瞬間は腹を立てるけど、すぐに許してしまう。
ペリーが他の女と寝ていることを知っても、まるで揺らぐことは無い。モーテルで他の女を口説いているのを見て激怒しても、あっさりと許してしまう。激しく罵倒して帰ろうとしていたのに、その20秒後には笑顔で「朝食を御馳走するわ」と言うんだぜ。しかも許すだけでは留まらず、自分から熱烈なキスをするぐらいなんだぜ。
もうね、アホかと。
これが「エイプリルは性的欲求があるが、チャドが真面目すぎて結婚までは一線を超えようとしないのでムラムラしてたまらない」ということなら、ペリーに欲情を覚えて転んでしまうのも、まだ納得しやすい部分が出て来る。しかしエイプリルは、チャドが性的関係を望んでいるにも関わらず、お預けを食わせているのだ。
それなのに男子シャワー室を覗いてオナニーしたり、ペリーに欲情してセックスしたりするんだから、どういうつもりなのかと言いたくなる。

「チャドに肉体的な魅力を感じなかった」ということへの言及があるわけじゃないから、そもそも最初からチャドへの愛情なんて無かったようにしか見えない。
そうなると「じゃあ婚約した理由は何か」という疑問が生じるが、それは全く分からない。
で、チャドへの愛情が全く見えないから、「エイプリルがペリーとチャドの間で揺れ動く」という図式も成立しなくなる。ペリーにゾッコンなんだから、そこに迷いが生じる余地など無いのだ。
あえて葛藤する理由を挙げるなら「もう結婚式が決まってるから」ということだけど、それは本来あるべき形ではない。

タイトルからすると、ホントはペリーとチャドの間で揺れる形にしなきゃいけないはずでしょ。だけどチャドってお預けを食わされた後、結婚式前日のシーンまでは消えているんだよね。
そもそも出番が少ないし、ほぼエイプリルとペリーの関係描写に絞り込んであるもんだから、そりゃあエイプリルが2人の男の間で揺れ動く図式なんて見えてくるはずもない。
ホントは「精神的な部分ではチャドに惹かれるが、ペリーに対する肉欲が強くなってエイプリルが葛藤する」という形になるべきなんだろう。
だけど、気持ちもひっくるめて全てペリーに向かっているので、チャドはエイプリルにとって何の意味も無い男になっているのだ。

最初からエイプリルをエロい女として描いちゃってるから、「名門校出身で品行方正に生きて来た淑女が、ペリーと出会って初めて性的な欲望に目覚める」という図式が成立しない。
ペリーに抱かれる時に「こんなことは初めてよ」とエイプリルは言うけど、嘘っぽく聞こえてしまう。
ひょっとすると、今までも色んな男を取っ替え引っ替え、くわえこんできたんじゃないかとさえ思ってしまう。
でも、そういうキャラ設定じゃないはずでしょうに。

「名門校出身のお嬢様が、官能の世界に落ちる」という変化が見えなきゃいけないはずなのに全く見えず、前述した「2人の男の間で揺れ動く」という図式も成立していない。
そのため、「エロい女が欲情に溺れ、筋肉質の男との情事にふける」というだけの薄っぺらい話になってしまっている。ただの低品質で抜けないソフトポルノになっている。
ラジー賞ではクリスティー・マクニコルが最低助演女優賞を受賞しているけど、ぶっちゃけ、彼女は酷評されるほど存在感を発揮しているとも思えないぞ。
むしろシェリリン・フェンとリチャード・タイソンの方が、ラジーな存在感は圧倒的に強いぞ。

(観賞日:2015年2月20日)


第9回ゴールデン・ラズベリー賞(1988年)

受賞:最低助演女優賞[クリスティー・マクニコル]

 

*ポンコツ映画愛護協会