『T-REX』:1995、アメリカ

物語の舞台は遠い未来。明日の午前1時、億万長者のエリザー・ケインは再び地球に氷河期をもたらすため、ミサイル“ニューエデン”を発射する。人類を絶滅させた後、彼は箱舟に冷凍保存した全ての生物のつがいを生き返らせ、自らの楽園を作ろうとしているのだ。今から1時間前、ニューエデン発射基地から2人の職員が脱出し、ケインの計画を知らせるため警察署へと急いだ。
グリッド警察広報課の副広報官である恐竜テディー・レックスは、オリヴァーと呼ばれる恐竜が人間の男によって爆死させられる夢を見た。胸騒ぎがした彼は署に電話を掛け、カーニヴァル墓地で殺しがあったことを知る。一方、女刑事ケイティー・コルトレーンは、目の前で男性を殺害した犯罪者スピナーとクローン軍団を捕まえるため、相棒と共にトラックに乗り込むが、逃げられてしまう。
カーニヴァル墓地へ赴いたテディーは、婦警のサラに会い、恐竜が殺されたことを聞く。テディーはサラに、恐竜のテレパシーで事件を知ったことを説明した。スピナーは命令を出した男エッジの元へ戻り、言われた通りアダムという人物を殺害したことを報告する。テディーはリンチ警察長官に会うため、ニューエデン財団の資金集めのパーティー会場へ赴く。
会場に入ったテディーはリンチに会い、ケインと主治医ドクター・シェイドを紹介される。ケインは遺伝子工学の権威で、テディーの生みの親でもある。数年前に恐竜を復活させたケインは、他の生物のクローン研究にも取り組んでいる。テディーはリンチに、恐竜殺害事件の捜査をさせてほしいと頼む。一度は却下したリンチだが、副長官サマーズから「テディーに捜査させて事件を解決すれば貴方の手柄になる」と言われ、翌日の夜までに解決するようテディーに命じた。
リンチとサマーズはテディーに捜査をさせる条件として、相棒を付けることにした。彼らが呼び寄せたのはケイティーだ。ケイティーは恐竜と組むことを嫌がるが、長官の命令なので従うしかなかった。実は、サマーズはケインの仲間だった。彼は事件とケインの関係が露呈するのを避けようとして、飾り物のテディーと役立たずのケイティーを捜査に当たらせるよう仕向けたのだ。しかしケインは充分だと考えず、部下のエッジにテディーとケイティーを尾行するよう命じた。エッジは、スピナーに尾行を指示する。
テディーは殺された恐竜の解剖を見るため、渋るケイティーと共に自然博物館へ赴く。恐竜学者のアーミトラジ博士に会った2人は、死因が恐竜の鼻先で起きた爆発だと聞く。テディーは死体の鼻を調べて小さな破片を発見し、本部のアラリック警部へ渡すよう頼む。テディーは死体の尻尾をコンピュータで照合し、身許がオリヴァー・レックスだと知る。さらにテディーとケイティーは、オリヴァーが先史時代地区のナイトクラブの歌姫モリー・レックスと同棲していたことも知った。
ナイトクラブへ出向いたテディーとケイティーは、モリーに会う。テディーは、モリーにメロメロになった。モリーは、オリヴァーがニューエデンで働いていたことを話した。ナイトクラブを出た後、テディーとケイティーは別行動を取る。帰宅の途に就いたテディーは、スピナーとクローン軍団に追われ、車をオシャカにされる。ケイティーは検死官ナイフの元を訪れ、スピナー達に殺された男がクローンだと知る。登録証とナンバーから、それがニューエデン登録のアダムというクローンだと判明した。
ケイティーは備品係エラに頼み、テディーを目立たない服装に着替えさせる。2人は、ケイティーと親しい少年セバスチャンが仲間とフィールド・ホッケーを行う会場に赴く。それから2人はニューエデンを訪れ、ケインにオリヴァーとアダムのことを尋ねる。ケインは2人が絶滅種を調べるデータ班で働いていたことは語ったが、それ以上の協力は拒んだ。一方、エッジはテディー達を尾行したスピナーの連絡を受け、セバスチャンを拉致してケインの元へ連行した。
テディーとケイティーは、オリヴァーの葬儀に参列した。テディーはモリーにせがまれ、彼女を自宅へ連れて行く。ケイティーが迎えに来たため、彼はモリーを残して出掛ける。テディーとケイティーはアルリック警部の元を訪れ、破片の正体が蝶の形をした爆弾だと聞かされる。その蝶型爆弾は、表向きは死体貯蔵業をやっている武器業者トイメイカーの作った物だという。
テディーとケイティーが捜査を進めている間に、スピナーとクローン軍団はテディーの部屋に侵入し、モリーを連れ去った。テディーとケイティーは死体貯蔵倉庫を訪れ、トイメイカーを捕まえた。トイメイカーを締め上げると、蝶型爆弾はケインの指示でエッジが購入したことを吐いた。さらに彼は、ケインがセバスチャンとモリーを人質に取ったことも明かす。テディーとケイティーは人質を救出するため、ニューエデンへと乗り込む…。

監督&脚本&共同製作総指揮はジョナサン・ベテュエル、製作はリチャード・G・アブラムソン&スー・ベイデン=パウエル、製作総指揮はステファノ・フェラーリ、撮影はデヴィッド・タッターサル、編集はリック・シェイン&スティーヴ・ミルコヴィッチ、美術はウォルター・マーティシウス、衣装はメアリー・ヴォクト、音楽はロバート・フォーク。
主演はウーピー・ゴールドバーグ、共演はアーミン・ミューラー=スタール、ジュリエット・ランドー、バド・コート、スティーヴン・マクハッティー、リチャード・ラウンドトゥリー、ジャック・ライリー、ピーター・マッケンジー、トニー・T・ジョンソン、ジョー・
ダレッサンドロ、エディス・ディアス他。
声の出演はジョージ・ニューボーン、キャロル・ケイン他。


『マイ・サイエンス・プロジェクト』のジョナサン・ベテュエルが監督&脚本を務めたSFコメディー。アメリカではヴィデオ・スルーとなり、日本では竹中直人がテディーを担当した吹き替え版のみが劇場公開された。1998年にI-MAXで劇場公開された同名作品があるが(監督はブレット・レナード、出演はピーター・ホートン他)、何の関係も無い。
ケイティーををウーピー・ゴールドバーグ、ケインをアーミン・ミューラー=スタール、シェイドをジュリエット・ランドー、スピナーをバド・コート、エッジをスティーヴン・マクハッティー、リンチをリチャード・ラウンドトゥリーが演じている。テディーの声をジョージ・ニューボーン、モリーをキャロル・ケインが担当している。

劇場公開作として製作されたにも関わらず、なぜヴィデオ・スルーになったかというと、それは完成フィルムを見た映画会社が「こりゃヒドい出来映えだ」と感じたからである。基本的にビデオ・スルーってのは、そういうモノだ。
もちろん、観客と映画会社の意識が常に一致しているとは言い切れないだろう。だが、少なくとも本作品に関しては、映画会社の判断は正しかったと言える(というか、ほとんどのヴィデオ・スルー作品は映画会社の判断が合っていると思うけど)。

この作品は冒頭のテロップで驚かせてくれる。テロップが出た時は、てっきり世界観や前置きの説明でもあるのかと思ったら、なんとケインが進めている計画を説明してしまうのだ(上気した粗筋の「警察署へと急いだ」という部分までは全てテロップによる説明)。
それは、これから物語の中で描いていくべき事柄だろうに。まずオリヴァーとアダムが逃亡するシーンで始めて、本編に入ってテディーとケイティーが事件を捜査する様子を描き、そこでケインの悪事を観客に示していけばいいだろうに。

最初にケインの計画を説明するという暴挙をやらかす一方で、他の部分は説明不足が甚だしい。なぜ恐竜が人間サイズになっており、普通に人間の言葉を話し、人間と同じように生活しているのかが分からない。遺伝子工学で蘇った恐竜はどれぐらい存在しており、どれぐらい人間社会に入り込んでおり、人間との関係はどのようなものなのかも分からない。
クローンも登場するが、どういう存在なのかが良く分からない。最初にスピナーの手下として登場するクローンは明らかに人間ではないのだが、人間の姿をしたアダムもクローンだし、どうなっているのか。アダムは登録証でニューエデンの登録だと判明するが、ってことは他にもクローンを作っている場所があるのか。クローンは普通に人間社会に馴染んでいるのか。それも良く分からない。

どうやら警察にはテディー以外の職員はいないらしい。サマーズがケイティーに「テディーも同じようにポリスアカデミーを卒業している」と言うので、客寄せパンダとしての採用とも言い切れないはずだが、警察官としての貢献は期待していないような発言もある。
どうしてテディーだけが警官になったのかも良く分からない。「恐竜は刑事になることは出来ない」というケインのセリフがあるが、ナイトクラブの歌手にはなれて、刑事になるのは無理という基準も良く分からない。

ケイティーはトラック事件でスピナー達と戦うが、なぜそこを張り込んでいたのか良く分からない。彼女は犯人を取り逃がした直後にアルリックから連絡を受けるので、てっきりミスを批判されるのかと思ったら「特捜課への復帰だ」と言われる。サマーズはケイティーがボンクラだから捜査に当たらせたと言っているのに、そのボンクラがミス直後に特捜課に復帰するのは不可解だ。
警察に電話を掛けて墓地の事件を知った時に「広報課の出番は無い」と言われていたのに、テディーが現場に行っても邪魔者扱いされることは無い。その電話では「内密にするように言われている」とか言ってたくせに、普通にTVリポーターが来ている。そのことに関して指摘するようなキャラはいないし、副広報官であるテディーが対応することもない。

テディーはベジタリアンで、肉を食べないことに関してケイティーに問われて「最近はそういうわけにもいかない」などと言っているが、遺伝子操作で蘇っただけなんだから、肉を好まなくなるのは不可解だ。
「とりあえず人間と恐竜の刑事にコンビを組ませれば面白くなるんじゃねえか」というアイデアを思い付いて、そこで思考がストップしてしまったのか、シナリオや設定がスカスカ。

ケイティーは「相手は恐竜ですよ」とテディーと組むことを嫌がるが、それまでに恐竜嫌いをアピールするようなシーンは無い。しかも、いざテディーと組むと最初はイヤそうな顔を見せるが、すぐに「グチはあるけど普通にコンビを組む」という感じになる。テディーの行動に振り回されるとか、言い争いのやり取りを見せるとか、そういうことは無い。むしろテディーを擁護するほどだ。
リンチはテディーに「内密に捜査しろ」と言っているのだが、特捜課刑事のケイティーと組ませたら内密もへったくれも無い。実際、テディーとケイティーは身分を隠すことも無く、普通に捜査をしている。

テディーに衣装を与える備品係エラにケイティーは「刑事らしい衣装を」と言っているが、秘密捜査なのに刑事らしい格好をさせてどうする。っていうか、普通の私服ならテディーの家にあるだろ。それに、わざわざ警察署で着替えさせる意味は無い。古代の剣士やマリアッチの服装に着替えさせて、笑いを取りたかったのか。
テディーが恐竜なのに人間らしく振舞うことも、恐竜と人間のギャップも、笑いとして使われていない。テディーがモリーを自宅に連れていく下りには何かあるのかと思ったら、何も無い。ケイティーはバイオチップを埋め込まれており普通の人間ではないという設定だが、具体的にどういう存在なのか良く分からないし、その設定の効果も特に何かあるとは感じない。

テディーとケイティーはセバスチャンのホッケー会場へ行くが、全く必要の無い行動だ。そもそも、セバスチャンの存在そのものが不要だと感じる。ケイティーとの関係も、その前に1シーンで会ってるだけだし。スピナーからテディー達がセバスチャンと会っていたことを聞いたエッジが「いざという時に少年を利用できますよ」とケインに言うのだが、もうムリヤリ感ありまくり。人質としての役割は、後でモリーも誘拐されるので、そっちだけで充分だ。
そんでもってエッジはセバスチャンを拉致するんだが、まだテディーとケイティーがケインの悪事の証拠を掴んだわけでも何でもないのに、なぜ拉致する必要があるのかと。そんなことしたら、自分から「犯人です」と明かしているようなもんじゃないか。しかも、拉致して何かケイティーに要求したり脅したりという行動を起こすわけではない。だったら、ケインの犯行だとバレそうになったり、あるいはバレたりした時に初めて人質を取ればいいだろうに。

結局、テディーとケイティーはオリヴァーとアダム殺しの黒幕がケインだと突き止めるだけで、ケインのミサイル計画については何も知らないまま(それに関して調べようとする下りさえ無い)、人質救出のためにニューエデンへ乗り込む終盤へと突入してしまう。
そんな欠陥のあるシナリオだから、最初にケインの計画をテロップで説明しなきゃいけなくなってるのね。

これって別に擬人化された恐竜を主役に据える必要は無かったんじゃないの。
いや、恐竜だけじゃなくて、クローンやバイオチップ内臓の特捜課刑事が生活する社会という設定の意味ってゼロに近いような気がするぞ。
ケイティーは普通に人間の刑事でいいし、テディーも少し風変わりな刑事ということにしておけばいい。
それで成立しちゃうような気がする。


第17回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演女優賞[ウーピー・ゴールドバーグ]
<*『僕のボーガス』『エディー 勝利の天使』『T-REX』の3作でのノミネート>


第20回スティンカーズ最悪映画賞

受賞:【最悪の主演女優】部門[ウーピー・ゴールドバーグ]
<*『僕のボーガス』『エディー 勝利の天使』『T-REX』の3作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会