『テキサス・チェーンソー ビギニング』:2006、アメリカ

1939年8月、精肉工場で働くスローンという女が、仕事中に破水した。倒れ込んだ彼女に近付いた工場の主任は、「仕事中に飲むからだ」 と悪態をついた。スローンが絶叫して死んだ直後、胎児が産み落とされた。主任は胎児を屋外のゴミ箱に捨てた。ゴミ箱の食料を漁りに 来たルダ・メイという女が、その胎児を発見した。ルダ・メイは胎児を抱き上げて家族と暮らす家に連れ帰り、トーマスと名付けて育てる ことにした。顔面が変形する奇病を持っていたトーマスは、やがて顔を隠して精肉工場で働き始めた。
1969年、精肉工場は閉鎖された。それでもトーマスが工場で精肉の仕事を続けるので、主任は部下のラッキーに追い出すよう指示した。 無言で去ったトーマスだが、主任の元に戻ってハンマーで撲殺した。その際、彼はチェーンソーを発見し、それを持ち去った。一方、 クリッシーと恋人のエリック、その弟ディーン、彼の恋人ベイリーの4人は、車でテキサス縦断旅行をしていた。ヴェトナムで戦った エリックは、徴兵を受けたディーンと共に戦地へ戻ることを決めていた。ディーンはベイリーと一緒にメキシコへ逃げようと考えていたが 、そのことを兄には打ち明けられずにいた。4人が移動していると、バイカー集団が後ろから現れた。バイカーたちは車を叩くなどして 絡んでから、スピードを上げて走り去った。
ウィンストン保安官はヒューイット家を訪れ、応対に出て来た長男のチャーリーに「アンタの甥が精肉工場で人を殺した。逮捕しなきゃ ならない」と説明する。彼は逮捕の手伝いを要請し、チャーリーをパトカーに乗せた。町は寂れる一方で、住民は次々に引っ越している。 ウィンストンは、自分も来週には引っ越すことを語る。チェーンソーを持つトーマスを発見したウィンストンは車を停め、銃を構えて 「武器を捨てろ」と告げる。チャーリーはパトカーに積んであったショットガンを使い、ウィンストンを射殺した。彼はウィンストンの 制服やバッジを奪い、ホイト保安官になった。夕食の時、ホイトはルダ・メイと父のモンティーに「我々は絶対に生まれ故郷を見捨てない 。家族だけで生きよう」と告げる。彼はウィンストンの肉を使った料理を食卓に並べた。
翌日、クリッシーたちはルダ・メイの営むガソリンスタンドに立ち寄った。クリッシーとベイリーが店に入ると、昨日のバイカー集団の中 にいたホールデンとアレックスの姿があった。ベイリーはクリッシーに、ディーンが自分と一緒にメキシコへ行くことを打ち明けた。 クリッシーは賛成し、「戦争になんか行くことないわ」と言う。外にいたバイカー集団にからかわれた2人は、車に戻った。
エリックが車を発進させた後、ディーンは徴兵カードを焼こうとするが、見つかってしまう。「僕は行かない」とディーンは打ち明け、 兄弟は激しい口論になった。その時、アレックスがバイクで近付き、ショットガンを構えて「停まれ」と要求してきた。エリックは拳銃を 取り出して撃とうとするが、道路の真ん中にいた牛にぶつかって事故を起こした。全員が怪我を負い、クリッシーは草むらの中に投げ 出された。アレックスは車に近付いてショットガンを構え、金品を出すよう脅した。
そこにホイトのパトカーが駆け付け、いきなりアレックスを射殺した。ホイトは3人にショットガンを向け、車から降りるよう要求した。 エリックはクリッシーに気付き、茂みから出て来ないよう目配せした。ホイトは3人をパトカーに乗せ、死体を助手席に積んで走り去った 。クリッシーが車に戻って中を調べていると、ホイトから連絡を受けたモンティーがレッカー車でやって来た。クリッシーが身を隠すと、 モンティーは事故車をレッカーして出発した。
家に戻ったホイトはトーマスを呼び、死体を運ばせる。それからエリックとディーンを納屋に吊り下げ、ベイリーの手足をテーブルに縛り 付けた。ホイトの指示を受けたトーマスは、地下の作業室でアレックスの死体を解体した。レッカー車はヒューイット家に到着するが、 モンティーはクリッシーに気付かなかった。クリッシーが道に出て助けを求めようとしていると、ホールデンが通り掛かる。クリッシーが 「友達が保安官に連れ去られた。貴方の友達も撃たれた」と言うと、ホールデンは「案内しろ」と告げた。
ヒューイット家にはトーマスの義姉に当たるジェディアが来て、ルダ・メイとお茶を楽しむ。エリックは拘束を外して室内に突入し、 ベイリーを助け出した。ベイリーはレッカー車を奪って逃亡を図るが、トーマスに襲われて連れ戻された。ディーンは動物の罠に足を 挟まれ、エリックはホイトに殴り倒された。トーマスはエリックを地下の作業室に運び込み、解体作業に取り掛かった。
家に侵入したホールデンは拳銃でモンティーの脚部を撃ち、ホイトを脅して女の所へ案内するよう要求した。しかしホイトが呼び寄せた トーマスが、彼を突き倒す。トーマスはホイトの指示を受け、チェーンソーでホールデンを殺害した。その間にクリッシーは作業室に忍び 込み、エリックを助けようとする。だが、トーマスが戻って来たため、慌てて身を隠した。クリッシーが覗いている目の前で、エリックは トーマスによって惨殺された…。

監督はジョナサン・リーベスマン、原案はシェルドン・ターナー&デヴィッド・J・スコウ、脚本はシェルドン・ターナー、製作は アンドリュー・フォーム&ブラッド・フラー&トビー・フーパー&キム・ヘンケル&マイケル・ベイ&マイク・フライス、共同製作は アルマ・カットラフ&K.C.ホーデンフィールド、製作総指揮はロバート・J・カーン&トビー・エメリッヒ&マーク・オーデスキー& ガイ・ストーデル&ジェフリー・アラード、撮影はルーカス・エトリン、編集はジョナサン・チブナル、美術はマルコ・ルベオ、衣装は マリアン・セオ、音楽はスティーヴ・ジャブロンスキー。
出演はジョーダナ・ブリュースター、テイラー・ハンドリー、ディオラ・ベアード、マット・ボーマー、R・リー・アーメイ、リー・ ターゲセン、アンドリュー・ブリニアースキー、テレンス・エヴァンス、キャシー・ラムキン、マリエッタ・マリッチ、 レスリー・カルキンズ、ティム・デザーン、アリソン・マリッチ、マーカス・ネルソン、リュー・テンプル、シーア・バッテン他。


『悪魔のいけにえ』をリメイクした2003年の映画『テキサス・チェーンソー』の続編で、内容としては前作の序章に当たる。
監督は長編デビュー作『黒の怨(うらみ)』が北米週末興行収入で1位を記録して注目を浴びたジョナサン・リーベスマン。
ホイト役のR・リー・アーメイ、トーマス役のアンドリュー・ブリニアースキー、モンティー役のテレンス・エヴァンス、ジェダイア役のキャシー・ラムキン、 ルダ・メイ役のマリエッタ・マリッチは、前作からの続投。クリッシーをジョーダナ・ブリュースター、ディーンをテイラー・ハンドリー 、ベイリーをディオラ・ベアード、エリックをマット・ボーマー、ホールデンをリー・ターゲセンが演じている。
なお、上の粗筋では家に来る太った女を「トーマスの義姉ジェディア」としているが、これは設定を調べた上で書いているだけであり、劇中 で彼女が何者かは全く説明されていない。

タイトルに「ビギニング」とあるように(原題にも「The Beginning」と付いている)、本作品は「トーマスはいかにしてレザーフェイス になったのか」を明かす内容になっている。
ただ、それが失敗だった。
どんな物語になっているか、どんな演出がなされているかという以前に、「レザーフェイスになった経緯を教えましょう」という企画の 段階で、つまづいているんじゃないかと感じてしまう。

レザーフェイスの持つ恐怖というのは、「得体の知れない恐怖」だったと思うのだ。
何を考えているか良く分からない、どういう背景があるか良く分からない、だから奥底が見えない、得体が知れない、それが不気味に 思える、恐怖を煽る、そういう仕掛けになっていたように思えるのだ。
「幽霊の 正体見たり 枯れ尾花」じゃないけど、せっかく得体の知れない恐怖を含有していたサイコな殺人鬼について 「こういう経緯で今の状態になりました」ってのを説明して、「得体の知れる人物」にしちゃうことが、果たしてホラー映画として選択 すべきアプローチだったのかと。
そこに疑問を抱かざるを得ない。

しかも、ヒューイット家に拾われてから30歳になるまでの様子は、アヴァン・タイトルの4分程度に断片的な映像を散りばめただけで処理 してしまう。
マトモに説明する気が無いのなら、「生まれてからの経緯」なんて最初から盛り込まなきゃいいのよ。
で、その断片的な映像から推測されるのは「醜い顔のせいでイジメを受けたので、その反動からヤバい奴になった」ということだが、 そこに恐怖を喚起するような要素は感じない。

また、ヒューイット一家は登場した時点から既にキチガイ家族になっており、いかにして彼らがキチガイ家族になったのかは 描かれない。
前述のように、得体の知れない恐怖を与えている対象を説明して得体の知れる人物にする必要は無い。
だけど、トーマスが産まれてから30歳になるまでの経緯を描いておきながら、キチガイ一家の成り立ちについて全く触れないってのは、 片手落ちじゃないかと。

っていうか、前述したように「トーマスが生まれてからの経緯」ってのは最初に短く処理されて終了しており、言ってみりゃオマケみたい な扱いなんだよね。
トーマスがチェーンソーを使って最初に殺人を行うのは後半だから、『テキサス・チェーンソー ビギニング』というタイトルは間違い じゃないけど、タイトルから大半の観客が予想するであろう内容とは、かなり違いがあるんじゃないかなあと。
で、トーマスが生まれてからの経緯をアヴァン・タイトルで済ませちゃうので、「そこからは何を描くのか」ということになるが、本編に 入ると、「若者たちがホイトに捕まって家に連行され、逃げ出そうとするが失敗し、レザーフェイスに殺される」という、大まかに言うと 前作と同じような話をやっている。
場所は前作と同じヒューイット家の敷地だし、絵的にも「前作と似てる」という印象を受ける。

前作で「レザーフェイスよりホイトの方が目立っている」と感じたのだが、この続編では、その印象がさらに強くなっている。
っていうか実際、ホイトの扱いが前作にも増してデカくなっている。
もはやホイトを怖がる映画になってないか。
あと、前作から時代を遡っての物語ってことは、若者サイドが全滅すること、ヒューイット一家が誰も死なないことは最初から分かって いるんだよね。
だから「クリッシーたちは助かるのか」「無事に逃げ出すことが出来るのか」というところでのハラハラドキドキを味わうことは 出来ない。
ただし、「まあマイケル・ベイが製作した映画だしなあ」と思えば、きっと諦めも付くはずだ(付くかなあ)。

(観賞日:2013年2月18日)


第27回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低序章・続編賞

 

*ポンコツ映画愛護協会