『トムとジェリー』:2021、アメリカ

マンハッタンで物件を探しているネズミのジェリーは、不動産屋ネズミに案内されて廃車を訪れた。しかしジェリーは気に入らず、その場を後にした。猫のトムはキーボードを抱え、ニューヨークに到着した。彼はMSGでショーを開く夢を膨らませ、盲目を装ってセントラル・パークで路上演奏を始めた。集まった人々が金を入れる様子を目にしたジェリーは、自分も稼いで大きな家に住もうと目論む。ジェリーはキーボードの上に載って指揮棒を振り始めるが、トムは邪魔なので追い払った。
腹を立てたジェリーはトムの看板に自分の絵を貼り付け、演奏に合わせて踊り出した。人々の注目はジェリーに集まり、彼が用意した缶に金を入れ始めた。トムはジェリーを追い払おうとするが、逆襲されてキーボードを破壊される。サングラスが外れて盲目ではないことがバレてしまい、人々は金を回収した。トムは憤慨し、ジェリーを捕まえようとする。ジェリーはトムに追われ、余裕で逃げ回る。何でも屋として自転車で下着を配達していた人間のケイラ・フォレスターは、トムに激突して転倒した。下着が散乱し、ケイラは上司から4週間の停職を通告され、その場で辞めることにした。
ジェリーはトムに見つかり、ロイヤル・ゲート・ホテルに逃げ込んだ。トムは追い掛けようとするが、ドアマンのギャヴィンに撃退された。ケイラは無料朝食を食べるためにホテルを訪れ、ロビーで座っているリンダ・ペリーボトムという女性に気付いた。彼女がスーツケースを持っていたので、観光客だと思ったケイラはガイド役を持ち掛けて金を稼ごうとする。しかしリンダは観光客ではなく、スタッフ募集の面接に来ていた。週末にセレブカップルのベンとプリータがホテルで挙式するので、そのスタッフを募集しているのだ。
ケイラは覆面面接官を装い、リンダから履歴書を預かった。彼女は複数の一流ホテルで仕事をしてきたリンダの立派な経歴を確認した後、不合格を言い渡して立ち去らせた。ケイラが受付係のローラに履歴書を見せると、「完璧よ」と絶賛される。「上に連絡する」とローラは電話を掛け、ケイラは面接のためにジャケットを買いに出掛けた。トムは裏口からホテルに侵入しようとするが、失敗に終わる。路地裏猫のブッチと手下たちに捕まったトムは、動物管理局の車に気付いた。彼は口笛で管理局員に気付かせ、自分は隠れた。ジェリーはホテルの地下道を通って奥へ進み、そこに我が家を構えると決めた。
ケイラはホテル支配人のドゥブローとイベント・マネージャーのテレンスに会い、その場で採用された。ドゥブローが今日から仕事をしてほしいと言うと、ケイラは多忙を装った上で承諾した。ドゥブローは結婚式までホテルに住み込み、客の要望に応えてほしいと要請した。テレンスはケイラを厨房へ案内するが、シェフのジャッキーは多忙で紹介できなかった。テレンスはロビーに移動し、ギャヴィンをケイラに紹介した。ギャヴィンはケイラの正体を知っているが、テレンスには何も言わなかった。
ケイラはベルガールのジョイや、バーテンダーのキャメロンにも会った。ベンとプリータが来たので、ケイラはテレンスと共に挨拶した。ベンとプリータは、ブルドッグのスパイクと猫のトゥーツを連れて来ていた。ジェリーが鞄の中身を漁り始めるのを見たスパイクが激しく吠えたので、事情を知らないベンが制止した。ホテルはペット禁止だが、今回は例外的に認めることをテレンスがベンとブリータに告げた。ジェリーは鞄を探り、色々な物品を盗んだ。
ジェリーは厨房を覗き込み、匂いに誘われて入り込んだ。ジャッキーはテレンスに、ネズミが出たことを訴えた。テレンスが自分に任せるよう言うと、ケイラは「私が捕まえます」と力強く告げた。彼女はネズミ捕りを仕掛けるが、ジェリーは紙幣と「いい罠を買って」というメモを置いて挑発した。トムは客室に忍び込んで寛いでいるジェリーを見つけ、捕まえようとする。トムとジェリーの追い掛けっこが勃発し、部屋は激しく荒らされた。
苦情を受けて部屋に赴いたケイラは、瓶を掴んでいるトムを目撃した。トムからネズミがいることを知らされた彼女は、一緒に撃退すれば成功報酬が手に入ると持ち掛けた。翌朝、ケイラはドゥブローとテレンスにジェリーを紹介し、ネズミ捕りのために臨時スタッフとして採用したことを報告した。テレンスは勝手な行動に腹を立てるがドゥブローは承諾し、ジェリーにボーイの帽子と名札を与えた。テレンスはケイラに、「失敗したら、この街で二度と働けなくしてやるぞ」と言い放った。
トムはジェリーの挑発に誘い出され、スパイクに殴り倒された。ジェリーはトゥーツに見つかるが、何とか逃亡した。ジョイはケイラがネズミを探していると知り、10階の廊下に小さなドアがあることを教えた。ケイラがドアをノックすると、ジェリーが出て来た。ケイラはホテルから出て行くよう頼むが、ジェリーが拒否したのでトムを呼ぶ。しかしトムは軽く撃退され、ケイラはテレンスに呼び出されて現場を後にした。
ケイラはテレンスの指示され、ハネムーン・スイートにベンとプリータの荷物を運んだ。ベンが結婚式に象を使うと言い出し、テレンスは困惑しながらも承諾した。プリータはテレンスにスパイクの散歩を頼み、ケイラには部屋に残ってもらう。彼女はケイラに、婚約指輪が無くなったのでベンに気付かれずに見つけてほしいと依頼した。ケイラは知らなかったが、指輪はジェリーが盗んでいた。トムはジェリーを罠に掛けて箱に閉じ込め、運送トラックに積んだ。
ケイラはトムからネズミを追い払ったと知らされ、ドゥブローに報告した。しかしトムがラウンジでピアノを弾いていると、ジェリーが現れた。トムとジェリーが争い始めると、気付いたケイラが駆け付けて「やめて」と言う。彼女が「駆除業者を呼ぶ」と言うと、ジェリーは指輪を見せた。しかしケイラが渡すよう告げると、ジェリーは拒否した。ケイラは条件を尋ね、ジェリーがホテルに住まわせるよう要求したので承諾した。
テレンスがスパイクを連れて戻って来ると、ジェリーはケイラのポケットに隠れた。ジェリーはポケットの中で動き回り、テレンスが確認しようとすると飛び出した。トムとジェリーは追い掛けっこを始め、スパイクも暴れた。動物の竜巻が発生し、アトリウムの屋根が壊れた。テレンスはドゥブローから責任を問われて厳しく注意され、休職を通告された。ケイラはイベント・マネージャーに任命され、トムとジェリーに「ここにいたかったら、共存できるよう証明しつつ、ホテルから離れて」と要求した。彼女は2匹に、明日はニューヨー観光に出掛け、それが出来ればホテルにいてもいいと告げた。
翌朝、ケイラはトムとジェリーを観光に送り出し、仕事に取り掛かった。ベンが注文したゾウやクジャクなど動物たちが次々届き、ケイラは対応に追われた。プリータはケイラに、「本当は小さなインド式の結婚式が望みだけど、不仲に見えることはしないと2人で決めたの」と打ち明けた。トムとジェリーはニューヨークの各地を観光し、ヤンキース・スタジアムで野球を観戦した。トムが外野フライをキャッチしてホームランにしたため、ジェリーと共に動物管理局に保護された。2匹が動物管理局のトラックで連行されるニュースをテレビで見たテレンスは、会いに行くことにした。
ベンはホテルでドローンを操縦し、ケイラに「ゾウに乗った僕らをドローンで撮影する」と説明した。ケイラは「プリータは貴方と結婚したいだけ。リラックスして楽しんでは?」と告げるが、ベンは発言の意図を全く理解しなかった。テレンスとトム&ジェリーと1匹ずつ面会し、「ケイラから助手を連れ戻すよう言われた」と嘘をつく。そして彼は「出せるのは1匹だけだ」と言い、それぞれに相手が悪口を言っていると吹き込んだ。
テレンスはジェリーを先に解放し、トムを連れてベンとプリータの式場に赴いた。彼はジェリーが食べ物を集めているのをトムに教え、改めて「君の悪口ばかり言ってた」と吹き込む。トムはジェリーに襲い掛かり、ジャッキーはジェリーに気付いて退治しようとする。ゾウはネズミに怯えて暴れ出し、他の動物たちも激しく暴れて式場は大混乱に陥った。テレンスはドゥブローに、「ケイラは嘘をついてた」と告げた。ケイラは観念し、他人の履歴書を使ったことを告白した。プリータはベンに指輪を返し、「結婚式は無しよ」と去った…。

監督はティム・ストーリー、キャラクター創作はウィリアム・ハンナ&ジョセフ・バーベラ、脚本はケヴィン・コステロ、製作はクリス・デファリア、製作総指揮はティム・ストーリー&アダム・グッドマン&スティーヴン・ハーディング&サム・レジスター&ジェシー・アーマン&アリソン・アバーテ、撮影はアラン・スチュワート、美術はジェームズ・ハンビッジ、編集はピーター・S・エリオット、衣装はアリソン・マコッシュ、アニメーション監修はマイケル・イームス、視覚効果監修はフレイザー・チャーチル、音楽はクリストファー・レナーツ、音楽監修はキアー・レーマン。
出演はクロエ・グレース・モレッツ、マイケル・ペーニャ、ケン・チョン、コリン・ジョスト、ロブ・ディレイニー、パラヴィ・シャーダ、ジョーダン・ボルジャー、パッシー・フェラン、ソミ・デ・ソウザ、アジェイ・チャブラ、パトリック・ポレッティー、ジャニス・アハーン、カミラ・アーフウェドソン、ジョー・ボーン、エドワード・ジャッジ、ブライアン・ボーヴェル、デイヴ・ノーラン、ジュード・コワード・ニコル、クリスティーナ・チョン他。
声の出演はボビー・カナヴェイル、ニッキー・ジャム、ジョーイ・ウェルズ、ハリー・ラチフォード、スパンク・ホートン、ナイム・リン、リル・レル・ハウリー、ウトカルシュ・アンブドゥカル、ティム・ストーリー。


ウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラによる同名のカートゥーンを基にした作品。
監督は『ベガス流 ヴァージンロードへの道』『シャフト』のティム・ストーリー。
脚本は『ブリグズビー・ベア』のケヴィン・コステロ。
ケイラをクロエ・グレース・モレッツ、テレンスをマイケル・ペーニャ、ジャッキーをケン・チョン、ベンをコリン・ジョスト、ドゥブローをロブ・ディレイニー、プリータをパラヴィ・シャーダ、キャメロンをジョーダン・ボルジャー、ジョイをパッシー・フェランが演じている。
スパイクの声をボビー・カナヴェイル、ブッチの声をニッキー・ジャムが担当している。

カートゥーンの『トムとジェリー』は幼い頃に良く見ていた記憶があるが、ジェリーには不快感を覚えることが少なくなかった。今回の映画版を鑑賞して、改めて「やっぱりジェリーは嫌な奴だな」と感じた。「無邪気なイタズラっ子」として、まるで愛せない。
ジェリーが邪魔をして自分が稼ごうとしたから、トムは腹を立てたのだ。だから彼が追い払おうとするのは、当然のことだ。
それなのにジェリーは逆恨みして嫌がらせし、キーボードを破壊する。それでもジェリーは全く悪びれず、トムを馬鹿にして逃げる。
ケイラがトムとぶつかって何でも屋を停職になったのも、そもそもはジェリーのせいだ。諸悪の根源は、ジェリーなのだ。

ただしケイラも、リンダを騙して仕事を奪うという酷いことをやっているんだよね。
後半に入って嘘がバレるとケイラは「出来ることを証明したかった」と弁明するが、悲しそうに去っても同情心は全く沸かない。
例えば「それまで地道に努力していたのに、理不尽な理由で夢が断たれた」とか、そういう前提でもあれば分らんでもないのよ。
だけど、「ケイラがアンフェアな方法に手を出すのも理解できる」と思わせるような状況に、彼女を置いていないからね。

ケイラは自分のせいでテレンスがドゥブローから休職処分を言い渡された部分もあるのに、何の罪悪感も抱かない。テレンスの後任としてイベント・マネージャーに指名されると喜び、張り切って仕事を始める。
だが、そもそもケイラはホテルマンを目指していたわけじゃないし、イベント・マネージャーに憧れていたわけでもない。田舎で育った彼女は見えてる未来が嫌で、チャンスを得るためにニューヨークへ来たと話している。
つまり、「これがチャンス」と思える仕事なら、何でも良かったのだ。
これが「ずっとホテルマンを目指していたが、学歴などの理由で就職できずにいた」という事情でもあれば、少しは同情心が生じたかもしれない。
でも「何でもいい」という奴なので、そういう部分でも好感度は下がる。

トムがキーボードの路上演奏を始めると、幼い女の子が「猫がピアノを弾いているなんて凄い」と近づいて小銭を入れる。
そうなのだ、猫が二本足で立ち、キーボードを弾いているだけでも充分に凄いパフォーマンスなのだ。
なので、トムが盲目を装う意味が全く分からない。
盲目ではないとバレた人々が「騙された」と怒って小銭を回収するが、無意味な嘘なんてつかなきゃ避けられた事態だろう。
パロディー的な意図があったのかもしれないが、だとしても完全に外しているし。

っていうか、この映画の世界観がイマイチ分からないんだよね。
猫が二本足で歩くのは、ごく当たり前のことなのか。
ケイラはジェリーがネズミ捕りの罠に紙幣と「いい罠を買って」というメモを置いているのを見ると、「相手は手強いわ」と口にする。つまり、それがネズミの仕業だと分かっているので、全く驚かないわけだ。
ってことは、「ネズミが紙幣の価値を理解して所有していたり、人間の文字を紙に書いたりするのは普通のこと」という世界観なのね。

客室にケイラが入った時、トムはベッドの上に二本足で立ち、瓶を掴んで構えている。しかしケイラは、それを見ても全く驚かない。トムが身振り手振りでネズミがいることを教えると、ケイラは名前を尋ねる。
つまり、「猫に自分の言葉が通じて、名前を教えてくれる」と思っているわけだ。
トムは一言も喋らないが、文字を作って名前を教える。これもケイラは、平然と受け入れる。
そこまで「ほぼ人間と同じような生物」として人間から受け入れられているのなら、逆に一言も喋らない設定の方が不自然に感じるわ。

ケイラがトムを臨時スタッフとして採用する考えを話すと、テレンスは反対する。
ただし、これは「勝手な行動」に対する怒りであって、「猫を臨時スタッフに雇うなんてイカれている」ということではない。ドゥブローはケイラの考えを受け入れ、トムにボーイの帽子と名札を与える。
つまりドゥブローも、トムを人間と同じような存在として認めているわけだ。
トムはボーイの格好でホテルを歩き回るが、誰も驚いたり奇異の目を向けたりしない。つまり、「猫がボーイとして働いていても不思議ではない」ってことなんだろう。
何から何まで、世界観の設定がデキトーでデタラメにしか思えない。

『トムとジェリー』を映画化するに当たって、なぜ実写とアニメの合成という方法を選んだんだろうか。普通にアニメ映画として作れば良かったんじゃないか。
意図的ではあるんだろうが、カートゥーンのテイストを強く残したままのアニメーション部分と、実写の映像は、とてもじゃないが上手く融合しているとは言い難い。
また、実写パートの主人公であるケイラの扱いが大きすぎて、トムとジェリーは脇役に回されている。いや脇役どころか、「いなくても良くねえか」と思ってしまうぐらいなのだ。
ホテルでの成功を目論むケイラの物語と、トムとジェリーの追い掛けっこというカートゥーンでもお馴染みの要素も、これまた上手く融合していないのだ。

結局のところ、「人間社会を大きく扱う中で、そこにトムとジェリーの追い掛けっこを絡ませる」という企画にしたせいで、色んなトコで無理が生じているのだろう。
動物たちだけの世界なら、トムとジェリーを擬人化して描いても何の問題も無かったはずだ。
それに違和感を覚えることなど、きっと無かったはずだ。
実際の人間を背景として扱っておけば、擬人化された動物キャラクターと実際の人間の関係性を考える必要は無かっただろうし。

トムとジェリーだけでなく、他の動物たちも全てカートゥーンのキャラクターとして描かなきゃいけなくなっている。
スパイク、トゥーツ、金魚のようにTVシリーズからのキャラクターもいるが、大半は「TVシリーズでお馴染みのメンバー」というわけではない。
また、ほんのちょっとした出て来ないキャラクターや名も無きキャラクターまで全てカートゥーンで表現されていることで、余計な異物と化している。
トムとジェリー以外で、その異物感を受け入れてもいいと思うぐらい出番の多いキャラなんて皆無なのに。

トムとジェリーがニューヨーク観光に出掛けると、どこでも普通に入れている。全ての場所には人間がいるが、「動物が勝手に出入りしている」ってことで問題視されたり、追い払われたりすることは無い。
トムとジェリーが気付かれないようにコソコソしているわけじゃなく、堂々と姿を見せて動いている。ヤンキース・スタジアムでも客席にいるので、普通に入場しているってことだろう。でも周囲の観客は、全く気にしていない。
ところが外野フライをキャッチしてホームランにした途端、動物管理局に保護される。
ってことは、それが無ければ大丈夫だったのか。外野フライをホームランにしたせいで、動物管理局に連行されたという設定なのか。
この映画における人間と動物の関係性やリアリティー・ラインが、サッパリ分からない。

ケイラの話だけでも邪魔なのに、それに加えてベンとプリータのカップルを描くパートまで大きく扱おうとしている。
そのため、何の中身も無い追い掛けっこばかり繰り返しているトムとジェリーのパートは、ますます空虚なモノと化してしまい、人間たちの話と上手く融合していない。
トムとジェリーが落ち込むケイラを一緒に励まし、彼女が復活するために協力するという終盤の展開も、コレジャナイ感が強い。
結局、最後までトムとジェリーは脇役のままになっちゃってるし。

(観賞日:2022年12月19日)


第42回ゴールデン・ラズベリー賞(2021年)

ノミネート:最低スクリーン・コンボ賞[トム&ジェリー(別名:イッチー&スクラッチー)]
ノミネート:最低序章&リメイク&盗作&続編賞

 

*ポンコツ映画愛護協会