『タミー/Tammy』:2014、アメリカ

タミー・バンクスはオンボロ車で勤務先のファストフード店「トッパージャック」へ向かう途中、よそ見をしていて鹿と激突した。タミーが車を降りて話し掛けていると、鹿は立ち上がって森へ去った。タミーが店に到着すると、店長のキースは「また遅刻か」と怒りを見せた。彼にクビを通告されたタミーは悪態をつき、嫌がらせをして店を去った。彼女が帰宅すると、夫のグレッグが近所に住むミッシーと食事を取っていた。夫の浮気に激怒したタミーは、荷物をまとめて家を出て行った。
タミーは実家に戻り、母のデブに泣きながらグレッグの浮気を吐露する。「車を貸して。こんな町、出て行ってやる」と彼女が言うと、母は呆れた様子で「また繰り返すの?嫌なことがあったら家を出て、15キロも行けば惨めになって戻って来る」と告げる。デブが車を貸そうとしないので、タミーが祖母の車を借りると言い出した。すると隣の部屋で話を聞いていた祖母のパールが、「私抜きではダメ」と同行を要求した。タミーが嫌がると、彼女は「私も嫌だけど、ここを出るには仕方がない。この家が嫌いなの」と述べた。
パールが6700ドルを持っていると明かすと、タミーは態度を変えて同行を承諾した。デブが養護施設のブルックビューに連絡することを告げると、パールは「勝手になさい」と口にした。タミーはパールを乗せて、車を発進させた。パールが「ナイアガラの滝へ行きたい」と言うと、彼女は「いいよ」と応じた。2人は酒を飲み、酔っ払い運転を楽しんだ。翌朝、タミーが目覚めると車は森の中にあった。彼女が「家に帰ろう」と言い出すと、パールは「尻尾を巻いて逃げるの?臆病者」と告げた。
タミーは「臆病じゃない」と言い、車を猛スピードで走らせた。森を抜けると、そこはミズーリ州の湖畔にあるキャンプ場だった。パールはタミーに、「今が人生の岐路よ。お金はある。嫌いな町に帰るより、人生を楽しんだら?」と促す。パールはデッキで禁じられている酒を飲み、タミーはジェットスキーを楽しむ。彼女はデッキに向かってジェットスキーを暴走させ、激突させて壊してしまう。レンタル店の店主から買い取りを要求されたタミーは悪態をついて拒否するが、パールが4800ドルを支払った。
タミーが「なぜナイアガラが見たいの?」と尋ねると、パールは「小さかった頃に、父親と一緒に行くはずだったの。でも忙しくて行くことが出来なかった」と答える。パールが従妹のレノアを訪ねることに決めると、タミーは「年寄りのレズビアンなんて会いたくない」と嫌がる。パールは「立派な人よ。常に全力で戦ってる。学ぶことは多いわ」と言い、食事を取るためタミーとカントリー・レストランに入った。彼女は店内を見回し、「ここは男性も美味しそうね。貴方の相手が見つかるかも」と口にした。するとタミーは、「簡単すぎて面白くないよ。ここにいる男なら全員落とせる」と余裕の笑みを浮かべた。
パールが「貴方の魔法を見せて」と持ち掛けると、タミーは自信満々で男性2人組をナンパする。しかし「貴方と踊ってあげる」と言って断られたので、「くたばれ」と悪態を突いてパールの元へ戻る。パールは「あの2人は恋人同士だから断ったのよ」と言い、タミーは納得した。パールはアール・ティルマンという男が気に入り、色目を使って誘う。アールは息子のボビーと共に店へ来ており、パールの元へ挨拶に来た。ボビーもタミーに挨拶し、農場を経営していると話した。
アールはパールを誘い、フロアに出て楽しく踊る。タミーも隣で踊るが、ボビーは見ているだけだった。ボビーは「もう帰ろう」と言うが、アールは「まだ酒が残ってる」と拒んでパールとイチャつく。ボビーが「トイレから戻ったら連れ帰る」とトイレへ向かうと、タミーは彼が誘っていると決め付けて後を追う。彼女がいきなりキスすると、ボビーは驚いて引き離した。パールとアールは駐車場へ移動し、車内でセックスを始めようとする。ボビーはタミーから先程の行為を謝罪され、「悪い気はしないよ。ただ驚いただけ」と言う。彼は「母さんが病気だから帰らないと。終わったら迎えに来るから。連絡して」と告げ、タミーに電話番号を教えて去った。
気持ち良く酔っ払ったパールはアールを連れてモーテルに行き、タミーを締め出した。タミーは仕方なく、部屋の前で一夜を過ごした。次の朝、ボビーがモーテルへ来てタミーを起こし、「どうして連絡しなかった?」と質問した。タミーが「社交辞令かと思って」と言うと、彼は「言葉通りの意味だよ」と述べた。ボビーはアールを起こし、一緒に帰るよう促した。タミーとボビーは互いに名残惜しそうな様子を見せつつ、そのまま別れた。
ダイナーへ移動したタミーは、パールの行動を批判した。パールが「私の車とお金で旅してるくせに。言葉を慎みなさい」と言い返すと、彼女は「下品な男とセックスして、私を外へ放り出して、今日は朝からブラッディーマリーを飲んでる」と反発する。タミーが「私が10歳の頃、学校から帰ったらおばあちゃんはいなくなってた。一番の親友に捨てられたの」と話すと、パールは「私は過ちを犯してきたけど、それだけじゃない」と言う。タミーは「おばあちゃんは要らない、車だけでいい。今度は私が捨てる」と告げ、車のキーを奪って店を出た。タミーは車に乗り込み、パールを置き去りにして走り去った。
タミーは母からの電話で、「おばあちゃんは家に薬を残してる。高血圧に心臓病、糖尿病の薬。本人は軽く考えてるけど、飲ませないと」と聞かされる。タミーがダイナーに戻ると、パールは向かいの酒屋で酒を飲んでいた。タミーが店へ行くと、店主は「店で飲むな。警察を呼ぶぞ」と声を荒らげていた。パールは無視して飲み続けるが、タミーが外へ出るよう促す。パールは箱でビールを購入しており、タミーが抱えて店を出た。
店の外にはジェシーとカレンという子供たちが待ち受けており、ビールを受け取ろうとする。パールは2人に代わってビールを購入し、自転車に乗せてもらう約束を交わしていたのだ。タミーは引き渡しを拒否し、ジェシーたちと揉み合いになる。そこへパトカーが来たので、ジェシーとカレンは慌てて逃亡した。タミーは誤ってパトカーにピール缶をぶつけてしまい、パールと共に警察署へ連行される。タミーがアイス売りにオッパイを触らせたことを告白すると、パールは「貴方のパパを誘った。実際は何も起きてないけど、自分でも何をするか分からなかったから家を出たの」と語った。
パールはタミーの保釈金を支払い、彼女だけを釈放してもらった。タミーは警官から、パールは薬物所持で拘留されることを聞く。処方箋が出ているはずだとタミーが主張すると、警官は「全て他人の処方箋だ。保釈金は3千ドル」と言う。タミーはグレッグに相談しようとするが、まだミッシーも一緒だと知って電話を切る。彼女はトッパージャックの店舗を見つけ、紙袋を被った。彼女は拳銃を持っているように装い、店員のベッキーとラリーを脅して現金とパイを手に入れた。
タミーは警察署へ戻って保釈金を支払い、パールを釈放してもらった。ニュース番組で強盗事件が報じられ、すぐにパールはタミーが犯人だと見抜いた。パールに問い詰められたタミーは、泣きながら「他に手が無かった」と釈明した。パールは彼女を優しく抱き寄せ、「お金は返さないといけない」と諭した。翌日、2人は紙袋で顔を隠し、トッパージャックへ赴いて金を返した。2人はレノアと会い、証拠隠滅を手伝ってもらう。レノアは車を燃やし、キャンピングカーに2人を乗せて恋人のスザンヌを訪ねる。タミーがレズビアンのパーティーに参加すると、パールの招待でボビーがやって来た…。

監督はベン・ファルコーン、脚本はメリッサ・マッカーシー&ベン・ファルコーン、製作はウィル・フェレル&アダム・マッケイ&メリッサ・マッカーシー、製作総指揮はトビー・エメリッヒ&リチャード・ブレナー&マイケル・ディスコ&ロブ・コーワン&ベン・ファルコーン&クリス・ヘンチー&ケヴィン・メシック、撮影はラス・オルソブルック、美術はジェファーソン・セイジ、編集はマイク・セイル、衣装はウェンディー・チャック、音楽はマイケル・アンドリュース、音楽監修はマニシュ・ラヴァル&トム・ウルフ。
出演はメリッサ・マッカーシー、スーザン・サランドン、キャシー・ベイツ、ダン・エイクロイド、アリソン・ジャネイ、ゲイリー・コール、マーク・デュプラス、トニ・コレット、サンドラ・オー、ナット・ファクソン、ベン・ファルコーン、サラ・ベイカー、リッチ・ウィリアムズ、スティーヴ・リトル、ダコタ・リー、マーク・L・ヤング、ミア・ローズ・フランプトン、スティーブ・マロリー、ビッグ・アル・ホール、ジョーンズ・スミス、ジョー・バクスター、ベンジャミン・チョントス、ショーン・グールド他。


俳優のベン・ファルコーンが初監督を務め、妻のメリッサ・マッカーシーが主演を務めた作品。
脚本は夫婦が共同で執筆している。
タミータミーをメリッサ・マッカーシー、パールをスーザン・サランドン、レノアをキャシー・ベイツ、タミーの父のドンをダン・エイクロイド、デブをアリソン・ジャネイ、アールをゲイリー・コール、ボビーをマーク・デュプラス、ミッシーをトニ・コレット、スザンヌをサンドラ・オー、グレッグをナット・ファクソン、キースをベン・ファルコーンが演じている。

タミーがハンバーガー店に遅刻するのは鹿に激突したからだが、そもそも「よそ見運転をしていた」という落ち度がある。
しかも、それが1度目ならともかく何度も遅刻を繰り返していたようだから、クビになっても仕方がない。
それなのにタミーはキースに悪態をついた上、並んでいるバンズに唾をベタベタと塗りまくったり、客に向かって「ここの肉はヤバいよ」と中傷する言葉を吹き込んだりする。
ただのクソ女であり、ちっとも笑えない。

帰宅したタミーは夫の浮気を知るが、これも「だらしない女だし、口も態度も悪いし」ってのを見せられているため、「浮気されても仕方がないんじゃないか」と感じる。
母に泣いてグレッグの浮気を吐露しても、同情心は全く湧かない。
がさつな性格だけど愛嬌があるとか、口は悪いけど可愛げがあるとか、タミーってのは、そういう女ではない。ひたすら不快指数が高いだけの女だ。
不快な奴が不快な態度で不快な行動を繰り返す様子を見せられて、何をどう楽しめばいいのだろうか。

パールはデッキでの飲酒が禁止されているのに、「これはジュース」と言い張って飲み続ける。タミーはジェットスキーを暴走させ、そのままデッキに激突させて壊す。
完全にタミーの責任なのに、タミーは店主に向かって文句を付ける。それだけでは我慢できず、カウンターに置いてあった物を叩き落とす嫌がらせをする。
パールも金は支払うものの、同じようにカウンターの物を落として去る。こいつら、ロクでもないぞ。
レストランで男2人組を口説いて断られた時も、タミーは悪態を突いて嫌がらせをしているし。酒屋でも、雑誌を叩き落とすという嫌がらせをするし。

タミーは「こんな町は嫌い」と口にするが、どんな町なのかは全く描かれていないので、単なるワガママにしか思えない。
パールにしても、「この家が嫌い」と言うけど、デブが嫌な奴としてのキャラをアピールしていないので、厄介なババアにしか感じられない。
もちろん、「やろうとしていることが出来ていない」とか、「何も考えず無自覚にやっている」ってことじゃなくて、意図的にタミーを不快で身勝手な女として造形しているんだろうとは思うのよ。
ただ、これっぽっちも笑えない状態になっているんだから、どんな意図があったとしても、失敗と言わざるを得ない。

そもそもタミーのキャラがボンヤリしている。
彼女は何の根拠も無い自信で「ここにいる男なら全員落とせる」と言い、上から目線で「貴方と踊ってあげる」と口にするような女だ。ボビーと会った時も、彼がトイレへ行っただけなのに「誘っている」と確信し、いきなりキスするような奴だ。
それは虚勢を張っているわけじゃなくて、本気で自信満々なのだ。
ところが一方で、「嫌になったら簡単に家を出るけど、すぐ惨めになって舞い戻る」という癖も語られている。今回の旅でもすぐ帰ろうとして、パールから「臆病者」と言われている。
それだと「弱気なトコもある」ってことになるけど、どういう奴なのか良く分からない。

パールを「身勝手で迷惑なババア」として描写し、それによってタミーに同情させようとしているのかもしれないが、「それはそれ、これはこれ」と思うだけだ。
恋愛劇で可愛げを見せようとしているのかもしれないが、それも無理がある。
恋愛劇を成立させるには、「タミーは拒否されると嫌がらせをするような奴」という問題がある。だからボビーには最初から好意的な態度を取らせているのだが、誘われたと思い込んで強引なキスをするようなヤバい女の、どこに惚れたのか。
「最初の印象は悪かったけど、次第に惹かれるように」ってことじゃなくて、ボビーは出会った直後からタミーに好意を抱いているのだ。それは不可解にしか思えない。

タミーとパールが車で出掛けるのでロードムービーなのかと思いきや、途中で旅はストップしてしまう。
ボビーが登場してからは「タミーが彼に惹かれて云々」という恋愛劇を軸に進めて行くのかと思いきや、タミーとパールの関係を使って話を進めようとする。
映画の方向性が定まっていないように思える。
ロードムービーなら「タミーが様々な人との交流や経験によって精神的に成長する」ってのが欲しいトコだが、そういうのは全く無いし。ナイアガラの滝へ行くという目的もあるが、牽引力は無いし。

タミーが強盗を働くシーンは、紙袋を被ったら前が見えなくてヨロヨロするとか、カウンターを越える時にモタモタするとか、銃じゃなく指を向けたことに気付かずベッキーに指摘されるとか、そこだけを取ってみれば、それなりに面白い。
しかしトータルの構成を考えると、とっ散らかっているように感じられる。
あと、その辺りからはタミーの不快指数が一気に下がっているけど、それは彼女が人間的に成長したとか、改心したってわけではない。
単に、彼女の不愉快な部分が見えにくいエピソードが続くだけだ。

タミーを「オバサンだけど中身はガキ」というキャラとして描きたかったのかもしれないが、単に「精神的に幼い」ってだけじゃなくてクソガキなのだ。
しかも変なトコだけ大人としての腹黒さや狡猾さを見せるので、手に負えない。自身の態度を反省したり改心したりという展開が無い限り、タミーは幸せを掴んじゃいけない奴だ。そんなハッピーエンドは、祝福できないからだ。
それをブラック・ユーモアとして描くならともかく、そうじゃないしね。
しかし彼女は全く反省が無いまま、ボビーとラブラブになっちゃうのだ。

レズビアンのパーティーに参加したパールは悪酔いし、スピーチの場でタミーに悪口を浴びせる。
腹を立てたタミーが反撃すると、レノアに咎められる。タミーが「一方的に言われるのはフェアじゃない」と言うと、彼女は「人生はフェアじゃない。だから必死で頑張らないといけない。最低な人生だと文句ばかり言ってるけど、少しは変えようと努力した?」と説教する。
そりゃあタミーが不満ばかり漏らして、努力を怠っていたことは事実だろう。
だけど、そこで「タミーは努力不足」と言い出すのは筋が違う。

パーティーで先に酷いことを言ったのはパールなのに、なぜ反撃したタミーだけが責められなきゃいかんのか。
パールはレノアのことは、「酔ってた。明日には忘れる。依存症だもの」と全面的に擁護するのだ。それは違うだろ。
アル中だったら、何を言っても許されるのかよ。そこでレノアは「人生を立て直して、パールの支えになりなさい」とタミーに説くけど、その前にレノアに対してアル中を治療するよう説教しろよ。
あと、繰り返しになるけど、起きた問題とズレている説教であって、強引にくっ付けているだけだ。

パーティーのシーンやレノアに説教されるシーンでは、タミーはすっかりおとなしくなっている。
だけど、そこまでの悪行を反省したり、迷惑を掛けた相手に謝罪したりしているわけではない。警官が逮捕に来た時は下手な嘘までついて逃げようとしているし、本質的には何も変わっちゃいない。
実際、刑務所を出たタミーは真っ先にグレッグとミッシーの元へ行き、「もう私は自分を責めない。貴方たちほど罪は重くないし。2人を裁くのは神様だけど、きっと不倫は許してもらえないだろうね。地獄の炎で焼かれるよ」と言い放つのだ。荒っぽい態度が無くなっただけで、性格は何も変わっちゃいないのだ。
最後も、目標を見つけて人生を立て直すことはなく、ナイアガラの滝を見て満足したような感じになってるし。

(観賞日:2018年7月1日)


第35回ゴールデン・ラズベリー賞(2014年)

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低主演女優賞[スーザン・サランドン]

 

*ポンコツ映画愛護協会