『トリプルX』:2002、アメリカ

アメリカ国家安全保障局(NSA)は、旧ソ連の生化学兵器を盗んだテロ組織「アナーキー99」の壊滅を目指していた。だが、チェコのプラハで潜入捜査に当たっていたエージェントのマクグラスが殺害される。これまでも多くのエージェントを送り込んでいたが、全て正体を見破られ、殺されていた。そこでNSAのオーガスタス・ギボンズは、エージェント以外の人間を送り込むことを提案した。本物のワルを政府に協力させれば、使い捨てにすることも可能だというのが彼の考えだ。
ギボンズが目を付けたのは、ザンダー・ケイジという男だった。首の後ろにxXxというタトゥーを入れているザンダーは、エクストリーム・スポーツの世界では有名人だ。彼は自分のパフォーマンスをビデオに収録し、それを売っている。その日も彼は、ホッチキス上院議員の車を奪ってパトカーの追走をかわし、車ごとジャンプしてパラシュートで脱出する離れ業をやってのけた。
ザンダーは仲間のJJ達が待つパーティー会場に出向くが、そこに特殊部隊が乗り込んできた。気を失ったザンダーが目を覚ますと、そこはコーヒーショップだった。2人組の強盗が暴れ始めたため、ザンダーは彼らを倒した。そこにギボンズが現れ、拍手を送った。ザンダーは、強盗が警察用の拳銃を所持していることやウェイトレスが疲れるハイヒールを履いていることを怪しみ、政府の人間が化けていると察知したことを告げる。するとザンダーは、そのウェイトレスに麻酔銃で撃たれた。
ザンダーが再び目を覚ますと、そこは軍の輸送機の中だった。ザンターの他にも、同じコーヒーショップのテストに合格したという2名が乗っていた。ザンダーら3人が飛行する輸送機から地上へ落とされると、そこはコロンビアだった。3人はエル・ジェフという男が率いる集団に捕まるが、何とか脱出する。
政府軍の攻撃を受けたザンダーは負傷した男を助けようとするが、取り囲まれる。そこへギボンズが現れ、テストに合格したことをザンダーに告げた。ギボンズはエージェントとして任務を遂行すれば、今までの違法行為を全て帳消しにして自由を与えるという。ザンダーは反発するが、ギボンズから刑務所へ行くかチェコへ行くか選べと言われ、命令に従うことにした。
チェコに入ったザンダーは、アイヴァンと名乗る2人の男に案内され、チェコ秘密警察のソーヴァと面会した。ソーヴァは他国の介入に不満を抱きながらも、ザンダーを酒場へ連れて行き、アナーキー99のボスである元ロシア軍将校ヨーギの存在を教えた。ザンダーはヨーギに近付き、ソーヴァが秘密警察の人間だと密告して追い払わせた。
ヨーギの弟コレアはXスポーツが好きで、ザンダーの大ファンだった。ザンダーは10台の高級車を購入する取引をヨーギに持ち掛け、彼の愛人エレーナと値段の交渉をする。ザンダーはアナーキー99の情報をギボンズに連絡し、仕事を終わりにしようとする。しかしギボンズは、それを許さなかった。ギボンズは特殊装備担当のトビーを送り込み、秘密兵器をザンダーに与えた。ザンダーは取引現場を見張っていたソーヴァをトビーから受け取った銃で狙撃し、殺害したように思わせてヨーギの信用を得た。
ヨーギの城に招待されたザンダーは、エレーナが何かを調べているのを目撃した。ザンダーは内緒にするのと引き換えに、彼女をデートに誘う。ザンダーは自分がエージェントだと語るが、本気にされない。しかしアナーキー99には正体がバレており、ザンダーはヨーギの手下キリルに命を狙われていた。
エレーナから危険を知らされたザンダーは、彼女を残して逃亡する。ザンダーの前にギボンズが現れ、正体を敵に知られたので任務は終了だと告げられる。壊滅作戦に移ると聞かされたザンダーはエレーナの身を案じるが、ギボンズは女の安否には関知しないと告げた。そこでザンダーは帰国命令を無視し、ヨーギの城へと潜入する…。

監督はロブ・コーエン、脚本はリッチ・ウィルクス、製作はニール・H・モリッツ、共同製作はクレイトン・ ベリンジャー&デレク・ドーチー、製作協力はデヴィッド・ミンコウスキー&マシュー・スティルマン&ミシェル・グラス、製作総指揮はアーン・L・シュミット&トッド・ガーナー&ヴィン・ディーゼル&ジョージ・ザック、撮影はディーン・ セムラー、編集はクリス・レベンゾン&ポール・ルーベル&ジョエル・ネグロン、美術はギャヴィン・ボクエット、 視覚効果監修はジョエル・ハイネク、衣装はサンジャ・ミルコヴィック・ヘイズ、音楽はランディー・ エデルマン、音楽監修はキャシー・ネルソン。
出演はヴィン・ディーゼル、アーシア・アルジェント、マートン・ソーカス、サミュエル・L・ジャクソン、ダニー・トレホ、マイケル・ ルーフ、トム・エヴェレット、 リッキー・ミューラー、ウェルナー・ダーン、ペトル・ヤクル、ジャン・フィリペンスキー、トーマス・イアン・グリフィス、イヴ、 レイラ・アルシーリ、ウィリアム・ホープ、テッド・メイナード、デヴィッド・アスマン、ジョー・ブカーノ三世、クリス・ガン他。


『ワイルド・スピード』の監督と主演コンビが再び組んだスパイ・アクション映画。
ザンダーをヴィン・ディーゼル、ギボンズをサミュエル・L・ジャクソン、イレーナをアーシア・アルジェント、ヨーギをマートン・ソーカス、トビーをマイケル・ルーフ、ソーヴァをリッキー・ミューラー、キリルをウェルナー・ダーン、エル・ジェフをダニー・トレホが演じている。
あと、オープニングで簡単に殺されちゃうマクグラスがトーマス・イアン・グリフィス。

冒頭、「いかにも昔ながらのスパイ映画の諜報員」という見た目のマクグラスが、あっさりと殺される。
そこに製作サイドが込めたメッセージを汲み取ることは、間違いではないだろう。
これは007シリーズのような伝統的スパイ・アクション映画を古臭いものとして一刀両断し、挑戦状を叩き付けた映画なのである。
大物に真正面から戦いを挑むことは、果敢なチャレンジと言えるかもしれない。
しかし、それが仮に「空威張りだけで腕っ節の無いチンピラが、大物格闘家にケンカを売った」ということなら、どうだろうか。
もちろんコテンパンに叩きのめされるだろうし、身の程知らずの愚か者に過ぎないのではなかろうか。

007シリーズとの違いは、まず主人公がXスポーツを得意にしているという設定だ。だからアクションシーンでも当然、その手のモノが多くなる。
スパイ・アクションというよりスポーツ・アクションといった感じだが、とにかくスタントマンが頑張ったのは確かだ。何しろ、スタントマンの1人ハリー・オコナーがパラ・セーリングのスタントで死亡しているぐらいだ。
ヴィン・ディーゼルも多くの危険なアクションを自身でこなしたそうだが、見た目がマッチョなのに生身の格闘アクションが無いのは、どうなのかと思うぞ。

しかし、それよりも注目すべき違いは、ザンダーがマクグラスのようなスマートな諜報員ではなく、本物のワルとして登場することだ。
なるほど、主人公がワルなら「毒を以って毒を制す」という形になるし、例えば平気で関係者を見捨てたりするようなワルっぷりを見せれば、007シリーズとは全く違う印象になるだろう。
ところが、ワルとして出て来たザンダーは、あっさりと狼の皮を被っていることを明かしてしまう。コロンビアのシークエンスにおいて、男を助けるために命懸けで行動するのだ。
自分が長く付き合っているブラザーを助けるために命を張るなら、まだ分かる。しかし出会って間もない奴を助けるってのは、とても分かりやすい正義のヒーローだ。

ザンダーがタバコを「体に悪い」という理由でやらないのは、新しいワルのイメージを見せたかったのかもしれないが、他の部分でもワルの匂いが薄いため、ただの健康的な奴にしか見えない。
例えば敵を信用させるために、平然と仲間を怪我させる程度のことさえやらない。
それどころか、終盤にはリーダーの如く秘密警察に指示を出すので、アウトローらしさも無くなる。

ようするにザンダーは反体制的でワイルドな風貌というだけで、MI6の情報部員と大差が無い。女好きなのはジェームズ・ボンドも同じだし。
話の流れはスパイ・アクション映画の王道パターンを踏襲しているので、キャラクターがジェームズ・ボンドと大差が無いとなると、単なる007シリーズの亜流映画ということになってしまう。

で、じゃあ007シリーズの亜流映画として見た場合にどうなのかというと、「まあ『デイライト』や『ドラゴンハート』や『ワイルド・スピード』のロブ・コーエン監督だからね」ということだ。
トビーの特殊装備は良くも悪くも荒唐無稽さに欠けるし、使い方の工夫も今一つ。ヨーギには大物としてのスケール感が乏しい(それは役者の問題よりも、キャラの動かし方の問題だ)。

この映画は、序盤から勢い良く走り始める。いきなり車からジャンプしてのパラシュート大脱出という見せ場があるし、コロンビアでは激しいバイクスタントとド派手な大爆発がある。スピーディーにテンポ良くアクションを畳み掛けて観客を掴むのは、悪いことじゃない。
ただ、そのまま突っ走れるわけじゃなく、あっさりとガス欠になってしまう。
そもそも、エージェントとしての素質を確認するテストで、2つもシーンを使う必要があるのか。テストなんて1つで充分だろう。どちらを削るかといえば、明らかにコーヒーショップのシーンだ。ザンダーの洞察力の鋭さをアピールしたいんだろうが、アクションとしては大したことが無いし。
あと、コロンビアのシークエンスも長く引っ張りすぎだろう。半分の時間にシェイプアップすべきだ。

コロンビアのアクションシーンでは前述したようなモノがあり、かなり大きな盛り上がりを見せる。だが、後のことを考えていないのかと思ってしまう。後半に向かってアクションがエスカレートしていくとか、それ以上に盛り上がるアクションシーンが終盤にあるというなら構わないが、そういう計算は出来ていない。
落ち着いて一息つき、メリハリを付けて次のアクションシーンに突入していくという考え方だったとして、そういう構成は悪くない。
しかし、前述したコロンビアのシーンが一番の盛り上がりで、それ以降、そこよりも盛り上がるアクションシーンが見当たらないのはマズいだろう。雪山のアクションは、CG加工によって迫力が減少してしまっているし。

本来ならばクライマックスになるべきシーンに持ってくるアクションは、潜水艇を車で追い掛け、飛び乗って生化学兵器を破壊するというモノ。
ただ車で追うシーンが長いが、移動アクションは避けた方が良かった。
クライマックスは、1つの場所に留まってのアクションにした方が良かったと思う。
あと、ヨーギが死んだ後も延々とアクションが続くのは、なんか間延びした感じがするぞ。


第23回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最も空虚なティーン向け作品賞


第25回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪な総収益1億ドル以上の作品の脚本】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会