『テキサス・チェーンソー』:2003、アメリカ

5人の若者が凄惨な事件に遭遇した。夏の日のドライブが悪夢と化したのだ。それから30年、事件の資料はトラヴィス・カウンティー警察 の倉庫に保管されている。ヒューイット家の事件現場では、大量の証拠物件が採取された。中でも特に衝撃的なのは、事件発生直後に現場 を撮影した、外部には未発表のフィルムだ。それは、警官がカメラを回しながらヒューイット家のボイラー室に通じる階段を下りていく 映像だ。壁には、何かに削られたような傷が付いていた。
1973年8月18日。5人の若者はワゴン車でテキサスの田舎道を走っていた。エリンと親友のペッパー、エリンの恋人のケンパー、ペッパー の恋人のアンディー、ケンパーとアンディーの親友モーガンの5人で、メキシコからの帰りだ。ケンパーたちはマリファナを吸い始めるが 、エリンだけは断った。うっかりモーガンが漏らした言葉で、エリンは彼らが1キロのマリファナを隠していることを知った。激怒する エリンを、ケンパーが何とかなだめた。
虚ろな目で道を歩く女性を発見した5人は、車を停めた。車を降りたエリンが話し掛けると、女は「早く逃げないと」と小声で呟いている 。エリンは彼女を車に乗せ、病院へ連れて行こうと考える。しかしケンパーが車を走らせると、女は急に「そっちへ戻らないで。みんな 殺されるわ」と引きつった表情で喚く。彼女は股間に隠し持っていた拳銃を取り出すと、引き金を引いて自分の頭を撃ち抜いた。
ケンパーは警察に通報すべきだと考えるが、アンディーやモーガンはマリファナのことを気にする。そこでケンパーはマリファナを隠して おいたヌイグルミを捨てた。ガソリンスタンドを見つけた5人は、店にいた老女に事情を説明して保安官に電話を掛けてもらう。電話を 終えた老女は、「クロフォードの製粉所まで来てほしいって。そこで詳しく話を聞くそうよ」と告げた。ケンパーは「なぜ死体を積んだ ままで製粉所まで行かなければならないのか」と怒りを覚えるが、他に選択肢は無かった。
5人は製粉所へ行くが、保安官の姿は見当たらない。男3人は死体を置いて去ろうと主張するが、エリンは反対する。物音がしたので 製粉所の中を捜索すると、ジェディディアという少年がいた。保安官の居場所を尋ねると、「家で飲んでる」と彼は言う。エリンが「家は 近くなの?」と質問すると、彼は「道は無いけど歩いて行ける」と告げた。そこでエリンはケンパーと共に、その家へ行くことにした。 2人は森を抜け、一軒の家に到着した。
家にいた車椅子の老人は、「ここに保安官は住んでいない。用事があれば電話しろ」とエリンたちに告げた。彼はエリンだけに家へ入る 許可を与える。老人が電話を掛け、受話器をエリンに渡した。同じ頃、製粉所にはホイト保安官がやって来た。一方、エリンは電話相手の 女性から、「保安官は30分ほどで到着すると思います」と説明を受けた。電話を終えたエリンは、老人から助けを求められる。風呂場へ 行くと老人が転倒していたので、エリンは彼を助け起こそうとする。
エリンが戻って来ないので、ケンパーは勝手に家へ入った。彼は仮面を被った男に背後から襲われ、家の奥へ引きずられていく。物音を耳 にしたエリンは様子を見に行くが、誰もいない。一方、ホイトは適当に調べを終えると、モーガンとアンディーに手伝わせて死体をラップ に包む。エリンはケンパーを捜して家の外へ出るが、どこにも見当たらない。ホイトはモーガンとアンディー指示して死体をパトカーに 乗せると、製粉所から走り去った。
エリンはモーガンたちの元へ戻り、「もうすぐ保安官が来るわ」と告げる。アンディーは「もう帰ったよ。死体と一緒に」と教える。4人 はケンパーを捜索するが、見つけることが出来ない。モーガンとペッパーは「もう帰ろう」と提案するが、エリンはケンパーを見つける ことに執着する。彼女はアンディーと共に、老人の家へ戻る。エリンが老人に話し掛けている間に、アンディーが邸内へ忍び込んだ。彼は 冷蔵庫の上にあった物を落とし、大きな物音を立ててしまった。エリンは慌てて中に駆け込んだ。
老人は「生きて帰れると思うなよ」とエリンとアンディーを睨み付け、「こっちへ来い」と言って杖で床を叩く。すると家の奥から仮面の 男が現れ、チェーンソーでエリンたちに襲い掛かった。アンディーはエリンを逃がすが、左脚を切断されて捕まった。エリンはペッパーと モーガンの元へ戻り、車を発進させようとするが、エンジンが掛からない。そこへホイトが現れたので、エリンは「おかしな男に友達が 殺される」と泣き喚く。ホイトはマリファナを発見し、「車を降りて地面に伏せろ」と鋭く告げた。
ホイトは拳銃を発砲し、エリンたちを威嚇する。彼はモーガンをワゴン車に乗せ、「どんなことがあったか再現しろ」と要求した。 モーガンが女の自殺について説明すると、ホイトは拳銃を彼に渡し、口にくわえて引き金を引くよう持ち掛けた。モーガンは感情的になり 、「調子に乗るなよ」と拳銃をホイトに向ける。しかしホイトは余裕の態度で、「やってみろ」と挑発した。モーガンは引き金を引くが、 拳銃に弾は入っていなかった。
ホイトは弾の入っている別の拳銃を構え、モーガンを脅した。彼はワゴン車のキーを抜き取り、モーガンをパトカーに乗せて連行する。 彼は無線を使い、「クロフォードの製粉所に向かえ。女が2人、お前を待ってる」と何者かに指示を出した。エリンはテクニックを使って 車のエンジンを掛け、ワゴン車を発進させようとする。そこへチェーンソーを持った仮面の男が襲撃し、ペッパーを殺害した。逃走した エリンは、明かりの付いているトレーラーハウスに駆け込む。だが、そこに住んでいたのは、仮面の男の家族だった…。

監督はマーカス・ニスペル、原作はキム・ヘンケル&トビー・フーパー、脚本はスコット・コーサー、製作は マイケル・ベイ&マイク・フライス、共同製作はキム・ヘンケル&トビー・フーパー、製作総指揮はテッド・フィールド&アンドリュー・ フォーム&ブラッド・フラー&ガイ・ストーデル&ジェフリー・アラード、撮影はダニエル・C・パール、編集はグレン・ スキャントルベリー、美術はグレゴリー・ブレア、衣装はボビー・マニックス、音楽はスティーヴ・ジャブロンスキー。
出演はジェシカ・ビール、ジョナサン・タッカー、エリカ・リーセン、マイク・ヴォーゲル、エリック・バルフォー、デヴィッド・ ドーフマン、R・リー・アーメイ、 アンドリュー・ブリニアースキー、ローレン・ジャーマン、テレンス・エヴァンス、マリエッタ・マリッチ、ヘザー・カフカ、キャシー・ ラムキン、ブラッド・リーランド、マミー・ミーク、ジョン・ラロケット他。


1974年に公開されたトビー・フーパー監督のデビュー作『悪魔のいけにえ』をリメイクした作品。
マイケル・ベイがブラッド・フラー&アンドリュー・フォームと共に設立した映画製作会社「プラチナム・デューンズ」が最初に手掛けた 作品。
マーカス・ニスペルはCMやミュージック・フィルムのディレクター出身で、これが映画初監督。
エリンをジェシカ・ビール、モーガンをジョナサン・タッカー、 ペッパーをエリカ・リーセン、アンディーをマイク・ヴォーゲル、ケンパーをエリック・バルフォー、ジェディディアをデヴィッド・ ドーフマン、ホイトをR・リー・アーメイ、トーマスをアンドリュー・ブリニアースキーが演じている。

オリジナル版である『悪魔のいけにえ』については、随分と昔に観賞しているが、「見たことがある」という程度の記憶しか残って いない。
その当時は「すげえ怖い」という感想を抱いたように記憶しているが、それは私の中にまだホラー映画への対応力が培われて いなかったからなのか、あるいはトビー・フーパーに舞い降りた奇跡によって傑作になっていたのか、それは良く分からない。
ただ、世間的な評価でも「すげえ怖い」ってことになっているので、たぶん傑作なんだろう。

ともあれ、オリジナル版に関する記憶が定かではないので、それと比較して批評することは出来ない。なので本作品だけでの評価になる。
で、まず思ったのは、「ホイト保安官、大活躍の巻」ってことだ。
とにかく本作品、ホイト保安官が恐怖の大半を発信している。
何しろ演じているのが『フルメタル・ジャケット』のハートマン軍曹だったR・リー・アーメイであり、観客を怖がらせるためには ピッタリのキャスティングと言える。

このホイトというキャラクターはオリジナル版には登場しなかったキャラクターで、そこが本作品の最も大きな改変ポイントなの だろう。
ただし、ホイトが醸し出しているのは「田舎の警官の横暴さや理不尽さ」という恐怖であり、得体の知れない殺人鬼がもたらす恐怖とは 完全に種類が異なっている。
謎の連続殺人鬼とは違い、ホイトには恐怖だけでなく、威圧感や不快感が付きまとっている。
また、何よりも「得体の知れている」存在だ。

で、それって本作品の新しい味付けとして、なんか違うんじゃないかと思うのだ。
だってさ、『テキサス・チェーンソー』なのよ。
にも関わらず、チェーンソーを持った殺人鬼よりもホイトの方が恐怖の対象として圧倒的に目立ってしまうのは、そりゃマズいんじゃ ないかと。
オリジナル版を見ていなくても、レザーフェイスは知っているという人は少なくないはずで、やっぱり『悪魔のいけにえ』のリメイクで ある以上、最も存在感があって怖いのはレザーフェイスじゃなきゃマズいんじゃないかと。

とは言え、ホイトという新しい恐怖の対象を持ち込んだのも、分からなくはないのよ。
何しろ、前述したように、オリジナル版を見ていなくても、レザーフェイスは知っているという人は多い。
つまり、チェーンソーを持ったレザーフェイスがヒロインたちを襲撃してくるということを、大半の観客は最初から知っているのだ。
だからレザーフェイスが登場しても、ある意味では予定調和になってしまう。
そうなると、予定調和を崩すために観客の知らない恐怖を持ち込もうってのは、理解できなくもない。

ただ、予定調和を崩したいと思ったにしても、レザーフェイスを前面に押し出した中で、その作業をやっていくべきじゃないかと思うのよ 。
ところが、レザーフェイスが登場する肝心なシーンでは、むしろ予定調和を良しとしているかのような演出をやっているんだよね。
フックに背中を突き刺すシーンなど、色々とグロテスク描写、残酷描写はやっているみたいだけど、こっちがホラー映画を多く見過ぎた せいか、そんなに強烈なインパクトだとは感じなかったし。
表現としては奇妙に聞こえるかもしれないが、とても健全なスラッシャー・ホラーに感じられた。

あと、終盤に入り、レザーフェイスの家族がエリンを薬で眠らせたのに、傷付けることもせず、殺しもせず、何もせずに捕まえているだけ ってのは、ケンパーたちに対する処置からすると、不自然だ。
そりゃあ「ヒロインだから、なるべくダメージを与えないようにする」という暗黙の了解を守っているんだろうけど、そこの御都合主義は ヌルすぎる。
ジェディディアがエリンを助けるために行動するってのも、ヌルいなあ。
レザーフェイスの家族に(ジェディディアは血の繋がらない弟なのだ)、そんなヌルいキャラは要らんでしょ。

(観賞日:2013年2月15日)


第24回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低リメイク・続編賞

 

*ポンコツ映画愛護協会