『ザ・ミスフィッツ』:2021、アメリカ
リンゴは変装して銀行の貸金庫を契約し、収入を誤魔化して養育費を払わない男の宝飾品を盗んだ。保険は掛かっておらず、やましいことがあるのでFBIに連絡されることも無かった。約半年後、リンゴは自身の貸金庫を空にして口座を閉じ、男の元妻と息子に大金を送った。ウィックは幼少期から努力を続けて爆破の名人になり、ベガスの再開発で大儲けした。彼はドラッグ製造工場を爆破し、出荷を止めた。ヴァイオレットは東欧の人身売買組織から少女たちを解放し、教会へ追って来たゴロツキたちを退治した。
1年前のリンゴたちは赤の他人だったが、興味を抱いた慈善家のプリンスから花束が届いた。彼らは巨悪を倒すために手を組み、チーム名を「ザ・ミスフィッツ」に決めた。少し前、ロサンゼルスのウェーバリー刑務所。経営者のシュルツがFBIから囚人のリチャード・ペイスを引き渡してもらうため、監房へ赴いた。実業家のシュルツは世界各地に私営刑務所を所有している男で、ペイスは彼の妻と不倫していた。シュルツが監房へ行くと、ペイスは同房のアサドを残して脱獄していた。
シュルツはアサドを暴行し、ペイスの情報を吐かせた。ペイスはホテルへ行き、アサドが従者を務めるザハラニ王子から高級腕時計を盗み出した。しかし直後に犯行が露呈し、護衛の男たちに暴行された。ペイスは腕時計を没収されるが、部屋のカードキーを盗み取った。彼は部屋に忍び込み、腕時計の入ったケースを盗んだ。シュルツはFBIと共にホテルへ乗り込むが、ペイスは外へ出た。するとザハラニが車で待ち受けており、ペイスを乗せてホテルから逃走した。
ザハラニの正体はプリンスで、アサド役の男を雇ってペイスと同房にしていた。彼は「ホテルの防犯カメラに犯行の瞬間が映っている。君には我々が必要だ」と言い、ペイスに協力を要求した。プリンスはペイスを小型ジェット機に乗せ、リンゴたちに会わせた。リンゴたちはシュルツがペイスを殺そうと目論んでいたこと、事業拡大のためにジャゼリスタンのテロ組織と組んでいることをペイスに話す。シュルツはムスリム同胞団の幹部であるジェイソン・クイックが自分の刑務所に収監されていると知って釈放し、同胞団指導者のアブ・ヒラワに恩を売っていた。
ペイスはザ・ミスフィッツへの協力要請を拒否するが、数百万ドル相当の金塊があると聞いて態度を変えた。同胞団資金洗浄のために使う金塊が、シュルツが経営する中東の刑務所に隠されているという情報をザ・ミスフィッツは掴んでいた。それを聞いたペイスは危険を感じ、協力を断った。飛行機がアブダビに到着すると、ペイスはリンゴたちと別れてホテルに向かった。彼はバーで男から高級腕時計を盗むが、娘のホープに妨害された。ホープは難民問題の解決策について話し合うため、慈善家と会うことをペイスに語った。
ホープはペイスに、正義を取り戻すよう説いた。ペイスはバーで女を口説き、部屋に連れ込んで関係を持った。翌朝、ザ・ミスフィッツと会った彼は、リーダーになる条件で協力を承諾した。しかしザ・ミスフィッツが「金塊を盗んでテロを阻止するのが目的」「他者のために働く」などと語ると、彼は呆れたように笑って断ろうとする。そこへホープが現れ、自分が持ち掛けた話だと明かす。娘に頼まれたペイスは、ザ・ミスフィッツへの協力を了承した。
刑務所の監視写真を見たペイスは、トイレの真下に金庫があると確信した。彼は移動の手段として、飛行機のファーストクラスを要求した。しかしザ・ミスフィッツが用意したのはラクダで、ペイスには「車は検閲が厳しい」と説明した。ペイスはヴァイオレットを口説くが、まるで相手にされなかった。彼は砂漠を横断する道中でホープから「いつものように私を置いて行かないで」と言われ、「そんなことはしないと約束する」と告げた。
ジャゼリスタンのドラ。ペイスたちはシュルツがホテルのロビーでクイックや銀行の副頭取に会う様子を観察し、金塊と現金の交換を確認した。変装したペイスは、クイックのスーツケースを摩り替えた。シュルツの電話を盗聴したザ・ミスフィッツは、3日後の取引でヒラワが金塊を取りに来ることを知った。さらに彼らは、ロンドンの銀行家であるハイラト・レダがアブダビに来ることも知る。レダはムスリム同胞団の幹部で、ヒラワは彼の操り人形だった。
ムスリム同胞団の動きを受けて、ザ・ミスフィッツは計画を早めることにした。リンゴは保健省の役人を装って刑務所長と面会し、新しいスチーマーの導入を要求した。ヴァイオレットはパシフィック産業の男を誘惑し、拘束してトラックを手に入れた。ペイスとウィックはパシフィック産業の社員に成り済まし、刑務所にスチーマーを運び込んだ。彼らは刑務所の協力者が用意した囚人服に着替え、金庫の場所を確認した。彼らは細菌を使って囚人たちを集団食中毒に陥れ、混乱している間に金塊を盗み出そうとする…。監督はレニー・ハーリン、原案はロバート・ヘニー、脚本はカート・ウィマー&ロバート・ヘニー、製作はマンスール・アル・ヤブフーニ・アル・ダーヘリ&キア・ジャム&ディーン・アルティト、製作総指揮はピアース・ブロスナン&ラミ・ジャバー&クアイス・M・クアンディル&ジャラール・サリマン・アブ・サミーア&リー・ドレイファス&ペトル・ヤークル&マーティン・J・バラブ&アリアンヌ・フレイザー&デルフィーヌ・ペリエ&J・J・カルース、共同製作はカロリーナ・ヴィアンナ・レイテ、撮影はデニス・アラルコン・ラミレス、美術はウザイール・マーチャント、編集はコリーン・ラファーティー、衣装はアンジェラ・シュノーケ=パーシュ、音楽はラッセ・エネルセン&トレヴァー・ラビン。
出演はピアース・ブロスナン、ニック・キャノン、ティム・ロス、ラミ・ジャバー、ハーマイオニー・コーフィールド、ジェイミー・チャン、マイク・アンジェロ、クアイス・クアンデル、マーティン・コラード、ロバート・ヘンリー、サメール・アル・マスリ、ゴンサロ・メネンデス、アーメッド・エル=マワス、クリスチャン・マンデル、アダム・ストーン、イーハブ・エルガナディー、クーリョー・エンギン、マームード・ヴィガ、エルネスタス・アレンサンドロヴァス、カリーム・ザキ、リク・アビー、ジェロッド・ウェストン、フィラス・アル・シャカルキ他。
『ザ・ヘラクレス』『スキップ・トレース』のレニー・ハーリンが監督を務めた作品。
脚本は『トータル・リコール』『X−ミッション』のカート・ウィマーと、『ビヨンド・ワルキューレ』『カリーニングラードの戦い』のロバート・ヘニーによる共同。
ペイスをピアース・ブロスナン、リンゴをニック・キャノン、シュルツをティム・ロス、プリンスをラミ・ジャバー、ホープをハーマイオニー・コーフィールド、ヴァイオレットをジェイミー・チャン、ウィックをマイク・アンジェロが演じている。レニー・ハーリンは『エルム街の悪夢4/ザ・ドリームマスター最後の反撃』で注目され、『ダイ・ハード2』の監督に起用された。
その後はハリウッドで活動を続けていたが、着実に評価を下げていった。
2014年の『ザ・ヘラクレス』が酷評を浴びて興行的に失敗した後は、『スキップ・トレース』『ソード・オブ・レジェンド 古剣奇譚』『ハード・ナイト 沈黙的証人』と3作連続で中国資本と手を組んでいた。
今回は久々のアメリカ映画だが、UAEやインド資本も入っているようだ。この映画の鍵を握っているのは、プリンス役で出演し、製作総指揮も務めているラミ・ジャバーだ。
この人は長編映画初出演で、その前は短編映画2本とフィンランドのTVシリーズぐらいしか俳優としてのキャリアが無い。しかも出演した作品は全て、自身がプロデューサーを務めた作品だ。
にも関わらず、この映画ではザ・ミスフィッツを結成させる慈善家という大きな役を演じている。
ようするに、これは彼が望む企画を成立させ、自身も出演するために作られた映画なのだ。映画の冒頭、リンゴがモノローグを語り、自身の犯行について詳しく説明する。そのまま彼のモノローグで、ウィックとヴァイオレットの紹介も済ませる。
そこまでするなら、ずっとリンゴのモノローグで話を進めるのかと思いきや、そうではない。ペイスが登場してもリンゴのモノローグは続くが、いつの間にか忘れ去られてしまう。
そしてリンゴ視点の物語として全体を構成しているわけでもなく、彼は脇役のポジションに収まってしまう。だったら、話の入り方を完全に間違えていると言わざるを得ない。
しかもウィックとヴァイオレットの活動については、リンゴが見ているわけじゃないので、「あくまでも想像」という設定だからね。冒頭部分では、ザ・ミスフィッツが結成されるまでの経緯を短く説明している。
シリーズ2作目なのか、あるいはTVシリーズを受けての劇場版なのかと言いたくなる。
タイトルが『ザ・ミスフィッツ』なのに、そんなに短い尺で結成までの過程を片付けるなよ。メンバーの1人ずつを、もっと丁寧に描けよ。
あるいは、「既にザ・ミスフィッツは存在して活動している」という状態から始めて、そこに新しいメンバーが加入する形にするか、どちらかだろう。後者を選ぶにしても、新メンバーがピアース・ブロスナンってはの絶対に違うからね。新メンバーとしては、あまりにも年を取り過ぎている。
あとペイスのキャラ設定を考えても、義賊ではないので、やっぱり違うし。
ピアース・ブロスナンをペイスとして登場させるなら、ザ・ミスフィッツが利用したり協力関係を結んだりする部外者のポジションに据えるべきだよ。
ペイスが主人公で、ザ・ミスフィッツが脇に回るってのは、配置として大いに問題がある。「言わずもがな」だろうが、出演者の知名度を考えるとピアース・ブロスナンがダントツだ。
そういう意味では、彼が主役扱いってのは当然と言えば当然だ。
だったら、彼をザ・ミスフィッツのリーダーやプリンスのポジションにしておけば良かったのよ。それなのに「義賊じゃないけど娘に言われて仕方なくザ・ミスフィッツに加わる」という役回りを用意したせいで、面倒なことになっているのよ。
「義賊の活躍を描く」というアイデアと、「ピアース・ブロスナンにジェームズ・ボンドのセルフ・パロディー的なキャラクターを演じてもらう」というアイデアが、上手く融合せずに正面衝突を起こしているのよ。「ペイスが腕時計を盗むが気付かれて暴行を受け、カードキーを盗んで部屋に侵入し、腕時計の入ったケースを盗み出す」という手順は、その意味が皆無だ。
のっけからペイスの失敗を描く意味が無いし、「最初の犯行には失敗したけど、ケースごと盗み出す」という展開でリカバリーするのも無意味。
そもそも、ザハラニの正体はプリンスで、ペイスの行動は全てお見通しってことなのよ。そうなると、そこの手順は全て無駄でしかない。
もっと言っちゃうと、実は「プリンスがザハラニ王子を装い、アサド役の男を雇って刑務所に送り込んで」という手順も無駄だからね。「ペイスがホープの言葉で考え直し、ザ・ミスフィッツに協力する」という展開は、ものすごく陳腐。
ベタな展開が悪いわけじゃないけど、そこはシンプルに安っぽい。
それに、娘の言葉で考え直すのなら、「ペイスが女を口説いて部屋に連れ込み、翌朝を迎える」という手順なんて要らないだろ。そこでプレイボーイっぷりを見せ付けて、何の意味があるのか。
しかもペイスはザ・ミスフィッツの「いかにも義賊らしい」と感じさせる言葉を聞くと呆れ果て、また断ろうとするんだよね。そんでホープが現れ、ペイスは娘に頼まれて仕方なく引き受けるという手順ず入るけど、すんげえ無駄だよ。
そもそも、飛行機でも「金塊が手に入ると知って態度を変えるが、危険を感じて断る」という無駄な手間を掛けていたし。「一度は断るが、考え直して引き受ける」という1ターンで充分な手順なのよ、そこって。
あとさ、ホープが現れて「実は自分が持ち掛けた話」と打ち明ける手順も無駄だよ。彼女が関与していたのなら、ペイスと再会した時点で「実はこういう事情で」と明かせば良かっただろ。
そこを後から「実は」と明かしても、何のサプライズ効果もありゃしないぞ。ザ・ミスフィッツがラクダで砂漠を移動する展開は、「ペイスは飛行機のファーストクラスを要求したのに、カットが切り替わると砂漠でラクダと一緒にいる」という出オチのギャグだけに用意されている。
砂漠の移動中に何かトラブルが起きるようなことも無いし、これといったイベントは用意されていない。
粗筋で触れた「ペイスがヴァイオレットを口説くが相手にされない」「ペイスとホープが話す」という出来事はあるが、どこでも消化できることだし、ただダラダラしているだけにしか感じない。ドラに到着すると、ホープとヴァイオレットが別行動を取って会話を交わすシーンがあるが、これも無駄な道草にしか見えない。
そこではホープがヴァイオレットから「相手の顎を殴る」という護身術を教わっており、ラスト直前には彼女がシュルツの顎を殴るシーンがあるが、「ちゃんと伏線を回収している」なんて微塵も思わないよ。シュルツは無防備だし、ホープはピンチからの反撃として攻撃しているわけでもないし。
リンゴが名前の由来について語るシーンも、やはり無駄でしかない。
そんな無駄な手順でダラダラと時間を浪費している暇があったら、「敵を調査し、作戦を練り、計画を進める」ってのを、もっとテンポ良く描くべきだと思うのよ。「いよいよ作戦決行」となっても、「果たして成功するのか」というハラハラドキドキは皆無だし、チームとしての面白さも感じない。
ペイスたちが刑務所を脱出してから「実はこんな裏がありまして」という種明かしが入るが、コンゲームの醍醐味も味わえないし、逆転劇のカタルシスも無い。
あと、最終的にシュルツはヒラワに連行されるだけで、明確な形で退治されるわけじゃないのよね。
ヒラワやレダも野放しのままだし、テロを阻止できても同胞団の活動に大きなダメージは無さそうなので、まるで痛快さが無いぞ。(観賞日:2023年7月20日)
第42回ゴールデン・ラズベリー賞(2021年)
ノミネート:最低監督賞[レニー・ハーリン]
ノミネート:最低助演男優賞[ニック・キャノン]
ノミネート:最低脚本賞