『ザ・コール [緊急通報指令室]』:2013、アメリカ

ロサンゼルス。ジョーダン・ターナーは同僚のマルコやフローラたちと共に、911緊急通報指令室のオペレーターとして働いている。警官をしている恋人のポール・フィリップスが来たので、ジョーダンは休憩に入る。ジョーダンが仕事に戻った直後、「誰かが家に入ろうとしてる。私、一人なの」という少女からの連絡が入った。通報者は留守番をしているレイアという少女で、切羽詰まった様子だった。両親は映画館にいるので電話が通じず、外には男がいるので出られないと彼女は話した。
ジョーダンは住所をパトカーに知らせ、急行するよう指示した。「男が窓を割って入って来る」とレイアが言うので、ジョーダンは部屋に入って鍵を掛けるよう指示した。「鍵が掛からない」というレイアの言葉を受け、ジョーダンは窓から逃げ出したように偽装して隠れるよう指示を出した。まんまと犯人は騙され、レイアを捜すために部屋を出る。ジョーダンはレイアに、「そのまま静かにしていて。すぐに警官が到着するわ」と告げる。しかし通信が切断されたので、ジョーダンは慌ててリダイアルした。
犯人は呼び出し音を聞き、レイアの隠れ場所を見つけ出した。犯人は電話を通じてジョーダンに「もう手遅れだ」と宣告し、レイアを連れ去った。翌日、レイアは無残な死体となって発見された。ショックを受けたジョーダンはポールに、辞める潮時かもしれないと漏らした。6ヶ月後、ジョーダンは新人オペレーターの教育係になっていた。彼女は新人に、「大切なのは、感情を切り離して対処すること。通報者に感情移入しない。守れないから約束もしない」と説いた。
ケイシー・ウィルソンという少女は、親友のオータムとショッピング・モールで買い物をしていた。オータムが用事で先に帰り、ケイシーは1人になった。そんなケイシーの様子を、男が密かに観察していた。オータムが恋人のラウルから渡された携帯を忘れて行ったので、ケイシーはジーンズのポケットに入れた。男は駐車場で車を急発進させ、ケイシーに脅かした。男は車から降り、ケイシーに詫びた。携帯が壊れたことをケイシーがにしていると、男は背後から口を塞いで薬で眠らせた。
ジョーダンは新人たちに、オペレーターの仕事を始めたばかりのブルックを紹介した。ケイシーは車のトランクで目を覚まし、オータムの携帯で911に通報した。しかしプリペイド式携帯だったためにGPS機能が付いておらず、発信場所は特定できなかった。ブルックが通報を受け、近くにいたジョーダンが彼女に指示を出した。上手く対応できないブルックに助けを求められ、ジョーダンは彼女と交代した。しかしジョーダンも動揺を隠せず、指令室長のマディーに助けを求めた。
レイチェルは深呼吸で落ち着くよう促し、ジョーダンはケイシーに助けるための協力を求めた。ジョーダンはケイシーに質問し、彼女の名前や誘拐された場所、犯人や車の特徴を聞き出した。ジョーダンは近くのパトカーに指示を出し、パトロール中のポールは車の捜索を開始した。ラウルからの着信が入って焦るケイシーに、ジョーダンは「電話を切っちゃダメよ」と告げた。ジョーダンはケイシーに質問し、車が高速道路を走っていることを知った。
ケイシーはジョーダンの指示を受け、テールランプを蹴り落とした。テールランプは道路に落ち、ジョーダンは穴から覗いた外の様子をケイシーに説明させた。ジョーダンは彼女に、トランクから手を出して大きく振るよう指示した。それに気付いた周囲の運転手から、通報が来ることを期待したのだ。ジョーダンの狙いは当たり、一人の女性から通報があった。女性からの情報でナンバープレートは判明したが、それは別の車から取り付けられた物だった。
女性が不用意に接近したため、それに気付いた犯人は高速を降りて走り去ってしまった。ジョーダンはケイシーにトランクの中を確認させ、何が積んであるか説明させる。シャベルを見つけたケイシーが「私を埋める気なんだ」と激しく狼狽したので、ジョーダンは雑談で彼女を落ち着かせた。ケイシーはジョーダンの指示を受け、白いペンキをトランクから外に流した。ペンキの跡を付けることで、車の場所をパトカーやヘリに分かりやすくしようというのがジョーダンの考えだった。
しかしアラン・デナードという男がペンキに気付いたことが、ジョーダンの作戦を狂わせた。何も知らないアランは、犯人のマイケル・フォスターに「トランクからペンキが流れてる」と教えてしまったのだ。アランは猛スピードで走り去り、人気の無い場所に車を停めた。彼はトランクを開けてケイシーを恫喝し、クロロホルムで眠らせようとする。不審を抱いて追って来たアランが声を掛けたので、マイケルは慌てて誤魔化した。マイケルはアランをシャベルで殴り倒し、気絶させた。
マイケルは自分のカムリを捨て、アランのリンカーンを使うことにした。マイケルはリンカーンのトランクにアランとケイシーを詰め込み、その場から走り去った。ケイシーはジョーダンに連絡し、犯人が車を乗り換えたこと、助けようとした男をトランクに入れたことを説明した。ケイシーはアランが死んだと思い込んでいたが、彼は生きていた。アランが目を覚まして激しく喚いたので、ケイシーは静かにしてと頼む。しかしアランは言うことを聞かずに叫び続け、激昂したマイケルに殺害された。
ケイシーはジョーダンの指示でアランの財布を探り、彼の名前を伝えた。ジョーダンはリンカーンのナンバーを割り出し、警察に伝えた。ポールは車を乗り換えた場所に落ちていた瓶の破片を見つけ、犯人の指紋を照会した。ケイシーの誘拐事件が公開捜査に切り替えられる中、リンカーンはガス欠になった。マイケルはガソリンスタンドに立ち寄り、自分で給油を始める。ケイシーはトランクから後部座席に這い出し、店長に助けを求めた。しかしマイケルは店長にガソリンを浴びせて焼き殺し、その場を後にした。
ポールは犯人の身許を特定し、ジョーダンは判明したマイケルの情報を伝える。警官隊がマイケルの家に突入すると、妻のレイチェルと2人の幼い子供たちがいた。ポールがマイケルの部屋へ行くと、少年時代の彼と姉が並んでいる写真が飾ってあった。マイケルの姉は、ケイシーに良く似ていた。一方、マイケルは車を停め、トランクからケイシーを担ぎ出した。その際、彼はケイシーが携帯で通報していたことに気付いた。電話越しにマイケルの声を聞いたジョーダンは、レイアを殺した犯人だと気付いた。マイケルは携帯を壊し、ケイシーを連れて姿を消した。ポールはマイケルの部屋を調べ、彼が生家のコテージにケイシーを連れ込んだと推測する。しかし警官隊が突入すると、そこには誰もいなかった…。

監督はブラッド・アンダーソン、原案はリチャード・ドヴィディオ&ニコール・ドヴィディオ&ジョン・ボーケンキャンプ、脚本はリチャード・ドヴィディオ、製作はジェフ・グラウプ&マイケル・J・ルイジ&マイケル・A・ヘルファント&ロバート・L・スタイン&ブラッドリー・ギャロ、製作総指揮はウィリアム・C・ギャロ&フィリップ・M・コーエン&デイル・ローゼンブルーム&ガイ・J・ルーサン、共同製作総指揮はアレン・チャーチ&アルベルト・ラポソ・デ・オリヴェイラ&カルロス・アルベルト・デ・オリヴェイラ・ジュニア、撮影はトム・ヤツコ、編集はアヴィ・ユアビアン、美術はフランコ・G・カルボーネ、衣装はマガリー・ギダッシ、音楽はジョン・デブニー。
出演はハル・ベリー、アビゲイル・ブレスリン、モリス・チェスナット、マイケル・インペリオリ、マイケル・エクランド、デヴィッド・オトゥンガ、ローマ・マフィア、ホセ・ズニーガ、ジャスティナ・マチャド、イーヴィー・ルイーズ・トンプソン、デニース・ダウス、エラ・レイ・ペック、ジェナ・ラミア、ロス・ギャロ、タラ・プラット、サミー・バスビー、マイケル・リンズトロス、リサ・グラディー、ラケフェット・アベルジェル、ジェイ・ポッター、テレジア・イェルクス=カークリー、ヨランダ・アロヨ他。


『マシニスト』『リセット』のブラッド・アンダーソンが監督を務めた映画。
脚本は『DENGEKI 電撃』『13ゴースト』のリチャード・ドヴィディオ。
ジョーダンをハル・ベリー、ケイシーをアビゲイル・ブレスリン、ポールをモリス・チェスナット、アランをマイケル・インペリオリ、マイケルをマイケル・エクランド、ジェイクをデヴィッド・オトゥンガ、マディーをローマ・マフィア、マルコをホセ・ズニーガ、レイアをイーヴィー・ルイーズ・トンプソンが演じている。

「過去に失敗を犯した主人公が、そこから立ち直れずに仕事から足を洗う。しかし数年後、その傷と向き合わねばならない出来事に遭遇し、問題を解決すると同時にトラウマを克服する」というのは、映画の世界では良く使われるパターンだ。
使い古されたパターンだから、人物の心情を深く掘り下げるとか、細かい部分で色々と飾りを付けるとか、何かしらの作業を施さないと観客を退屈にさせるリスクはある。
しかし、何度も使われているってことは、「観客の受けがいい」ってことでもある。
だから丁寧に作れば、面白い映画に仕上がる可能性は確実に含まれているってわけだ。

この映画の場合は残念ながら、そのパターンが保有している「傑作になる可能性」を引き出すことは出来ておらず、リスクの方だけが強く出てしまった。
何しろ、序盤の段階で既に失敗しているのだ。
何がダメかって、それは「主人公の失敗」の内容だ。「ジョーダンが慌ててリダイアルしたせいで、レイアの隠れ場所が犯人にバレてしまう」ってのは、酷すぎる失態だ。
まだ新人だったらともかく、ベテランのオペレーターなんでしょ。
それなのに、そんな初歩的なミス、そして何よりも避けなければいけないミスをやらかすなんて、情状酌量の余地が無いぞ。

もちろん殺人犯は他にいるのだが、ジョーダンも「間接的にレイアを死に追いやった犯人」と表現しても間違いじゃないぐらいの重い罪を犯している。
そして前述したように、それは情状酌量の余地が無いミスだ。
だから、そんな失敗でジョーダンが心に傷を負っても、まるで同情心が湧かない。そして、そこから立ち直ろうとか、トラウマに立ち向かおうという気持ちにも共感できない。
ジョーダンが心の傷を克服しても、ジョーダンを救うことが出来ても、レイアは二度と生き返らないのだから。

せめて「ジョーダンは事件をきっかけにオペレーターの仕事から足を洗い、人を遠ざけて生きている。今も心の傷が癒えておらず、あの出来事を夢に見る」みたいな形になっていればともかく、精神安定剤は常用しているけど、こいつは新人の教育係に転職してるんだぜ。
それは絶対にダメだろ。
あんな初歩的なミスで哀れな犠牲者を出してしまった奴が、どのツラ下げて新人を教育するのかと。
「そんなことよりも、とりあえずレイアの遺族に何度でも謝罪し、何とかして償う方法を考えろよ」と言いたくなる。

そういう導入部の大きなつまずきを、ひとまず置いておくとすれば、「オペレーターが通報を受けて拉致被害者と電話で話し、協力して問題を解決しようとする」というプロットは、充分に面白いと思わせるモノがある。
「ジョーダンがケイシーから情報を聞き出し、それを分析することで居場所や犯人を割り出そうとする」とか、「ジョーダンが指示を与え、その通りにケイシーが行動することで犯人を欺こうとしたり逃亡を試みたりする」とか、そういう展開にすれば、かなり魅力的なサスペンスになるんじゃないかと感じる。
「ヒロインには被害者の置かれていてる状況が見えず、手探りの中で何とかしようとする」ということによって、緊迫感も生じている。

ただし、そこからは基本的に「ジョーダンの作戦は上手く運ぶ」という形を取った方がいいと思うんだけど、ペンキが流れているのをアランがマイケルに知らせたことで、ケイシーがピンチに追い込まれちゃうんだよな。
導入部のリダイアルと比較すると、それに関してはジョーダンの落ち度は遥かに少ないよ。
ただし、ペンキを流した場合、「それに気付いた運転手がマイケルにそのことを知らせる」という可能性は、充分に考えられるわけで。
そうなると、そういうリスクを考えずに指示を出したジョーダンには、少なくとも「何の落ち度も無い」とは言えないでしょ。

たまたまマイケルがその場でケイシーを殺そうとせず、クロロホルムで再び眠らせようとしただけだから良かったものの、もしも激昂した彼がその場で殺害していたら、ジョーダンは「またテメエのミスで犠牲者を出した」ってことになるわけで。
そういうトコでジョーダンに「非難されるようなミス」を犯させるのは、どう考えたって得策ではない。
ただし、それはペンキ作戦がダメということではない。
その作戦を取ったとしても、「アランがペンキに気付いてマイケルに知らせる」という展開を作らなければ、「そういうリスクのある作戦」ということも観客には分からないし、「ジョーダンの見事な作戦」という印象になったはずなのだ。

もちろん、ジョーダンの作戦が全て見事なハマった場合、「簡単に車の場所が特定され、警察が犯人を確保する」という展開になるだろう。
長編映画としての尺を埋めるためには、ジョーダンが想定していなかったトラブルや意外なピンチを盛り込んだ方がいい。
っていうか、上映時間の問題だけじゃなくて、サスペンスとして盛り上げるためにも、そういうエピソードは用意した方がいいに決まっている。
ただし、それはジョーダンのミスによって生じたピンチじゃなくて、「作戦としては成功していたけど、想定外のことが起きたために生じた」というピンチにしておくべきだ。

それと、マイケルが利口じゃないってのも、サスペンスとしての面白味を削ぐことに繋がっている。
本来なら「頭脳労働のジョーダンと肉体労働のケイシーが極力して必死に頑張り、狡猾な犯人に対抗する」という図式であってほしいんだよな。
犯人が狡猾であればあるほど、ジョーダンとケイシーが苦労させられるわけだから、そこにスリリングな雰囲気が生じるはずだ。
しかし、マイケルはちっとも利口ではなく、簡単にボロを出している。

例えば、マイケルはアランと格闘した時にクロロホルムの瓶を割っちゃうもんだから、ケイシーを眠らせることが出来なくなっている。だからケイシーは、簡単にジョーダンと通話することが出来ている。
そもそもケイシーを拉致する段階で所持品チェックをしていないから、もう1つの携帯を持っていることに気付いていないわけだし。
あと、アランの死を確認していないからトランクで喚き始めたわけだし、ケイシーがガソリンスタンドで這い出したのはロープか何かで縛り上げておかないからだし。
クロロホルムの瓶の破片からマイケルの身許が割れるのも、ジョーダンの巧妙な作戦が功を奏したわけではなく、彼がボンクラだったからだし。

終盤に入って、この映画は導入部と同じか、あるいはそれを上回る大きな失敗をやらかしている。
なんとジョーダンに「ケイシーを助け出すため、緊急指令室を出て犯人の元へ乗り込む」という行動を取らせるのである。
いやいや、そうなるとジョーダンをオペレーターという職業に設定している意味が無くなっちゃうし、「電話を通じてケイシーと繋がっている」という設定の妙だって消えちゃうでしょうに。
そんなヒロインの行動は全く応援できず、ただ暴走していると感じるだけ。
オチの付け方も、何か捻りを加えたかったのかもしれないけど、ただ単にスッキリしないだけだよ。
「マイケルを拘束したまま地下室に放置する」ってのは、ちっともカタルシスが無いぞ。

(観賞日:2015年4月28日)


第34回ゴールデン・ラズベリー賞(2013年)

ノミネート:最低主演女優賞[ハル・ベリー]
<*『ザ・コール [緊急通報指令室]』『ムービー43』の2作でのミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会