『トータル・リコール』:2012、アメリカ&カナダ

21世紀末、化学兵器による戦争が勃発し、地上の大部分は居住不可能になった。生活できる場所は貴重となり、人類は2つの地域に別れた 。富裕層は旧ヨーロッパにあるブリテン連邦、貧困層は旧オーストラリアのコロニーと呼ばれる地域で生活するようになった。コロニーの 労働者は毎日、唯一の移動手段である「ザ・フォール」を利用してブリテン連邦へ行き、そこで働いていた。ダグラス・クエイドも、 そんな労働者の一人である。
ダグラスは最近、同じ夢ばかり見るようになっていた。ある施設で一人の女性に「起きて、電源は切ったわ。ここを逃げ出すのに10秒しか 無い」と言われ、銃を渡される。ダグラスが彼女と共に建物からの脱出を図ると、警官隊が銃撃してくる。ダグラスは反撃しつつ脱出可能 な場所まで辿り着くが、警官隊に捕獲される。彼は「必ず見つけ出す」と告げて女性だけを逃がし、そこで夢から覚めるのだ。ダグラスは 妻のローリーから「夢に出て来るのは貴方だけ?」と訊かれ、「ああ、そうだ」と嘘をついた。
ブリテン連邦ではマサイアス率いるレジスタンスのテロが続発しており、その日も列車が爆破された。連邦のエージェントであるローリー は、連絡を受けて出動する。マサイアスは「ブリテン連邦がコロニーの労働者から搾取している」と批判し、レジスタンス活動を行って いる。連邦の代表であるコーヘイゲンは、マサイアスを厳しく糾弾している。6週間前の爆破事件について、連邦警察はマサイアスの右腕 である元情報員のハウザーを実行犯と見ている。
ダグラスは同僚のハリーとザ・フォールに乗り、「俺たちは毎日、同じことを繰り返している」と生活に退屈を感じていることを吐露する 。テレビのニュースでは、連邦がコロニーに対する全ての援助を中止して警察の強化に予算を回すことが報じられている。ダグラスは会社 に到着し、記憶を売るリコール社のことを話題にする。ハリーは「あれは危険だ、近付くな」と言い、同僚の一人が利用して頭がおかしく なったことを教える。
工場の労働者たちは主任から、ロボット警官の増産命令が出たことを告げられる。労働者たちが不平をこぼすと、主任は「文句があるなら コーヘイゲンに言え。彼の命令だ」と告げる。ダグラスは同僚のマレックから、「リコール社は最高だ。3回も利用した。ここよりずっと マシさ」と話し掛けられる。彼はマクレーンという社員を指名するよう勧め、名刺を渡した。ダグラスは主任に呼ばれ、別の男が昇進した ことを知らされる。彼は「お前の方が優秀だが、相手はブリテン連邦の出身だ。仕方が無い」と済まなそうに言う。
ダグラスはダウンタウンにあるリコール社へ行き、マクレーンと会う。諜報員の記憶はどうかと提案され、ダグラスは即座に飛び付いた。 マクレーンは「現実で体験していることを選択することは出来ない」と言い、女性社員がダグラスに注射を打つ。記憶操作装置が作動する 直前になって、マクレーンは慌てて停止させる。彼は「騙したな、お前はスパイだ」とダグラスに怒鳴り、拳銃を構えた。そこに警官隊が 突入し、社員たちを銃殺した。
ダグラスは警官隊から、手を挙げて後ろを向くよう命じられる。だが、ダグラスは素早い動きで銃を奪い、警官隊を倒した。ダグラスは 自分の動きに困惑するが、さらに別の警官隊が迫って来たので、リコール社から逃亡した。彼が帰宅すると、リコール社の一件はテロと して報道されていた。彼はローリーに、「あれは俺の仕業だ。俺が警官を殺したんだ」と事情を説明した。するとローリーはダグラスを 抹殺しようと襲い掛かって来た。ダグラスが慌てて反撃すると、ローリーは銃を構えた。
ダグラスが銃を奪って説明を求めると、ローリーは「私たちは夫婦じゃない。貴方の記憶は消され、別の記憶が植え付けられた。ダグラス ・クエイドなど存在しない」と言う。「じゃあ俺は誰だ」とダグラスが訊くと、彼女は「知らないわよ。だけどコーヘイゲンが貴方を レジスタンスから隠すぐらいだから、重要人物なんじゃないの」と告げる。ローリーが隙を見て反撃して来たので、ダグラスは家から脱出 する。ローリーは追跡しながら、応援を要請した。
ダグラスは何とかローリーの追跡を撒いたところで、掌が光るのに気付く。それは手に埋め込まれた携帯電話だった。彼が受信すると、 掛けて来たのはハモンドという男だった。ダグラスは「ガラスを見つけて手を置け」と言われ、その通りにやってみると、モニターが表示 されてハモンドの顔が写った。ハモンドは「俺はお前と同じ諜報組織で働いていた。伝言を頼まれた。鍵を手に入れろ。奴らにバレたら俺 は殺される」と述べた。
ダグラスが「俺は誰なんだ」と質問すると、ハモンドは「説明している暇は無い。早く電話を捨てろ」と指示し、そこで通話が切れた。 改めてダグラスがガラスに手を付けると、ファースト・ナショナル銀行の貸金庫の番号が表示された。ダグラスは手を傷付け、携帯電話を 取り出した。近くにいた若者が興味を示したので、ダグラスはそれをプレゼントした。探知器を取り出されたため、ローリーはダグラスの 追跡が困難になった。
ローリーはコーヘイゲンに連絡を入れる。「なぜ奴の記憶が急に戻った?」というコーヘイゲンの質問に、ローリーは「見張りから彼が リコール社へ行くと連絡があり、部隊を行かせましたが間に合いませんでした」と答えた。コーヘイゲンは「殺すな、生け捕りにしろ」と 命じる。ローリーは相手の正体を尋ね、その答えに驚愕する。通話を終えたローリーは、部下に「あの男を殺すのよ」と指示した。
ダグラスが銀行の貸金庫を開けると、ボックスが入っていた。それを開けると複数の偽造身分証や札束、そして動画が入っていた。動画を 再生すると、ダグラスと瓜二つの男が写し出された。彼は焦っている様子で、「奴らが来るから手短に話す。これを見たってことは、俺は 逃亡に失敗し、奴らは新しい名前と記憶をお前に与えただろう。お前の人生は偽りだ。すぐに俺のアパートへ行け」と語って住所を教える 。彼が警官隊に捕まる様子が写り、そこで映像は途絶えた。
ダグラスは変装してブリテン連邦の入国審査を抜けようとするが、気付かれてしまう。警官隊に銃撃されたダグラスが応戦しながら逃げて いると、車で通り掛かったメリーナという女が「乗って」と促した。メリーナはダグラスの夢に出て来た女と同じ顔をしていた。ダグラス が「俺を知ってるのか」と問い掛けると、彼女は「ずっと捜してた」と言う。ローリーたちに追跡され、2人は逃走する。メリーナは怪我 を負って気を失うが、何とか逃げ延びることが出来た。
ダグラスはメリーナを抱え、男が指示したアパートに入った。彼は室内を捜索し、新たなメッセージ映像を見つけ出す。それによって、 その男とダグラスが同一人物であること、マサイアスの仲間でハウザーという名前であること、マサイアス暗殺のためにコーヘイゲンが送 り込んだスパイだったこと、一人の女性に会って考えが変わったことが判明した。映像に写ったハウザーは、「レジスタンスはテロリスト じゃない。コロニーの自由と平等を求めている。爆破テロはコーヘイゲンが仕組んだものだ」と語った。
ハウザーの説明によれば、コーヘイゲンが爆破テロを仕組んだのは、ロボット警官の投入を正当化してコロニーを侵略することが目的だ。 ブリテン連邦には住む場所が不足している。そこでコロニーを潰し、ブリテン連邦の居住区に変えて、ロボットを労働力として使うつもり なのだという。ハウザーは「だが、ロボットのシステムを停止させれば阻止できる。俺は停止コードを見たことがある。つまり、お前の 記憶のどこかに残っている。マサイアスならそれを取り出せる。彼を見つけろ」と述べた。
目を覚ましたメリーナがダグラスの元に来て、「今の話は真実よ」と言う。ダグラスは受け入れようとしなかったが、メリーナは彼の本当 の素性を説明し、自分がハウザーの恋人だと明かす。ダグラスが困惑していると、警官隊がやって来た。ダグラスとメリーナは慌てて 逃げようとするが、アパートは包囲されていた。そこへハリーが現れ、ダグラスに「頼まれて、ここに来た。お前は妄想の中にいる。今 でもリコール社の椅子に座ってる。俺は薬を使って、お前の頭の中に入った」と語った。
ダグラスがアパートの外を見ると、ローリーが心配そうな表情を見せていた。ハリーは「彼女も会社に来て、お前の手を握っている」と 告げる。「あいつは俺を殺そうとしたんだ」とダグラスが声を荒げると、ハリーは「違う。彼女は夜勤だったのに、俺が連絡したら来て くれたんだ」と言う。ハリーはダグラスにメリーナを撃つよう促し、「妄想から目覚めるには彼女を殺すしかない」と話した。
ダグラスは苦悩するが、メリーナの目から零れ落ちた涙を見て、ハリーを射殺した。警官隊がに銃撃して来たので、ダグラスとメリーナは エレベーターへと逃げ込んだ。廊下を走っていると、銃を手にしたローリーがロボット警官隊を率いて追い掛けて来た。彼女は平気で 無関係の民間人を殺害し、ダグラスとメリーナに襲い掛かる。2人は逃走し、マサイアスのいるレジスタンスのアジトへ向かう…。

監督はレン・ワイズマン、着想はフィリップ・K・ディック『追憶売ります』、原案はロナルド・シャセット&ダン・オバノン&ジョン・ ポヴィル&カート・ウィマー、脚本はカート・ウィマー&マーク・ボンバック、製作はニール・H・モリッツ&トビー・ジャッフェ、 製作総指揮はリック・キドニー&レン・ワイズマン、撮影はポール・キャメロン、編集はクリスチャン・ワグナー、美術はパトリック・ タトポロス、衣装はサーニャ・ミルコヴィック・ヘイズ、視覚効果監修はピーター・チャン、音楽はハリー・グレッグソン=ウィリアムズ。
出演はコリン・ファレル、ケイト・ベッキンセイル、ジェシカ・ビール、ビル・ナイ、ブライアン・クランストン、ボキーム・ ウッドバイン、ジョン・チョー、ウィル・ユン・リー、ミルトン・バーンズ、ジェームズ・マッゴーワン、ナタリー・リシンスカ、 マイケル・テリュー、スティーヴン・マクドナルド、マイケル・モーガン、リンリン・ルー、ディラン・スコット・スミス、アンドリュー ・ムーディー、ケイトリン・リーブ、レオ・ギヤブ、ニキーム・プロヴォ、スティーヴ・バイヤーズ、ダニー・ワウ他。


フィリップ・K・ディックのSF小説『追憶売ります』を基にした1990年の同名映画をリメイクした作品。
ダグラスをコリン・ファレル、ローリーをケイト・ベッキンセイル、メリーナをジェシカ・ビール、マティアスをビル・ナイ、 コーヘイゲンをブライアン・クランストン、ハリーをボキーム・ウッドバイン、マクレーンをジョン・チョーが演じている。
脚本は『完全なる報復』『ソルト』のカート・ウィマーと『ウィッチマウンテン/地図から消された山』『アンストッパブル』のマーク・ ボンバック。
監督は『アンダーワールド』『ダイ・ハード4.0』のレン・ワイズマン。
つまりケイト・ベッキンセイルの旦那。

前作は監督がポール・ヴァーホーヴェン、主演がアーノルド・シュワルツェネッガー、製作会社がマリオ・カサールのカルロコ社という ことで、本格SFの要素を持つ題材を、キッチリとB級SFアクション映画に仕上げていた。
シュワルツェネッガーが主演なので、当然のことながらアクションのテイストが強い仕上がりになっていた。
ただしB級SFアクションではあったが、悪趣味大王のヴァーホーヴェンが監督を務め、シュワルツェネッガーが主演していたので、 かなりアクの強い映画になっていた。
ようするに、面白かったのだ。

しかし、ポール・“モラルって何?”・ヴァーホーヴェンとは違い、ごく普通の感覚を持つレン・ワイズマンが監督を務めたリメイク版 では、アクの強さがすっかり消えている。
そもそも主人公がコリン・ファレルという時点で地味だ。
ただ、オリジナル版のアーノルド・シュワルツェネッガーがアクション俳優だったのに対し、コリン・ファレルはアクション俳優という わけではないのに、アクションへの比重がオリジナル版より増えているというのは、どういうことなんだか。

ただ、アクションへの比重を増やした構成にしたくなる気持ちは、分からないではない。
というのも、本作品には「オリジナル版を見ている観客には、終盤に待ち受けているドンデン返しも、ラストの解釈も、全て分かっている 」という弱点があるからだ。
そこを利用して、オリジナル版とは異なる展開にするという手口もあるが、そこはオリジナル版と同じ形にしてある。
ようするに、物語に捻りを加えるという方法ではなく、アクションを増やすことで乗り切ろうという選択肢を選んだってことなんだろう。

で、そのアクションが、それだけで観客を引き付け、退屈させない内容になっていれば良かったんだろうが、残念ながら単調で飽きて来る 。
世界観やテクノロジーも含め、どこかで見たことのある映像ばかりだし。
『ブレードランナー』と『マイノリティ・リポート』に似ている部分に関しては、同じフィリップ・K・ディックが原作ということで、 オマージュを捧げているという意識なのかもしれない。
ただ、キャラにも話にも、そんなに面白味があるわけじゃないので、映像に惹き付けるモノが無いのは厳しい。

コリン・ファレル演じるダグラスはオリジナル版に比べて存在感が弱くなっているが、それは演者だけのせいではない。
レン・ワイズマンの、奥さんに対する愛情の強さも関係している。
オリジナル版でダグラスを執拗に追い掛けたリクターというキャラが抹消され、その役割もローリーに担わせて、彼女の出番を大幅に 増やしている。
で、監督は奥さんのアクションシーンへの意識が強くある。コリン・ファレはケイト・ベッキンセイルに食われているのではなく、監督が 食わせたんじゃないかと邪推したくなるほどだ。
ケイト・ベッキンセイルとジェシカ・ビールの格闘シーンもあるけど、レン・ワイズマンはテレンス・ヤングみたいに女闘美が好き なのかもしれん。

大まかな筋書きは前作と変わらないが、ダグラスは火星に行かず、舞台は地球に限定されている。
火星に行かないことにより、エイリアンが登場しなくなった。
ここで、まず地味になっているポイントが1つある。
そのくせ、オッパイが3つある娼婦だけは登場するが、地球人に需要があるのかな。かなり特殊な性癖の奴じゃないと、客になって くれないだろ。
っていうか、なぜ火星に行かない内容にしたのか、そのメリットが見えない。

オリジナル版のダグラスは、鼻の穴に器具を突っ込んで発信装置を抜き取っていた。
それに対して今回は、手に切れ目を入れて薄い装置を取り出す。
つまり、表現が地味になっている。
入国審査のシーンでは、オリジナル版ではダグラスが女性に化けて、近未来の肉襦袢的なモノが異常を起こし、パカッと顔が真っ二つに 割れてダグラスの顔が現れるという表現になっていた。
だが、今回はホログラムで変装しており、それに異常が出るという描写になっている。
つまり、地味になっている。

オリジナル版のダクラスは、わざわざ剥き出しのネジを職員の首にブッスリと突き刺して殺したり、一般人の死体を盾にして攻撃を回避 したり、死体を投げ付けたりという残虐なことを平気でやっていたが、今回はロボット警官の腕をエレベーターで切断する程度。
しかも人間じゃなくて相手はロボットだから、残虐度は薄い。
つまり、地味になっている。
オリジナル版のダクラスは、火星で真空状態に放り出され、眼球が飛び出していた。
だが、今回は火星に行かないので、そんなシーンも無い。
つまり、地味になっている。

オリジナル版に登場したレジスタンスの指導者は、幹部の男の腹部に入っているという造形(人間ではなく、そういうエイリアン)だった 。
それに対して今回のマサイアスは、普通のオッサンになっている。
エイリアンじゃなくて地球人という設定にしろ、もっとアナーキーだったりエキセントリックだったりというキャラにしても良さそうな ものなのに、ただのオッサン。見た目も言動も普通だし、何のオーラも無いし。
そんな風に、前作で印象的だったシーン、インパクトのあったシーンは全て改悪、もしくは消去されている。
実は、前作ではポール・ヴァーホーヴェンのグロテスク趣味が珍しくプラスの方向に作用していたんだなあ。
改めて、それを感じさせられた。

このリメイク作品は、全てにおいて「アクの強さを消す」「凡庸にする」という方向に変更している。
それって、何の意味があるのかと。
個性や特徴を打ち消して、既視感に満ち溢れた作品として仕上げることに、何のメリットがあるのかと。
それって、運動会の徒競走で順位を付けず、「みんな一緒」にしてしまう小学校のやり方と似たようなモンだぞ。
つまり「アホじゃねえ?」ってことだ。
そのせいで、凡庸なB級アクション映画になってしまっている。

(観賞日:2013年1月28日)


第33回ゴールデン・ラズベリー賞(2012年)

ノミネート:最低助演女優賞[ジェシカ・ビール]
<*『スマイル、アゲイン』『トータル・リコール』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会