『スウィート・ノベンバー』:2001、アメリカ
サンフランシスコの一流広告会社に勤めるネルソン・モスは、数々の賞に輝いた実績を持つ男だ。彼は常に仕事優先で、恋人アンジェリカの両親と会う約束を何度もキャンセルしている。その日、彼はホットドッグの広告のプレゼンのため、相棒ヴィンスと共に忙しく動いていた。しかし自動車免許更新の期日だったため、仕方なく仕事を中断して陸運局へ出向いた。
陸運局で試験を受けたネルソンは、ある問題で頭を悩ませ、サラ・ディーヴァーという女性にこっそりと尋ねる。しかし、その様子に気付いた試験官は、サラを失格にして追い出した。試験を終えたネルソンが外に出ると、サラは車の前で待っていた。免許取り消しになったので、車に乗せてくれというのだ。ネルソンは金で解決しようとするが、サラは首を縦に振らない。そこでネルソンはサラを無視し、車に乗って去った。
ところがサラは、ネルソンのマンションまで押し掛けてきた。サラが騒ぎ立てたため、仕方なくネルソンは彼女をマンションまで送る。サラが「寄って行けば二度と頼まない」と言うので、ネルソンは招かれるまま部屋に入った。サラは「私には問題を抱えた男を救う能力がある。力になるので、その代わりに1ヶ月間はここに住み、仕事はしないで。明日の11月1日から」と言い出した。ネルソンは「今度ウチに来たら警察を呼ぶ」と言い放ち、サラの部屋から去った。
翌日、ネルソンはホットドッグのプレゼンに挑むが、クライアントから却下される。するとネルソンは激怒し、クライアントを罵倒した。自分が正しいと信じ切っているネルソンだが、上司のレイフォードからクビを宣告された。帰宅したネルソンの元に、サラから子犬が送り付けられて来た。子犬を返却するため、ネルソンは再びサラの部屋を訪れる。最初は起こっていたネルソンだが、サラに誘惑される形で肉体関係を持ち、そのまま一夜を過ごした。
翌朝、目を覚ましたネルソンはヴィンスに電話を掛け、広告業界の大物エドガー・プライスに売り込みを掛けるよう指示した。するとサラは「仕事は禁止」と告げ、ネルソンのスーツを他人にあげたことを明かす。ネルソンの目の前で、サラは訪れた隣人チャズと親しげな様子を見せた。サラはネルソンを外に連れ出し、本屋のアルとオシリスや少年アブナーなど近所の人々を紹介する。
ネルソンはマンションを去ろうとするがサラに懇願され、その日だけという条件で留まることにした。犬の散歩やゲームをしている内に日が暮れ、ネルソンは自分のマンションへと帰る。だが、すぐに彼はサラの部屋に戻った。サラとの同棲生活を楽しむネルソンの元にヴィンスが現われ、「17日のアポイントメントを忘れるな」と告げて去った。
ネルソンとサラはチャズに誘われ、ホーム・パーティーに出向いた。チャズは女装しており、仲間のプランディーも一緒だった。ネルソンは、チャズがホットドッグの広告を巡るライバル会社の広告マンだったことを知った。サラは姉からの電話に怒っていたが、ネルソンが訳を尋ねても答えてくれなかった。サラは偏頭痛で具合が悪くなり、自分の部屋に戻った。
ネルソンはヴィンスと共に、レストランでエドガーと面会した。しかしウェイトレスに対するエドガーの横柄な態度を見たネルソンは、自分から契約を断った。ネルソンはサラに求婚するが、彼女はひどく苦しんだ様子で「何も分かっていない」と告げる。ネルソンは、サラが多くの薬を使っていることを知った。直後、サラが倒れ込み、ネルソンは彼女を病院に運ぶ。
ネルソンはチャズから、サラがガンに侵されていることを知らされる。色々と試したが効果が無く、サラは治療をやめていた。ガンは全身に転移していたが、サラは家族の懇願も受け入れず治療する意欲を示さなかったのだという。ネルソンはサラの面倒を見ようとするが、美しい自分だけを覚えておいてもらいたいと望む彼女は拒絶する…。監督はパット・オコナー、オリジナル脚本はハーマン・ローチャー、原案はポール・ユーリック&カート・ヴォルカー、脚本はカート・ヴォルカー、製作はエリオット・カストナー&スティーヴン・ルーサー&デボラ・アール&アーウィン・ストフ、共同製作はマーティ・ユーイング、製作協力はジョディ・エーリック、製作総指揮はウェンディ・ワンダーマン、撮影はエドワード・ラックマン、編集はアン・V・コーツ、美術はナオミ・ショーハン、衣装はシェイ・カンリフ、音楽はクリストファー・ヤング。
出演はキアヌ・リーヴス、シャーリーズ・セロン、ジェイソン・アイザックス、グレッグ・ジャーマン、リーアム・エイケン、ロバート・ジョイ、ローレン・グレアム、マイケル・ローゼンバウム、フランク・ランジェラ、ジェイソン・クラヴィッツ、レイ・ベイカー、トム・ブロック、アデル・プルーム、L・ピーター・カレンダー、ジューン・ロメナ、ケルヴィン・ハン・イー、デヴィッド・ファイン、エリザベス・ウェバー、ドリーン・クロフト、スーザン・ゼリンスキー他。
ロバート・エリス・ミラーが監督した1968年のアメリカ映画『今宵かぎりの恋』をリメイクした作品。オリジナル版ではヒロインをサンディ・デニス、相手役をアンソニー・ニューリーが演じた。
このリメイク版ではネルソンをキアヌ・リーヴス、サラをシャーリーズ・セロン、チャズをジェイソン・アイザックス、ヴィンスをグレッグ・ジャーマン、エドガーをフランク・ランジェラが演じている。
カート・ヴォルカーが初脚本を書き、『秘密の絆』のパット・オコナーが監督を務めている。サラはネルソンに問題があり、それを解決すると口にする。
確かに、ネルソンには問題がある。それは、他人に横柄で自己中心的、心に余裕が無くて他人に迷惑を掛けても平気だという内面の問題だ。
ところが、この映画は「ネルソンが仕事人間なのが悪いのだ」と、問題を摩り替えてしまう。
そうではないはずだ。人間の幸福というのは様々であり、仕事に打ち込むことに生き甲斐を覚える者もいる。ネルソンの問題は仕事に没頭する姿勢ではなく、他人に対する態度にあるのだ。そんなイヤな性格で明らかに好感の持てないタイプのネルソンに対して、サラが断られても執拗にアプローチするという理由がサッパリ分からない。「美しい自分だけを色々な男に覚えておいてほしい」ってことで、マンスリー・ラヴァーをやってるんでしょ。だったら、拒絶したネルソンは諦めて、後腐れなく付き合ってくれるような他の男をさっさと探せばいいじゃん。
それとサラの「美しい自分だけを相手の男に覚えておいてほしい」ってのは、単なる自己中心的な女にしか思えん。それによって相手がどう思うかなんて、そんなの自分さえ満足できれば知ったことじゃないっていうワケでしょ。それって死期が早いか遅いかの違いを除けば、サラと出会って変貌する前のネルソンと大して変わらないじゃん。ようするにサラってのは、「他人を導くことで自分が生きていた証にする」という自分の行動に酔っているってことなんだろう。
彼女は病を抱えた可哀想な女性のはずなんだが、ただのイヤな女にしか見えない。
キャラとしての魅力はゼロに近い。
それはサラの身勝手に見える行動の裏側にある寂しさや恐怖が伝わってこないからだ。それを伝えるために、例えばネルソン以外のミスター9月やミスター10月を登場させて、サラの心情を代弁する役割を与えたりした方が良かったんじゃないの。サラとは逆で、ネルソンの場合はイヤな男に見えてOKのキャラだ。そんなイヤなタイプだった男が、サラと触れ合うことによって次第に変貌していくという話の作りになっているのだから。
ところが困ったことに、こちらはイヤな部分が薄すぎる。何しろセックスした翌朝、サラを娼婦呼ばわりする失礼な発言をした直後に心から詫びているのだから。
つまり、もう出会ってからほとんど経たない内に、横柄さ、他人の痛みを感じない冷たさが失われているのだ。あまりにも変わり身が早すぎる。
結局、ネルソンってサラと会ってから2日目ぐらいで性格改造が終わってるんじゃないのか。もはやサラのセックスの魔法に掛かったとしか思えない。
そのままネルソンがサラのミスター11月として同棲を続けるのも、ようするに見た目と性欲だろうに、としか思えない。そこに恋愛の要素は微塵も感じないし。そんな風にメイン2人のキャラが見事に好感度の低さを示しているのだが、それでも終盤のシーンには感動を誘う要素が幾つかある。
しかし残念ながら、ネルソンが12個のプレゼントを渡す際に、11個目の子犬と12個目の歌唱の間にワイプを入れてシーンを切り替えるとか、ネルソンが「ずっと11月だ」と愛を訴えてキスを交わした後にベッドシーンを持って来るとか、編集が最悪だ。
第22回ゴールデン・ラズベリー賞
ノミネート:最低リメイク・続編賞
ノミネート:最低脚本賞
ノミネート:最低主演男優賞[キアヌ・リーヴス]
<*『陽だまりのグラウンド』『スウィート・ノベンバー』の2作でのノミネート>
ノミネート:最低主演女優賞[シャーリーズ・セロン]